大覇星祭も、四日目に突入した。
結絆と軍覇が組み手を行っていた間のこと
学園都市の商店街を歩く御坂美琴と帆風潤子の手には、それぞれ買い物袋がぶら下がっていた。
袋の中には、緑色のパッケージがぎっしりと詰まっている。
「よし、これでこの辺の店のは粗方買い占められたわ!」
美琴が小さくガッツポーズをすると、隣の帆風も満足げに頷いた。
「はいっ!御坂さん、これでまたゲコ太指人形を引けるチャンスが増えましたね!」
そう、今は学園都市で期間限定販売されている「ゲコ太チョコレート祭り」。
大覇星祭に便乗して、お菓子メーカーも張り切っているのである。
ゲコ太チョコレートには小さな付録が封入されていて、そのラインナップは全百種類のゲコ太指人形。
しかも、どの種類が入っているかは開けてみないと分からない。
つまりコンプリートには運と根気、そして財力が必要だった。
最も、結絆は学園都市どころか世界中で見てもかなりの富豪であるので、金銭面に関しては何も問題はない。
「ゲコラーとして、全種類集めるまで終われないわね!」
「この調子ならすぐに揃えられますね!でも、最低3セットは揃えないと......」
二人は次の店に入り、棚のゲコ太チョコレートを迷うことなくごっそり抱え込む。
周囲の客たちは驚いたように見ていたが、二人は気にしない。
美琴の表情には「譲れない勝負」の気配すら漂っていた。
「ふふっ......なんか久しぶりに血が騒ぐわね。こういうのって運試しみたいで燃えるじゃない」
「結絆さん絡み以外で、ここまで真剣になってる御坂さんを見るのは久しぶりですね。」
「ゆ、結絆は、いつも優しいし......時々からかわれるけど......」
頬を赤く染める美琴を見て、帆風は思わず微笑む。
同じ電気系の能力者であり、結絆の恋人であり、ゲコラーでもある美琴に帆風は親近感を抱いていた。
その後も二人は商店街を練り歩き、スーパーやコンビニを次々と巡っていった。
どこに行っても二人の手は迷いなくチョコを掴み、袋はみるみる膨らんでいく。
「す、すごい量になってきましたね......。袋がもうパンパンです!」
「ふふ、いいじゃない。マジックシアターに帰ったらみんなで開封会でもやろっか」
「はいっ!きっと盛り上がりますよ!」
やがて昼過ぎ。
二人は両手に抱えきれないほどの袋を抱えて、ようやく商店街を後にした。
「う、うぅ......ちょっと重い......」
「だ、大丈夫ですか御坂さん!?私が持ちます!」
「だ、大丈夫よ! これはゲコ太への愛の重さなんだから!」
そう言い切った美琴だったが、足取りはだいぶ怪しい。
帆風がさりげなく半分ほどを持ち替えてやると、美琴は素直に助かったという顔をした。
そして二人はようやくマジックシアターに帰り着く。
エントランスホールに足を踏み入れた瞬間、他のメンバーたちが目を丸くした。
「な、何その量......?」
「チョコレート屋でも開くつもりかしらぁ......」
両腕いっぱいに袋を抱えた美琴と帆風は、どや顔で答える。
「これはね、ゲコ太指人形をコンプリートするための聖戦なのよ!」
「御坂さんと一緒に頑張った成果です!きっと全種類揃ってます!」
二人は袋を床に並べ、次々とチョコを取り出していく。
まるで宝探しのように瞳を輝かせながら、包装を破り、中の小さな袋を開ける。
「きゃー!ゲコ太の寝そべりポーズです!」
「こっちはゲコ太の笑顔バージョン!やった!」
その様子を、結絆はニコニコしながら眺めていたのだった。
マジックシアターの居住エリアには、山のように積まれたチョコレートの箱が並んでいた。
その数は千を遥かに超える。
緑色のゲコ太パッケージが視界を埋め尽くす光景に、呼び集められた面々は一斉にため息を漏らした。
「数が多い、ってレベルじゃないですわ......」
黒子が呆れた声を上げると、隣の操祈も肩をすくめる。
「ホントにやる気出すとこうなるのねぇ......さすが似た者同士だわぁ」
「ふん、当然でしょ!」
胸を張る美琴の顔は得意げそのものだ。
「御坂さんと一緒に頑張った成果です!今からは皆さんで楽しく開封会ですねっ!」
その隣で帆風もきらきらとした笑顔を浮かべている。
「楽しくって......この量を全部?」
フレンダが半ば呆然とつぶやけば、絹旗が腕を組んで続ける。
「超無茶苦茶ですよ。開けるだけで一日仕事なんじゃないですか?」
「まあまあ、祭りみたいなもんだよお」
結絆が苦笑しながら椅子に座る。
彼の声に周囲は思わず吹き出した。
「結絆さんがそう言うと、なんか本当にイベントっぽくなるね!」
悠里が穏やかに笑い、蜜蟻は「でもちょっと面白そうじゃなあい?」と肩を揺らす。
やがて全員がテーブルにつき、それぞれチョコを分け合う。
包装紙を破る音が一斉に響き、広間はにわかににぎやかになった。
「わーっ、またゲコ太の寝そべりポーズです!」
ミサカ00000号が指人形を掲げると、弓箭姉妹が「こっちは笑顔ポーズです」「こっちはウィンクですわね」と並べてみせる。
「ふふっ、こうやって見てみると可愛いわねぇ」
操祈が指人形を眺めながら微笑んだ。
一方で、結絆の前には次々と「レア」と呼ばれる種類が並んでいた。
「お? 金色ゲコ太が出たねえ」
「え、またですか!?それレアなんですよ!」
帆風が目を丸くする。
「次は......おお、王冠ゲコ太だあ。三つ目かなあ」
「ちょ、ちょっと待って!それ、通常なら百個に一つって言われてるやつじゃない!」
美琴が思わず立ち上がる。
その場にいた全員の視線が結絆に集中した。
「......結絆はやっぱり超豪運の化け物ですよ」
絹旗がぼそっと呟き、フレンダも激しく同意する。
「別に俺が狙ってるわけじゃないけどねえ......」
結絆は照れくさそうに笑いながら、また一つチョコを開けた。
そしてまたレアなゲコ太が顔をのぞかせる。
「......」
一瞬の沈黙のあと、全員が一斉に突っ込んだ。
「ありえないでしょ!!」
大広間は笑い声で揺れた。
その後も開封は続き、山のようだった容器はみるみる減っていく。
床にはカラフルな包装紙と無数のゲコ太指人形が並び、気づけば全種類が揃っていた。
「よっしゃぁ!」
美琴が両手を突き上げると、帆風も満面の笑みで拍手する。
「やりましたね!御坂さん!」
「いやあ......でもこの半分以上は結絆さんが出したレアじゃないですか?」
「結絆さん、運良すぎ」
悠里が苦笑すると、警策も呆れ声をあげる。
「まあまあ、全部そろったからOKってことでえ」
結絆が軽く笑い飛ばすと、皆もつられて笑った。
こうして、美琴と帆風の「ゲコ太指人形コンプリート作戦」は、仲間たちと共に大成功を収めたのだった。
その後......
山のように積まれていたゲコ太チョコレートの山は、開封会を終えて中身を取り出された後、今度は「チョコレートの山」という新たな問題を生んでいた。
「これ、どうするの?全部食べたらカロリー爆弾なんだけど......」
警策がテーブルの上に積まれたチョコを見つめて、あきれ顔を浮かべる。
「指人形だけ目当てで開けちゃったんだからねえ......」
結絆は苦笑しながら、無造作に一枚つまんで口に放り込む。
「皆で食べるしかないですわ......」
黒子が言うが、すぐに蜜蟻が首を振った。
「さすがにこの量はキツイわよお......同じ味ばかりで飽きちゃうしい......」
「それなら!」
帆風がぱっと手を挙げ、輝く笑顔で続けた。
「お菓子にしてしまえばいいんじゃないですか!?せっかくですし、結絆さんにご馳走しましょう!」
「おお!いいアイデアだねえ、皆の作るお菓子、楽しみにしてるよお」
結絆が穏やかに笑うと、女性陣の目に闘志の火が宿った。
大きな厨房に集まった女性メンバーたち。
エプロンを身に着け、それぞれ役割分担を決めていく。
「私はトリュフを作りますわ。形が整えて上品なお菓子にして結絆さんを唸らせますわ!」
黒子が胸を張って宣言する。
「じゃあ、チョコクッキー作ろっかな」
「ミサカもチョコクッキーに挑戦します!」
「美管もチョコクッキー作る!」
美琴とミサカと美管が元気いっぱいに手を挙げた。
「私はブラウニー作るよ!焼き加減には自信あるし、にひっ!」
悠里がドヤ顔でオーブンの準備をしながら言うと、弓箭姉妹も「じゃあ私たちはガトーショコラにしましょう」「お姉ちゃんとやれば完璧ですね!」と声を揃える。
「私は......チョコフォンデュとかやってみたいです!」
帆風はマシュマロやフルーツを用意し始める。
「......私はチョコバナナでいいや。お祭り気分だし」
警策がバナナを剝きながら笑った。
その後、蜜蟻は「じゃあ、私はマフィン作るわよお。可愛くデコレーションしてあげるんだからあ!」と生地をこね始め、絹旗とフレンダは「超チョコパフェです!」「アイスも乗っけちゃおう!」とにぎやかに準備を進める。
それぞれの台所にはチョコを溶かす香ばしい匂いが漂い、甘い香りが結絆の食欲を刺激していた。
数時間後。
テーブルの上には、色とりどりのチョコレート菓子が所狭しと並べられた。
「すごいなあ......」
結絆が感嘆の声を上げる。
たくさんのチョコクッキー、艶やかなガトーショコラ、しっとりしたブラウニー、可愛らしいマフィンやクッキー、豪華なパフェまでそろっている。
「結絆さん、どうぞ召し上がってくださいっ!」
帆風が笑顔でフォークを差し出す。
「じゃあ、遠慮なく」
結絆は最初に一口パクリとブラウニーを口にした。
しっとりとした食感と濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、思わず目を細める。
「うん、濃厚で美味しいよお。愛情がたっぷりだねえ」
その言葉に悠里が嬉しそうに頬を染め、周囲からも小さな歓声が上がった。
次々と料理を口にしていく結絆。
「このトリュフ、形が綺麗だし甘さもちょうどいいねえ」
「結絆さん......!嬉しすぎて胸の高鳴りが止まりませんの!」
黒子は耳まで真っ赤になる。
「このガトーショコラも美味しいねえ......さすが姉妹で作っただけあるねえ」
「へへ、褒めても何も出ないですよ」
「またガトーショコラ作ってあげますね」
結絆と恋人たちの会話は場を和ませ、笑い声が絶えない。
結絆は彼女たちの力作を味わうたびに、優しい言葉をかけた。
そのたびに女性陣は嬉しそうに微笑み、時には照れ隠しのようにそっぽを向く者もいた。
「......結絆さん、チョコバナナ渡しておいてなんだけど、甘いもの食べ過ぎじゃない?」
警策が心配そうに尋ねるが、結絆は涼しい顔をして答えた。
「大丈夫だよお。俺の胃袋はまだ余裕あるからねえ。軍覇と組手やってお腹が空いていたからちょうどよかったよお」
その自信満々な様子に、再び笑いが起きた。
こうして余りに余ったチョコレートは、女性陣の手で見事に変身し、結絆を喜ばせる甘いひとときへと姿を変えたのだった。
マジックシアターの一室。
洋風の落ち着いた部屋に、二人分のティーセットと小皿に盛られたチョコレートのお菓子が並んでいた。
「んぅ......やっと二人きりになれたわねぇ」
椅子に座った操祈は、手ずから作ったチョコタルトを皿にのせて当麻の前へ差し出した。
「お、おう......。まさか操祈が自分で作るなんて思ってなかったからな」
当麻は少し照れくさそうに笑いながら、フォークを受け取る。
「当麻?甘く見ないでほしいわよぉ。お料理だってお菓子だって、やろうと思えば完璧にこなせるのよぉ」
操祈はどこか誇らしげに胸を張る。
その仕草さえ可愛らしくて、当麻は思わず表情が緩む。
なお、操祈が結絆に料理を教えてもらっていたことは、彼女は当麻に内緒にしている。
フォークを入れると、タルトのサクッとした感触のあと、濃厚なチョコレートクリームが顔をのぞかせる。
口に運べば、甘さとほろ苦さが絶妙に広がった。
「......っ!すげえ、美味い!」
「ふふっ、でしょお?お兄様や潤子ちゃんたちに作ったやつよりも、ずっと気合い入れたのよぉ」
操祈は楽しそうに目を細める。
その声音には、彼女がどれほどこの時間を大切に思っているかがにじんでいた。
「じゃあ、今度は私が食べさせてあげるわねえ」
そう言って、操祈は自分のフォークでタルトをすくい、当麻の口元に差し出す。
「何度やっても慣れないな......」
「ほら、早くぅ」
少し強引な笑みを浮かべる操祈に押され、当麻は観念して口を開いた。
「......ん。やっぱりおいしいな」
「でしょお? はい、次はわたしの番ねえ」
操祈は口を小さく開けて待つ。
当麻は観念しながら、自分のフォークでチョコをすくい、そっと彼女の唇へ運んだ。
「......んっ」
舌の上で転がすように味わった操祈は、幸せそうに微笑む。
「やっぱり、自分で食べるより、当麻に食べさせてもらう方が美味しいわねぇ?」
「な、何言ってんだよ......!」
「ふふ、当麻の照れた顔を見るのは楽しいわぁ」
彼女はくすくす笑いながら、今度は当麻の肩に寄りかかる。
その距離の近さに当麻の心臓は跳ね上がり、言葉が詰まった。
「......こうして二人で食べるだけで、普通のお菓子も特別な味になるわねぇ」
操祈の声は柔らかく、部屋に響くのは静かなティーカップの音だけ。
「......ああ、そうだな」
当麻はゆっくりと息をつき、隣の操祈の手をそっと握った。
彼女の手はほんのり温かく、甘い香りが混じっていた。
二人はしばらく、言葉もなく寄り添ったままお菓子を口に運び合った。
チョコの甘さと、互いの存在のぬくもりが溶け合うように、時間は穏やかに流れていく。
やがて操祈が小さな声で囁いた。
「ねぇ当麻......ずっとこんな時間が続けばいいのにねぇ」
「......ああ、俺もそう思うよ」
彼の答えに、操祈は満足そうに微笑み、そっと肩に頭を預けた。
二人の部屋は甘いお菓子の香りと、寄り添う心の温度で満ちていく。
こうして操祈と当麻の、かけがえのない甘く静かな夜は更けていった。
大覇星祭編というよりも番外編っぽくなりましたね。
今回で大覇星祭編を終わりにして、次回からは結絆の前世編に入ろうと思います。