学園都市・大覇星祭二日目の夜。
昼の喧噪がひと段落した街は、夕暮れを超えてまばゆい光に包まれていた。
空には花火のようなホログラムが咲き、街路の両脇には各学校が出展した光のオブジェが並ぶ。
人々のざわめきと笑い声が混ざり合い、夜の学園都市はまるで夢の舞台のようだった。
その中心にある特設ステージ――鳴護アリサのライブ会場には、すでに何万人という観客が詰めかけていた。
「みんなーっ!まだまだ楽しむ準備できてるかな!!」
ステージ中央で、アリサがマイクを高く掲げる。
カラフルな照明が彼女を包み、会場の歓声が空へと弾けた。
透き通るような歌声が夜空を震わせる。
軽やかなメロディが風に乗り、通りを歩く人々までも思わず立ち止まって聴き入ってしまうほどだった。
光る風船、星型のスティック、レーザーライトが揺れる中、アリサは観客に向かって笑顔で手を振った。
「みんな!ありがとうっ!本当に最高だよ!」
観客席から歓声と拍手がどっと湧く。
子どもも大人も、学生も研究者も、この瞬間だけは同じ音楽に酔いしれていた。
アリサはその光景に胸を熱くしながらも、ふとステージの袖に視線を向ける。
けれど、いつもはそこにいるはずの人物の姿がなかった。
(結絆くん......)
彼はいつもライブを近くで見てくれている。
だが、いつもなら観客の隅か、舞台の陰から彼の穏やかな視線を感じるのに、今日は、まるでその気配がない。
アリサは歌いながらも胸にざらつくような不安を覚える。
彼の姿が見えないだけで、どうしてこんなに心が冷えるのだろう。
だが、ステージ上の彼女が不安を見せるわけにはいかない。
アリサは小さく息を整え、マイクを握り直す。
「まだまだ歌います!みんな、心をひとつにして!」
力強いイントロが響く。
彼女は目を閉じ、結絆の姿を思い浮かべながら歌い出した。
まるで彼に届くように、彼の無事を祈って
一方その頃、別のエリア――カジノ通りを抜けたパレードルートでは、巨大な「光るゲコ太」のオブジェがゆっくりと進んでいた。
高さ十メートルほどもあるそのゲコ太は、無数のLEDで彩られ、体全体がリズムに合わせて光を放っている。
手の部分がゆっくりと動き、口元からはしゃぼん玉のような光球が弾けて空に舞った。
「わ、わぁああ!ゲコ太よ!ゲコ太!もっと近くで見ないと」
美琴は興奮のあまり飛び跳ね、両手を振り上げた。
隣では黒子が、顔をほころばせながらも少しひきつった笑顔を見せる。
「お姉様......興奮しすぎですの」
しかし、美琴はゲコ太のオブジェを近くで見ながらも、心の底からは楽しめていなかった。
美琴は人混みの中に目を走らせる。
どこかで結絆が笑いながらこの光景を見ているのではないかと、そんな淡い期待を抱きながら。
「......いない、か」
小さくつぶやくその言葉を、黒子は聞き逃さなかった。
黒子はすぐに微笑んで、美琴の腕を取る。
「お姉様、きっと結絆様はお忙しいのですわ。あの方のことですもの、きっと誰かのために動いておられますのよ」
「うん......わかってる。でも、こういう時くらい、一緒に笑ってほしかったな」
夜風に吹かれながら、美琴は光るゲコ太を見上げる。
ゲコ太の瞳がぱちりと光り、まるで彼女を励ますようにウインクした。
その光を浴びながら、美琴は無理に笑ってみせる。
「ほら、黒子。せっかくだし、写真撮ろっか。せっかくのゲコ太なんだから」
「ええ、もちろんですわ!お姉様の笑顔、しっかりとこのカメラに焼き付けてみせますの!」
黒子が携帯を構え、二人はゲコ太を背景にポーズを取る。
フラッシュが瞬く一瞬――美琴の笑顔は確かに輝いていた。
けれど、その瞳の奥にはどこか寂しさも感じられたのだった。
ライブ会場では、アリサの歌がクライマックスを迎えていた。
彼女の声と観客の合唱が夜空を満たし、ステージの上から見える景色はまるで銀河のように輝いている。
だが、最後まで結絆が現れることはなかった。
最後の一音を歌い終えたとき、アリサは深く息を吐き、胸に手を当てる。
歓声が押し寄せる中、彼女はマイクを握ったまま、静かに語りかけるように言った。
「......今日は、こんなにたくさんの人が来てくれて、本当に嬉しいです。でも、今夜ここに来られなかった誰かのことも、忘れないでください。その人たちにも、みんなの笑顔と、この光が届きますように」
その言葉に、会場の誰もが一瞬、息を呑んだ。
アリサは笑顔を取り戻し、ステージの上でそっと空を見上げる。
結絆くん、君のおかげで私は元気に歌っています。
だから、どうか無事でいてください。
彼女の心の中で、そう願う声が静かに響いた。
その頃、パレードの最後尾では、ゲコ太の光が夜空に反射し、街全体がまるで星の海の中にあるようだった。
美琴たちは屋台で買った綿菓子を手にしながら、笑顔を作りつつ歩いている。
黒子はそんなお姉様の横顔を見つめ、胸の奥で静かに祈っていた。
(結絆さん......どうか、私達の前に、またその優しい笑顔を見せてあげてくださいまし)
遠くでアリサの歌声が微かに響く。
光るゲコ太が最後の瞬きをして、夜空に緑の星を描いた。
華やかな祭りの夜。
歓声と笑い声の中、誰もが心のどこかで、ひとりの男の無事を願っていた。
食蜂結絆という名の男を。
一方、マジックシアターの地下
結絆と橘博士は木原幻生の動向を探っていた。
「へえ、明日の昼間に研究集会ねえ。大覇星祭で使われないエリアで何かする気かもしれないねえ」
結絆は、幻生を仕留めるための準備を進めていた。
「奴が消えてくれたら私たちの周りの問題はひと段落するわね。でも、結絆君が生き返ったことに奴が気付いたら面倒くさいわ。操祈ちゃんたちには悪いけど、幻生を仕留めるまでは私達の姿を見せるわけにはいかない......」
橘博士はため息をつきながらそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。
「暗部組織も動いてきそうだから、注意したいねえ。」
二人の話し合いはしばらく続いたのだった。
短いですが、大覇星祭二日目はこれで終わりです。