青空の下、学園都市の中心競技場に歓声がこだまする。
大覇星祭、その第一種目として選ばれたのは、力と戦略が試される「棒倒し」だった。
今回は、結絆や当麻の通うとある高校と、スポーツ特化の強豪校として知られるエリート校との対戦が組まれていた。
技術、体力、統率力、その全てにおいて圧倒的な実力を誇るエリート校は、過去の大覇星祭でも連勝を重ねており恐れられている。
競技開始を前に、両校の生徒たちは陣地に分かれ、それぞれの作戦を確認していた。
そんな中、ひとりの教師の声がグラウンドの一角に響く。
「やれやれ......今年もあなたのところは“参加することに意義がある”レベルですかね?」
その言葉に振り向いたのは、小柄で童顔の教師――月詠小萌。
彼女はにこにこと笑いながらも、どこかぎこちない態度を取っていた。
「そ、そんなことないのです!うちの子たちは皆、頑張り屋さんなのですよっ!」
「ほぉ?でも、どうせまた開幕戦で派手に散りそうですがね?」
あざ笑うようなエリート校の教師の言葉に、小萌先生の目に涙が浮かぶ。
そのやりとりを、少し離れた場所から眺めていた食蜂結絆は、静かに目を細めた。
「......へぇ、なーんか感じ悪い連中だねぇ」
隣にいた上条当麻も腕を組み、ため息をついた。
「完全に見下してんな......これは、負けられねぇな」
「うん。じゃあ、潰そうかあ」
結絆の言葉は柔らかだったが、その眼差しには明確な怒りと決意が宿っていた。
やがて、各校の選手が前線に出そろい、棒倒しの開始がアナウンスされる。
競技のルールは単純明快だ。
自陣の棒を守り、相手の棒を先に倒したチームが勝利。
攻守の役割に分かれ、制限時間内にどちらがより速く決着をつけられるかが鍵となる。
だが、その直前。
「お前ら、見せてやれ!!」
エリート校のリーダー格の男子生徒が叫ぶと、複数の生徒が一斉に前に出て、掌の上で小さな火球を生み出し、別の生徒がそれを圧縮して加工した。
熱気と圧力が空気を歪ませ、火球は膨張し、やがて直径30センチほどの複数の爆裂弾へと変化する。
それは本来、競技とは無関係な“パフォーマンス”として披露されたものだったが、その火力は明らかに危険なものだった。
しかし――。
「......ふぅん」
結絆が一歩、前に出た。
そして、何の溜めもなく、軽く拳を前に突き出した。
その瞬間、彼の拳からほとばしった見えない衝撃波が、空間を一閃するように走った。
ズドォン!
次の瞬間、炎の爆裂弾は一斉に空中で破裂して、跡形もなくかき消えた。
「なっ......!? ど、どういう......!?」
「ば、爆裂弾が......消えた......?」
エリート校の生徒たちは一斉に顔を青くし、後ずさる。
彼らの自信と余裕が、一瞬で無に帰されたその現実に、誰もが言葉を失った。
「へぇ......あんなもん、パフォーマンスにもしちゃいけないレベルだよお。もう少し、質を高めた方がいいんじゃないかなあ?」
結絆は涼しげに笑いながら、拳をゆっくりと下ろす。
その姿に、観客席からもどよめきと歓声が起こった。
「さすがはレベル5......」
「いや、やばすぎるって......あんな奴が前線にいるのかよ......!」
エリート校の生徒たちの間に、明確な“恐れ”が広がっていく。
そして、開始の合図が鳴る。
「競技開始!」
その声と同時に、各陣営が一斉に動き出した。
守備陣が棒を囲い、攻撃陣が駆け出す。
上条当麻や青髪ピアス、土御門元春らは攻撃側として前線を突き進む。
「さあ、エリート校諸君、遊んであげるよお」
その瞬間、地響きのような衝撃とともに、自陣の棒が地中に埋まった。
競技開始の直前、結絆は棒の前に立ち、当麻や元春たち仲間に笑いかけた。
「俺が一人で棒を守るから、皆は全員で攻めてくれたらいいよお」
その無茶とも言える提案に、当麻が思わず眉をひそめる。
「一人で?流石にきついんじゃないのか?」
だが、結絆はあくまで穏やかに首を振った。
「大丈夫だよお。俺は能力を使わなくても戦えるからねえ」
その言葉に、元春が笑みを浮かべる。
「まさか......レベル5の力で勝ったって言われるのが嫌だからかにゃー?」
「そうだよお」
結絆はにこりと笑った。
「俺が能力を使わずに棒を守り切ったら、相手は絶望するだろうからねえ」
そのまま彼は棒の根元に手を添え、地面にグッと力を込める。
杭のように棒を地面に突き刺し、動かすことすら困難な状態にしてから、その前にどっかりと腰を据える。
「行ってきなよ。ここは任せてくれて大丈夫だよお」
当麻たちはしばし無言だったが、やがて一斉に頷き、前線へと駆け出していった。
一方、エリート校の陣営では困惑の色が濃くなる。
「一人で棒を守るつもりか......?」
「なめてんのか......?」
なお、結絆が自己制御を使わなかったとしても、彼が聖人としての肉体を持っていることを忘れてはいけない。
「全員でいくぞ!」
号令と共に、エリート校の攻撃役十数名が一気に結絆に襲いかかる。
最初に飛び出してきたのは、身長190センチのラグビー部の主将。
その突進はまさに人間弾丸だった。
「おらああああっ!!」
だが――バシィッ!
結絆は一歩踏み込み、正確無比な正拳を相手の胸板にめり込ませた。
衝撃に弾かれたラグビー男は宙を舞い、地面を転がって動かなくなる。
「っ......速ッ!」
次に飛びかかってきた二人組には、地面を蹴って低く潜り込むように前進し、間合いを潰す。
右肘で一人の腹を撃ち抜き、左手で逆側の肩を払い、回転させて地面に叩きつけた。
続けざまに五人が突っ込んでくる。
今度は武道系の選手たちだ。
「囲め! 連携しろ!」
だが、彼らが仕掛けるより早く、結絆が動く。
回避ではない、迎撃でもない。“制圧”だった。
足運びの正確さ、無駄のない軌道、そして相手の重心を見抜く読み――すべてが常人離れしている。
わずか数秒で五人を地面に転がし、立っている者は結絆ただ一人という状況が完成する。
「......なんだあいつ......本当に能力使ってないのか......!?」
「全部、肉体だけの動きだよな......俺たちで束になっても勝てないなんて......!」
もはやエリート校の選手たちは戦意を失いかけていた。
それでも数人がなお立ち上がり、結絆の元へと走る。
――次の瞬間。
ヒュッ
結絆の蹴りが空を裂く。
地面に叩きつけられる前に、肩で受け流し、相手の体勢を利用して別の敵を地面に投げる。
「無理にこいとは言わないよお。でも、棒を狙いたいなら......俺を超えてからにしてもらうよお」
結絆がエリート校の生徒たちと戯れている間、前線では当麻たちが相手陣営へと突撃していた。
「今だ! こっちの守備、崩れてる!」
「いけええええっ!!」
当麻の通っている高校は、高位の能力者の数は少ないものの、小萌先生を馬鹿にされた怒りでエリート校の生徒たちを蹴散らしていた。
「とどめだ!」
叫びと共に、当麻たちは棒を押し込む。
棒が激しく揺れ、根元がぐらつく。
ドサァアッ!
そして、棒が倒れた。
「試合終了です!」
歓声が競技場を包み込む。
結絆は静かに深呼吸し、棒の前から立ち上がった。
全身には一つの傷もなく、整えられた体操着のまま、何事もなかったかのように歩き出す。
迎えに来た上条当麻が口を開いた。
「結絆、全然汚れてないな......あれ、本当に能力なしだったのか?」
結絆は肩をすくめて笑う。
「能力なしでもこのぐらいは余裕だよお。」
「すげえよ、お前は」
仲間たちが笑顔で迎える中、結絆は仲間の怪我を治してく。
そして、己の肉体だけで、すべてを守りきった男の背に、観客の歓声が降り注いでいたのだった。
結絆は日頃から自己制御で筋肉や神経の調整を行っているので、試合中に能力を使わなくてもかなり強いです。