食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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原作の魔術サイドの話ですが、意外とあっさり終わります。


刺突杭剣

 結絆と橘博士の魂が現世に戻ると、そこはマジックシアターの地下にある研究施設だった。

 

近くには、結絆の亡骸を見つめる帆風がおり、その顔には未だに消えぬ衝撃と悲しみが浮かんでいる。

 

俺が死んじゃったから、当然だよねえ......

 

結絆は、そっと彼女に近づいた。

 

そして、ふわりと帆風の背後から抱きしめるようにして、魂の力で彼女に寄り添う。

 

「帆風......大丈夫だよお。俺は、ちゃんとここにいるよお」

 

その声は、直接彼女の心に響いた。

 

「......結絆さん......?」

 

帆風がはっとして周囲を見渡すが、当然、目には何も映らない。

 

しかし、確かに結絆の声が聞こえた。

 

温もりすら、感じる。

 

「びっくりさせちゃってごめんねえ。でも、俺は帆風のそばにいるからねえ」

 

帆風の目に、じわりと涙が浮かんだ。

 

「......よかった、です......結絆さん......」

 

かすれた声で呟きながら、帆風は胸元に手を当て、彼の存在を確かめるようにぎゅっと握りしめる。

 

「潤子ちゃん、久しぶり」

 

「その声は!?博士!?」

 

かつて、自らの命を犠牲に自分たちを助けてくれた恩人の声を聞いて帆風は驚く。

 

「帆風、頼みたいことがあるんだよお。」

 

結絆は、自分が死んだときの話を交えつつ、帆風に刺突杭剣(スタブソード)の説明をした。

 

帆風は小さく頷く。

 

「オリアナ=トムソンって魔術師が持ってる、刺突杭剣。あれはねえ、聖人を一撃で殺せる恐ろしいものでねえ。......今、俺がこうなったのも、あれのせいだよお。今俺が生き返っても、また死んじゃったら手間だからねえ」

 

その言葉に、帆風は小さく息を呑んだ。

 

「だから、あれは絶対に、破壊してほしいよお。......刺突杭剣の破壊は当麻の助けを借りたい。幻想殺しがあれば、破壊できるはずだよお」

 

「......わかりました。すぐに、当麻さんにお伝えします」

 

帆風は、顔を上げた。

 

その表情には、先ほどまでの悲しみとは違う、強い決意の光が宿っている。

 

「結絆さん......必ず、成し遂げてみせます」

 

「うん、お願いねえ」

 

結絆は、ふわりと彼女に微笑みかけた。

 

帆風はそっと立ち上がり、ドリームの仲間たちのもとへ歩き出す。

 

彼女の心には、結絆の声と温もりが、確かに残っていた。

 

そして、その背を、誰にも見えない結絆の魂が、優しく押していた。

 

 

 

 競技の合間、陽射しの眩しいグラウンドの片隅で、上条当麻は一人、ペットボトルの水をあおっていた。

 

「競技も結構進んできたけど、大きなトラブルもなくて幸せだな」

 

空に目を向けると、どこまでも青く澄んだ空が広がっている。

 

平和そのものの光景に、自然と顔がほころびかけた、そのとき――。

 

「よう、カミやん」

 

気配を殺して近づいてきた男が、いつもの軽い調子で声をかけてきた。

 

「......土御門か。びっくりするからやめろって」

 

当麻は軽く肩をすくめながら振り返る。

 

金髪にサングラスという怪しい風体のその男、土御門元春は、冗談めかした笑みを浮かべていたが、その目だけは笑っていなかった。

 

「......ちょっと、シリアスな話だ」

 

「......何かあったのかよ」

 

当麻は、空気の変化を敏感に察知して、表情を引き締める。

 

土御門は周囲を一瞥してから、声を潜めた。

 

「――学園都市内でな、刺突杭剣っていう霊装の取引があるらしい」

 

「スタブソード......?」

 

聞き慣れない単語に、当麻は眉をひそめた。

 

「まず、霊装ってのは、要するに超常現象を引き起こすための道具だにゃー。中でもスタブソードはヤバい。......切っ先を向けただけで、距離も障害物も関係なく、対象を殺す」

 

「っ......!」

 

当麻は、思わずごくりと唾を飲んだ。

 

「しかも、その霊装の対象は"聖人"だ。普通の人間じゃない、選ばれた強者......学園都市にも、世界中を探しても20人もいるのかどうかってレベルだぜい」

 

「――まさか!」

 

当麻の頭に、即座にある人物の顔が浮かんだ。

 

「結絆......!!」

 

食蜂結絆。

 

学園都市に存在する、希少な"聖人"。

 

つい先程まで、共に笑い、競技に汗を流していた仲間だ。

 

「おい、土御門! スタブソードが発動したら、結絆は......!」

 

「ヤバいに決まってるにゃー」

 

土御門も苦い顔で頷いた。

 

「だから、カミやん。頼む。......俺だけじゃ難しい。お前の"幻想殺し"が必要なんだ」

 

そのときだった。

 

当麻のポケットで、携帯が震えた。

 

ディスプレイには、「帆風潤子」の名前。

 

「......帆風さん?」

 

急いで通話ボタンを押す。

 

『当麻さん......!』

 

聞こえてきた声は、普段の冷静なものとは違っていた。

 

どこか震えるような、必死な声。

 

『どうか、スタブソードの破壊を......お願いします!』

 

「スタブソード......!?まさか......」

 

オリアナ=トムソン。

 

追跡封じ(ルートディスターブ)の異名を持つ、運び屋として知られている魔術師である。

 

統括理事会の権限を得ているドリームの情報部門は、短時間で必要な情報を手に入れていた。

 

「......わかった。任せろ!」

 

当麻は力強く答えた。

 

だが、次の瞬間、帆風から告げられた言葉に、心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

 

『......すでに、結絆さんは......刺突杭剣によって......』

 

「......っ!!」

 

当麻は、言葉を失った。

 

横にいた土御門も、顔を強張らせる。

 

「結絆が......殺された......?」

 

怒りが、当麻の胸を一気に満たしていく。

 

「ふざけんな......!!」

 

手に力がこもり、携帯を握り締める。

 

「......帆風さん、位置情報、引き続き頼む。絶対に、スタブソードをぶっ壊す!!」

 

『......はい!』

 

帆風の声に応え、当麻は土御門と共に駆け出した。

 

競技場を後にして、オリアナの潜伏先へと向かう。

 

(結絆......)

 

脳裏に浮かぶのは、あの能天気な笑顔。

 

どこか飄々としていて、でも誰よりも強く、仲間を大事にしていた男。

 

(......絶対、許さねえ)

 

握り締めた拳には、怒りと悲しみ、そして決意が宿っていた。

 

風を切って、当麻は全力で駆けた。

 

その隣で、土御門も感情を押し殺しながら走る。

 

結絆の死を無駄にするわけにはいかない。

 

当麻たちは、戦場へと向かっていった。

 

 

 

 帆風から送られてきた位置情報を頼りに、上条当麻と土御門元春は、グラウンドを飛び出して市街地へと駆け込んでいた。

 

監視カメラの情報はミサカが、周囲の人の目からの情報は蜜蟻が入手しているので、いくら魔術師が移動したとしても簡単に追跡できる。

 

「この先に、オリアナがいるんだな!」

 

土御門が叫ぶ。

 

当麻も、息を切らしながら頷いた。

 

帆風の的確な指示が、次々と携帯に届く。

 

そのおかげで、ほぼリアルタイムでオリアナの動きを把握できていた。

 

「見つけたっ!」

 

角を曲がった先、通りの向こうに、金髪をなびかせる女――オリアナ=トムソンの姿があった。

 

彼女は振り向きもせずに、全力で走っている。

 

手に持ったサーフボードのような板

 

その中には、刺突杭剣が収められているはずだ。

 

「逃がすかよっ!」

 

当麻が叫び、全速力で追いかける。

 

土御門も、それに続く。

 

 

 

 追われていることに気づいたオリアナは逃げながら、時折、地面に小さなカードを撒いた。

 

直後、爆発的な風が巻き起こり、瓦礫が飛び散る。

 

「ちっ!」

 

当麻は身を翻してそれをかわす。

 

「......時間稼ぎ、ってわけか」

 

土御門が苦々しく呟いた。

 

「追い詰めるしかない!」

 

当麻が言うと、すぐに帆風から通信が入った。

 

『南東側の路地に追い込めます! 誘導してください!』

 

「了解!」

 

当麻と土御門は、左右に別れ、オリアナの逃走ルートを制限していく。

 

次第に、オリアナの進路は狭まり――

 

「......ッ!」

 

ついに、オリアナは行き止まりの狭い路地に追い込まれた。

 

左右は高いビル。

 

前には壁。

 

後ろには、当麻と土御門。

 

逃げ場はない。

 

オリアナは、観念したかのように板を片手に持ちながら、もう片方の手に持った単語帳のようなものを用いて術式を発動させた。

 

彼女は次々と小型の魔術を放つ。

 

「はっ!」

 

当麻は、それらを次々と「幻想殺し」で打ち消していく。

 

土御門も魔術の知識を駆使し、攻撃の隙間を縫って間合いを詰めた。

 

「くっ......!」

 

オリアナはなおも抵抗を試みるが、当麻と土御門の気迫に押されて劣勢になる。

 

焦りからか、魔術の精度も荒い。

 

「今だ、カミやん!」

 

「おおおおおっ!!」

 

全力の踏み込み。

 

当麻の拳が、オリアナの顔を捉え、オリアナの手から刺突杭剣を吹き飛ばした。

 

ガラン、と乾いた音を立てて、地面に転がる銀色の杭剣。

 

すかさず当麻はそれに目を向けると、躊躇なく右手を当てた。

 

「――砕けろっ!!」

 

奇妙な感触が右手を走る。

 

だが、それも一瞬だった。

 

バキィンッ――!

 

刺突杭剣は、粉々に砕け散った。

 

「......やった、か」

 

当麻は息をつきながら、粉々になった破片を見下ろした。

 

数分後。

 

壁際に座り込んでいたオリアナが、ようやく意識を取り戻した。

 

彼女は痛む頭を押さえながら、当麻と土御門を見上げる。

 

「......あら、お姉さんの時間稼ぎもこれまでかしら......」

 

「時間稼ぎ......だと!?」

 

当麻と土御門は怒りの表情でオリアナを見つめるが、オリアナ自身はどこかピンと来ていない様子である。

 

「説明してやるよ」

 

土御門が低い声で言った。

 

「お前が持ち込んだ刺突杭剣、その効果で」

 

「俺たちの親友の、結絆が死んだんだよ!!」

 

当麻が、絞り出すように言った。

 

「......え?」

 

オリアナの顔から、一気に血の気が引いた。

 

オリアナは、時間稼ぎをする過程で結絆を巻き込むつもりはなかったらしい。

 

そして、結絆の学園都市における重要度はかなり高い。

 

彼女は、意図せずローマ正教と学園都市の戦争の引き金を引いてしまったのである。

 

「......信じたくないかもしれないが、本当だ」

 

土御門が続ける。

 

「科学の街である学園都市に聖人がいるとは思わなかっただろうな。......だが、刺突杭剣は、ただ向けただけで聖人を殺す霊装だ。お前が意図していなくても、な」

 

「......そんな、そんな......!」

 

オリアナは、震える手で口元を押さえた。

 

「わ、私は......! 無関係な人に手を出すつもりなんて、なかった! そんな、学園都市に聖人がいるなんて聞いてない......!!」

 

声が震えている。

 

彼女が嘘をついている様子はない。

 

「でもな、現実は変わらねえんだよ」

 

当麻が、厳しい表情で言った。

 

「結絆は、もう、戻ってこないんだ」

 

オリアナは、崩れ落ちるように地面に膝をついた。

 

後悔と、やり場のない感情に、肩を震わせながら。

 

当麻は、拳を握りしめた。

 

(......結絆)

 

(絶対に、無駄にはしない)

 

静かに誓いながら、当麻と土御門はオリアナの本当の目的を探るのだった。

 

 

 

 「......よし。これで、全部終わったな」

 

砕け散ったスタブソードの破片を見下ろしながら、上条当麻は静かに呟いた。

 

気を張っていた全身から、一気に力が抜ける。

 

携帯を取り出し、震える指で番号を押した。

 

プルルル――

 

数コールののち、すぐに帆風潤子が出た。

 

『帆風です。当麻さん、状況は――?』

 

「......スタブソードは、無事に破壊した。もう、心配いらない」

 

当麻の声は、少し掠れていた。

 

それを聞いた帆風の向こうの空気が、一瞬静まり返る。

そして、ふっと肩の力が抜けたような吐息が漏れた。

 

『......ありがとうございます。当麻様』

 

帆風の声は、震えていた。

安堵と、嬉しさと、色々な感情が入り混じっているのが伝わる。

 

帆風はすぐに、傍らに漂う結絆の魂に向き直った。

 

「結絆さん......! 当麻さんが、刺突杭剣を壊してくださいました......!もう、大丈夫です!」

 

光の粒子のような姿をした結絆の魂が、ふわりと浮かび、優しく微笑んだ。

 

「......心配かけたねえ、帆風。じゃあ、博士と一緒に生き返るよお」

 

その柔らかな声に、帆風は胸いっぱいに熱いものが込み上げた。

 

「本当に......よかったです......!」

 

帆風は目元を押さえながら、笑顔になるのだった。




自分で書いてても思いますが、結絆が完全に人間をやめてますね。

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