大覇星祭三日目
次の競技場になっているグラウンドでは軽快な音楽が鳴り響き、頑張って風船を膨らます人の姿が多くみられた。
ステージ上では司会の女子学生がマイクを握り、観客の笑い声と歓声を誘っている。
その日のメイン競技のひとつ──「風船サンド」が始まろうとしていた。
ペアの二人が身体の間に風船を挟み、手を使わずにゴールまで運ぶという、単純だがバランス感覚やペアの相性が試される競技だ。
「うう......能力が使いにくい競技は苦手なのよね」
御坂美琴はスタートラインの上で苦笑しながら、胸の前で大きなピンク色の風船を抱えたまま呟いた。
風船はすでにパンパンに膨らみ、彼女とパートナーの身体を不自然な距離で押し広げている。
「まあまあ御坂さん、せっかくの大覇星祭なのですから、楽しまないと損ですわ」
隣で優雅に微笑むのは婚后光子だった。
彼女は風船越しに軽く姿勢を正し、額の汗をハンカチで押さえながらも、余裕の笑みを浮かべている。
その姿に美琴は思わず感心した。
婚后光子はいかなる場合も優雅に振る舞うのである。
「......最初は黒子と出る予定だったんだけど」
美琴は苦笑いを深めた。
「でも黒子は、もうスタートの段階からベッタリで......。風船より自分がくっついてくる勢いだったから、さすがに代わってもらったわ」
「白井さんらしいですわね」
婚后は思わず吹き出しながらも、唇に手を当てて上品に笑った。
「白井さんは、御坂さんのことになると周りが見えなくなりますもの」
「ほんとよ......。この競技、距離感が命なのにね」
そう言いながら、美琴は風船の位置を微調整する。
風船が少しでもずれると、バランスを崩して落としかねない。
美琴は競技開始の合図を待っていたが、突然婚后が気になることを話し出す。
「そういえば......御坂さん」
「ん?どうしたの?」
「昨日のバルーンハンター、御坂さんは出ていませんでしたわよね?」
「え!?」
美琴は一瞬顔をひきつらせた。
その様子を見て婚后は、自らの推測を確信に変えた。
「あの時の“御坂さん”......少し雰囲気が違いましたもの。私、人を見る眼は確かなつもりですわよ。あれは御坂さんの妹さんでしたわね?」
「えっ......!」
美琴の瞳が驚愕に見開かれた。
思わず風船がずれそうになるほど身体が動く。
「ちょ、ちょっと待って!気付かれたの初めてなんだけど!?」
「口調も微妙に違っていましたし、あのとき彼女が放った電撃の出力も......少し控えめでしたもの。やはりそうでしたのね」
美琴は内心で息をのむ。
それと同時に、美琴の婚后に対する認識が変わった。
「あの子が競技に参加したいって言ってたからさ......楽しんでたみたいだし、ほかの人には内緒にしててもらえると嬉しいかな」
「私からは、何も言うことはありませんわ。それよりも、風船サンド......常盤台の圧勝で決めますわよ!」
「よし、優勝取りに行くわよ!」
美琴は気持ちを切り替えて競技に集中する。
「さんっ!にっ!いち──スタートっ!」
笛の音と同時に、二人は一歩を踏み出した。
柔らかく弾む風船が、まるで生きているかのように二人の胸元でバウンドする。
観客席からは「がんばれーっ!」という歓声が飛び交い、会場付近の空気は一気に熱を帯びた。
「っ、意外と難しいわねコレ!」
「バランスを保つのが難しいですわね、御坂さん、リズムを合わせますわよ!」
婚后が冷静に声をかけ、二人は息を合わせるように小刻みに前進する。
風船が滑らないように、ほんのわずかに腰を揺らしながら歩幅を合わせる。
「わっ、ちょっ.....!」
だが、途中でリズムが崩れたことによって風船が宙を舞う。
二人は慌てて風船を体で挟んで受け止めた。
「っ......ご、ごめん婚后さん!」
「い、いえっ、だ、大丈夫ですわ!」
二人とも真剣な表情になりながら、なんとか風船を落とさずに前へ進む。
観客の笑い声がその様子を温かく包み込む。
「......これ、黒子とやってたら確実に落としてたわ」
美琴が小声で呟くと、婚后はくすりと笑う。
「ふふ、御坂さんの電撃で風船が割れていたかもしれませんわね」
その軽口のやり取りに、緊張が少し和らぐ。
二人は呼吸を合わせながら、残り半分のコースを慎重に進む。
風船サンドは、中盤戦に差し掛かった。
美琴と婚后の前には数組のペアがいる。
「常盤台を倒せば俺たちの優勝は確実だな......!」
美琴たちの少し前を進む発火能力者が、手から炎を出して風船を割ろうとする。
「絶縁破壊が怖いから能力は使いたくないのよね、婚后さん、任せてもいい?」
「もちろん、炎も相手の風船もまとめて落として差し上げますわ!」
婚后が美琴に合図を出して一緒にしゃがむ。
そして、婚后が地面に手を触れると、地面から突風が吹いて相手の選手が出した炎を吹き飛ばし、その勢いのまま風船も弾き飛ばした。
「やばい、風船が遠くに行っちまった!」
相手の選手は、他の選手の妨害をする余裕はなくなってしまった。
「ありがとう、婚后さん!」
「パートナーとして、当然のことをしたまでですわ!」
常盤台中学は他の学校から警戒されているので、その後も美琴と婚后は妨害を受け続けた。
しかし、二人のコンビネーションで妨害を全て切り抜け、ゴールは目前に迫ってきた。
そして、
「ゴール!!!常盤台の風神雷神!圧倒的なコンビネーションで妨害を跳ね除け、一着でゴールだぁ!」
二人は風船を落とさずに最後まで運びきってゴールした。
「よっしゃあ!私たちの勝ちよ!」
「私たちの友情の勝利ですわね!」
美琴と婚后は笑顔でハイタッチして勝利を分かち合ったのだった。
一方その頃......
「はぁ!?妹達が攫われたですってぇ!?」
「学園都市で生活している妹達の一人が謎の研究者によって攫われたようです......と、ミサカは怒りを露にしながら現状を報告します。」
「すぐに助けないと!」
操祈とミサカと警策はマジックシアターでトラブルへの対応に追われていた。
「ミサカネットワークを使って場所を確認......この場所は......ぐっ!」
ミサカは本来ミサカネットワークには接続していないが、ミサカネットワークに割り込むことはできる。
それを利用して攫われた妹達の居場所を突き止めようとしたが、何者かの妨害を受けたらしい。
「ミサカネットワークを使って場所を特定しに来てることを見破られたのねぇ、もしかして、木原幻生の仕業!?」
操祈の表情に焦りが見え始める。
木原幻生が研究集会でとあるビルに集まるという情報は持っているが、妹達の救助と並行して行うのはリスクが高すぎる。
戦力を分散させればしくじる可能性は高い。
「幻生は外装代脳の権限を持ってるのよねぇ、潤子ちゃんを向かわせて洗脳されたら困るしぃ、私が直接出向くしかないわねぇ。」
操祈たちはため息をつく。
「じゃあ、操祈ちゃんは幻生の抹殺、私とミサカは妹達の捜索って感じ?」
「一方通行にも連絡を入れておきます。結絆が、万が一の時は一方通行に頼れと言っていたので......」
結絆がいればもっと的確な判断ができていたかもしれない......
彼女たちはそう考えながら、今と向き合い、事件を解決するために動き出すのだった。
バルーンハンターもそうでしたが、詰め込みすぎると大覇星祭で書くことがなくなるので、風船サンドの話なども大覇星祭三日目にずらしています。