マジックシアター地下、関係者以外立ち入り禁止区域。
そこにある技術部フロアは、いつもより賑やかだった。
「......で、この波形を安定させると、夢の再現性が一気に上がるんだよお」
大型モニターの前で説明しているのは、食蜂結絆だった。
彼の周囲には、技術部のスタッフや協力している研究者たちが集まっている。
話題になっているのは、新しいタイプのインディアンポーカー。
従来の他者の夢を体験できるタイプとは違った、能力開発に特化したカードだった。
「高位レベルの能力者が、自分の能力の使い方を“感覚ごと”解説する......ですか」
技術部の一人が、興味深そうに呟く。
「そうそう。ただ見るだけじゃなくて、考え方とか、力の流し方とかねえ。夢の中なら現実世界よりも自由が利くからねえ。能力が暴走しても怪我をする心配もないよお」
すでに試作段階は終わっていた。
ひとつは、レベル4以上の能力者が登場し、自分の能力を使う際のコツや注意点を丁寧に解説するインディアンポーカー。
もうひとつは、さらに挑戦的だった。
「“自身の能力と違う系統の能力”を体験できるものですね」
「疑似的に、だけどねえ」
結絆は軽く指を鳴らす。
「例えば、発火能力者じゃない人が、発火能力の感覚を夢の中で体験する。別の能力に触れてみることで、何か変化があるのかもしれないからねえ」
能力そのものを現実で使えるようになるわけではない。
だが、夢の中だけでも様々な能力を使うことができれば楽しいこと間違いなしである。
「無能力者でも......?」
「低位能力者でも......?」
スタッフの問いに、結絆ははっきりと頷いた。
「うん。むしろ、そういう人たちのためのカードだよお」
数日後。
試験的に配布されたインディアンポーカーは、予想をはるかに超える反響を呼んだ。
「やばい......夢みたい......」
「能力者って、こんなふうに考えてたのか......」
無能力者たちは、夢の中で高位能力者の隣に立ち、説明を受けながら能力行使の流れを体験する。
低位レベルの能力者たちは、自分よりはるかに洗練された能力を目の当たりにし、目を輝かせた。
「同じ能力なのに、出力が全然違う......」
「力を出す前の準備が、こんなに大事だったなんて」
中には、普段は縁のない系統である空間移動などを体験するカードもあった。
「自分には無理だと思ってたけど......」
「使えない能力でも、理解できるって、面白い......」
夢から覚めたあとも、その余韻は消えなかった。
マジックシアターには、感想が次々と届く。
『能力開発で行き詰っていたけど、前向きに感じられるようになった』
『自分は無能力者だけど、学園都市が少し好きになった』
『能力を持ってる友達の話が、ちゃんと分かるようになった』
技術部の一角で、それらの声をまとめたレポートを見ながら、スタッフの一人が感嘆の息を漏らす。
「......大絶賛ですね」
「ここまで評価されるとは」
「学校での能力開発のカリキュラムにも組み込まれるみたいですよ!」
結絆はモニターを眺めながら、ゆったりと笑った。
「能力ってさあ、強さだけじゃないんだよねえ。考え方とか、工夫とか......それを知るだけでも、世界は変わる」
結絆自身、疑似的な多重能力者として様々な能力を使える魅力については誰よりもわかっていた。
そして、インディアンポーカーは、ただの娯楽ではなくなりつつあった。
無能力者と能力者、低位能力者と高位能力者。
その間にあった見えない壁を、夢の中から少しずつ溶かしていく。
そんな役割を担い始めていた。
「さあて......次はどんなカードを作ろうかなあ」
マジックシアターの技術部で、静かに、しかし確実に、新しい“夢”が形になっていくのだった。
次回は半分番外編みたいな話です。