午後の競技が進む中、次に行われるのは「カップル対抗・二人三脚」だった。
「カップルって、まあ、俺たちの場合ちょっと特別だけどお......楽しそうだねえ」
結絆は笑いながら、隣に立つ帆風潤子に視線を向けた。
「はい。結絆さん、頑張りましょうね!」
帆風は気合を入れつつも嬉しそうな表情をしている。
集まったペアは十組ほど。
その中には、結絆がよく知る顔――上条当麻と食蜂操祈の姿もあった。
「当麻ぁ、しっかり合わせてよねぇ?私達の相性力見せつけるわよぉ!」
「お、おう、頑張るぞ、操祈!」
操祈は当麻の腕に絡みつくように寄り添いながら、二人三脚の紐をしっかりと結んでいた。
周囲もまた、思い思いのパートナーと息を合わせながらスタートラインに並んでいる。
結絆と帆風も、足を丁寧に結び合った。
「それじゃあ、いくよお、帆風」
「はい、結絆さん!」
スタートの合図が鳴り響き、全員が一斉に駆け出した。
「いち、に!いち、に!」
結絆と帆風は完璧なリズムで足を揃え、まるで一つの身体のように軽やかに走る。
普段から一緒に訓練をしているだけあり、互いの呼吸を読むのは慣れたものだった。
一方、当麻と操祈のペアはというと――
「ぎゃっ、ちょ、操祈、引っ張るな!」
「ちょっとぉ!危ないじゃなぁい」
二人は足がもつれて転びそうになりながらも、なんとか前進していた。
「ふふ、微笑ましいですね」
帆風が横目でそれを見ながら言うと、結絆も頷いた。
「まあ、あれはあれで楽しそうだねえ」
コースには途中、簡単な障害物が設置されている。
例えば、網をくぐったり、小さなハードルを跳び越えたりと、二人三脚のまま協力しないと越えられない仕掛けだ。
結絆と帆風は、網の下を息を合わせて滑り抜け、ハードルもタイミングをぴったり合わせて飛び越えた。
他のペアが引っかかったり、足をもつれさせて転んだりしている中、二人の走りは一際滑らかだった。
「結絆さん、次はロープです!」
コース終盤には、絡まるロープをかわしながら進むエリアがあった。
結絆は帆風の手をぐっと引き寄せながら、リズムを崩さずに障害を突破していく。
「いいねえ、帆風!もう少しでゴールだよお!」
「はいっ、結絆さん!」
最後の直線に入った二人は、さらにスピードを上げた。
背後からは他のペアが必死に追い上げてくる気配もあったが、結絆と帆風の連携は崩れない。
ゴールテープが目前に迫る。
「いっせーのっ!」
二人はぴたりと揃った足で力強く踏み切り――
見事、一着でゴールを切った。
「やったねえ!」
「トップを取れましたね、結絆さん!」
結絆と帆風は、しっかりと手を取り合い、満面の笑みを浮かべた。
拍手と歓声が湧き上がる中、二人は自然と見つめ合う。
互いの額に汗がにじみ、息が少し上がっている。
それでも、その瞳には確かな信頼と喜びが宿っていた。
「帆風、本当にありがとねえ。すっごく楽しかったよお」
「こちらこそです、結絆さん。結絆さんとなら、どんな困難も乗り越えられる気がします」
帆風は控えめに、しかし確かな思いを込めて言った。
「そっか。じゃあさ、これからも一緒に――いろんなもの、乗り越えていこうねえ」
「はい、もちろんでございます」
ふたりは、自然と手をぎゅっと強く握り直す。
二人三脚という競技を通して、結絆と帆風の絆は、より一層深まったのだった。
一方で、当麻と操祈は......
リズムを取ろうとする当麻だったが、操祈は一歩早く飛び出し、逆に当麻は少し遅れ、途端にバランスが崩れる。
「あっ、きゃっ!」
「うわっ!?」
ズルッと足元がもつれ、操祈の身体が大きく揺れる。
慌てて支えようとした当麻だったが、勢い余って操祈を押し倒してしまった。
「......っ!!」
操祈の柔らかな感触を感じながら、当麻はもんどり打って地面に倒れ込む。
「ちょっとぉ、当麻ぁ!」
「悪いっ!わ、わざとじゃないから!」
操祈は頬を真っ赤にしながら、当麻の胸を軽く叩いた。
周囲からは笑い声や応援の声が飛び交う。
「もうっ、立って!早く立ってぇ!」
「わ、わかった!」
必死に立ち上がり、再び息を合わせて走り出す二人。
今度こそ、操祈もタイミングを合わせようと努力しているのが伝わってきた。
「いち、にっ、いち、にっ!」
多少ぎこちないものの、何とか前進する。
当麻はちらりと前方を見る。
先を行く結絆と帆風のペアは、まるで風のように軽やかに駆けていた。
「あいつら、速えな......」
「お兄様と潤子ちゃんだがら当然よぉ」
操祈は息を切らしながらも、にこりと微笑んだ。
途中、最初の障害物――ネットをくぐるゾーンに差しかかる。
「よし、しゃがんで、くぐるぞ!」
「うんっ!」
二人は足を結んだまま、息を合わせて身体を低くし、ネットの下を進む。
思った以上に狭く、何度も足や腰が引っかかりそうになったが、操祈が当麻の背中を押すようにしてサポートしてくれた。
「よし、抜けれたな!」
「ナイスよぉ、当麻!」
次に待ち構えていたのは、小さなハードルだ。
二人三脚のままタイミングを合わせて跳ばなければならない。
「いくぞ、操祈、せーのっ!」
「せーのっ!」
ぴょん、とぎこちないジャンプ。
それでも何とか一つ目のハードルをクリアする。
「あと二つよぉ!」
「そうだな!」
必死にタイミングを合わせ、なんとか残りのハードルも飛び越えた。
着地のたびにぐらつくが、操祈が当麻の腕にしがみつき、体勢を支えてくれる。
「うおっ、助かった......!」
「もう、あたしにもっと頼っていいのよぉ?」
「た、頼りにしてるからな!」
照れくさく答えると、操祈は嬉しそうに微笑んだ。
最後の難関、絡まったロープ地帯に突入する。
足元に無数のロープが這っていて、少しでも油断すればすぐに転んでしまう仕掛けだ。
「ゆっくり、ゆっくり......」
「うんっ」
二人は慎重に、一歩ずつ前進する。
操祈が当麻の肩に手を置き、バランスを取りながら進んでいく。
「あっ......」
一瞬、操祈がぐらついた。
咄嗟に当麻が支える。
「大丈夫か?」
「......うんっ。ありがと、当麻ぁ」
操祈の声は少し震えていたが、それでもしっかりと前を向いていた。
そして――
ロープ地帯を抜けた二人は、ゴールが見える直線に入った。
「ラストスパートだぁ!」
「いっしょに、いくわよぉ!」
最後の力を振り絞り、ぎこちなくも必死に走る。
順位は後ろのほうだったかもしれない。
でも、それでもいい。
互いの存在を感じながら、必死にゴールを目指すこの瞬間が、何よりも尊く思えた。
そして
「ゴールっ!!」
二人は同時にゴールを決めた。
転がり込むように倒れ込み、ゼェゼェと肩で息をする。
「......やったな」
「うんっ......」
汗だくになりながら、当麻と操祈は顔を見合わせた。
操祈はふわりと微笑み、当麻の手をぎゅっと握る。
「ありがとう、当麻ぁ。......すっごく楽しかったわよぉ」
「俺もだよ。......操祈と一緒に走れて、よかった」
自然と交わす言葉に、余計な飾りはない。
そこには、確かに育まれた絆があった。
順位なんて、どうだっていい。
二人は心からそう思った。
ゴール後、疲れて座り込んだ二人は、肩を並べて青空を見上げた。
どこまでも高く、どこまでも広がる空。
まるで二人の未来を祝福するかのように、雲ひとつない晴天だった。
「おーい、当麻、操祈」
ゴールラインの先で、結絆と帆風が手を振っている。
二人はすでに余裕たっぷりにゴールしていたからか、にこやかな顔で近づいてきた。
「いやあ、いいものを見せてもらったよお」
「......へ?」
結絆のにやにや顔に、当麻は嫌な予感を覚えた。
「なんていうかあ、ほら、途中で操祈を押し倒してたよねえ?」
「~~~っ!!」
途端に当麻の顔が真っ赤になる。
「ち、違う!わ、わざとじゃねえ!あれは、えっと、その......!」
必死に弁解する当麻。
操祈も横でくすっと笑いながら、小さく首をかしげた。
「ふふっ、そんなに慌てなくてもいいのにぃ。いつでも押し倒してくれてもいいんだゾ☆」
操祈のあっけらかんとした一言に、当麻はますます赤面する。
「ちょ、操祈ぃぃ......っ!」
「お二人は本当に仲がいいですね!」
帆風はニコニコしたがら二人を見つめる。
結絆はさらに追い打ちをかけるように、
「まあ、押し倒した後のポーズがまた絶妙だったよねえ。当麻が操祈をがっちり押さえつけてる感じ?」
と無邪気に指摘し、当麻は顔を覆ってうずくまった。
「もうやめてくれぇぇぇっ!」
「当麻、恥ずかしがり屋さんねぇ」
操祈はそんな当麻の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
その手つきは、どこか慈しむようで。
見ている結絆と帆風も思わず顔をほころばせた。
「それでもぉ」
操祈はふわりと笑って、続けた。
「順位は微妙だったけどぉ、あたし、当麻と一緒に競技に出られて......すっごく嬉しかったのよぉ」
「......操祈」
操祈は屈託なく微笑みながら、当麻の手をそっと握った。
「一緒に転んで、一緒に笑って、一緒に頑張って......。そんな時間が、すごく幸せだったわぁ」
「......俺も、だよ」
当麻は照れくさそうに、しかしはっきりと答えた。
ぎこちなく手を握り合う二人。
その距離が、ふわりと近づく。
「えへへぇ......当麻、大好きぃ」
操祈が小さく囁く。
それを聞いて、当麻はどうしていいかわからないように顔を赤くして、しかし嬉しそうに笑った。
「......俺も、操祈のこと、大好きだぞ」
小さな声でそう返すと、操祈は満面の笑みを浮かべ、ぎゅっと当麻に抱きついた。
「うわっ、お、おい......!」
操祈はくすくす笑いながら、当麻の胸に顔を埋める。
そんな二人の様子を、結絆と帆風は、静かに、あたたかい目で見守っていた。
「......いいねえ、青春ってやつだねえ」
「ええ、本当に。見ていてほほえましくなりますね」
帆風も微笑みながら、そっと結絆の袖を引いた。
結絆はにっこりと笑って、帆風の頭にぽんと手を置いた。
照れたように目を細める帆風。
その横で、当麻と操祈は、互いの存在を確かめるように、そっと手を握り続けていた。
春の日差しの中、二人の間には、確かに新しい絆が芽吹いていた。
そして、それを見守る友人たちの笑顔も、また温かく光っていた。
未来はきっと、こんなふうに笑顔と、優しさで満ちているに違いない。
そんな確信を、誰もが胸に抱きながら、賑やかな昼下がりは続いていくのだった。
次回は、ちょっと重めの話になりそうです。