食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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シリアスな感じの回は今回で終わりです。

後半は、日常パートもあります。


蘇った怪物

 結絆たちは、木原幻生を撃破した。

 

だが、まだ終わりではない。

 

ミサカネットワークに打ち込まれたウイルスによって暴走する美琴が、街を壊し続けている。

 

それを止められるのは、結絆しかいない。

 

結絆はふと隣を見る。

 

操祈は涙を拭き、微笑んでいた。

 

「御坂さんを助けに行くわよぉ、お兄様」

 

「ああ、一緒に止めようねえ、俺たちの大事な仲間を......美琴、今行くからねえ」

 

それを聞いた橘博士は静かに頷き、結絆を美琴の所へ、操祈を冥土返しの病院へ空間移動させる。

 

 

 

 空は焼けただれたように真っ赤だった。

 

雷光が乱舞し、吹き荒れる暴風が瓦礫を巻き上げる。

 

その中心で、御坂美琴が稲妻を纏い、狂ったように暴れ続けていた。

 

彼女の背後には、2万人の妹達──ミサカネットワークの演算能力が注ぎ込まれ、もはや人間とは思えない超存在へと変貌していた。

 

「まだ、手遅れじゃなさそうだねえ」

 

結絆、は仲間たちのもとへ視線をやる。

 

当麻、ドリームの面々、そして親友の削板軍覇......。

 

軍覇を除いて、皆は既に傷だらけだった。

 

ここまで耐え抜いてくれた仲間たちをまずは回復すべきだ。

 

「癒すよお、全部ねえ」

 

結絆は悪魔の力を解放する。

 

赤黒い紋様が空間に浮かび、不可視の波動が仲間たちに降り注ぐ。

 

傷ついた皮膚が、裂けた筋肉が、折れた骨が、瞬く間に再生していった。

 

「あれ......!体が......!?」

 

「傷が消えていきますね......!」

 

驚愕する仲間たちをよそに、結絆はただ静かに前を見据える。

 

「ここからは、俺の番だよお」

 

次の瞬間、美琴が放った雷撃が結絆を直撃する。

 

だが、普段から美琴と過ごしている結絆の体の表面は絶縁体になっているため、電撃は全く効かない。

 

電撃が効かないことを察知した美琴は、次に鉄骨を磁力で引き寄せ、猛スピードで投げつけてきた。

 

だが、結絆は時空間の原典の力を使い、鉄骨を異次元に放り投げる。

 

「どんな攻撃も、無駄だよお、美琴」

 

優しく、けれども揺るがぬ声で告げる。

 

結絆はひたすら、美琴の暴走を受け止め続けた。

 

時間を稼ぐために。

 

 

 

 「先生っ!一方通行っ!」

 

暴走した美琴の攻撃に巻き込まれた重症患者が運び込まれる中、医療チームの中心で指示を飛ばしていた二人が振り向く。

 

「......食蜂さんか。どうしたんだい?」

 

「ミサカネットワークにウイルスが流されて、それで御坂さんが......」

 

操祈は必死に説明する。

 

ミサカネットワークに入り込んだ悪意あるプログラムが、妹達の精神を蝕み、美琴を暴走させていると。

 

「これを使えばウイルスを除去できるはずよぉ」

 

操祈は震える手で、ウイルスの治癒プログラムが入ったデータ端末を一方通行に渡した。

 

「......ったく。科学者の奴、めんどくせェことしてくれやがったなァ」

 

一方通行は端末を受け取り、即座に行動を開始する。

 

迷いも、ためらいもない。

 

ベッドに横たわる打ち止め(ラストオーダー)の頭に手を添える。

 

「今からお前にウイルス除去プログラムを叩き込む。少し痛ェかもしれねェが、我慢しろよォ」

 

一方通行は静かに呟き、指先から微細な電流を流し込んだ。

 

 

 

 一方通行は打ち止めの脳内のウイルスを除去プログラムを用いて次々に除去していく。

 

「......うぅ......ミミミ、ミサカ、カカカカ」

 

打ち止めが苦しそうに唸る。

 

だが、一方通行は決して手を止めなかった。

 

「あと少しだからなァ......」

 

彼の言葉に、操祈も胸が締め付けられる思いだった。

 

この手で、仲間を取り戻さなければならない。

 

美琴もミサカネットワークに繋がるすべての妹達も。

 

操祈は祈るように手を握り締めた。

 

 

 

 一方で、戦場では。

 

結絆は、なおも美琴の超越的な雷撃を受け止め続けていた。

 

凄まじいエネルギーが空間を震わせる。

 

地面は焼け焦げ、空気は焼き切れ、地平線すら歪む。

 

だが、結絆の意志は決して折れない。

 

「美琴......必ず君を助けるからねえ」

 

彼の中にあるのは、確かな希望だけだった。

 

あと少し。

 

操祈と一方通行が必ず道を開いてくれる。

 

だから今は、自分がこの暴走を受け止め続ける。

 

結絆は仲間を信じて美琴の攻撃をいなし続けるのだった。

 

 

 

 凄絶な雷光が鳴り響く中、美琴の様子が少し変わった。

 

結絆の目に映る彼女の顔には深い苦悩と混乱が浮かんでいる。

 

体を覆っていた異常な帯電は徐々に収まりつつあったが、美琴は暴走した能力の制御ができないようである。

 

「ミサカネットワークのウイルスは......消えた......のよねぇ?」

 

操祈の問いに、一方通行は無言で頷いた。

 

彼の掌は、打ち止めの額に優しく添えられたままだ。

 

そして、打ち止めが気怠そうな表情で一方通行の腕に触れると、一方通行は優しく微笑んだ。

 

「助かったわよぉ......一方通行」

 

「......礼はいらねェ。それに、まだ終わっちゃいねェからなァ」

 

その言葉を裏付けるように、美琴の体から発せられるエネルギーが不穏に震えた。

 

今度は暴走とは違う。

 

暴走中に自身が無意識に構築してしまった高密度の超電磁エネルギーが一点に凝縮され、周囲の空間を焼き焦がすような圧力を発していた。

 

「何よこれ......止まらない......」

 

美琴が呆然と呟く。

 

すでに意識は戻っている。

 

だが、生成されたそのエネルギーは、本人すら制御しきれない。

 

「このままじゃ......学園都市が......!」

 

肩を震わせながら、美琴が結絆の方を見た。

 

「お願い、みんな......逃げて......!私が......私が犠牲になってでも......止めるから......!」

 

涙をこぼしながら、彼女は最後の決意を語る。

 

だが、その声を結絆は遮った。

 

「......大丈夫だよお」

 

結絆は柔らかく笑いながら、美琴とエネルギーの中心へと歩み出た。

 

「俺が言えたことじゃないけどお......命を捨てるなんて、そんなのは一番やっちゃいけないことだよお」

 

その手には、マスターソードが握られていた。

 

金色の剣が光り輝いている。

 

結絆はそれを振りかぶり、怒涛のエネルギーの奔流に真っ向から切り込んだ。

 

一閃

 

マスターソードがエネルギーの奔流を裂き、空気を引き裂く轟音と共に九割以上のエネルギーが音を立てて霧散していった。

 

大気が反動で逆巻き、突風が吹き荒れる。

 

結絆はそのまま、後方の当麻に振り向いた。

 

「残りは頼んだよお、当麻!」

 

「......ああっ!任せろっ!」

 

当麻は力強く頷くと、残されたエネルギーの塊に向けて右手を突き出した。

 

幻想殺し、あらゆる異能を無効化するその力を、最後の一押しとして掲げる。

 

しかしそのエネルギーは結絆が大幅に削ったとはいえ、異能の極地とも言えるほど強大だった。

 

超密度のそれは、右手に触れた瞬間、凄まじい熱と衝撃で当麻の右腕を消し飛ばした。

 

「――っ!!」

 

誰もが凍り付いた。

 

だが次の瞬間、当麻の右肩の断面から、禍々しくも神々しい光がほとばしる。

 

そこから現れたのは、無数の巨大な龍の頭。

 

「......エグイのを飼ってるねえ、当麻は」

 

結絆がぽつりと呟く。

 

当麻自身も呆然としながら、龍たちが咆哮を上げ、残されたエネルギーの奔流に次々と喰らいついていく。

 

光と雷鳴が交錯し、衝撃波が周囲の建物を軋ませる。

 

だが、圧倒的なまでの力で、エネルギーは完全に、そして美しく消滅していった。

 

その後、静寂が訪れる。

 

すべてを焼き尽くすはずだった光が消え、空にはただ、雲一つない青空が広がるのみ。

 

ふと、結絆が呟く。

 

「......当麻......その手、大丈夫なのかい?」

 

皆の視線が当麻へと向けられる。

 

そこには、よくわからない表情をしたまま、元通りに再生した右手を恐る恐る握りしめる当麻の姿があった。

 

「......なんでかわかんねえけど......戻ってきたみてぇだ」

 

そう言いながら力なく笑う当麻の肩を、結絆は軽くたたいた。

 

そして、美琴もまた地に膝をついたまま、ぽつりと呟いた。

 

「......みんな......ありがとう......」

 

 

 

 静まり返った空間に吹く風が、焼け焦げた地面を優しく撫でていた。

 

戦いの跡がまだ色濃く残るその場に、御坂美琴はぽつんと座り込んでいた。

 

体操服は完全に焼き切れ、彼女は結絆の着ているコートを羽織っている。

 

「ねえ......結絆」

 

名を呼ばれ、彼はゆっくりと振り向いた。

 

風に金色の髪が揺れ、緑の瞳が開かれる。

 

「美琴。体の調子は、大丈夫かい?」

 

優しく問いかける声に、美琴は小さく首を振った。

 

「体は、もう平気......でも......」

 

彼女は言葉を飲み込んだ。震える手を見つめながら、ようやく絞り出すように言った。

 

「......暴走してた時、自分が自分でなくなる感じがしてて......」

 

その声音は、かすかに震えていた。

 

次の瞬間、彼女の肩を包み込むように、温かな腕が回された。

 

「......怖かったんだねえ、美琴」

 

その囁きは、包み込むような慈愛に満ちていた。

 

「でも、もう大丈夫だよお。全部、終わったからねえ」

 

結絆の腕の中で、美琴は唇を噛み締めた。

 

抑えていた感情が溢れ出すように、瞳から一筋の涙がこぼれる。

 

「......私......どうすればよかったのかな......誰かを傷つけたくなんてなかったのに......!」

 

「美琴は何も悪くないよお。悪いのは、美琴を利用しようとしていた科学者たちだからねえ。」

 

結絆はそっと彼女の頭を撫でる。

 

少し湿った髪が指の間をすり抜けていく。

 

「ミサカネットワークに仕込まれてたウイルスは、一方通行がどうにかしてくれたよお。見事に取り除いてくれた。......あいつは、やっぱり頼りになるねえ。そして、俺が来るまでの間は、軍覇が時間稼ぎをしてくれたよお。」

 

それを聞いた美琴は、ほんのわずかに目を見開いた。

 

心の奥の緊張が、少しだけ緩むのが分かった。

 

「それと......元凶だった木原幻生は、廃人にした」

 

その言葉には、一片の揺るぎもなかった。

 

厳かで、静かな決意が込められていた。

 

「もう二度と、同じことは起きないし、起こさせない。......絶対にねえ」

 

美琴は、ゆっくりとその言葉を胸に落とし込むように目を閉じた。

 

そして、結絆の胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。

 

「......うん」

 

その一言に、すべての想いが詰まっていた。

 

風が、ふたりの周囲を優しく包み込むように吹いた。

 

「当麻の腕から出てきた龍......"二匹"逃げて行ったねえ。何も起こらなければいいんだけどねえ」

 

 

結絆の呟きを聞くものはいなかったが、これらの龍が事件を引き起こすのは、また後のお話。

 

 

 

 一方、マジックシアターの操祈の自室

 

戦いの後、眠りについていた当麻が目を覚ますと、ふわりと、甘い香りが鼻先をくすぐった。

 

「......ん、んん......?」

 

まぶたの裏に差し込む柔らかな光に顔をしかめながら、上条当麻はゆっくりと目を開けた。

 

そこは見慣れた天井、重厚なシャンデリアと、優雅な洋風の装飾が施された壁が目に入る。

 

「ここは......操祈の部屋、か。帰ってこれたんだな」

 

マジックシアターの住居エリア、その一室。

 

ベッドの柔らかさに包まれながら、当麻はひとつ深く息をついた。

 

自分がどれだけ疲れていたのか、今になってようやく実感が湧く。

 

そのとき、

 

「当麻ぁ、起きてるかしらぁ?」

 

ドアが静かに開かれ、柔らかな声が響いた。

 

声の主は、やはり彼女だった。

 

薄いピンクのルームウェア姿の操祈が、銀のトレイを両手に抱えてやってくる。

 

トレイの上には湯気を立てるおかゆとカットフルーツ。

 

彩りも香りも、心を和ませるもので満ちていた。

 

「操祈......」

 

「ふふ、当麻のお世話をするのも、悪くないのよねぇ。」

 

操祈はベッドの傍に腰を下ろし、トレイを置くと、当麻の額にそっと手を当てた。

 

「熱は、もう平気そうね。よかったあ......」

 

「ありがとな、操祈。......なんか、すっごい安心した。目が覚めたら隣に操祈がいてくれるなんて、最高だなって」

 

「当麻の隣は......誰にも渡さないんだゾ☆」

 

そう言って微笑む操祈の頬が、ほんのりと朱に染まっている。

 

当麻は、心がじんわりと温かくなるのを感じていた。

 

「そういや、俺......美琴の暴走を止めた後、どうなったんだ?」

 

「完全に気を失ってたわよぉ。みんなが心配してたけどぉ......お兄様が、当麻をここまで抱えて連れてきてくれてぇ......私は、服を着替えさせたりしただけよぉ」

 

「結絆には感謝しないとな......って......操祈!?」

 

「あらぁ?何を想像したのかしらぁ?」

 

当麻が顔を赤くすると、操祈はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「いやいや、何でもないって」

 

その後、操祈は再び微笑むと、スプーンですくったおかゆを差し出してくる。

 

「はい、あーん♪」

 

「お、おい......まじか......」

 

「当然でしょお♪」

 

当麻は観念して口を開き、一口、優しい味わいのおかゆを味わう。

 

塩加減も絶妙で、身体の奥までじんわりと染みていくようだった。

 

「......うまい。ほんと、ありがとな、操祈」

 

「ふふ、それくらい当然よお。愛情力......伝わってるかしらぁ?」

 

その一言に、当麻の心臓が大きく跳ねた。

 

「ああ、幸せだ」

 

二人の時間が、ゆっくりと、しかし確かに流れていく。

 

騒乱の嵐は過ぎ去り、今はただ、ぬくもりに包まれるだけの静かな朝だった。

 

 

 

 「なんか操祈のおかげで元気になってきた気がするな」

 

操祈の作ったおかゆを食べた当麻は、少し気力が回復したようだ。

 

その様子を見て、操祈はにこやかに笑う。

 

柔らかなブロンドの髪が肩にかかり、部屋に差し込む朝の光を受けて、まるで天使のように輝いていた。

 

当麻は操祈に見惚れつつ、ふと目をやると、トレイの上に並べられた色とりどりのフルーツが目に入った。

 

すでにカットされたそれらは、操祈のセンスの良さを感じさせる盛り付けだった。

 

「じゃあ、今日は特別サービスよぉ」

 

操祈はそう言うと、一片のオレンジをつまみ、口に入れる......

 

と思った瞬間、当麻の目の前で、そのオレンジを自分の唇にくわえた。

 

「......へ?」

 

当麻が戸惑いを見せるのに対して、操祈の瞳がきらきらと悪戯に輝く。

 

頬に挟まれたフルーツのオレンジが、まるで挑発するかのように揺れていた。

 

「う、嘘だろ......?」

 

「お兄様に教えてもらったんだけどぉ......やっぱり正解だったみたいねえ」

 

「あいつ......どんなアドバイスしてるんだよ......!」

 

当麻の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。

 

慣れない甘さと距離の近さに、心臓が破裂しそうだ。

 

だが操祈はお構いなしに、顔をすっと近づけてくる。

 

唇に軽く挟まれた果実は、ほんの数センチ先。

 

呼吸すら感じられる距離。

 

「ほらぁ、早く食べなさいよぉ」

 

「......っ!」

 

もう逃げられないと悟った当麻は、意を決して身を乗り出す。

 

操祈の顔がさらに近づいて、そっと、唇からオレンジを受け取る。

 

「......っ!!」

 

オレンジは甘くて、冷たい。

 

だが、それ以上に、操祈の体温がすぐそこにあることが、当麻を異様にどきどきさせた。

 

「ふふっ......真っ赤になってるわぁ♪」

 

操祈は満足そうに微笑み、唇を指で拭いながら続けた。

 

「お兄様が言ってたのよぉ。“当麻にはちょっと強引なくらいが丁度いいからねえ”って♪」

 

「......アイツほんと、余計なことしかしねえ......!」

 

頭を抱えてぼやく当麻だが、操祈の機嫌の良さが嬉しいのも確かだった。

 

そして、あれほどの戦いを経た今、こうして穏やかな時間を共有できることが、何よりの癒しだった。

 

「ねえ、当麻」

 

「ん?」

 

「当麻のためならぁ、いろいろ頑張れちゃうのよぉ。だから......これからもずっと、私の隣にいてくれるかしらぁ?」

 

「......ああ。こっちこそ、ずっと隣にいてくれよな、操祈」

 

照れ隠しのように返すと、操祈はふふっと小さく笑い、当麻の額にキスを落とした。

 

「大好き、当麻♪」

 

「......もう、からかうなって......」

 

そして、頬を染める彼の表情を見て、操祈はますます笑顔を深めるのだった。

 

 

 

 操祈のアプローチは、まだ終わらない。

 

口元にふんわりとした果実の香りが広がり、微かな湿気が当麻の唇に触れた。

 

「......ん、もぐ......」

 

当麻は操祈のくわえるイチゴを、そっと口移しで受け取る。

 

さっきと同じく、やはり照れくさくて仕方がない。

 

けれど、その甘さと操祈の微笑みが、何よりも心地よかった。

 

「ふふっ......だんだん慣れてきたんじゃなぁい?」

 

操祈は唇を拭いながら、にやにやと笑う。

 

彼女の頬にはうっすらと朱が差しているが、それ以上に楽しげな雰囲気が勝っていた。

 

「......いや、慣れないって、毎回ドキドキして......」

 

「そんな顔して言っても、全然説得力ないわよぉ。さっきなんか、自分からキスしてくれたのにぃ♪」

 

「そ、それは......! 覚悟決めたっていうか......その......!」

 

「はいはい。じゃあ次はこのキウイ♪」

 

再び操祈がフルーツを唇にくわえて近づいてくる。

 

恥ずかしいけれど、それを拒めないくらい、彼女の瞳は優しくて、暖かい。

 

そのときだった。

 

「......うまくいってるみたいだねえ?」

 

突然の声とともに、部屋の扉が音もなく開いた。

 

「――――ッ!?!?!?!?!?!?」

 

弾かれたように当麻と操祈が振り返る。

 

そこには笑いを堪えている食蜂結絆の姿があった。

 

「お、おいっ!ノックぐらいしろよっ!?いや、っていうか空気を読めよっ!?!?」

 

当麻は布団を肩まで引き上げながら、真っ赤な顔で抗議した。

 

操祈の口元には、まだキウイが残っている。

 

だが、そんな当麻の動揺をよそに、結絆はくすりと笑って言う。

 

「ごめんごめん、まさかこんな甘〜い現場に遭遇するとは思ってなかったんだよお。仲良くやってるみたいで安心したかなあ」

 

「お兄様のアドバイスのおかげよぉ♪」

 

「んー、それはどうだろうねえ。操祈が素直になっただけじゃないかなあ?」

 

軽く肩をすくめながら、結絆は部屋の中へ入ってくる。

 

どこか楽しげな様子で、ベッドの端に腰をかけた。

 

「......いや、ほんとマジで......恥ずかしすぎてヤバいからな。俺、顔から火が出そうだったんだぞ......」

 

当麻は枕に顔を埋める勢いで身を縮こませた。

 

だが、結絆はそんな彼に、ひときわ意味深な微笑みを向ける。

 

「......でもさあ、当麻。口ではそう言ってても、内心ではしっかり楽しんでたよねえ?」

 

「っ......!!」

 

的確すぎる指摘に、当麻の肩がビクリと震えた。

 

操祈が「ぷっ」と小さく吹き出す。

 

「やっぱりそうなのねぇ、当麻♪」

 

「......な、なんでみんな俺の考えてることを読めるんだよ......!」

 

「顔に出てるだけだよお」

 

結絆がさらりと返すと、当麻は「うう......」と呻きながら枕に顔をうずめた。

 

操祈はそんな彼の背中をぽんぽんと優しく叩きながら、満足げに微笑む。

 

「でも、よかったわぁ。本当に......無事に戻ってきてくれて」

 

操祈の言葉に、当麻はそっと顔を上げる。

 

その目には、先日の戦いがどれだけ多くの重みを持っていたか、言葉にしなくても伝わってくるものがあった。

 

「......ああ。俺も、戻ってこられてよかった。それに、みんなが無事で、本当によかった」

 

その言葉を聞いた結絆もまた、頷く。

 

「危機は去ったから、やっと大覇星祭を心から楽しめそうだねえ」

 

その部屋には、戦いを越えて手に入れた、かけがえのない安らぎが満ちていた。

 

それは、何よりも大切な“日常”の始まりだった。




原作絡みの大覇星祭の話は、大体これで終わりです。

大覇星祭編は、もうちょい続きます。
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