ミサカと、これまで何回か出てきた念動能力の青年も出てきます。
夜の学園都市は静かだった。
しかし、食蜂操祈の心は嵐のように荒れていた。
才人工房の友人やドリーを失った。
寝食を共にした大切な仲間だった。
才人工房を出て、新たな拠点「ドリーム」を構えたものの、操祈の心はまだ追いついていなかった。
ドリーたちがいない世界は、どうしようもなく寂しくて、虚しくて、涙が止まらない。
結絆や帆風たちは、みんな気を遣ってくれる。
でも、彼らの優しさが逆に心を締めつけた。
そんなときだった。
ふと、気づくと目の前に彼がいた。
上条当麻
操祈の心は荒んでいたが、なぜか彼の前では素直になれる気がした。
彼がどうしてここにいるのかはわからない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「......何しに来たのかしらぁ?」
涙を拭いながら、精一杯いつも通りの口調で話しかけた。
「お前が元気ないって聞いたからな。ちょっと顔を見に来た」
「誰に聞いたのよぉ」
「結絆さんから。お前のこと、すげえ心配してたぞ」
操祈は俯いた。
結絆の顔が脳裏に浮かぶ。
兄は優しい。
けれど、だからこそ今はあまり顔を合わせたくなかった。
そんな操祈の気持ちを察したのか、当麻は何も言わず、隣に腰を下ろした。
そして、夜空を見上げながら口を開く。
「......俺もさ、大切な人を失ったことがあるんだ」
操祈は驚いたように当麻を見た。
彼はいつも明るく、前向きな人間に見えた。
そんな彼にも、そんな過去が?
「そのときは、もう何もできなくてさ。どうして助けられなかったんだろうって、ずっと自分を責めてた。でもな......その人は、きっと俺に前を向いてほしかったんだと思うんだ」
「......前を向く、ねぇ......」
「ドリーもきっとそう思ってるよ。お前が泣いてばっかりなのを見たら、心配しちまうだろ」
「......ドリーはもういないのよぉ」
「でも、お前の中にいるだろ?」
操祈は息をのんだ。
「ドリーとの思い出も、言葉も、全部お前の中に残ってる。なら、その想いを大切にして、これからも生きていくべきだろ。ドリーが望んでいたことを、お前が叶えてやるっていうのもアリなんじゃねぇか?」
操祈は黙っていた。
ドリーが最後に言ったこと。
「一緒に水族館に行ったり、マジックショーを見て盛り上がりたかった」
それは、もう叶わない。
でも、ドリーが望んでいた「楽しい時間」は、操祈が作ることはできる。
「......そうねぇ」
操祈は涙を拭い、微笑んだ。
「やっと笑ったな」
「もう......失礼ねぇ」
そう言いながら、心が少し軽くなった気がした。
この人といると、不思議と前を向ける。
「ねぇ、当麻」
「ん?」
「......ありがとぉ」
操祈の頬が、ほんのりと赤く染まっていた。
学園都市の一角。
立地のいい場所に位置する古びた劇場――かつては華やかなショーが繰り広げられていた場所も、時代の流れと共に閉鎖され、今では廃墟同然となっていた。
しかし、その劇場は今、新たな姿へと生まれ変わろうとしていた。
「ここが俺達の新しい拠点になるわけかあ」
食蜂結絆は劇場の広いホールを見渡しながら呟いた。
その背後には操祈、蜜蟻、帆風、警策、弓箭姉妹ら仲間達が立っていた。
全員が崩壊した才人工房を抜け、新たな道を歩むためにこの場所に集ったのだ。
「表向きはマジックシアターとして、一般人にはただの娯楽施設に見せて、政府や各国の要人の集まる場所としても機能させる。でも、裏では......」
蜜蟻が意味ありげに口元を歪めた。
「暗部組織『ドリーム』の拠点ってわけねえ」
結絆はゆっくりと頷いた。
才人工房での出来事、悠里千夜の悲劇や、橘博士やドリーの死......
それらの犠牲を無駄にしないために、結絆達は新しい組織を立ち上げたのだ。
「......才人工房にいる限り、俺達はただの実験材料にされ続ける。だったら、自分達の手で動ける環境を作るしかないよねえ」
彼の言葉に全員が静かに頷く。
「この場所なら、外部の目を誤魔化しながら活動できます。設備は古いですが、改修すれば使えるようになるはずです」
帆風が図面を見ながらそう言った。
彼女は既に資材や人材の手配を進めていた。
警策も協力し、劇場の地下には新たな設備が整えられていた。
「さぁて!それじゃ、さっそく準備を始めるわよぉ!」
操祈の掛け声と共に、全員が動き出した。
廃墟となった劇場を、彼らの新たな拠点として生まれ変わらせるために。
そして、この日から――
学園都市の暗部に、新たな組織『ドリーム』が誕生した。
結絆が率いる「ドリーム」は、表向きはマジックシアターとして運営されていたが、その裏では学園都市の暗部組織として動いていた。
才人工房を出た彼らは、新たな拠点での活動を軌道に乗せるべく、より高度なスキルを身につける必要があった。
そこで目をつけたのが、才人工房の負の遺産である「インディアンポーカー」だった。
インディアンポーカーは、特定の知識や技術を夢の中で体験し、それを実際に習得できるという特殊なカードである。
元々は精神的ドーピングや洗脳といった用途で開発された危険な代物だったが、結絆は「危険性を理解し、適切に使えば強力な武器になる」と判断した。
その夜、結絆、操祈、蜜蟻、帆風、警策、猟虎、入鹿の七人は、新たに入手したインディアンポーカーを手に集まっていた。
「危険力が高そうなのよねぇ......」
操祈が不安げにカードを見つめる。
「こいつに関しては、使い方次第だねえ」
結絆はカードを指で弾きながら答えた。
「確かに、危険な技術だけど......正しく扱えば、私達の力になるよね」
警策が慎重に頷いた。
「ですが、どんな夢を見るのか、ちゃんと確認してから使わないといけませんね」
帆風が真剣な表情で言った。
「そうね。変な夢を見たら、後で影響が出るかもしれないし」
蜜蟻も同意する。
「なら、一度試してみようか」
結絆はカードを手に取り、皆の前で封を切った。
カードの内容は「ステージマジックの基礎」。
「なるほど、まずは無難なところからってわけか」
結絆は微笑みながらカードを額に当て、目を閉じた。
すると、ふっと意識が夢の世界に沈んでいく。
夢の中で、結絆はプロのマジシャンのもとで修行していた。
カード捌き、コインマジック、錯視を利用したトリック......細かい技術が次々と頭に流れ込んでくる。
そして目を覚ました時、結絆は驚いた。
「......指が、勝手に動く」
まるで長年の訓練を積んだかのように、結絆の手はスムーズにマジックの動きをこなしていた。
「本当に習得できるのねぇ......!」
操祈が目を見開いた。
「面白そう!」
猟虎と入鹿も興味津々でカードを手に取る。
その後も、メンバー達は慎重に選んだカードを使い、それぞれのスキルを磨いていった。
「これは......想像以上の効果ねぇ」
操祈が感心しながら言う。
「だけど、悪用すれば洗脳や人格改変にも使える代物だよ」
結絆は冷静に言った。
「だからこそ、慎重に使うべきだねえ」
結絆の言葉に皆が頷いた。
インディアンポーカーは危険な道具だが、それをどう扱うかは使い手次第。
結絆達は、それを力に変えて「ドリーム」の活動をより盤石なものにしていくのだった。
学園都市の片隅にある、とある研究所。その施設の奥深く、無機質な部屋の中で、一人の男が拘束されていた。
彼の名は天城圭吾(あまぎけいご)。
強力な念動能力を持ち、その応用性に目を付けられて研究所に囚われた能力者だった。
彼は数ヶ月にも及ぶ非人道的な実験に耐え続けていた。
「......またかよ......」
天井から吊るされた拷問器具のような拘束具が外れ、白衣を着た研究員達が彼の前に立つ。
彼らの手には、電極付きのヘルメットが握られていた。
脳への刺激を与えることで、彼の能力の限界を引き出そうという意図だ。
「今日の実験では、さらに大きな物体を動かしてもらう。失敗すれば、電撃だ」
「......ふざけんな......」
天城はかすれた声で抗議したが、研究員は意に介さずヘルメットを装着させた。
瞬間、強烈な電流が流れ込み、彼の意識が一瞬飛びかける。
だが、そのとき——
突然、施設全体が大きく揺れた。爆発音が響き、警報が鳴り響く。
「何が起きている!?」
研究員達が慌ててモニターを見ると、監視カメラの映像には、黄金色の髪を持つ少年が映っていた。
「お前達、ずいぶんと楽しそうに実験してるみたいだねえ」
食蜂結絆。
ドリームのリーダーであり、学園都市に新たに拠点を築いた男。
その視線は冷たく、目の奥には底知れない闇が見えた。
「......この施設の中に、念動能力者の囚われ人がいるって聞いたけどお、いるんだよねえ?」
彼が手を振ると、研究員達が持っていた武器がふわりと宙に浮かび、彼ら自身を脅すように回転し始めた。
「えっ!?な、何が......!?」
「悪いねえ、君達の玩具はもう使わせないよ」
結絆はゆっくりと歩きながら、施設内の電子機器を無効化していった。
やがて、彼は拘束されていた天城の元へと辿り着いた。
「......お前、誰だよ?」
「君を助けに来た者、ってことにしてもらえるとありがたいねえ」
結絆は天城の拘束具を軽く触れると、自己制御の力でロックを無効化し、解放した。
「おい......本気で俺を助けるつもりなのか?」
「君みたいな有能な能力者が、こんな場所で朽ち果てるなんて、もったいないと思わないかい?」
天城はしばし呆然とした表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。
「はは......恩に着るぜ」
その後、研究所の残存勢力を排除し、結絆と天城は施設を脱出した。
数日後——
結絆達の拠点であるマジックシアターの裏側、ドリームの作戦ルームで天城はメンバー達と顔を合わせていた。
「改めて、俺は天城圭吾だ。お前達のおかげで、ようやく自由になれた。......それで、俺にも何かできることはあるのか?」
「うーん、そうだねえ」
結絆は椅子に座りながら微笑む。
「ドリームは、学園都市の闇に挑む集団。君の力、ここで存分に活かしてみない?」
「......面白そうだな」
天城はにやりと笑いながら、手を差し出した。
「よろしく頼むぜ、リーダー」
結絆はその手を握り返し、新たな仲間が加わったことを実感した。
一方、学園都市の片隅にある、一見すると普通の研究施設。
しかし、内部では非道な実験が行われていた。
結絆は、ドリーの死をきっかけに御坂美琴のクローン計画について調査を進めるうち、この施設がまだ稼働しており、新たなクローンを生み出していることを知った。
「......ここか」
夜の闇に紛れ、結絆は建物の外壁に指を這わせる。
自己制御を発動し、自身の認識を希薄にすることで監視カメラの目をすり抜ける。
侵入は容易かった。
内部に足を踏み入れた瞬間、薬品の匂いと機械音が漂う。
「さて、何人いるんだろうねえ......」
通路を進みながら、結絆は情報を整理する。
この施設では御坂美琴のクローンが作られているとされ、その中でも特別な個体が存在するという話だった。
「......ッ!」
奥の部屋へと踏み込むと、目の前にガラスのカプセルが並んでいた。
その中の一つに、緑色の液体に浸かった少女がいた。
短髪の電撃少女――御坂美琴と瓜二つだが、わずかに雰囲気が異なる。
「......君が“特別”な個体、かな?」
コンソールを操作し、カプセルのロックを解除する。
ブシュウッという音とともに液体が排出され、少女がゆっくりと目を開いた。
「目覚めました、とミサカは報告します」
「服を着てないことに恥じらいはないんだねえ......」
結絆は苦笑いしながら、彼女に服を渡す。
少女はぼんやりとしながらも、それを受け取った。
「ここから連れ出してあげるよ。君の名前は?」
「識別番号は00000、とミサカは答えます。しかし、それでは呼びにくいのではないか、とミサカは推測します」
「じゃあ......ミサカでいいかなあ?」
「了解しました、とミサカは了承します」
その時、警報が鳴り響いた。
結絆の侵入に気づいた研究員達が、武装した警備兵を送り込んできたのだ。
「やれやれ......騒がしくなってきたねえ」
結絆はミサカ00000号の手を引きながら、迎撃の準備を整えた。
「戦闘は可能です、とミサカ00000号は報告します」
「いや、無理はしなくていいよ。君はまだ状況を理解しきれていないだろうからねえ」
結絆は自己制御を使い、敵の動きを見極める。
銃弾が放たれるが、結絆は身体の反応速度を上げ、弾道を見切りながら回避する。
「じゃあ、こっちもやらせてもらうよお」
瞬間、結絆の目が鋭く光る。
能力を発動し、敵の顎に一撃を食らわせてく。
わずか数秒で警備兵達は動きを止め、意識を失った。
「これで静かになったねえ......」
「敵を無力化したのですか? とミサカは驚きを露にします」
「まあねえ。じゃ、行こうか」
結絆はミサカを連れて施設の外へと向かう。
途中、研究データが保存されたサーバールームを見つけると、容赦なく破壊した。
「これで、君を利用しようとする人間はいなくなる......はずだよお」
研究所を脱出し、事前に用意していた車に乗り込む。
後部座席でミサカはしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。
「助けてくれたことに感謝します、とミサカはお礼を述べます」
「どういたしまして。これからは自由に生きていいんだよお」
「自由......ですか?」
「そうだよお。もう、君は誰かの道具じゃない」
ミサカは小さく瞬きをして、少し考え込んだ。
そして、ゆっくりと微笑んだ。
「自由......よくわかりませんが、それは、とても素敵なことですね、とミサカは笑顔になります」
結絆は彼女のその表情を見て、少しだけ安堵した。
こうして、ミサカはドリームの仲間となったのだった。
28話とかに出てきた念動能力者の青年やミサカ00000号との出会いはこんな感じです。
本編と過去編で天城の喋り方が違いますが、喋り方が変わるほどの修羅場を経験してきたと考えてもらったら大丈夫です。
一旦過去編は終わりにして、次回からは大覇星祭編になります。