食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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話数が増えてきたので、章分けして見やすくしてみました。


大覇星祭打ち上げ中編

宴もたけなわとなり、皿の上の料理が次々と空になっていくころ、会場の照明が少しだけ落ち、穏やかな音楽が流れ始めた。

 

波のように揺れる光が天井を照らし、イルカたちがゆるやかに泳ぐ影がその下を横切る。

 

そんな中、結絆が静かに立ち上がった。

 

彼の手には銀のトレイ。

 

そこには香り立つ湯気をまとったカップがいくつも並んでいた。

 

「さあて、みんな。そろそろ締めの時間かなあ?食後にはやっぱりコーヒーが欲しいでしょお!」

 

「おおっ、ありがてぇ!甘いもん食ったあとって、やっぱこういうの飲みたくなるんだよな!」

 

当麻が嬉しそうに手を上げ、青髪ピアスもすぐさま続く。

 

「おおお、カフェタイム突入やな!? あっちのケーキと一緒に楽しむしかあらへん!」

 

「まったく......さっきまであれだけ食べてたのに、よく入るわね」

 

吹寄が呆れたように言いながらも、すでに香ばしい香りに釣られてカップを見つめていた。

 

結絆は一人ひとりの前に丁寧にカップを置いていく。

 

その仕草にはどこか、上品な給仕のような落ち着きがあった。

 

「小萌先生はミルク多めで。黄泉川先生はブラックでいいかなあ?」

 

「わかってるじゃん~、結絆!」

 

黄泉川が笑いながらカップを受け取る。

 

「!?この香り......高級豆じゃん?まさか普通のコーヒーじゃないじゃん?」

 

「ふふ、まあねえ。エチオピアのゲイシャ種。ちょっとお高いやつだよお」

 

「......ゲイシャって、あのゲイシャ?」

 

京都の舞妓さんを頭に浮かべた当麻が首をかしげると、元春が苦笑しながら答えた。

 

「違うぞカミやん。高級豆の名前だぜい。市場じゃ一杯五千円を超える代物もあるらしい」

 

「さすが結絆......スケールが違うわね......」

吹寄がため息混じりに呟き、皆が苦笑しながらカップを手に取った。

 

ひと口、口に含む。

 

香ばしさと同時に広がる、花のような香り。

 

ほのかな酸味とまろやかな甘みが絶妙に混じり合っていた。

 

「うわ......なにこれ。めっちゃ香りが上品」

 

吹寄が思わず目を細める。

 

「こんなの、喫茶店でも飲めないでしょ」

 

「おいしい......」

 

姫神がぽつりと呟いた。

 

その声は小さかったが、誰もがうなずいていた。

 

「うんうん、これは反則やなぁ~。カフェ開けるで!」

 

青髪ピアスが冗談交じりに叫び、元春も「その時はお得意様価格で飲ませてもらうぜよ」と笑う。

 

小萌先生は頬を緩ませて、ふうっと一息ついた。

 

「食蜂ちゃんはほんとに気が利くのですぅ~。先生、すっかり癒されちゃいましたぁ」

 

「それは良かったよお。甘い物とコーヒーは、疲れを癒す最強の組み合わせだからねえ」

 

結絆が微笑みながらそう言うと、皆の表情も自然と和らいでいく。

 

やがて全員がコーヒーを飲み干し、満足そうに息をついた。

 

「いや~、最高だったな......」

 

「ほんと......この雰囲気とコーヒーの香り、癖になりそう」

 

そんな穏やかな空気の中、結絆はふと、いたずらっぽく笑った。

 

「ちなみにねえ......」

 

その声に、皆の視線が集まる。

 

「普通に食べに来たら、このビュッフェ......一人二十万円するからねえ」

 

「............え?」

 

一瞬の沈黙の後、場が静まり返る。

 

空調の音と、水槽の泡の音だけが響いた。

 

「に、にじゅ......二十......!?」

 

吹寄が震える声を上げ、当麻は思わずグラスを取り落としかける。

 

「お、おいおい待て待て! 二十万って......ひとり!? 桁間違ってねぇ!?」

 

「ま、まさか......」

 

青髪ピアスの顔が引きつる。

 

「俺、さっきローストビーフ何枚食ったんや!?あれ一枚五千円するん!?!?」

 

「そんな計算いらないから!」

 

吹寄が慌てて突っ込みを入れる。

 

一方、小萌先生は凍りついたままカップを持った手をぷるぷる震わせていた。

 

「せ、先生たちの飲んだワイン......お、お高かったり......?」

 

「うん、一本で車が買えるぐらいかなあ」

 

「ひぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

会場中が悲鳴とどよめきに包まれた。

 

そんな中で、結絆は笑いを堪えながら肩をすくめる。

 

「そんなに焦らなくてもいいよお。今日は俺の奢りだから、安心していいからねえ」

 

「......ま、まぎらわしいこと言うなよ!!」

 

当麻がテーブルに突っ伏し、青髪ピアスも「寿命十年は縮んだわ!」と叫ぶ。

 

その騒ぎの中で、姫神だけが静かに微笑んでいた。

 

「......でも。こういうの、結絆らしい」

 

「でしょお?」

 

結絆が軽く笑うと、また皆がつられて笑い出した。

 

場がようやく落ち着いたころ、彼はグラスを片手に立ち上がる。

 

「さて、みんな。せっかくだし、このあと、水族館と動物園と植物園、案内しようか?」

 

「行く行く行く!!イルカショーとかあるんやろ!?あとトラとか!」

 

「動物園も植物園もマジックシアターの敷地内なの?」

 

吹寄が驚いたように尋ねると、結絆は頷いた。

 

「うん、全部つながってるよお。水族館の奥には熱帯植物ドームと保護エリアもあるし、レグルスあのトラもいる」

 

「レグルス!?あのニュースで見た白いトラ!?」

 

「あれ、結絆のところのか!」

 

「そうだよお。性格は穏やかだけど、近くで見ると迫力あるよお」

 

「うわぁ~っ!見てみたい!」

 

クラスメイト達は目を輝かせ、皆のテンションが上がる。

 

「じゃあ決まりだねえ。食後の運動がてら、夜の館内ツアーに行こっか」

 

「賛成ー!!!」

 

声が重なり、水槽の向こうでアトラスがくるりと回転した。

 

その姿はまるで、これから始まる新しい夜の冒険を祝福しているかのようだった。

 

結絆は微笑みながら皆を見回した。

 

その眼差しは、どこまでも優しく、そして楽しげだった。

 

学園都市の夜は、まだ終わらない。

 

 

 

 「じゃあ、決まりだねえ。こっちだよお、みんな」

 

結絆が先導して、全員はビュッフェの奥にあるガラスの自動扉をくぐった。

 

そこには、広大な水族館エリアが広がっていた。

 

天井まで届くほどの巨大なパネルの向こうでは、青く静かな海の世界が広がり、ゆったりと泳ぐ魚たちの姿が照らし出されている。

 

光が水面で反射し、波紋のような模様を壁や床に踊らせていた。

 

「うわぁ......!」

 

思わず吹寄が感嘆の声を上げ、当麻も目を丸くした。

 

「でっけぇ......これ、ほんとに建物の中なのか?」

 

「ふふっ、そうだよお。ここは巨大な複合施設だからねえ」

 

結絆がそう言って笑うと、青髪ピアスが「そらすげぇ」と呟きながらガラスに顔を近づけた。

 

「あのクジラ!でかすぎるやんか!」

 

「シロナガスクジラだねえ。餌代はけっこうかかるけど、優雅に泳ぐ姿は圧巻だよねえ」

 

クジラは、結絆のクラスメイトたちの近くに寄ってきた。

 

あまりの大きさにクラスメイトたちは歓声を上げる。

 

「すごい......10メートルはありそう」

 

姫神が小さく手を振ると、クジラはその動きに合わせて泳ぐ速度を変えた。

 

「うわっ、本当に反応してる!」

 

吹寄が笑いながら驚き、当麻も「賢いな、あの子」と感心したように呟く。

 

さらに奥へ進むと、天井を泳ぐように大きなエイが通り過ぎ、その下を小魚たちの群れが銀色に輝きながら流れていく。

 

「まるで天の川みたいぜよ」

 

元春が呟くと、青髪ピアスが「魚ってこんなに綺麗やったんやな......」と感嘆の声を漏らした。

 

「ふふっ、まだまだあるよお。ほら、次はこっち」

 

結絆が指し示した先には、淡い光に包まれたクラゲのエリアがあった。

 

青、紫、白、幻想的に光るクラゲがふわりふわりと漂い、その動きに合わせて音楽のような静かな水音が響いている。

 

「......きれい」

 

姫神が足を止め、見惚れるようにガラスに手を当てた。

 

「まるで夢の中みたいだな」

 

当麻がぽつりと言い、結絆は小さく笑って頷く。

 

「そうだねえ。この空間を作るのには、けっこう苦労したんだよお。照明の角度とか、水流のバランスとか......クラゲは泳げないから水流がないと沈んじゃうんだよお」

 

「本当に博識ね」

 

吹寄が目を輝かせ、他のクラスメイトたちも口々に感嘆の声を上げた。

 

そして次に向かったのは、サメの水槽。

 

厚いアクリルの向こうには、数匹のサメがゆっくりと円を描くように泳いでいる。

 

中には三メートル近いものもいて、その姿に青髪ピアスが思わず後ずさった。

 

「うおおお!? こいつら本物やんか!!」

 

「当たり前だろ、何だと思ってたんだよ」

 

当麻が笑いながら肩を叩き、結絆は少し楽しそうに口角を上げた。

 

「安心していいよお。ここのサメたちは俺の声でちゃんと落ち着くように調整してあるからねえ」

 

そう言って結絆が軽く指を鳴らすと、サメたちは一瞬動きを止め、まるで指示を理解したかのようにゆったりとした泳ぎに戻った。

 

そして、再び大水槽の前に戻った一行。

 

青い海を閉じ込めたような巨大な空間が広がり、アトラスや魚たちが静かに泳ぎ回っている。

 

「さあて、最後に少し見せたいものがあるんだよお」

 

結絆がそう言って、右手を軽く上げる。

 

パチン。

 

指が鳴った瞬間、大水槽の天井付近から細かい泡が立ち、光を反射するように餌が投入された。

 

すると、静かだった水槽の中が一変する。

 

無数のマイワシが一斉に動き出し、銀色の群れが渦を巻き始めた。

 

「すごっ!!」

 

吹寄が思わず声を上げ、青髪ピアスも興奮してガラスに張り付く。

 

「なんやこれ、竜巻やないか!!」

 

「マイワシのトルネードだよお。餌に群がる姿はまるで銀の竜巻だよねえ」

 

結絆の説明を聞きながら、クラスメイトたちはただその光景に息を呑んでいた。

 

無数の魚が作り出す渦は、まるで銀色の竜巻のようにきらめき、光を帯びながら流れていく。

 

その中をアトラスが悠々と泳ぎ抜けると、光の帯が彼の体に沿って走り、幻想的な光景を描き出した。

 

「......きれい」

 

姫神がぽつりと呟き、当麻も目を細める。

 

「なんか、見てるだけで心が洗われるな」

 

結絆はそんなクラスメイトたちの反応に満足そうに微笑み、静かに呟いた。

 

「うん......これが俺の好きな光景なんだよお。みんなが笑って、綺麗だって言ってくれる瞬間がね」

 

 

 

 マジックシアターの水族館を堪能したあとも、結絆のクラスメイトたちの興奮は冷めやらなかった。

 

巨大な水槽で泳ぐアトラスの姿や、幻想的なクラゲの光景、そして圧巻のマイワシのトルネード、そのどれもが、彼らの日常とはまるで違う世界のように感じられたのだ。

 

そんな余韻を残したまま、一行は再び結絆の案内でエレベーターに乗る。

 

ガラス張りの回廊を抜けた先には、深緑の香りが満ちた広大な空間が待っていた。

 

「うわ......ここ、森みたいだな」

 

クラスメイトが思わず呟くと、吹寄が周囲を見回しながら驚嘆の声を上げた。

 

「まさか屋内にこんな植物園があるなんてね......これもマジックシアターの一部なの?」

 

「そうだよお。ここは世界中の植物を集めて育ててる場所なんだあ。」

 

結絆が柔らかく微笑みながら答えると、青髪ピアスが感嘆の息を漏らした。

 

「マジか......まるでジャングルやん。しかも、ちゃんと涼しいし」

 

「ふふっ。温度と湿度は全部、天井のマイクロ制御で調整してるんだ。人も植物も心地よくいられるようにしてあるんだよお」

 

夜であるのにも関わらず、天井のガラスドーム越しに、柔らかな光が差し込んでいた。

 

足元の小道には苔がしっとりと生え、周囲には観葉植物から巨大なシダ、鮮やかな花々が所狭しと並んでいる。

 

「おお、あれ見ろよ!」

 

クラスメイトが指さした先には、巨大な食虫植物の姿があった。

 

「な、なんだこのサイズ......!」

 

当麻がたじろぐほどの大きさで、緑色の捕虫袋は人の体がすっぽりと入るほどもあり、内部は甘い香りがし、液体も見える。

 

「こいつ、人間食ってへんよな......?」

 

青髪ピアスが冗談半分にそう言うと、結絆がにやりと笑って振り返った。

 

「んー、まあ......実際、カジノエリアで借金を返せなくなった客はここに放り込まれるからねえ」

 

「......は?」

 

一瞬、場の空気が凍った。

 

当麻も吹寄も、姫神までもが口を開けたまま固まる。

 

「え、えぇぇ!?嘘やろ!?」

 

青髪ピアスが目を丸くし、後ずさりする。

 

結絆はわざと真顔のまま数秒黙り込んでから、ふっと口元を緩めた。

 

「冗談だよお。そんなことするわけないじゃないかあ」

 

「わ、笑えねぇ冗談だぞそれ......!」

 

当麻が額に手を当てると、吹寄も胸を撫でおろした。

 

「ほんと、心臓に悪いって......!」

 

「ふふっ、みんなの反応が面白いんだもん。ついねえ」

 

結絆は悪戯っぽく笑い、青髪ピアスが「まじで肝冷えたわ......」と苦笑する。

 

そんなやりとりの後、植物園の中央エリアへと進むと、そこには果実を実らせた木々が立ち並んでいた。

 

「わぁ......この木、実がいっぱいなってるわね」

 

吹寄が指差す先には、赤や橙、紫の小さな実が輝くように生っている。

 

「それぞれ効能が違うんだよお」

 

結絆が木の枝をそっと撫でながら説明する。

 

「この赤いのは消化を助ける成分が入ってる。食後に一粒食べるとお腹が軽くなるよお」

 

「ちょうどええなあ。一つもらうで!」

 

青髪ピアスが嬉しそうに手を伸ばし、結絆がそれを軽く摘み取って渡す。

 

「はい、みんなもどうぞ。胃がもたれてたら、これが一番だよお」

 

当麻たちもそれぞれ受け取り、口に含む。

 

甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がり、どこかハーブのような清涼感が喉を通っていく。

 

「うわ、うまっ!ちょっとスーッとするな」

 

「うん、これなら薬っぽくないし、自然な感じだね」

 

皆が頷きながら味わっていると、結絆は次に少し青みがかった果実を指さした。

 

「こっちは酔いを醒ます木の実だよお。小萌先生と黄泉川先生はこっちをどうぞ」

 

「おお、気がきくじゃん。」

 

黄泉川が笑いながら受け取り、小萌先生も「ふにゃ......助かりまふぅ」と言いながら頬をほころばせた。

 

二人が実を口にすると、瞬く間に顔色がすっきりとし、黄泉川が目をぱちくりとさせた。

 

「うわっ、マジで効くじゃん!アルコールが抜けた感じするじゃん!」

 

「でしょお?植物の力は侮れないんだよお」

 

結絆が微笑むと、姫神が興味深そうに果実を見つめた。

 

「......これ、学園都市の技術?」

 

「一部はねえ。でも、元々は別の地域から持ってきた天然の植物なんだあ。」

 

鏡の世界から持ってきた植物は大活躍である。

 

「なるほど......」

 

当麻が感心したように頷く。

 

「なんかさ、学園都市の中にいながら、世界旅行してる気分になるな」

 

「ふふっ、それがマジックシアターのコンセプトだからねえ。“どんな夢でも見せられる場所”それがここなんだよお」

 

結絆の声は静かで、しかしどこか誇らしげだった。

 

周囲では小鳥の鳴き声のような音が響き、遠くで水の流れる音が心地よく混ざる。

 

空調が自然な風を模倣して葉を揺らし、花びらがゆっくりと舞い落ちていく。

 

「まるで楽園だにゃー」

 

土御門が呟くと、吹寄も微笑んだ。

 

「うん、本当に......。こうしてみんなで来れてよかったね」

 

「ふふっ、次は温室エリアだよお。夜になるとペチュニアが光り出す。それを見ながら紅茶を飲むのが、俺の夜の楽しみだねえ」

 

「なんか......結絆らしいわね」

 

吹寄がくすっと笑い、姫神も静かに頷いた。

 

植物園の奥へ進むと、天井のガラスから光が差し込み、木々の影が黄金色に染まっていく。

 

結絆は立ち止まり、少しだけ振り返った。

 

「ねえ、みんな。今日こうして来てくれて、ありがとうねえ」

 

その穏やかな声に、クラスメイトたちは自然と笑顔を返した。

 

「何言ってんだよ、俺たちの方こそだろ」

 

クラスメイトたちが笑い、元春が肩を叩く。

 

「打ち上げっつーより、最高の旅行だったにゃー」

 

「ふふっ、ならよかったよお」




次回で番外編は終わりです。
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