食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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結構ぶっ飛んだ話になってます。


神格化される結絆

 マジックシアターのグッズ開発会議室。

 

壁一面に貼られたのは、発売から数日で完売した“ゆはんぬい”の各種データ、売上推移、SNSアンケート結果。

 

そして、その中央にはまっさらなホワイトボード。

 

「結絆さん。ゆはんぬいの新バージョンについて、いろいろと考えてきました!」

 

帆風が手元の資料をそっと机に置いた。

 

「次って......まだ一週間くらいしかたってないよねえ。ペースが早くないかい?」

 

「需要が供給を上回っているのです。早急な第二弾が望まれています」

 

美管も隣でこくこく頷く。

 

「お兄ちゃん、アンケートで“次はどんなゆはんぬいが欲しいか”聞いたら......“恋人と手をつないでいるゆはんぬいがほしい!”って声がすごく多かったよ」

 

「!?」

 

机の上に置かれる試作品。

 

小さな結絆ぬいぐるみが、同じサイズの女の子型ぬいぐるみと手をつないでいる。

 

「うーん、売れるのかなあ?アンケートの詳細を教えてほしいんだけど」

 

「アンケート結果の圧倒的多数が“恋愛運が上がりそうだから”というものでした」

 

帆風は淡々と説明する。

 

「お兄ちゃんはモテモテだから、それにあやかって皆恋愛運を上げたいんじゃないかな」

 

「そんな風に思われてるんだねえ......?」

 

美管がさらに追い打ちをかける。

 

「それに、“恋愛成就のお守りぬいぐるみ”として売り出せば女子高生も観光客も絶対買います!絶対です!」

 

「言い切るんだねえ潤子......」

 

「もちろんです!」

 

帆風は机に新商品の案内書を広げ、そこに書かれたモデル名を指差した。

 

“ゆはんぬい・ペアバージョン”

 

「名前まで決まってる!?」

 

「ええ。すでに量産体制にも入っています」

 

帆風はさらりと言う。

 

「俺の意思は!?」

 

「結絆さんなら良さがわかってもらえるはずです!」

 

(断りようのない詰め方だねえ......)

 

 

 

 発売初日。

 

マジックシアターのお土産ショップ入口には――

 

「恋愛成就、ゆはん様のご加護を!!」

 

「手をつないでいるモデルはどこですか!」

 

「SNSで見ました!必ず買います!」

 

そんな声を上げる行列ができていた。

 

結絆は呆然とする。

 

「え、なんか......雰囲気がご利益スポットなんだけどお......?」

 

「今日は開店前から列が五百メートル伸びでたよ!すごいね、お兄ちゃん!」

 

美管がニコニコしながらうちわを配っている。

 

「すごいけどさあ......なんか俺が恋愛祈願の御神体になってないかい......?」

 

帆風は落ち着いた声で説明する。

 

「SNSで“結絆様の恋人つなぎぬいぐるみを買ってから彼氏ができた”という投稿が増えています。恋愛運アップの象徴として独り歩きしているようですね」

 

「独り歩き......?」

 

そこへ、ぬいぐるみを買った女の子が戻ってきて、結絆にお辞儀した。

 

「結絆様、これで私も好きな人に告白する決意が固まりました!頑張ります!」

 

「そ、そうかあ......。うん......がんばってねえ」

 

結絆は優しく微笑みながら女の子の手を握る。

 

その瞬間、女の子は感動のあまり涙ぐんでいた。

 

(え、そんなに嬉しかったのかなあ......!?)

 

帆風がメモ帳を開く。

 

「結絆さんが優しく声をかけると“開運効果が上がる”と噂されていますよ!」

 

「俺、完全にご利益アイテムだねえ......!」

 

 

 

 その日の午後。

 

水族館エリアのスタッフが走ってきた。

 

「あっ、結絆さん!!緊急報告です!」

 

「え、どうしたんだい?」

 

「水族館エリアの入場者数が通常の三倍に急増しています!!」

 

「三倍って......!」

 

スタッフは息を切らしながら状況を説明する。

 

「“ゆはんぬい”と“水族館デート”の相性が良いらしく、購入後に“恋愛成就に効くデートコース”としてSNSでバズっています!」

 

「そんなの誰が言い出したんだい!?」

 

「不明ですが、皆さん嬉しそうにぬいぐるみと写真を撮っています!」

 

水族館へ向かうと、ゆはんぬいを手にして、水槽の前で写真を撮るカップルや女子たちでぎゅうぎゅう。

 

アトラス(天衣装着を使うイルカ)も大量の客に驚いてヒレをばたつかせていた。

 

「お兄ちゃん!見て見て!」

 

美管が興奮気味に携帯の画面を見せる。

 

“ゆはんぬいとイルカの撮影スポットは恋愛運が最強に上がるらしい”

 

“マジックシアターの水族館、デートにぴったり!”

 

“手をつないでいるゆはんぬい...尊すぎる...”

 

そんな投稿でSNSが埋め尽くされていた。

 

(うーん、売り上げも伸びて皆も喜んでるのに素直に喜べる気がしないねえ......)

 

 

 

 居住エリアに戻ると、美琴、黒子、入鹿、帆風、沙羅、白羽など恋人組が勢ぞろいしていた。

 

「ちょ......これ、誰と手をつないでるって設定なの?ねぇ、どういうこと?」

 

美琴がぬいぐるみを手にして言う。

 

「どういうことって言われても......俺も知らないよお......」

 

一番状況を呑み込めていないのは結絆である。

 

「でもカワイイですよ、これ。結絆さんと手をつないでるみたいで......ふふ」

 

入鹿がくすっと笑う。

 

「結絆さん。皆さんにも好評です。“自分とつないでいる”と解釈できるため、取り合いにもなりにくいですね」

 

帆風は静かに頷きながら言う。

 

「それなら......いいのかな?」

 

「結絆君が人気になると、なんだか誇らしいわね」

 

沙羅は結絆に優しく微笑む。

 

「結絆様の可愛らしさとかっこよさが良く出ていますよ。早速、三体買いました」

 

「三体!?」

 

白羽の言葉を聞いた結絆は頭を抱えたのだった。

 

 

 

 その日の閉店後。

 

帆風が販促データを持って戻ってきた。

 

「結絆さん。発売初日に全ロット完売です。追加生産の要望が止まりません」

 

「は、早すぎないかい......!?」

 

「特に、恋愛成就のお守りとして定着しつつありますね。“告白前に買うぬいぐるみ”としてSNSで流行しています」

 

美管も嬉しそうに笑った。

 

「お兄ちゃん、すごいよ!水族館も植物園も動物園も、デートコースとして人気が爆上がりしてる!」

 

結絆は思わず天井を見上げた。

 

(なんだろう......俺、マジックシアターの経済を回すアイドルみたいになってない......?)

 

それでも、自分のぬいぐるみで誰かが笑ったり、前向きになってくれるなら――

 

「まあ......いいよねえ。喜んでくれるなら、俺も嬉しいし」

 

そう言う結絆の声は、自然と穏やかで、どこかあたたかかった。

 

「次のバージョンについては、また後日ご相談いたします」

 

帆風が満足そうにメモを閉じる。

 

「もう次!?」

 

「今度は“お兄ちゃんがぎゅーってしてくれるぬいぐるみ”がいいと思う!」

 

美管がワクワクしながら手をあげた。

 

「えぇぇぇ......?」

 

笑い声が広がる。

 

こうして、ゆはんぬい第二弾もまた、マジックシアターに伝説的な売上を刻むことになったのだった。

 

 

 

 マジックシアターのグッズ開発会議室。

 

今日も帆風、美管、そしてスタッフたちが勢揃いしていた。

 

「では、次の“ゆはんぬい”シリーズについてですが......」

 

帆風が大型モニターを点ける。

 

そこに映し出されたのは、結絆の姿をデフォルメしたぬいぐるみ......だけではなかった。

 

「今回は、お兄ちゃんがアトラスに乗っているぬいぐるみです!」

 

美管が胸を張って宣言した。

 

「おっ、きれいにフィットしてるねえ」

 

「はい! アトラスの上にちょこんと結絆さんが座り、“海の冒険バージョン”というテーマで......」

 

そして画面に表示されるサンプル画像。

 

小さめのゆはんぬいが、大きめのアトラスぬいぐるみの背に“ちょん”と乗って微笑んでいる。

 

アトラスぬいはヒレをかわいく広げ、表情はにっこり優しい。

 

「......かわいいねえ、これ」

 

さらに帆風がもう一つ案を出す。

 

「そしてこちらが“レグルスモデル”です」

 

表示されたぬいぐるみは......

 

巨大な虎のレグルスぬいの背に、勇者みたいなポーズで座っているゆはんぬい。

 

レグルスの表情は誇らしげで、毛並みもふわふわに再現されている。

 

「お兄ちゃん、このレグルスの表情、めちゃカッコイイでしょ!」

 

美管がテンション高めに言う。

 

「いやいや、カッコイイけどさあ......!?なんか俺、勇者扱いされてる......?熊にまたがってる金太郎みたいだねえ」

 

「実際、私達から見た結絆さんは、勇者そのものですよ!」

 

帆風が嬉しそうに答える。

 

「そ、そうなのかなあ......?」

 

結絆は頭を掻きつつも、悪い気はしなかった。

 

 

 

 そして、発売日。

 

列が伸びないように工夫を重ねていたものの、すでに行列は数百メートルを超えていた。

 

「ま、まさかアトラスぬいとレグルスぬいでこんなに人が......!?」

 

結絆は驚く。

 

「本日発売の“アトラスに乗る結絆ぬい”と“レグルスに乗る結絆ぬい”はお一人様各一体まででーす!!」

 

入口では美管がパンフレットを配りながら叫ぶ。

 

「可愛すぎる!!」

 

「アトラスの表情が尊い!!」

 

「レグルスの勇ましさ......惚れる!!」

 

「結絆様、動物にも愛されている......!」

 

ショップは開店直後から修羅場のような大盛況。

 

アトラスバージョンもレグルスバージョンも瞬く間に棚から消えた。

 

結絆は横で呆然と見ていた。

 

「すご......。俺、なんかまた変な方向に神格化されてない......?」

 

「本日の売上......開店三時間で、前回のモデルを超えました」

 

帆風が冷静に売上を集計して言う。

 

「えぇぇぇぇえ!?」

 

「SNSで“海の生き物に愛される結絆様”“猛獣すら懐柔する結絆様”というタグが広がり、特に女子中高生に大人気です」

 

「なるほどねえ......?」

 

「お兄ちゃん、アトラスもレグルスも人気者だからね!みんな“結絆様の仲間たち”っていう世界観が好きなんですよ!」

 

美管が笑いながら言う。

 

結絆は、アトラスやレグルスの今日のご飯を豪華にすることを心に決めたのだった。

 

(......まあ、仲間として愛されてるなら、悪くないよねえ)

 

 

 

 そのころ、アトラスは水槽の中で大回転しながら喜びを表していた。

 

「アトラスー」

 

結絆が名前を呼ぶと、アトラスはタッと近づいてくる。

 

「アトラス、ぬいぐるみ大人気だよお」

 

「ピピッ♪」

 

アトラスは胸を張るようにヒレをそらせ、「自分の時代が来た!」と言わんばかりのドヤ顔を決める。

 

一方、レグルスは......

 

周囲にメスのトラたちを侍らせ、優雅に寝そべり、前脚を組んでいる。

 

結絆が近づくと、レグルスは誇らしげに尻尾を揺らした。

 

「レグルスのも、すっごく売れてるよ」

 

「結絆、今日の晩飯はいい肉を頼む」

 

「いい肉を大量に持ってくるよお!」

 

機嫌のいいレグルスを見て、結絆は笑顔になる。

 

「レグルス、次はかっこいいタイプのも作るからね!」

 

美管がくすくす笑う。

 

「結絆の妹よ、期待しているぞ」

 

そして、レグルスが勢いよく吠えると、その咆哮だけで周囲の動物たちがびくっとした。

 

「レグルス、嬉しそうだねえ」

 

「人気者になるのは悪い気はしないな」

 

ちょっと照れるレグルス。

 

結絆はその体を優しく撫でたのだった。




次回からは、科学サイドの話になります。
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