結絆と騎士団長の戦いの後、キャーリサは腕を組んだまま、少しだけ口元をほころばせていた。
「......やっぱり、結絆は面白いやつだし」
「んー?今日はよく言われるねえ」
「騎士団長と互角に戦える人間がどれだけいるものか」
キャーリサが苦笑いしながら言うと、結絆は頭をかきながら苦笑した。
「まあ、こうでもしないと話が進まない雰囲気だったからねえ。王女様の周りって、案外面倒くさいんだねえ」
「あの貴族たち、私のことを政治の駒としか見ていないから気に食わないんだし。でもあいつらと違って結絆は......」
「政治のために心まで縛られたら、きっと誰も幸せになれないからねえ?政治とか関係なしに、俺は相手の中身をしっかりと見たいんだよお」
その言葉に、キャーリサはわずかに目を見開いた。
そして静かに微笑む。
「......やっぱり、お前とは気が合いそうだし!」
少し離れたところで沙羅がその様子を見て、ふっと小さく笑った。
「ふふっ、結絆君ったら......キャーリサ王女を心から堕としそうね」
「え、なんか言ったかい?」
「結絆君の人たらしっぷりを改めて実感してるだけよ」
舞踏会はその後、再び音楽が流れ、貴族たちが徐々に談笑を再開していった。
だが彼らの視線は、どこか結絆に対して畏敬を含むものに変わっている。
「これでようやく、結絆を迎える準備が整ったというわけだ」
エリザードはグラスを掲げながら、満足そうに言った。
「......まったく、こっちは少し踊りに来ただけなんだけどなあ」
結絆はぼそっと呟き、グラスの中の紅い液体を口に含んだ。
果実酒の甘さの奥に、かすかに苦味がする。
それはまるで、これから訪れるであろう波乱を予感させるようだった。
沙羅がそっと隣に歩み寄り、微笑みながら囁いた。
「でも、あなたの選択で、世界がまた少し動くかもしれないわね」
「そうだねえ......それが良い方向か悪い方向かは、まだ誰にもわからないけど」
そして、遠くの玉座に目をやる。
エリザードは相変わらず優雅にワインを傾けながら、結絆を見て微笑んでいた。
まるで、結絆がどう動くかを楽しみにしているように。
「......まあ、どうせ踊らされるなら、俺らしいステップでいこうかあ」
結絆は肩を竦め、沙羅と視線を交わす。
彼女は小さく頷いた。
舞踏会が終わったのは深夜を少し回った頃だった。
煌びやかな照明の熱気も、貴族たちのざわめきも今はもうなく、広大なバッキンガム宮殿の廊下には静寂が満ちていた。
結絆は、スーツを軽く整えながら、月光に照らされた回廊を歩いていた。
「......結絆、少し時間ある?」
背後からかかった声に振り向くと、そこにはキャーリサがいた。
さっきまでの煌びやかなドレス姿ではなく、淡いグレーのガウンを羽織り、金髪をゆるくまとめただけの素朴な姿。
それでも、彼女が王族であることを疑わせない気品があった。
「もちろん。......っていうか、王女様が夜中に一人で歩いてて大丈夫なのかい?」
「護衛なら、あの角を曲がったところで待機してるから。心配はいらない」
「そっか。それなら安心だねえ」
二人は並んで廊下を歩き、やがてバルコニーへと出た。
夜風が静かに吹き抜け、遠くのロンドンの街灯がまるで星のように瞬いている。
キャーリサは欄干に手を置き、少し俯いた。
「......さっきの戦い、見事だったし」
「んー、あれは完全にエリザード陛下の悪ノリだったけどねえ。まあ、楽しんでたみたいだからいいけど」
そう言って苦笑すると、キャーリサも小さく笑った。
だが、その笑顔にはどこか疲れの色が滲んでいる。
「ねえ、結絆。あなたは、本気でこの政略結婚を考えているの?」
その問いに、結絆は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
月明かりが彼の瞳に映り込み、淡い光が揺れる。
「......考えてはいる。でも、“答え”はまだ出せてないよお」
「理由を聞いてもいい?」
「もちろん。......ロシア成教やローマ正教との戦いは、避けられそうにない。学園都市だけであれに立ち向かうのは、正直分が悪い。イギリスを味方につけるのは、政治的にも戦略的にも大きな利点があると思ってる」
キャーリサは黙って聞いていた。
結絆の声は穏やかだが、少しの迷いが見える。
「でもねえ、俺は、ただの利害で婚姻を決めたくはないんだ。君の気持ちを考えずに結論を出すのは......それこそ、戦争と同じくらい無意味なことだと思う」
キャーリサの瞳が一瞬だけ見開かれた。
王女として、数えきれないほどの政治的取引や婚姻の噂に晒されてきた彼女にとって、「気持ち」という言葉を真っすぐに口にする相手は、ほとんどいなかった。
「......やっぱり、結絆は強いな」
「そう言ってもらえると嬉しいねえ。まあ、人の心を置き去りにした決断って、後で絶対にツケが回ってくるんだよお」
風がふっと吹き抜け、キャーリサの髪が夜の光を反射して揺れる。
彼女は視線を空に向けた。
「......私も国のためには必要なことだと思ってる。この縁談が成立すれば、イギリスと学園都市の間に強固な同盟ができる。それが、世界の均衡を保つ鍵になるかもしれない。でも......そんな“縁談”が世界の運命を左右するなんて、正直、気が滅入るわ」
キャーリサは苦笑しながら息を吐いた。
「戦場で剣を振るうことには慣れてるけど、婚姻っていう戦いは、鬱陶しーな」
「その言い方、キャーリサらしいねえ。でも、そんなふうに言えるだけの正直さがあるなら、俺は安心したよ」
お互いに笑い合い、ようやく少し空気が柔らかくなる。
「じゃあ、まずはお互いのことをもっと知ることから始めようか。王女様の好みとか、嫌いな食べ物とか、そういうところからでもさ」
「ぶふっ、いきなり会話が飛びすぎだし!」
キャーリサは思わず吹き出した。
「国際問題を語ってた口で、いきなりそんな軽口を言うなんてね」
「よく言われるよお。でも、俺にとってはそれも大事な“外交”だからねえ」
笑いながら言う結絆の横顔を、キャーリサは静かに見つめた。
その瞳の奥には、ほんのわずかな安心と、揺らめく期待の光が宿っていた。
「......じゃあ、その外交、私も付き合ってやるんだし」
「おお、それは光栄だねえ」
夜空を見上げると、ロンドンの雲の合間に一筋の星が流れた。
その瞬間、二人の距離がわずかに縮まったような気がした。
結絆は静かに息を吐き、心の中で思う。
まだ答えは出せない。だが、この出会いが無意味になることはない。
そんな確信を胸に、結絆は夜風に髪をなびかせながら、隣のキャーリサと談笑を続けた。
それは政略結婚とは関係のない、くだけた時間なのだった。
バルコニーでキャーリサと結絆が穏やかに語らっていた同じ頃、舞踏会場の奥では、まだ名残を惜しむようにシャンデリアの光がゆらめいていた。
舞踏会は終わったが、貴族たちはそれぞれ杯を片手に談笑し、音楽隊が奏でる緩やかな旋律が夜の終わりを彩っている。
その一角、橘沙羅はテーブルの端で手にしたシャンパングラスを軽く揺らしていた。
ドレスに身を包んだ彼女は、どこか凛とした美しさを放っており、その静かな存在感が周囲の視線を引き寄せていた。
「......はあっ、こういう場所はやっぱり性に合わないわね。結絆君がいないとつまらないわ」
小さくため息をつくと、すぐに隣の方から声がかかった。
「おやおや、こんなところにお美しいレディが一人とは。もったいないことだ」
「お嬢さん、我々と一緒にグラスを重ねてくれませんかな?」
声の主は、見るからに自信満々な二人の貴族。
どちらも装飾過多なジャケットに勲章をいくつも下げ、赤ら顔ににやけた笑みを浮かべている。
どうやら、すでにかなり酔っているようだった。
「申し訳ありませんが、私は同行者を待っていますので」
沙羅は礼儀正しく断ろうとした。
だが、相手は引かない。
「まあまあ、そんな堅いことを言わずに!あなたのような美しい方がここにいると、場が一気に華やぐんですよ!」
「そうそう、我々の国では“美酒には美人を添えよ”という言葉があってですな」
「......その格言、初耳だわ。」
沙羅の声色がわずかに冷えた。
だが貴族たちはそれに気づくどころか、ますます調子に乗る。
「さあ、乾杯を!この夜を祝して!」
グラスを差し出そうとしたその瞬間、沙羅の目がわずかに細められた。
そして何気ない仕草で、テーブルの上のワインボトルを指先で軽くなぞる。
次の瞬間、ボトルの中の赤い液体が音もなく消えた。
それと同時に、目の前の貴族の顔色が変わる。
「......お、おや?なんだか急に胃が......重いような......」
「私もだ......う、うぅ、まるでボトルをまるごと飲んだみたいに......」
青ざめた顔で、二人はふらつきながらソファに手をついた。
沙羅は静かに微笑む。
「あなたたち、さっきまで飲みすぎじゃなかった?酔いを醒ましてから出直してきなさい」
「い、いや、そんなことは......おかしいな、たしかに今まで平気だったのに......」
「ふふ、そうね。ワインの香りは優雅でも、飲みすぎは品がないわ」
沙羅は軽くグラスを口に運び、何事もなかったようにシャンパンを味わう。
その微笑みには、完璧な余裕とわずかな悪戯心があった。
そんな沙羅とは対照的に、貴族の一人は崩れ落ち、もう一人は額に汗を浮かべながら呻く。
「うぅ......頭が割れる......」
「わ、私は......ま、まだ......飲め......」
「やめておきなさい。その状態でさらに飲んだら、本当に吐くことになるわよ」
沙羅は淡々と言い放った。
その口調は冷たくもなく、むしろ医師が患者を諭すような落ち着いた響き。
だが、内容は明確な脅しだった。
「そ、そんな......お、俺たちを......なめて......」
なおも絡もうとする貴族に、沙羅は一歩だけ近づいた。
その距離、わずか数十センチ。
彼女がゴミを見るような視線を向けた直後、貴族の体の中でわずかな空間がねじれる。
「......あなたたち、まだ飲み足りないのかしら?」
テーブルの上に残っていたシャンパングラスが、彼女の指先の動きと同時に消えた。
そして――二人の貴族が同時に顔を歪める。
「うぐっ!?な、なにを......」
「お、おえぇっ......!」
胃の中に突然流し込まれた酒の量は、彼らの致死量一歩手前。
彼らはその場にしゃがみ込み、完全に顔を青ざめさせていた。
沙羅は静かに微笑む。
「次に同じことをしたら、もっとお酒を飲ませてあげるわ。もちろん、あなたたちの命がなくなるまで......ね?」
その声音はまるで天使のように優しかったが、背筋に冷たいものが走るほどの圧がこもっていた。
貴族たちは怯えきった表情で互いを見合い、ふらふらと立ち上がると、逃げるようにその場を去っていった。
「まったく......イギリス貴族というのは、夜が更けると理性まで溶けるのね」
沙羅はため息をつきながら呟いた。
グラスを傾けるその仕草には、優雅さとわずかな冷ややかさが同居している。
そんな彼女の後ろで、キャーリサとの話を終えた結絆がひょいと顔を覗かせた。
「沙羅、また何かしたでしょお?」
「別に? ちょっと“教育的指導”をしただけよ」
「うっ、君が言うと怖いんだよお、それ」
二人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。
キャーリサは遠くからその様子を見て、思わず肩をすくめる。
どうやらこのカップル、イギリスでも平常運転のようだ。
ワインの香りとともに、静かな夜が宮殿を包み込んでいく。
煌びやかなシャンデリアの光が揺れ、遅い時間であるのにも関わらず、貴族たちはグラスを片手に思い思いの会話を楽しんでいる。
その一角で、キャーリサはゆったりとした動作でグラスを置き、沙羅に興味深そうな視線を向けた。
「あなたが、結絆の初恋の人......」
「ええ、そうね。結ばれたのは最近だけど......学園都市では研究者をしているわ。結絆君の能力開発もしてるのよ。」
「彼のような男が心を預ける相手......結絆のことを知るにはちょうどいい相手ね。」
キャーリサは唇の端をわずかに吊り上げ、いたずらっぽく目を細めた。
結絆は少し離れた席で紅茶を飲みながら様子を見ていたが、二人の空気に何か面倒な予感を覚えていた。
「ところで......」
「なにかしら?」
「あなたから見て、食蜂結絆という男は、どんな人間なの?」
沙羅はふっと微笑み、グラスを揺らしながら言った。
「そうね......一言で言えば、“放っておけない人”かしら。」
「放っておけない?」
「ええ。自分が傷ついても、他人のために動く。学園都市の統括理事会のメンバーでありながら、裏の世界の誰よりも人間らしい。でもね、結絆君自身は自分を“人間”だと思っていない節があるのよ。」
キャーリサの目がわずかに見開かれる。
「......どういうことだし?」
「結絆君の力は人の域を越えている。身体も心も、理性も、全てを自分で制御できる。だからこそ、彼にとって“限界”というものがないの。でも、限界がないというのは、同時に“生きる実感”を見失うことでもあるのよ。」
「ふーん......」
キャーリサは頷き、遠くの結絆を一瞥した。
紅茶を口にしている彼は、まるで穏やかな海のような笑みを浮かべている。
それが、逆にどこか切なく見えた。
「でもね、そんな結絆君も可愛いところがあるのよ。二人っきりの時は甘えてきたり、朝ごはんを作ると必ず『沙羅の料理は世界一だねえ』なんて言ってくれるの。」
沙羅はふっと笑みを深める。
「......ねえ、沙羅。」
遠くから紅茶を持つ手を止めた結絆が、わずかに頬を赤らめながら声を上げた。
「そういう話は、もう少し控えめにしてくれないかなあ......?」
だが沙羅はにっこりと笑って肩をすくめた。
「何よ、別にいいじゃない。あなたの惚気ぐらい、世界に広めておいた方がいいと思うの。」
「惚気って......俺はそんなつもりじゃ......」
「ふふっ、否定しても無駄よ?」
沙羅はグラスをテーブルに置き、キャーリサの方を向いた。
「キャーリサ王女。忠告しておくわ。」
「忠告?」
「結絆君と長く一緒にいれば、彼のことを必ず好きになるわよ。」
「......!?」
キャーリサは今日一番の驚きを見せる。
「確かにそうだし。あの笑顔を見ていると、王族としての威厳も忘れそうになる。」
キャーリサも結絆に惹かれているようだ。
その様子を見た沙羅は、静かに微笑んだ。
「私も最初はそうだったの。彼の能力に惹かれてた。でも、気づいたら能力よりも、結絆君本人に惹かれるようになっていったのよ。」
キャーリサは頬杖をつきながら考え込むように呟いた。
「......だから、あなたは結絆を“人として”愛しているのか。」
「そうね。」
沙羅は微笑んだまま頷く。
「彼はときどき自分を“道具”のように扱うけれど、本当は誰よりも人の痛みに敏感よ。あまりに多くを背負うから、気づけばこっちが支えたくなるの。」
キャーリサは視線を落とし、小さく息を吐く。
「......そういうところ、ずるいし。」
「でしょ?」
ふたりの女性がくすくすと笑い合う様子を見て、結絆は居心地悪そうに頭をかいた。
「もう、沙羅もキャーリサも......俺のことを勝手に語りすぎだよお。」
沙羅は振り向きざまに指を立て、柔らかく言い放つ。
「語るも何も、事実でしょ?妹達二万人を全員惚れさせたのは誰かしらね。」
「......うっ。」
結絆は何も言い返せなくなる。
ミサカネットワーク内では、結絆はハーレム状態である。
キャーリサは肩を揺らしながら笑い、「なるほど、これが結絆の魅力か」と、からかうように言った。
「結絆君。あなたはもう少し、自分が人にどう見られてるかを意識した方がいいわよ?」
沙羅は微笑みながら結絆の方へ寄り、袖を軽く引く。
「......う、うん。そうだねえ......」
頬をかきながら視線を逸らす結絆を見て、キャーリサはふっと息を漏らした。
「ふぅ......こんな調子では、婚約の話と関係なく、私が先に情にほだされてしまいそうだし。」
「ふふ、それは困るわね。」
沙羅が茶目っ気たっぷりに微笑む。
「......ほんと、沙羅とキャーリサが仲良くなると、俺の立場がなくなるんだけどなあ。」
そんな結絆のぼやきをよそに、二人の女性は再び笑い合う。
夜の宮殿は、柔らかな音楽と笑い声に包まれ、立場の境を越えた温かな空気が流れていた。
だがその奥底には、キャーリサも沙羅も同じ男に惹かれた者だけが知る、複雑で甘い感情が静かに宿っていた。
キャーリサと話し終えた結絆と沙羅は、侍従に案内されながら与えられた部屋へと向かっていた。
二人の間には穏やかな空気が流れている。
「......ようやく終わったわね。あんなに視線を浴びるの、久しぶりよ。」
「まあ、王族主催の舞踏会だからねえ。俺たち、かなり注目されてたよお。」
「あれだけの貴族を泡吹かせた男なんて、イギリス中探してもいないでしょうね。」
沙羅がくすっと笑うと、結絆は少し照れたように頬をかいた。
「うーん、あれはあくまで“軽い威嚇”だったんだけどねえ......。気絶させるつもりはなかったよお。」
「あなたが笑顔のまま殺気を放つから、あの人たち魂が抜けかけてたもの。」
そんな穏やか?な会話をしていると、背後から軽い靴音が響いた。
「待て、結絆。」
振り向くと、キャーリサが近づいてきた。
彼女は頬にわずかな紅潮を浮かべている。
「もう休むの?」
「うん、さすがに今日は疲れたからねえ。」
「......」
キャーリサは少し間を置いてから、何かを考えるように眉を寄せ、ふと口を開いた。
「もしかして......お前たち、一緒に寝るのか?」
静寂。
その一言に、廊下を歩いていた侍従までもがぴたりと動きを止めた。
結絆は表情をまったく変えず、淡々とした声で答える。
「普段は恋人とは一緒に寝てるよお。」
「なっ!?」
キャーリサの白い頬が一瞬で真っ赤に染まった。
まるで熱湯を浴びたかのように顔を上げ、視線を泳がせる。
「そ、そんなことを堂々と言う奴があるか!?」
「え、だって事実だからねえ。沙羅とはいつも一緒のベッドだよお。」
その言葉に、キャーリサの目がさらに丸くなる。
「......な、なんというか......お前、王族の前でそういうことをさらりと言うとは......っ」
隣の沙羅が、まるで待っていたかのように口元を押さえて笑い出した。
「ふふっ......キャーリサ王女、知らなかったの?結絆君はね”夜もすごいのよ”」
「ちょ、沙羅っ!? その言い方は誤解を招くからあ!」
「誤解じゃないわ。あなたがどれだけエネルギーに満ちてるか、私はよく知ってるもの。」
沙羅はわざと妖艶に微笑み、キャーリサをちらりと見た。
「舞踏会での戦いも凄かったけど......夜も例外じゃないの。」
「っ!?な、な、なにを平然と......っ!」
キャーリサは耳まで真っ赤に染め、口をぱくぱくさせながら後ずさる。
その様子を見た沙羅はいたずらっぽく目を細め、「そんなに動揺するなんて、かわいいわね。」と、柔らかく笑った。
「全く......冗談が過ぎるんだし。」
「まあ、俺たちは普通の恋人同士だよお。」
結絆は苦笑しながら頭をかく。
「......ふん。お前という男は、まるで嵐のようだな。近づけば巻き込まれる。」
「それ、よく言われるよお。」
キャーリサの背中を見送りながら、沙羅はくすくすと笑う。
「ふふ、かわいい人ね、キャーリサ王女。あなたのことを気にしてるのが丸わかりだったわ。」
「そうかなあ......?ただ単に呆れられただけな気もするけどお。」
「それも惚れた証拠よ。」
沙羅は意味深に微笑みながら結絆の腕に自分の手を絡めた。
「さ、結絆君。私たちも部屋に戻りましょう。今日は少し......長い夜になりそうね。」
「......その“意味深”な言い方やめてくれないかなあ、沙羅。」
「ふふっ、だってキャーリサ王女の前で照れなかったあなたが、今は顔を赤くしてるんだもの。その表情も好きよ。」
結絆はため息をつきながらも、彼女の手を取り、静かに歩き出す。
廊下の先には、二人のために用意された部屋の扉が灯りの中で待っていた。
その背中を見送る侍従たちは、誰もが「この二人を敵に回すのはやめておこう」と心の中で呟くのだった。
政略結婚編は、あと二話ぐらいで終わらそうと思います。