食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回からは、過去編になります。

結絆と天城が学園都市内の違法カジノを潰していく話です。


過去編 違法カジノ
違法カジノをぶっ壊せ


 学園都市のとある学区、繁華街の外れ。

 

そこはネオンと喧騒が入り混じる夜の迷宮である。

 

だが、その裏には表の住人が決して知らない地下の王国がある。

 

違法カジノ《リヴィエラ》。

 

表向きは高級ホテルの地下にあるVIP専用ラウンジだが、実態は暗部の金が流れ込む巨大な賭場。

 

薬物、武器、人体実験に使われる資金まで、多額の資金がここで洗われていた。

 

その入口に、二人の少年が立っていた。

 

金の髪が街灯を受けて淡く光り、琥珀色の瞳が静かに光を反射する。

 

食蜂結絆、彼はただ一つ、自身の肉体や精神を完全に制御する能力である自己制御(セルフマスター)だけを武器に、学園都市の闇に足を踏み入れていた。

 

「......ずいぶん派手にやってるねえ。金の匂いしかしないや」

 

柔らかな声で結絆が呟く。

 

「派手に見せなきゃ客が集まらねえからな。ここの連中は見栄が大事なんだろう」

 

隣に立つ少年、天城圭吾が答える。

 

黒髪を後ろで束ね、全身に傷跡のある念動能力者(テレキネシス)。

 

彼は結絆にとある研究所から助けてもらった後にドリームに加入し、結絆の右腕として完璧に仕事をこなしていた。

 

「準備はできてるかい、天城?」

 

「当然。あとは入るだけだ。......それにしても、お前の計画、ほんとにうまくいくのか?」

 

「うまくいかせるんだよお。俺がこれから作る楽園のためには、こういう腐った舞台は全部、潰して回らないとねえ」

 

結絆の口調は穏やかだったが、その瞳には冷たい炎が宿っていた。

 

マジックシアター、それはまだ、彼の夢の段階だった。

 

表と裏の両方に手を伸ばすためにはマジックシアターを拡大していかなければならない。

 

だが、そのためにはまず闇そのものを支配しなければならなかった。

 

二人は入口でチップカードを差し出し、無言で通される。

 

重厚な扉の向こうからは、歓声とグラスの音、そしてルーレットの回転音が響いてきた。

 

金と欲の渦巻く光の海、違法カジノ《リヴィエラ》が、結絆たちを歓迎する。

 

 

 

 店内は、まるで異国の宮殿のようだった。

 

シャンデリアの光がカーペットに金の模様を描き、ギャンブル台の周囲にはドレスやスーツに身を包んだ若者たち。

 

その大半が、金を洗うための裏の人間か、実験で得たデータを売る研究員だ。

 

「こりゃまた......金の亡者だらけだな」

 

天城が吐き捨てるように言う。

 

「亡者は眠りにつかせないとねえ」

 

そう言って、結絆は微笑みながらチップを一枚掌で弾いた。

 

音もなく、チップは宙を舞う。

  

結絆は力を使っていない。

 

ただ、筋肉の動きと関節の角度を完全に制御することで、空気抵抗すら計算した正確無比な動きだった。

 

それは、まるで機械のような精密さ。

 

「......お前の《自己制御》、やっぱ化けもんだな」

 

「褒め言葉として受け取っとくよお」

 

 

 

 二人はまず、ルーレット台に腰を下ろした。

 

ディーラーがにこやかに迎えるが、その笑顔の奥には計算が見えた。

 

賭場では、客が勝ちすぎることはない。

 

すべては店の掌の上。

 

だが、その鉄則を壊すために来たのが、結絆たちだった。

 

「黒に全部」

 

結絆は持っていた全てのチップを迷いなく置く。

 

周囲がざわめいた。

 

最初の一手にしては大胆すぎる。

 

だが、結絆は微動だにしない。

 

ディーラーがルーレットを回し、球が走る。

 

回転音の中で、結絆は指先を軽く動かした。

 

ほんの一瞬、空気の流れが変わる。

 

彼の筋肉が微細に振動し、発生した気流が球の軌道に触れた。

 

結果——黒に球が入る。

 

「......ほう」

 

ディーラーの眉が動く。

 

周囲の客が驚嘆の声を上げた。

 

「運がいいねえ」

 

結絆は肩をすくめ、にやりと笑った。

 

それから二時間、二人は次々とテーブルを渡り歩いた。

 

ブラックジャック、ポーカー、バカラ、どのゲームでも結絆は圧倒的な勝率を叩き出す。

 

それは単なる運だけではなく、相手の隙をついた巧妙なテクニックだった。

 

心拍の上昇、瞳孔の開き、指の癖。

 

相手の一瞬の動きすべてを読み取り、最適な手を打つ。

 

一方で天城もまた、念動力でカードの角度をほんの僅かに変え、ディーラーの見えない範囲で勝負を操作していた。

 

「......稼ぎすぎじゃねえか?」

 

「問題ないよお。どうせ相手も、俺たちを調べたいと思ってる頃だろうしねえ」

 

結絆が軽口を叩いたそのとき、場内のモニターが切り替わった。

 

“本日のチップ獲得数上位者一覧”。

 

その一位に、彼らの名が浮かぶ。

 

《No.1 ユハン&ケイゴ 総チップ:3700万》

 

客たちのざわめきが広がる。

 

そして、黒服のスタッフが音もなく近づいた。

 

「お客様、VIPルームへのご招待を受けておられます。こちらへどうぞ」

 

「ふふ、予定通りだねえ」

 

結絆が立ち上がる。

 

その足取りは軽いが、瞳の奥には鋭い光。

 

ここからが本番だ。

 

 

 

 VIPルームへと続くエレベーターの中。

 

重い静寂を破ったのは天城の低い声だった。

 

「なあ、結絆。お前の目的は“違法カジノを全部潰すこと”って言ったよな。まさか、上の奴らを皆......」

 

「そこまでは言ってないよお。ただ、“悪趣味な劇場”を終わらせるだけ」

 

「マジックシアターのために、か?」

 

「そう。本物の夢を魅せる場所を作りたいんだよお。そのためには、こういう薄汚い場所は邪魔だからねえ」

 

結絆の笑みは優しかった。

 

だが、その裏にある冷徹な決意を、天城は肌で感じ取っていた。

 

彼が本気で動けば、どんな組織でも跡形もなく消えるということを、知っているから。

 

エレベーターのドアが開くと同時に、空気が変わった。

 

《リヴィエラ》のVIPルーム、豪奢な金箔の壁、真紅の絨毯、そして中央に置かれた巨大な円卓。

 

その中央で、支配人がゆるやかに立ち上がった。

 

白髪交じりの髪、黒のスーツに金糸の刺繍。

 

だが、その眼光は氷のように冷たく、笑みの裏には長年この地下を支配してきた者の自信が滲んでいる。

 

「若造が、随分と派手に稼いでくれたじゃないか」

 

支配人の声は静かだったが、その奥には怒気が混ざっていた。

 

「ここは運だけで勝てる場所じゃない。......お前たち、誰の差し金だ?」

 

結絆は椅子に座ったまま、足を組み替える。

 

柔らかく笑っているが、視線だけは支配人を射抜くように真っ直ぐだった。

 

「俺たちの背後に誰がいるかなんて、そんなのどうでもいいよねえ?俺は皆が笑える場所を作りたいだけ。......だから、この腐った劇場は、今日で終幕だよお」

 

その一言に、支配人の頬がひくりと動いた。

 

背後にいた二人の警備員が銃を構えるが、天城がわずかに指を動かすと

 

グシャッ......!

 

警備員たちの体内から臓器がつぶれる音が鳴る。

 

悲鳴を上げる間もなく警備員たちは崩れ落ちた。

 

「次はお前の番だぜ、ジジイ」

 

天城が低く言い放つ。

 

だが、支配人は怯えなかった。

 

むしろ、薄く笑った。

 

「面白い......実に面白い。ならば見せてやろう、私の《芸術》を」

 

支配人は胸元から一冊の分厚い本を取り出す。

 

その表紙には《BESTIA・VERA(真なる獣)》の文字。

 

彼の能力である絵画実体化(アート・リバース)が発動する。

 

「顕現せよ、黒獅子(ブラックレオ)」

 

ページが開かれた瞬間、空気が震えた。

 

そこから黒い墨のような液体が溢れ出し、瞬く間に形を成す。

 

全長三メートルを超える漆黒の獅子が咆哮し、室内の照明を弾き飛ばした。

 

「派手だねえ、見た目だけは」

 

結絆が立ち上がる。

 

その瞬間、彼の肉体がわずかに振動した。

 

筋肉密度、血流、神経伝達速度――全てが極限まで調整されていく。

 

「さあ、喰らい尽くせッ!!」

 

支配人が叫ぶ。

 

黒獅子が地を蹴った。

 

空気が破裂音を上げ、牙が閃く。

 

だが、次の瞬間、結絆の手は黒獅子の首を掴み、そのままねじ切った。

 

ぐしゃり、と嫌な音が響く。

 

黒いインクのような液体が床に広がる。

 

「......造形は悪くないけど、中身がこれだと迫力が足りないねえ」

 

結絆が手を振ると、その液体は蒸発して消えた。

 

支配人の顔色が変わる。

 

「ふん、なら次だ、白狼(ホワイトファング)ッ!」

 

光の粒が集まり、二頭の狼が姿を現す。

 

咆哮を上げて天城に飛びかかる。

 

「チッ、今度は俺の方かよ......!」

 

天城は腕を広げる。

 

念動力が空間を制圧する。

 

ギュウウウッ......!!

 

見えない壁が、狼たちの周囲に形成された。

 

その圧力は急速に強まり、空気が押しつぶされ床が歪む。

 

二頭の狼は抵抗するが......

 

パアンッ!

 

破裂音とともに、白い粉のように散った。

 

「......片付いたな」

 

天城が手を下ろし、息を吐く。

 

その後も支配人は本に描かれた魔獣を実体化させるが、二人によってすぐに消されていく。

 

「ふふ、さすが天城。力加減が上手いねえ」

 

「お前がやりすぎなんだよ、服についたインク取るの面倒くさいんだぞ」

 

軽口を交わす二人を、支配人は震えながら見つめていた。

 

ページをめくる手が止まる。

 

次のページには、もう何も描かれていない。

 

「ば、馬鹿な......?おかしい、私の“芸術”が......!」

 

支配人が狼狽し、後ずさる。

 

天城が一歩踏み出す。

 

支配人が逃げようとしたその瞬間――

 

ミシリッ!

 

支配人の膝が逆方向に折れた。

 

悲鳴がVIPルームに響く。

 

「逃げんじゃねぇ。まだ聞きたいことがある」

 

天城の声は冷え切っていた。

 

「ひっ......や、やめろッ!」

 

「大人しくしてたら殺しはしねえよ。......結絆、後は頼んだ」

 

結絆がゆっくりと支配人の前にしゃがみこむ。

 

金色の瞳が、氷のような光を放つ。

 

「質問はひとつだけ。《リヴィエラ》の金庫は、どこにあるんだい?」

 

支配人は唇を震わせた。

 

「い、言えるか......そんなもの......!」

 

結絆は首を傾げ、指先で支配人の胸元を軽く突いた。

 

ボキリッと、肋骨が一本折れる。

 

「もう一回聞くよお。《リヴィエラ》の金庫は、どこにあるんだい?」

 

「ぐっ......く、地下三階......っ!中庭の噴水の裏、絵画の向こうに隠し扉が......!」

 

「ありがとう。ちゃんと答えられたねえ」

 

結絆が笑う。

 

その笑みは、優しいのにどこか狂気を孕んでいた。

 

「......怖えな、お前の“尋問”」

 

天城が肩をすくめる。

 

「尋問じゃないよお、ただの質問だからねえ?」

 

「冗談きついぜ」

 

支配人は床に倒れ込み、震えながら血を吐いた。

 

結絆はそのまま立ち上がり、天城に目を向ける。

 

「さあ、見に行こうか。」

 

二人は扉の方へと歩き出す。

 

背後で支配人が這うように手を伸ばすが、念動力の見えない壁がそれを止める。

 

「残念だが、お前の出番はもう終わりだ」

 

天城の言葉と同時に、支配人は動かなくなった。

 

VIPルームは静まり返る。

 

シャンデリアの揺れる音だけが、余韻のように響いていたのだった。

 

 

 

 一時間後

 

結絆と天城は支配人の言葉どおりに金庫を見つけ、そこに眠る莫大な現金とデータ資産を全て押収した。

 

《リヴィエラ》の運営データは翌日には全て消去され、跡地は数週間後に“閉館”という名目で封鎖された。

 

程なくして、《リヴィエラ》の地下から、突如として停電と悲鳴が上がった。

 

監視映像はすべて破壊され、翌朝、支配人を含む構成員の多くが昏睡状態で発見される。

 

彼らの記憶からは、ある一点を境に何も残っていなかったという。

 

夜明け前、人気のない通りを歩く二つの影。

 

「うまくいったな、結絆」

 

「そうだねえ、これで一つ、邪魔なのが消えたねえ」

 

結絆はポケットからマジックシアターの模型を取り出し、微笑む。

 

マジックシアター、彼の夢の種は、確かにこの夜に植えられた。

 

彼が築く舞台は、まだ誰も知らない。

 

だが、すでに学園都市の闇は、結絆によって静かに書き換えられ始めていた。




途中、結絆がやっていたチップを掌で弾くやつはマッスルパスです。

長期間練習しないとできないので、僕はできません。
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