食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回は違法カジノではありませんが、違法な賭けをしている闘技場を結絆たちが潰す話です。


闇の闘技場を破壊せよ

 学園都市第六学区、アミューズメント施設の地下三十階。

 

そこには一般人は決して踏み入れられない世界があった。

 

巨大なドーム状の空間。鉄骨とコンクリートで築かれた無機質な天井の下、数千人の観客が叫び、照明が血のような赤に染め上げている。

 

その中心にあるのは、鋼鉄製の円形闘技場――《コロセウム》。

 

能力者、格闘家、そして改造生物や猛獣までもが戦い、勝敗に莫大な金が賭けられる違法闘技場である。

 

結絆と天城は、黒のフードを深くかぶって観客席に紛れ込んでいた。

 

「......派手にやってんな」

 

天城が呆れたように呟く。

 

目の前では、金属鎧をまとった男が両腕を交差させ、念動系能力者の攻撃を受け止めていた。

 

能力者の放つ見えない弾丸が何発も命中するが、男の体はびくともしない。

 

次の瞬間、男が踏み込み、拳が閃く。

 

ドゴッ!

 

能力者の体が宙を舞い、鉄柵に叩きつけられた。

 

観客が歓声を上げる。

 

「無能力者が......能力者を倒したねえ」

 

結絆が静かに目を細める。

 

「学園都市製の栄養剤、もしくは補助装置だねえ。無能力者が能力者を倒すと盛り上がるから格闘家枠もあるんだろう」

 

「ったく、悪趣味なもんだ。ここじゃ能力も拳も、ただの見世物だな」

 

場内アナウンスが響く。

 

『続いて第二試合――《ブラッディ・ベア》対《サイコメトラー》!』

 

次の瞬間、闘技場の床が開き、檻がせり上がった。

 

中から現れたのは、四メートル近い灰色の熊。

 

遺伝子改造によって強化された猛獣だ。

 

対する能力者は、細身の青年。

 

目を閉じ、周囲の情報を読み取るように立っていた。

 

だが――

 

熊が一歩踏み出した瞬間、鉄柵ごと吹き飛んだ。

 

圧倒的な質量が能力者を襲う。

 

回避する間もなく、鋭い爪が青年の体を薙ぎ払い血が噴き上がる。

 

観客たちは狂気じみた歓声を上げた。

 

「......ありゃ終わったな」

 

天城が低く呟いた。

 

「人を殺して金を稼ぐ舞台。これを潰すのが目的か」

 

「うん。それに」

 

結絆は微笑む。

 

「こういうところには強いやつが集まるからねえ。潰すだけじゃなく、拾う価値のある者も見極めたいんだよお」

 

 

 

 そして数時間後。

 

控室で、二人は次の試合の登録用紙にサインしていた。

 

偽名は「マサムネ」と「ムラマサ」

 

出場理由は「裏社会からの推薦枠」としていた。

 

係員が書類を確認すると、顔も見ずに告げた。

 

「次のブロックの第二試合だ。生きて帰れると思うな」

 

「へえ、脅しかなあ?」

 

結絆は肩をすくめて笑う。

 

照明が落ちる。

 

ドーム全体が静寂に包まれた。

 

そしてアナウンスが響く。

 

『新規登録選手、《マサムネ&ムラマサ》! 対するは、能力者部隊《レッドカンパニー》!』

 

歓声とともに、鉄の扉が開いた。

 

二人は闘技場に足を踏み入れる。

 

目の前に現れたのは、赤いスーツを着た四人の男たち。

 

全員が能力者、それも戦闘特化型だ。

 

空間を歪ませる者、炎を操る者、金属を変形させる者、そして念動系のリーダー格。

 

「おいおい、二対四かよ。ずいぶんと不公平だな」

 

天城が呟くと、結絆が笑った。

 

「だから盛り上がるんだろうねえ。......いこうか」

 

ゴングが鳴った瞬間、炎の渦が襲いかかる。

 

観客が歓声を上げる中、結絆は一歩も動かない。

 

ボウッ!!

 

「こんな弱い炎だと、焼き肉すらできないねえ」

 

爆炎が結絆の体を包むが体には傷一つつかない。

 

結絆の肉体はあらゆる攻撃に対して一定の耐性を持っている。

 

火炎放射器で炙られても涼しい顔をできる程度には、結絆は人間をやめている。

 

「じゃあ、今度はこっちの番だねえ」

 

結絆が拳を振るう。

 

その一撃は空気を裂き、炎使いの男の顔面を直撃した。

 

ドゴォン!!

 

骨が砕け、男は数メートル後方に吹き飛んで壁にめり込む。

 

「......まずは貴様からだ」

 

金属操作の男は地面の鉄板を蛇のように変形させて襲いかかる。

 

だが、天城が右手をかざした。

 

カシャン!

 

鉄蛇が空中で止まり、逆方向に折り畳まれて潰れる。

 

そのまま金属使いの男を包み込み、グシャリと音を立てて圧縮された。

 

「大した事ねえな」

 

残る二人が同時に動く。

 

空間を歪ませて距離を詰める転移使いと、念動力で巨大な瓦礫を飛ばすリーダー。

 

だが結絆は、踏み込んできた転移使いの腕を掴んだ瞬間、全身を螺旋状に捻った。

 

骨の軋み、肉の悲鳴。

 

バキバキバキ!

 

腕が根元から粉々になり、男は叫びながら崩れ落ちる。

 

残る一人。

 

リーダー格が怒りの叫びとともに、数十トンの岩塊を念動力で結絆に叩きつけた。

 

「結絆、止めた方がいいか?」

 

「大丈夫だよお」

 

結絆は岩塊に向けて蹴りを入れると、岩塊はバラバラになる。

 

粉塵が舞い、相手の視界が塞がっているうちに結絆は距離を詰めた。

 

ドッ!

 

衝撃波が空気を裂き、リーダーの体が弾き飛び、壁に叩きつけられ意識を失った。

 

一瞬の沈黙。

 

そして、次の瞬間、観客席から大歓声が巻き起こった。

 

血に飢えた群衆が、倒れた四人の能力者を見て歓喜する。

 

「マサムネ!」「ムラマサ!」と名を叫ぶ者もいた。

 

天城が息を吐く。

 

「お前、やりすぎだろ......あれ、死んでんじゃねぇのか?」

 

「手加減はしてるよお。ちゃんと生きてる......かなあ?」

 

結絆は軽く笑って肩を回した。

 

観客の歓声の中、主催者席でスーツ姿の男が無言で立ち上がる。

 

《コロセウム》の総責任者、コードネーム《カエサル》。

 

鋭い視線が、結絆を射抜いた。

 

わずかに唇が動く。

 

「貴様は、何者だ?」

 

だが、結絆はそれに答えず、背を向けたのだった。

 

 

 

 コロセウムの中央コロシアム。

 

爆音のような歓声と賭け金の電子音が入り混じるその空間は、学園都市の闇の中でも特に獰猛な匂いを放っていた。

 

結絆と天城が次々と能力者や格闘家を倒していったことで、観客たちは歓喜と恐怖を同時に味わっている。

 

そのざわめきを断ち切るように、アナウンスが響いた。

 

『次の対戦相手ははカエサル様。コロセウムの覇者にして、統治者だ!』

 

金属を打つような音とともに、分厚いゲートが上がる。

 

現れた男――カエサルは、金属製の強化装具に全身を包んでいた。

 

補助筋肉を増幅するハーネス、反応速度を上げる神経補助装置、そして脚部には跳躍用のブースター。

 

能力者ではない。

 

だが、その一歩一歩から発せられる重圧は、能力に頼らぬ“怪物”のものだった。

 

「......さっきまでの奴らはつまらん。能力があろうが、勝ちをもぎ取れぬ人間に価値はない」

 

カエサルは冷めた声で言い放つと、コロシアムの端に倒れた能力者たちを見下ろし、無造作に腕を伸ばした。

 

その瞬間......

 

鈍い音が鳴り、先ほどまで息のあった能力者たちが一斉に沈黙する。

 

その無慈悲な一撃に、観客の一部が息を呑んだ。

 

「......処分完了だ。じゃあ次はお前たちだな、マジックシアターの若造ども」

 

カエサルの双眸が、コロシアムの中央に立つ結絆へと向けられた。

 

その視線は、まるで実験材料を見る科学者のように冷たい。

 

「やれやれ......また機械頼りの脳筋かあ。強そうだけど、ちょっとダサいねえ」

 

 

 

 結絆たちが先頭の準備をしていると、床下から轟音が鳴り響いた。

 

次の瞬間、巨大な鉄扉が開き、現れたのは、全長十メートルはあろうかという巨大ナマケモノだった。

 

「......は?ナマケモノ?いや、あれは遥か昔に絶滅したメガテリウムか?」

 

天城が思わず眉をひそめた。

 

よく見るとその巨体には多数の制御装置が取り付けられ、脊髄に直接電極が刺さっている。

 

動きは遅くとも、一歩踏み出すたびに床が軋む。

 

「こいつは俺のペットだ。学園都市の技術で改造された戦闘用ナマケモノ。ムラマサとか言ったか......お前の相手はこいつだ」

 

「......やっぱり俺の方が地味な役回りなんだな」

 

天城が小さく肩をすくめ、念動能力で宙に浮かぶ。

 

その下で、巨大ナマケモノが大口を開き、獣じみた咆哮を上げた。

 

 

 

 戦闘が始まった。

 

結絆はカエサルと正面からぶつかる。

 

拳と拳が交わるたび、衝撃波がコロシアム全体を揺らす。

 

金属の外骨格を着たカエサルの拳は、まるで戦車の砲弾のような重さだ。

 

だが、結絆は一歩も引かない。

 

自己制御によって骨格、筋繊維、血流を最適化し、限界を超えた出力を引き出していく。

 

「人間の身でよく耐えるな! だが限界はあるだろう!」

 

カエサルの肘打ちが結絆の頬をかすめ、頬から血が飛ぶ。

 

しかし結絆は笑った。

 

「限界?......お前はレベル5をなめすぎだよお」

 

瞬間、結絆の右脚が地を叩き、加速する。

 

その動きは人間の視覚では捉えられない。

 

放たれた拳がカエサルの胸部装甲に直撃し、金属の外殻が軋む音を上げた。

 

ガギィィンッ!!

 

装具の表面が亀裂を走り、スパークを散らす。

 

カエサルの目が一瞬、驚愕に染まる。

 

「バカな......俺の外装が......!」

 

「肉体は鍛えたら強くなる。でも、機械は壊れたら終わりだよねえ?」

 

結絆はさらに踏み込む。

 

拳、膝、肘、そして頭突き、まるで暴風のような連打が、カエサルの補助装置を次々と粉砕していく。

 

一方その頃、天城はナマケモノとの死闘を繰り広げていた。

 

鈍重な動きに見えて、ナマケモノの腕の一振りは空気を爆ぜさせるほどの威力を持つ。

 

念動の防壁を何層にも重ねながら、天城はその背中に取り付けられた制御装置を探った。

 

「やっぱり......こいつ、本当は戦いたくないんだな」

 

天城はつぶやく。

 

ナマケモノの瞳の奥に、怯えと苦痛を感じ取ったのだ。

 

念動で周囲の瓦礫を浮かせ、鋭い金属片を制御装置の接続部に叩き込む。

 

パチンッ、と小さな音がした瞬間、ナマケモノの体がピタリと止まった。

 

そして、次の瞬間、轟くような鳴き声とともにナマケモノは天城を守るようにカエサルの方へ向き直った。

 

「なっ......裏切っただと!?」

 

カエサルは焦りを見せる。

 

だがすでに遅い。

 

ナマケモノの巨大な腕がカエサルの背後から伸び、彼の補助装具を粉砕した。

 

その一瞬の隙を逃さず、結絆が正面から拳を叩き込む。

 

「終わりだねえ!」

 

結絆の拳が直撃し、カエサルの補助装置が完全に崩壊した。

 

男の巨体が宙を舞い、背後の壁に叩きつけられる。

 

観客たちは息を呑む。

 

やがて誰かの小さな声が漏れ、それが波紋のように広がる。

 

「挑戦者が勝った!」

 

歓声が爆発した。

 

だが、結絆の表情は冷めていた。

 

拳に付いた血を拭いながら、静かに呟く。

 

「自分たちが安全な場所にいるとは思わないことだねえ......」

 

「ここからは、後処理の時間だな」

 

天城が笑いながら結絆の肩を叩いた。

 

「天城、テリー、ここを潰したらゆっくり休もうねえ」

 

結絆によって"テリー"と名付けられた巨大ナマケモノは低く唸り、結絆の横に並ぶ。

 

テリーは結絆たちに恩を返すべく、やる気のある表情を見せる。

 

そして、コロセウムの崩壊が始まった。

 

地下の爆薬が次々と爆ぜ、観客たちが悲鳴を上げて逃げ出す中、結絆と天城は炎に照らされながら歩き出す。

 

背後で崩れ落ちる施設を一瞥し、結絆は呟いた。

 

「派手な幕引きだねえ......まあ、悪くないか」

 

夜空を焦がす炎の中、結絆たちは次なる標的を定めて動き出す。




結絆のマジックシアターの動物園エリアにいる巨大ナマケモノは、ここからやってきたという感じです。

天城は原作キャラを登場させにくい場面で使えるので、便利なキャラだと思ってます。
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