食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回からは大覇星祭二日目の話になります。

少しの間、結絆は出てきません。


大覇星祭二日目

 大覇星祭、二日目。

 

快晴の空に、朝から元気なアナウンスが響き渡る。

 

昨日の熱気をそのまま引き継ぎ、会場は早くも活気に満ちていた。

 

一方、ひときわ静かな空気が漂う場所があった。

 

それは、上条当麻のクラスの控えテントだった。

 

「結絆くん......今日は来ないのかな?」

 

クラスメイトの一人が、ぽつりと呟く。

 

その声に、別の生徒も続いた。

 

「昨日の夕方ぐらいから競技に参加してなかったし......大丈夫なのかな?」

 

「まさか、怪我とかしてないよな......?」

 

控えめながらも、クラスメイト達は心配そうに口々に結絆の話題を出す。

 

それだけ、結絆という存在がクラスの中で大きかったということだろう。

 

だが、誰よりも胸を痛めているのは──

 

「......ああ、大丈夫だって。あいつのことだから、そのうちまた、ケロッと現れるからさ!」

 

当麻は、ぎこちない笑顔を浮かべながら答えた。

 

その隣で、土御門も作り笑いをする。

 

「そうだにゃー。あいつは、なんだかんだでタフな奴だからな。心配するだけ無駄だぜい」

 

二人の言葉に、クラスメイトたちは少し安心したような顔を見せた。

 

「そっか......なら、よかった」

 

「うん、結絆くんがいないと、なんか物足りないもんな!」

 

明るく振る舞う彼らを見ながら、当麻は胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われていた。

 

(......ごめん、みんな)

 

真実を知っているのに、言えない。

 

結絆が"死んだ"という、あの衝撃の現実を。

 

当麻は、無意識に拳を強く握りしめていた。

 

現実を受け止められずに嘘をつくしかない自分が、情けなかった。

 

(だけど......)

 

ちらりと隣を見る。

 

土御門も、同じようにサングラスの奥で目を伏せていた。

 

(結絆のことだ。絶対、また俺たちの前に、笑って姿を見せてくれる......!)

 

信じている。

 

そうでなければ、心が壊れてしまいそうだった。

 

「じゃ、次の競技の準備、行くか!」

 

当麻が無理やり明るい声を上げると、クラスメイトたちも「おー!」と気勢を上げた。

 

わずかな笑顔の裏に、それぞれの小さな不安を隠しながら──

 

それでも、大覇星祭の二日目は始まっていく。

 

 

 

 視点は変わって、常盤台中学の生徒たちへ

 

グラウンドに設置されたスタートラインには、各校から選抜された30人の選手たちが並んでいた。

 

今日行われる競技は《バルーンハンター》。

 

選手たちは頭に小さな紙風船を括りつけ、指定された軽量球を使って互いの風船を割り合う。

 

制限時間終了時に、より多くの生存者を残した学校が勝利となるサバイバル戦だ。

 

「さあ、気合入れていくわよお!」

 

蜜蟻愛愉は、にこやかな笑顔でチームメイトたちを鼓舞する。

 

彼女もまた常盤台中学の代表選手として選ばれていた。

 

その隣では、御坂美琴が軽くストレッチをしていたが──

 

「御坂様、準備運動も完璧ですね!」

 

「さすが御坂さんですわ!」

 

クラスメイトたちが口々に美琴を褒める中、ふと一人、列の後ろから控えめな声が届いた。

 

「ミサカも、出てみたいな......と、ミサカは希望を口にしてみます」

 

美琴が振り向くと、そこには彼女そっくりの少女、ミサカ00000号が立っていた。

 

「え、あんたが?でも体操服......って、そうか」

 

美琴は一瞬考え、にっと笑った。

 

「じゃあ、これ貸してあげるから。頑張りなさいよ!」

 

自分の予備の体操服を渡し、ミサカの背中を押す。

 

ミサカは嬉しそうに小さく頷き、慣れないながらもチームに加わった。

 

そして競技開始の合図が鳴る。

 

「スタート!!」

 

一斉に選手たちがグラウンドを飛び出した。

 

紙風船を狙う軽やかな球の音と、選手たちの足音が入り乱れる。

 

蜜蟻は、静かに微笑んだまま周囲を見渡し、そっと能力を発動する。

 

《心理穿孔(メンタルスティンガー)》

 

一瞬で近くの他校選手数名の意識をかすかに操作し、「仲間割れをしろ」という思考を刷り込む。

 

結果、彼らは無防備に前に出たところを、味方にも敵にも狙われあっという間に失格していく。

 

「ふふ、順調順調~」

 

一方、ミサカも独自の動きで存在感を放っていた。

 

彼女は、微弱な電磁波を周囲に放出し、他選手たちの位置や動きを把握している。

 

まるでレーダーを使うかのように、隠れた相手を察知し、球を的確に投げ込んでいく。

 

「後方、3メートル先に敵を検出......狙撃します、とミサカは宣言して実行します」

 

ポンッ、と乾いた音がして、敵校の選手の紙風船が弾け飛ぶ。

 

「な、なにあの子......!? 正確すぎる!」

 

周囲の選手たちは恐怖すら覚え始めた。

 

「いい調子よお、ミサカちゃん!」

 

蜜蟻も、ミサカの活躍を見て思わず親指を立てた。

 

こうして、常盤台チームは着実に生存者数を維持しながら、他校を圧倒していった。

 

 

 

 時間が経つにつれ、選手たちはグラウンドから周囲の通路や建物の影へと戦場を移していく。

 

ただの乱戦から、知恵と連携を問う生き残り戦へと様相を変えていった。

 

「この辺り、敵の潜伏が多いみたいねえ」

 

蜜蟻たちは、念話能力の使い手である口囃子早鳥(こばやしさとり)から得た情報を用いて状況把握を行っていた。

 

蜜蟻は周囲を警戒しながら、コンタクトレンズに似せたカメラを通して能力を使った。

 

そのたびに、周囲の意識を巧みに操り、敵同士で潰し合わせる策を展開していく。

 

そしてミサカも、わずかに顔を上げた。

 

「北東、5メートル先に敵集団を確認。迎撃を推奨します、とミサカは提案します」

 

「助かるわあ」

 

蜜蟻がニッと笑って球を投げ、ミサカも電磁的な探知でアシストする。

 

敵選手たちは翻弄され、またしても次々と風船を割られていった。

 

──制限時間終了まで、あとわずか。

 

最終的に、グラウンドに立っていた生存者たちは、ほとんどが常盤台中学の選手たちだった。

 

「試合終了ッ!!」

 

アナウンスが響くと同時に、観客席から大きな歓声が湧き上がった。

 

「す、すごい......!」

 

「圧倒的じゃないか、常盤台!」

 

勝利を手にした蜜蟻とミサカは、目を合わせると、ふっと小さく笑った。

 

「これも......ミサカ達の連携の勝利です、とミサカは控えめに誇ります」

 

「うん、ほんとに頑張ったわねえ」

 

拍手喝采の中、ミサカは美琴に向かって小さく手を振った。

 

スタンドで見守っていた美琴も、嬉しそうに手を振り返した。

 

こうして、バルーンハンターは、常盤台中学の圧倒的勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 競技終了後。

 

バルーンハンターでの激戦を終えた蜜蟻愛愉とミサカ00000号は、グラウンド脇の休憩スペースに腰を下ろしていた。

 

心地よい風が汗ばんだ肌をなで、熱った体を少しだけ冷ましてくれる。

 

「バルーンハンターでは大活躍だったわよお、ミサカちゃん」

 

蜜蟻が水筒を傾けながら、のんびりと呟く。

 

「ミサカも、充実した時間を過ごせました、とミサカは小さく誇らしげに報告します」

 

ふたりは穏やかに談笑していたが──次の瞬間、その空気を切り裂く重低音が響いた。

 

「......!?」

 

グラウンドの端から、何かがこちらに向かって突進してくる。

 

大型トラックほどもある絶縁体で覆われた奇妙な機械。

 

しかも、その機体からは独特の波長──《キャパシティダウン》の影響が感じ取れた。

 

「ターゲットを確認した。作戦を開始する」

 

スピーカー越しに、無機質な声が響く。

 

機械の上部ハッチが開き、中から黒ずくめの暗部組織の兵士たちが現れた。

 

「ふうん......わざわざ暗部の人間まで出てくるなんてえ、随分と歓迎されてるのねえ。結絆クンがいないからなめられているのかしらあ」

 

蜜蟻が苦笑する。

 

「お前達の能力対策は万全だ。無駄な抵抗はやめて投降しろ」

 

指揮官らしき男が、威圧的に告げた。

 

ミサカはちらりと蜜蟻を見ると、小さくため息をついた。

 

「また、ミサカ達を甘く見る人達ですか、とミサカは心底うんざりします」

 

蜜蟻も同意するように肩をすくめた。

 

「投降......うーん、そんなのするわけないわよねえ」

 

言葉が終わるか終わらないかのうちに、ミサカはすっとポーチからあるものを取り出した。

 

異世界金属で作られた、小型の銃。

 

それはかつて結絆から「お守り」として渡された特別な武器だった。

 

ミサカは電撃が効かない相手への対抗手段に乏しいので、結絆はミサカの安全を守るために銃を渡していたのである。

 

ミサカは無駄な動きを一切見せず、銃口を機械に向ける。

 

パン、と軽い音とともに銀色の弾丸が発射された。

 

銃弾は絶縁体の分厚い装甲を、まるで紙のように貫通し──機械の中枢部に命中。

 

一瞬のうちに回路が焼き切れ、巨大な機械は火花を散らしながら停止した。

 

「な、なんだとッ!?」

 

暗部の兵士たちが慌てふためく間もなく、ミサカは電磁波を周囲に展開し、武器を持つ者たちを瞬時に無力化した。

 

動揺した彼らを、蜜蟻はするりと包み込むように近づく。

 

「さあ......ちょっとだけ、頭の中を見せてもらうわよお」

 

ふわりと笑ったその瞬間、蜜蟻の能力《心理穿孔(メンタルスティンガー)》が発動した。

 

ごく微細な精神操作。

 

対象の思考を少しだけ緩め、無意識の中から欲しい情報だけを引きずり出す。

 

「......木原幻生!?」

 

蜜蟻が呟く。

 

暗部の兵士たちは、知らぬ間に語り出していた。

 

「俺たちは......木原幻生に雇われた......ターゲットは、御坂美琴......連れてこいって......!」

 

さらに深く探ると、兵士たちの脳裏には、美琴が捕らえられ利用されようとしている未来図が浮かび上がってきた。

 

「結絆クンの不在に気付いてるわねえ......御坂さんを捕らえて何をする気なのかしらあ」

 

蜜蟻は表情を曇らせた。

 

結絆からも、木原という名字を持つ者には気をつけろと何度も言われてきた。

 

「お姉様を......狙っている......」

 

ミサカもまた、静かに怒りを滲ませる。

 

「許容できません、とミサカは感情を吐露します」

 

絶縁体の機械を無力化され、武器も封じられ、情報まで抜かれた暗部兵士たちは完全に戦意を喪失していた。

 

蜜蟻は一度肩を回して、小さく笑った。

 

「さてさてぇ。ここからどうしましょうかぁ。

少なくとも──このまま帰してあげるわけにはいきませんよねぇ?」

 

ミサカも、静かに銃を構え直す。

 

「学園都市の秩序を守るため、ミサカ達はあなた達を確保します、とミサカは任務を宣言します」

 

怯える暗部兵士たちを尻目に、蜜蟻とミサカは手際よく拘束を進めていった。

 

こうして、蜜蟻とミサカは暗部組織の急襲を退け、木原幻生が暗躍を始めたという重要な情報を手に入れたのだった。

 

だが、彼女たちはまだ知らない。

 

この一件が、学園都市全体を巻き込む大事件へとつながっていくことを。




原作の常盤台の面子に加えて蜜蟻がいたら、バルーンハンターは常盤台の圧勝で終わってたと思いますね。

バルーンハンターは、原作と違って二日目に回しました。
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