食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回で過去編は終わりです。

過去編とは言いつつ、最後に未来の話も少し入れてます。


最後の標的

 学園都市第十六学区、商業区画のネオンの海の奥底に、ひときわ異様な輝きを放つ高層ビルがあった。

 

その名は《ゴルディオン》。

 

表向きは高級社交クラブだが、裏では世界中の権力者と犯罪者が集う最後の違法カジノとして知られていた。

 

夜、結絆と天城はその煌びやかな門をくぐる。

 

外壁は純金を思わせる金属光沢で覆われ、天井から吊るされたシャンデリアには実際に金粉が散りばめられている。

 

中に足を踏み入れた瞬間、空気が違った。

 

香水とシャンパン、そして欲望の匂いが渦巻いていた。

 

「......すげぇな。まるで世界中の腐った金持ちを一箇所に集めたみたいだ」

 

天城が眉をひそめる。

  

「ここを潰せば終わりだねえ、最後の違法カジノ......気を引き締めて行くよお」

 

結絆は肩をすくめ、薄く笑った。

 

 

 

 ホールの中央では、各国の要人たちがギャンブル卓を囲んでいた。

 

西欧の貴族のような老人、アジアの財閥の後継者、軍服を着た将軍、そして学園都市の外部から密かにやってきた政治家たち。

 

彼らはカードを切りながら、裏で取引を進めている。

 

「貴国の資源は、次の政権交代でどうなる?」

 

「その情報なら、ブラックチップ三枚分の価値がある」

 

そんな会話が、ワインの泡のように弾けては消えていく。

 

金だけでなく、国家の命運すら賭けにされる。

 

それが《ゴルディオン》の真の価値だった。

 

結絆はグラスを片手にホールを歩きながら、さりげなく周囲を観察していた。

 

彼の瞳は、どんな装飾よりも鋭く輝く。

 

「金の匂いは強烈だねえ......でも、それ以上に嫌な予感がするよお」

 

「なあ結絆、ここのオーナーは何者なんだ?」

 

「“錬金王(アルケミア)”だよお。物質変換系の能力者。触れたものを本物の黄金に変える能力だねえ」

 

天城の問いに、結絆は小さく笑う。

 

その時だった。

 

悲鳴がホールの奥から響いた。

 

「お願い、もう一度だけチャンスを......!」

 

声の主は一人の女性だった。

 

華やかなドレスに身を包んでいるが、その表情は絶望に染まっている。

 

テーブルには崩れ落ちた山のようなチップが散乱し、周囲の客は見て見ぬふりをしていた。

 

「全財産、すったんだな」

 

天城が呟く。

 

黒服の男たちがその女性の腕をつかみ、無言で立ち上がらせた。

 

「離して......!お願い、私はまだ......」

 

悲痛な声は、チップの音と歓声にかき消されていく。

 

二人はそのまま、興味を装いながら後をつけた。

 

黒服たちは女性を廊下の奥、金色の扉の向こうへと連れて行く。

 

扉の上には、奇妙な掛け軸があった。

 

“敗者は財産とともに永遠となる”それが、このカジノの掟らしい。

 

中に入ると、空気がひやりとした。

 

そこはまるで博物館の展示室のようだった。

 

壁際に並ぶのは、人の姿を模した黄金像。

 

よく見ると、それは黄金を模したものではなく、黄金に変えられた人間そのものだった。

 

金属の冷たい光沢の中に、驚き、恐怖、懇願、それぞれ違う表情が刻まれている。

 

女性は叫んだ。

 

「いやっ、やめて!助けてっ!」

 

すると、奥から一人の男が歩み出てきた。

 

長身で、金糸のような髪をオールバックにし、真っ白な燕尾服をまとっている。

 

指には幾つもの金の指輪がはめられていた。

 

「チャンスをくれ、だと?それなら、お前自身が賭けの対象になればいい。運が良ければ立ち直れるかもしれんがな」

 

男は笑いながら、女性の頬に触れた。

 

その瞬間。

 

“ジャリッ”という音が響き、女性の肌が黄金に変わっていく。

 

恐怖に見開かれた目も、涙も、そのまま固まり、動かなくなった。

 

まるで時間ごと閉じ込めたかのように。

 

「芸術とは、永遠であってこそ価値を持つ」

 

男《ゴルディオン》のオーナー、アルケミアが静かに言った。

 

その声には陶酔と誇りが混じっていた。

 

「......悪趣味だねえ」

 

結絆は、その光景を黙って見つめたまま、低くつぶやいた。

 

アルケミアは振り返り、冷たい微笑を浮かべる。

 

「ほう、批評家のつもりか?この美を理解できぬとは、貧しい精神だ」

 

「美?人間を金に変えることかい?」

 

結絆の声がわずかに低くなる。

 

「おい結絆、どうする?」

 

 天城が一歩前に出る。

 

「言うまでもないねえ。ここを潰す。」

 

結絆はにやりと笑った。

 

「最近カジノが次々と消されているとは聞いていたが......ほう、貴様ら......学園都市の掃除屋か?」

 

アルケミアの瞳に鋭い光が宿る。

 

「まあ、似たようなもんだよお。俺の夢のために消えてほしいねえ」

 

その言葉に、アルケミアは深い笑みを浮かべる。

 

結絆はゆっくりと手を上げた。

  

「さあ、ラストショーを始めようかあ!」

 

静かな空気が一瞬で張り詰める。

 

まるで黄金の檻の中で、獣が牙を剥く直前のように。

 

《ゴルディオン》最後の夜が、幕を開けた。

 

 

 

 結絆たちの目の前で、金属が軋むような音が響いた。

 

二人の前にいるアルケミアの瞳は琥珀のように冷たく光り、口元には余裕を湛えた笑みが浮かんでいる。

 

「君たちがどれだけ力を振るおうと、私の“創成”は無限に続く」

 

その言葉と同時に、アルケミアの掌から黄金の光があふれ出した。

 

地面に走る魔法陣のような紋が輝き、そこから音もなく兵士たちが立ち上がっていく。

 

彼らはすべて人の形をしているが、肌の代わりに鈍く輝く金属が覆っていた。

 

まるで生きた彫像。

 

金属の鎧を纏い、武器はアルケミア自身の能力で生み出された黄金の剣と槍だ。

 

「金属兵......全部お前の造形かあ」

 

結絆が低く呟くと、天城が隣で刀を抜いた。

 

刃が外の月光を反射して煌めく。

 

「こいつら、ただの人形じゃない。動きが滑らかすぎる......!」

 

「そうだとも」

 

アルケミアは楽しげに笑う。

 

「彼らは私の意志の延長だ。肉体を持たずとも、私が望むままに動く兵。命ある者など、私にとって不完全だ」

 

その瞬間、兵士たちが一斉に動き出した。

 

足音が重く地面を打ち、黄金の槍が風を裂く。

 

数体の兵士が突進し、槍を結絆と天城へ突き立てる。

 

結絆は間一髪で身体を傾け、槍先をかわすと同時に相手の腕を掴み、反動で地面に叩きつけた。

 

金属音が鳴り響き、火花が散る。

 

だが、すぐ背後から別の兵士が剣を振り下ろす。

 

結絆は倒れた兵士の槍を奪い、そのまま水平に薙いで迎撃した。

 

ガァン、と甲高い音が鳴り、火花が宙を走る。

 

一方、天城も冷静に敵を倒していた。

 

剣戟の合間を縫うように動き、敵の懐に滑り込むと、鋭い一閃で兵士の関節を断ち切る。

 

金属の腕が宙を舞い、続けざまにもう一体の腹部へ能力を纏った蹴りを叩き込む。

 

だが倒れた兵士は血を流す代わりに、破損箇所から液体金属のような光を溢れさせながら再生していく。

 

「チッ、再生まで......!」

 

「傷ついても何度でも再生する永遠の美、それが私の芸術だよ」

 

アルケミアの声が冷たい愉悦を帯びる。

 

結絆は兵士たちを薙ぎ払いながら、天城に短く告げた。

 

「一気に潰す、天城。連携だよお」

 

「了解!」

 

二人が同時に踏み出す。

 

結絆は槍を逆手に構え、兵士の列の中心へ突進した。

 

天城はそれを追うように跳躍し、上から斬り下す。

 

その瞬間、結絆が槍を地面に叩きつけ、衝撃で砂塵が爆ぜた。

 

視界を奪われた兵士たちが立ち止まる。

 

そこへ天城の刀が閃光のように走り、数体の兵士が同時に崩れ落ちた。

 

「終わりだよお!」

 

結絆が叫び、槍を回転させて最後の一体の胴を貫いた。

 

金属の身体が砕け、音を立てて崩れる。

 

......しかし、静寂は訪れなかった。

 

アルケミアが両腕を広げ、口元に狂気じみた笑みを浮かべていた。

 

「やはり、君たちは面倒だ......絶望を感じさせない精神。しかし......」

 

足元の地面が震え、崩れた兵士の残骸が黄金色の液体に変わり始めた。

 

「創造の極致とは、“永遠”だ。朽ちることを許さぬ不変の形。それが黄金!」

 

周囲の床、壁、天井までもが黄金に染まっていく。

 

金属光沢が波のように広がり、テーブルや椅子、シャンデリアが一瞬で純金に変わっていった。

 

「こいつ......止まらねえぞ!」

 

天城が焦りの声を上げる。

 

「逃げられると思うなよ、食蜂結絆!」

 

アルケミアが叫ぶ。

 

「君の肉体も精神も、私の黄金で永遠に保存してやる!」

 

その言葉と同時に、黄金がうねり、まるで津波のような高波となって押し寄せてきた。

 

壁を砕き、天井を突き破りながら、金色の奔流が全てを呑み込もうとする。

 

結絆は周囲を見渡す。

 

崩れた壁のそばに、飾りのために立てかけられていた古びた剣があった。

 

結絆はそれを素早く手に取ると、深く息を吸い込んだ。

 

「天城、一気に抜けるよお!」

 

次の瞬間、結絆が全身の力を解放し、剣を縦に振るう。

 

耳をつんざく破裂音と共に、黄金の波が一瞬にして裂け、眩い光が走る。

 

黄金の波の裂け目を利用して二人は攻撃を回避した。

 

その後、黄金の高波はそのまま背後の壁を飲み込み、観光客たちが避難しきれずに飲み込まれていくのが見えた。

 

彼らの叫びが途切れ、瞬く間にその身体が黄金へと変わり、動きを止める。

 

まるで時間が凍りついたかのように。

 

「少しでも触れたら黄金にされるのかよ!」

 

天城が歯を食いしばる。

 

結絆は黄金の像となった人々を一瞥し、拳を強く握った。

 

「アルケミア......お前の“永遠”ってやつは、ただの地獄だよお」

 

黄金の波の向こう、アルケミアはゆっくりと歩みを進めてきた。

 

金色の光に照らされ、その姿はまるで神像のようだ。

 

「地獄だと?違う。これこそが救済だ。老いも痛みも、恐怖もない永遠の美......」

 

「......救えないねえ」

 

結絆は剣を構え直し、黄金に染まる空間の中で、再び前へと踏み出す。

 

その足元で、黄金の波が再び蠢き始める。

 

結絆と天城は再び突進した。

 

 

 

 戦場はすでに、純金の牢獄と化していた。

 

輝きの中で二人の影が交錯し、アルケミアの狂気がその輝きに溶けていく。

 

人々の悲鳴も、かつての街の音も、もう何一つ残ってはいなかった。

 

ただ、金色の光だけが、すべてを覆っていた。

 

崩れ落ちた建物の瓦礫の上で、黄金の光が再び脈動する。

 

結絆と天城は身構えたまま、その眩い輝きを睨みつけた。

 

金属そのものが呼吸するようにうねり、液体のような動きを見せながら一つの巨大な形を作り始めている。

 

「......まさか、あれを纏う気かよ」

 

天城が息を呑む。

 

黄金の波はうねりながら人の形を取り始めた。

 

先ほどまで人々だったもの、崩れた建物、家具、床、そのすべてが吸い込まれ、やがて二十メートルを超える巨体が出現する。

 

その中心、胸部の奥にアルケミアの姿が見えた。

 

両腕を広げ、笑みを浮かべたまま、金属の心臓に飲み込まれていく。

 

「美しい......これこそ、私の完成形!」

 

巨人の瞳が輝き、周囲を焦がす熱波が吹き荒れる。

 

「行くよお、天城!」

 

結絆が叫び、二人は同時に地を蹴った。

 

黄金の巨人が腕を振り下ろす。

 

地響きが轟き、破片が嵐のように飛び交った。

 

結絆はその一撃をギリギリでかわし、足元を滑るようにして懐へ飛び込んだ。

 

剣を構え、膝の関節を狙って斬りつける。

 

金属と金属がぶつかる高音が鳴り、火花が散った。

 

だが刃は浅くしか入らない。

 

巨人の足はまるで鋼鉄の壁のように硬かった。

 

「黄金にしては硬すぎるねえ......これじゃ、表面を削るのがやっとかあ」

 

「じゃあ、削り続けるしかねえな!」

 

天城は跳躍して巨人の腕に取りつき、刀を連続で振るう。

 

金属片が飛び散り、黄金の光が漏れ出す。

 

だが巨人は痛みを感じることもなく、振り払うように腕を振った。

 

天城の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 

「天城、大丈夫かい」

 

「壁張ってなかったら死んでたな、やばいぞ」

 

天城のもとへ結絆は駆け寄ろうとするが、その前に巨人の拳が落ちてくる。

 

結絆は身を翻して避け、瓦礫を蹴って距離を取った。

 

その間にも巨人の拳が地面を砕き、黄金の破片が雨のように降り注ぐ。

 

「食蜂結絆......理解しろ。抵抗は無意味だ。お前の肉体も精神も、いずれこの“永遠”の中に組み込まれる」

 

アルケミアの声が、巨人の胸部から響く。

 

その圧倒的な威圧感に、空気すら震えるようだった。

 

結絆は息を整えながら剣を構え直す。

 

「......確かに、お前の能力は凄いけどねえ。俺の“自己制御”には遠く及ばないよお。お前の“黄金”を少し、分けてもらうよお」

 

結絆は、血流、神経、筋繊維、細胞の活動すべてを制御し、外界の構造情報を取り込む。

 

アルケミアの能力を解析し、その制御信号を再現するように脳が命令を再構成した。

 

「!?」

 

アルケミアの声が揺らぐ。

 

巨人の左腕が、突如として制御を失い、止まった。

 

金属の流れが乱れ、光が不安定に瞬く。

 

結絆の身体に、黄金の粒子がまとわりつく。

 

まるで同じ“創成の権限”を共有するように、黄金の構造が彼の指先に反応していた。

 

「これで不利じゃなくなったねえ」

 

結絆が足を踏み出す。

 

黄金の巨人が再び動こうとするが、その一部は結絆の意思に従い、逆流した。

 

右腕が暴走し、アルケミア自身を圧迫するように締め上げる。

 

「バカな......私の支配が、奪われるだと!?」

 

「さあて、そろそろ年貢の納め時だよお」

 

結絆は地を蹴り、巨人の胸部へと一直線に跳び上がった。

 

黄金の粒子が周囲を覆い、剣身が光を反射して長く伸びる。

 

「天城、今だッ!」

 

「任せろ!」

 

天城は能力で金属の間に空間を作る。

 

金属が悲鳴を上げるような音を立て、巨体が一瞬だけ膝をつく。

 

その隙を逃さず、結絆は胸部の中心——アルケミアの姿が見える場所へ剣を突き立てた。

 

黄金の壁を突き破り、刃が心臓の奥へ届く。

 

アルケミアの瞳が見開かれた。

 

「な......ぜだ......私は......完璧、なのに......」

 

「じゃあ、完璧じゃなかったってことだねえ」

 

結絆の声は静かだった。

 

剣を引き抜いた瞬間、黄金の巨体が崩れ始めた。

 

巨大な音を立て、光の粒子が四方に散っていく。

 

天城が地面に転がりながら結絆を見上げる。

 

「......やった、のか......?」

 

「終わったよお」

 

アルケミアの身体は崩れ、最後には黄金の山に埋もれてしまった。

 

そして、その後に残ったのは、想像を絶する光景だった。

 

建物一つ分の瓦礫がすべて黄金に変わり、周囲には山のような金塊が積み上がっていた。

 

月の光が差し込み、世界そのものが眩い輝きに包まれている。

 

「......まるで、夢みてぇだな」

 

天城が呟く。

 

結絆はその黄金の山を見上げ、静かに剣を地面に突き刺した。

 

「これで、学園都市の違法カジノは全て潰せたねえ。」

 

 

 

 結絆は、これまで潰した違法カジノで手に入れた資金を元に自身のマジックシアターの拡大に努めた。

 

カジノやバー以外にも、動物園エリアや水族館エリアや植物園エリアなどの幅広い層が楽しめる施設も作り、結絆はさらに莫大な富を手に入れる。

 

そして5年後......

 

「結絆さん、ようやくここまで来ましたね」

 

結絆の隣に立つ天城は数多の修羅場を潜り抜けてきただけあって、顔だちも以前と比べて随分と大人びている。

 

「学園都市の統括理事長になれて、世界経済の掌握もできたからねえ。魔神への対抗策も揃ってるから、これでようやく平和を楽しめる。」

 

結絆は高校卒業後はマジックシアターの経営をしつつ、分身体を使って様々な国の大学へ進学、大学生活を楽しみながら恋人たちとの時間も大切にしていた。

 

そして、マジックシアターは敷地を学園都市の地下にまで広げ、連日多くの人で賑わっていた。 

 

結絆たちが全てを手に入れるのは、本編よりも少し先のお話。




ストックが尽きたので毎日更新は終わります。

天賦夢路や神の右席の話は少し考えているので、気が向いたら更新していきます。
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