レベルアッパー事件の余波が落ち着いた翌日の夜、結絆はとあるマンションの一室を訪れていた。
そこには、上条当麻、ステイル・マグヌス、神裂火織の三人が揃っていた。
「へえ、こんなところに住んでるんだ?」
結絆は室内を見回しながらソファに腰掛けた。
ステイルや神裂が拠点にしている場所は、正直、学園都市の標準的な学生寮と比べると、かなり質素な部屋だった。
「で、話って何だ?」
当麻が尋ねると、結絆は軽く微笑んで切り出した。
「インデックスの記憶、消さなきゃいけないって話、アレ、本当に正しいのかい?」
その言葉に、神裂とステイルが同時に眉をひそめた。
「......どういうことですか?」
神裂が静かに問い返す。
ステイルは煙草に火をつけながら、興味深そうに結絆を見つめていた。
「俺の情報網を使って色々調べたんだけどねえ......インデックスの脳に十万三千冊の魔道書が記憶されてて、それによって記憶を消去しないといけないって話、科学的に考えるといくつかおかしい点があるんだよねえ。」
結絆はテーブルに肘をつきながら説明を続けた。
「まず、一人の人間がそんな膨大な情報を脳に記憶すること自体、通常ならありえないんだよねえ。まあ、完全記憶能力とかで仮にそれが可能だったとしても、記憶が容量オーバーで溢れるって話はおかしいと思うよお。」
「おかしい、とは?」
ステイルが眉を上げる。
「脳の記憶容量はねえ、一般的には限界があると言われてるけど、実際には脳は情報を圧縮したり、関連性を持たせて効率的に記憶する能力を持ってるからねえ。しかも、長期記憶として定着した情報は、そう簡単に消えるものじゃない。丸暗記した単語は時間が経つと忘れるけど、何度も練習して習得した泳ぎ方は忘れないよねえ。」
神裂は腕を組み、真剣な表情で聞いていた。
「つまり......?」
「つまり、インデックスが1年ごとに記憶を消さないといけないっていう理屈自体、科学的には根拠が薄いってことだよお。むしろ、何か別の理由で記憶消去が必要だと"思い込まされている"可能性のほうが高いと思うよお。」
その言葉に、当麻は驚いたように目を見開いた。
「......そんな......じゃあ、今までの記憶消去って......」
「誰かに仕組まれていた......っていう可能性もあるかもねえ。」
結絆は表情を変えずに淡々と言った。
「それに、記憶消去を続けることで、インデックスの脳にどんな影響があるのかも気になるところだねえ。記憶を無理に消去することで、脳に損傷が蓄積されている可能性もあると思うよお......」
沈黙が部屋を支配した。
ステイルは煙草をくゆらせながら、深く考え込んでいるようだった。
神裂も難しい表情で、結絆の言葉を咀嚼している。
「もし本当にそうだったら......」
当麻が呟く。
「インデックスは......ずっと苦しむ必要なんてなかったんじゃないか?」
「その可能性は十分にあるよお。」
結絆は真剣な表情で頷いた。
「だから、改めて検証するべきだと思うよお。本当に記憶を消さなければならないのか、それとも別の方法で彼女を守る道があるのか。今までの"常識"を疑うことが、彼女を救う第一歩になるはずだねえ。」
神裂は静かに目を閉じた。
そして、ゆっくりと深呼吸をすると、静かに口を開いた。
「......私も、ずっと疑問に思っていました。」
「神裂......?」
ステイルが驚いたように神裂を見る。
「本当に記憶を消す以外の方法がないのか......私達は、ずっと考えていました。でも、イギリス清教の上層部はそれを許さなかった。だから私達は......結局、何もできなかった......。」
「なら、今こそ動くべきじゃないかい?」
結絆は真剣な表情で、神裂を真っ直ぐに見つめる。
「今なら、まだ間に合うよねえ。」
その言葉に、神裂の瞳が僅かに揺れた。
「......そうですね。私も、もう一度考えてみます。」
ステイルも溜息をつきながら、苦笑した。
「まったく......君は本当に面倒なことを持ち込んでくるね。おかげで希望を捨てられなくなってしまったよ。」
「ふふ、科学ってのは常識を疑うことから始まるものだからねえ。」
結絆は軽く微笑みながら、ゆっくりと席を立った。
「俺は、当麻の右手......それを使えばインデックスを呪縛から解放できるかもしれないと思っているよお。」
そう言うと三人の表情が変わった。
彼の言葉は、確かに三人の心に何かを残した。
そして、それがインデックスの運命を変えるきっかけとなるのだった——。
細かい話ですが、結絆はインデックスが完全記憶能力を持っていることを知りません。
なので、結絆は少し穿った視点で今回の事例について考えています。
仮に、結絆がインデックスが完全記憶能力を持っていることを知っていたなら、原作の小萌先生と同じ話をしたと思います。
次回は、いよいよペンデックスさんとの戦いです。