聖人との邂逅
レベルアッパー事件が終息したその夜。
学園都市の静けさを裂くように、ある場所で激しい戦闘が始まろうとしていた。
結絆は人気のない裏路地に立っていた。
空には月が浮かび、街灯の明かりが彼の影を長く伸ばしている。
その前に立っていたのは、一人の女性——神裂火織だった。
「......まさか、学園都市に聖人が来てるとはねえ。」
結絆が静かに呟く。
ドリームの構成員が仕入れた情報によると、神裂という女は凄まじい戦闘力を誇るとのことだ。
神裂は微笑を浮かべながら、鋭い眼光を向けていた。
「あなたが、食蜂結絆......ですね?」
「そうだけどお......わざわざ聖人様が俺に何の用かい?」
「あなたが、ステイルを倒した存在だと聞きました。......その力を確認させていただきます。」
神裂がゆっくりと構えを取る。
次の瞬間、結絆の肌が粟立った。
「......マジか。これは笑えないね。」
次の瞬間、神裂が一瞬で間合いを詰め、斬撃が繰り出された。
結絆はギリギリでそれを避け、後方に跳ぶ。
「なるほど、さすが聖人。バケモンじみた速さだね......」
結絆は自分の身体を制御し、骨格の強度と筋力を調整し始めた。
目の前の聖人と対等に戦えるようにするために、微細な調整を施していく。
「なら、こっちも本気でやらないとねえ......!」
神裂が踏み込み、鋭い突きを繰り出すが、結絆は紙一重でかわしながら、身体を瞬時に調整し、反撃の蹴りを放った。
しかし神裂はわずかに体を捻り、その蹴りを受け流す。
「流石ステイルを倒したというだけはあります......あなたの能力、興味深いですね。」
神裂は冷静に呟くと、一気に間合いを詰め、秘剣『七天七刀』を振り下ろす。
結絆は直感的に危険を察知し、咄嗟に腕の骨格を変化させて防御の態勢を取る。
「ッ......!」
衝撃が走り、結絆の頑丈な腕がしなるように衝撃を吸収する。
しかし、その力は凄まじく、結絆は後方へ弾かれた。
「やっぱり、聖人の力は洒落にならないなあ......」
結絆は素早く体勢を立て直し、次の手を考える。
一方、神裂は静かに剣を構え直した。
「あなたの能力は自己強化の類......ですが、それだけでは私に届きませんよ。」
「そっちこそ、聖人の力を過信しすぎじゃないかい?」
結絆は自らの神経伝達速度を調整し、反応速度を極限まで高めた。
そして、次の瞬間、神裂の背後へ回り込み、拳を放つ。
神裂は即座に剣を返し、間一髪で攻撃を防ぐ。
しかし、結絆は攻撃を止めず、さらに連撃を加えた。
高速で繰り広げられる攻防は、一瞬たりとも気を抜けないものだった。
二人の戦いはしばらく続いたが、決定打を与えるには至らなかった。
神裂も、結絆も、お互いの実力を認めながら、ふと距離を取る。
「......やはり、容易には倒せませんか。」
神裂が息を整えながら言う。
「そっちこそ......まあ、さすがにお互い無傷ってわけじゃなさそうだからねえ。」
結絆は腕を振りながら笑みを浮かべた。
神裂は剣をゆっくりと下ろし、静かに息を吐く。
「......私は、本来あなたと戦うために来たわけではありません。」
「ほう?じゃあ、何のために?」
神裂は少し逡巡しながらも、言葉を紡いだ。
「......私は、インデックスの記憶を消さずに済む方法を探しているのです。」
その言葉に、結絆は少し驚いたように目を見開いた。
ステイルとは考え方が違うらしい。
「ほう......記憶消去を避けたいと?」
神裂は無言で頷く。
「なら、言わせてもらうけど、方法がないわけじゃないと思うよお。」
結絆は腕を組みながら、神裂を見据えた。
「......どういうことですか!?」
神裂は驚く。
「学園都市の技術を利用すれば、記憶を消さなくても維持できる方法があるかもしれないよお。問題は、その技術をどうやって手に入れるかだけどねえ......」
神裂は真剣な眼差しを向ける。
「詳しく聞かせてもらえますか?」
「いいけど、タダじゃないよお?」
結絆はニヤリと笑いながら言った。
神裂は一瞬戸惑ったが、やがて静かに頷いた。
「......交渉、ですね。」
こうして、二人の対話が新たな局面を迎えようとしていた——。
レベルアッパー事件が終息し、一夜が明けた学園都市。
結絆は、神裂火織と再び相対していた。
昨夜の戦いでは決着がつかなかったが、互いに敵意を持っているわけではない。
「さて、昨夜はやり合ったけど......そもそも、聖人って何なんだい?」
結絆は腕を組み、神裂を見つめた。
彼女の力は規格外だった。
超能力とは異なる次元の戦闘能力——その秘密を知ることで、何か新たな力を得られるかもしれない。
神裂は少し考えた後、静かに口を開いた。
「......聖人とは、生まれながらにして神の子に似た特徴を持つ者のことです。」
「神の子に似た特徴?」
「そうです。骨格、筋肉の付き方、魔術的な記号......それらが特定の条件を満たすことで、常人を遥かに超える力を発揮するのです。」
結絆はその言葉を聞いて、ゆっくりと自分の体を見下ろした。
「つまり......肉体の構造そのものが、聖人の力の源ってことかい?」
「ええ。ただし、それは生まれつきのものであり、後天的に得ることは不可能とされています。」
神裂は断言したが、結絆は微かに笑った。
「いや、そうとも限らないよお。」
結絆の能力は「自己制御」である。
ホルモンの量を制御して、自分の身体を限界までコントロールできるのなら——
「なるほど......なら、試してみる価値はあるねえ!」
結絆はゆっくりと呼吸を整え、脳の演算領域を最大限に引き上げた。
そして、成長ホルモンを過剰分泌......自らの骨格構造を調整し、筋肉の密度を変え、血流を最適化する。
神裂の言葉を参考に、可能な限り聖人に近い状態へと変化させていく。
「......っ!」
次の瞬間、結絆の体がわずかに震えた。
今までにない感覚——まるで、体が別次元の領域に踏み込んだかのような感覚が襲ってくる。
しかし......
「ごはッ......」
結絆は吐血する。
体に流れ込んでくる謎のエネルギーを制御しきれず、膝をついて意識を失いかける。
だが、少しの間エネルギーに体を慣らすと、結絆は何事もなかったかのように立ち上がる。
「これは......っ!」
神裂が目を見開いた。結絆の体から発せられる圧が、先ほどとはまるで違う。
まるで、彼自身が新たな存在へと進化したかのようだった。
「なるほどねえ......確かに、これはすごい力だねえ。」
結絆は拳を握りしめ、その威力を確かめるように軽く振るった。
その一撃だけで周囲の空気が震え、僅かに衝撃波が発生する。
「どうやら、俺は、聖人と同じ土俵に立てたみたいだねえ。」
神裂は信じられないという表情を浮かべた。
「そんなことが......本当に可能だというのですか......?」
「俺は、超能力者(レベル5)だからねえ。自分の体をいじるなんてお手の物だよお。」
結絆は満足げに微笑んだ。
「さて、この力がどこまで通用するか......試してみたくなっちゃうねえ。」
神裂は少しだけ苦笑しながら、それでも真剣な眼差しで結絆を見つめていた。
こうして、結絆は聖人の領域へと足を踏み入れたのだった——。
なんと、結絆が聖人になってしまいました。
科学サイドから聖人が出たとなると完全に協定違反ですね。
とはいえ、結絆はアレイスターから気に入られているので、多分大丈夫だと思います。
次も魔術のお話です。