食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回は、当麻と操祈の話もあります。


恋人たちとの海、その3

 穏やかな波音が寄せては返し、白い砂浜に静かなリズムを刻んでいた。

 

強すぎない日差しと、海から吹き抜ける風が心地よい午後。

 

上条当麻と食蜂操祈は、浜辺で砂蒸し風呂を楽しむことにしていた。

 

「ねえ当麻、せっかく南の島まで来たんだから、こういうのも体験しないと損よねぇ」

 

操祈は麦わら帽子を押さえながら、楽しそうに微笑む。

 

「そうだな!でも砂蒸し風呂って、掘るのが大変なんじゃないのか?」

 

当麻が周囲を見回すと、操祈はにっこりと意味深な笑みを浮かべた。

 

「そのためにぃ......お兄様の力を借りるのよぉ」

 

操祈が指を鳴らすと、結絆の分身体が現れた。

 

「呼ばれたよお。砂蒸し風呂だって聞いたけど、穴掘り係かなあ?」

 

「二人分、景色のいい場所で頼んだわよぉ」

 

「任せてよお、ちょっと待っててねえ」

 

結絆の分身体は軽く手を振ると、砂浜にしゃがみ込み、驚くほど手際よく砂を掘り始めた。

 

崩れないように角度を調整し、背中を預けられる形に整え、あっという間に理想的な砂蒸し風呂用の穴が完成する。

 

「相変わらず仕事が早え......」

 

当麻が呆然と呟くと、操祈はくすくす笑った。

 

「ありがとう、お兄様♪さ、当麻。行きましょぉ」

 

二人は穴に横になり、結絆の分身体が砂を優しくかけていく。

 

顔の部分だけは空けられ、視界の先にはきらきらと輝く海が広がっていた。

 

「おっ......じんわり温かいな」

 

「血行が良くなるのよぉ。快適力が高いから、しばらく寛ぎましょぉ」

 

砂の重みと温もりが体を包み込み、自然と肩の力が抜けていく。

 

「こうして海を見ながらのんびりしてると、肩の力が抜ける感じがするわぁ」

 

「最近、慌ただしかったからな......こういう時間があると、気分が安らぐぞ」

 

二人は他愛のない話を続けた。

 

先日のイタリア旅行のこと、この島での出来事、学園都市では味わえない静けさ。

 

波の音が会話の合間を埋めていく。

 

と、その時だった。

 

ぷかり、と海面に浮かんでいた影が、波に乗って浜辺へ近づいてくる。

 

「......なあ操祈」

 

「どうしたの、当麻?」

 

「なんか、頭の上が重いんだが......」

 

次の瞬間、操祈の視界に飛び込んできたのは、当麻の頭にぺたりと乗っかる一匹のタコだった。

 

吸盤が髪にしっかり吸い付き、まるで最初からそこにいたかのように落ち着いている。

 

「......っ、なにそれ......!」

 

一瞬きょとんとした操祈は、次の瞬間、耐えきれずに吹き出した。

 

「ふ、ふふ......当麻......タコ......っ!似合いすぎ......!」

 

「はあ!?ちょ、笑ってないで取ってくれ!」

 

当麻が慌てて動こうとするが、砂に埋まっているため身動きが取れない。

 

タコはそんなことお構いなしに、のんびりと頭の上でくつろいでいる。

 

「だ、だめ......っ、無理......!」

 

操祈は腹を抱えて笑い、涙まで浮かべていた。

 

「もう......不幸だ......」

 

「不幸体質もここまで来ると芸術ねぇ......!」

 

暫くするとタコは何事もなかったかのように、再び波間へ消えていった。

 

「......最悪だ」

 

ため息をつく当麻に対して、操祈は当麻の方を見て微笑んでいる。

 

そして再び静かな時間が訪れる。

 

砂の温もりと潮風、そしてささやかな笑い声。

 

「なあ操祈、こういう時間を大切にしたいよな」

 

「ええ......私もそう思うわぁ」

 

砂蒸し風呂の中、二人は並んで海を眺めながら、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。

 

島の空は青く、波は変わらず穏やかに寄せては返していた。

 

 

 

 空が赤く染まり始めた頃、結絆は完成したばかりの小屋の前に立ち、皆を迎えていた。

 

潮風に揺れる松明の明かりが、砂浜と木造の壁を温かく照らしている。

 

「さあさあ、こっちだよお。今日の宿はここになるからねえ」

 

結絆の声に応えるように、恋人たちや当麻、操祈が次々と集まってきた。

 

当麻は小屋を見上げ、言葉を失う。

 

「キャンプって聞いてたんだが......これ、完全に合宿所じゃねえか」

 

「ふふ、お兄様らしいわぁ」

 

操祈はくすりと笑い、小屋の中を覗いた。

 

「10人どころじゃなくて、もっと泊まれそうじゃなぁい」

 

「皆でゆっくりできる場所が欲しかったからねえ」

 

結絆は照れたように笑いながら扉を開ける。

 

中は広々としており、床は丁寧に整えられ、壁際には荷物を置ける棚まで作られていた。

 

「流石結絆さんです、ここなら全員でくつろげますね!」

 

「結絆様と一緒に海を見ながら過ごせるなんて......白羽は感激です」

 

帆風と白羽は、結絆の腕に抱き着きながら嬉しそうな表情をしている。

 

「でしょお?美管たちと頑張ったよお」

 

結絆はそう言って、浜辺の方へ視線を向けた。

 

「さて、次は夕ご飯だねえ」

 

 

 

 焚き火用に組まれた石のかまどの前で、結絆は釣りで得た魚を次々と並べていく。

 

小魚、大ぶりの白身魚、そしてあの巨大な魚まで、見事なラインナップだった。

 

時空間の原典の力によって鮮度はバッチリである。

 

「結絆クン、大量に釣ってたわよねえ」

 

蜜蟻は先ほどまでの船上デートを振り返る。

 

「結絆君、期待してるわよ」

 

沙羅も空間移動で結絆のサポートをしている。

 

「任せてよお」

 

結絆は包丁を手に取り、迷いのない手つきで魚に刃を入れた。

 

鱗を落とし、内臓を処理し、三枚におろしていく動きは流れるようで、まるで職人のようだった。

 

「本当に無駄のない動きですの......」

 

黒子が思わず呟く。

 

「結絆は逆に何ができないのか気になるわね」

 

美琴は自分の倍以上のスピードで魚をさばく結絆を見て複雑な表情をしている。

 

「え、ちょっと待って。結絆って、こんなことまでできたの?」

 

フレンダが身を乗り出す。

 

「料理の腕前は、私達よりも結絆さんの方が上ですね」

 

「超見事な包丁さばきです」

 

入鹿や絹旗も真剣な眼差しで見つめていた。

 

そして、魚がさばかれるたびに、周囲から歓声や感嘆の声が上がる。

 

結絆はそれを聞きながら、楽しそうに手を動かし続けた。

 

「次は火起こしだねえ。潤子、お願いできるかなあ」

 

「はい、任せてください」

 

帆風たちは手分けして動き始める。

 

乾いた木を組み、火打石で火花を散らす。

 

やがて、ぱちぱちと音を立てて炎が上がった。

 

「いい感じですね」

 

帆風は満足そうに頷く。

 

「では、こちらで焼き魚を。木の実はスープにしましょう」

 

「おお、段取りいいな」

 

米を炊いていた当麻は感心したように言う。

 

「ふふ、皆でやるから楽しいのよねぇ」

 

操祈はそう言いながら、野菜や木の実を並べていく。

 

結絆がさばいた魚は、塩を振られ、炭火の上へ。

 

適度に脂が落ちて炎が上がり、香ばしい匂いが浜辺に広がった。

 

別の鍋では、木の実と野菜、魚のアラを使ったスープが煮込まれている。

 

「......これはもう、キャンプ飯の域を超えてるわねぇ。」

 

操祈が微笑む。

 

「高級リゾートのディナーみたいだよ!」

 

「そう言われると照れるねえ」

 

結絆は頬をかきながら、最後の大魚を切り分けた。

 

「皆で食べる食事が一番のごちそうだからねえ」

 

 

 

 やがて、即席とは思えないほど豪華な料理が完成した。

 

焼き魚、煮魚、スープ、木の実を使った付け合わせ。

 

焚き火の明かりに照らされ、どれも美味しそうに湯気を立てている。

 

「いただきます!」

 

その声を合図に、全員が食事を始めた。

 

先ほど結絆に木の実を届けてくれた動物や鳥たちも、調理された食材をおいしそうに食べている。

 

「......うまっ」

 

当麻が素直に声を上げる。

 

「皆で作っただけあってとてもおいしいです」

 

「結絆さん、大成功ですね!」

 

帆風は上品に微笑みながら箸を進める。

 

「お兄ちゃん、美管、とっても楽しいよ!」

 

焚き火を囲み、笑い声が夜の浜辺に響く。

 

星空の下、潮風と炎の温もりに包まれながら、結絆はその光景を静かに見渡した。

 

「幸せな時間を大切にしたいねえ」

 

その呟きは、波の音に溶けていった。

 

大きな小屋と、豪華なキャンプの夜。

 

島の一日は、穏やかな余韻とともに更けていった。

 

 

 

 食事を終えたあと、焚き火は小さくなり、ぱちぱちという音だけが残っていた。

 

夜空には雲ひとつなく、遥か彼方には無数の星が瞬いている。

 

結絆たちは小屋の前に敷いたシートや丸太に腰を下ろし、自然と空を見上げていた。

 

「......きれい」

 

誰かが小さく呟いた。

 

学園都市では見られないほどの星の数だった。

 

はるか遠くの銀河が淡く光り、数多の星々がまるで手を伸ばせば届きそうな距離にある。

 

操祈は当麻の隣に座り、静かに息をつく。

 

「こんな星空、なかなか見れないわよぉ。時間が止まったみたいだわぁ」

 

「だな......」

 

当麻も同じように空を見上げる。

 

「潤子ちゃん、あの星、凄い輝きねえ」

 

帆風や蜜蟻たちは焚き火の名残で手を温めながら、星座を探している。

 

そして、フレンダや絹旗は寝転がり、結絆の腕を枕にして夜空を独占するように眺めていた。

 

「ねえねえ、あれって有名な星じゃない?」

 

「多分超違うと思います」

 

「ちょっ!?ひどくない?」

 

そんなやり取りを、結絆は微笑ましく見ていた。

 

潮風が優しく吹き、波が規則正しく砂を撫でる。

 

そのすべてが、胸の奥を穏やかに満たしていく。

 

と、その時だった。

 

「あっ!」

 

誰かの声と同時に、夜空を一本の光が走った。

 

「お兄ちゃん、流れ星!」

 

「本当だねえ!」

 

細く、けれど確かな光が弧を描き、星の海を横切っていく。

 

「願い事、願い事!」

 

操祈が慌てて目を閉じ、当麻も条件反射のように口を閉ざす。

 

ところが......

 

「......え?」

 

光は消えなかった。

 

二本目、三本目。次々と流れ星が現れ、まるで夜空が祝福するかのように輝き続ける。

 

「ちょ、ちょっと待って......まだ終わらないんだけど」

 

「流星群......ですか?」

 

帆風が驚いたように呟く。

 

五分、十分――それでも星は流れ続けた。

 

「......ねえ、これ長くない?」

 

フレンダが半身を起こし、空を睨む。

 

「流石に10分以上も願い事してたら、願うこともなくなるってわけよ......」

 

「超わかります」

 

絹旗が真顔で頷いた。

 

「最初は健康とか幸せとかだったのに、今はもう何願えばいいか超迷ってます」

 

「......さっきから同じ願いを何回も言ってるのを聞いてるんだけど」

 

警策がぽつりと言い、周囲が小さく笑った。

 

その中で、結絆は静かに立ち上がり、再び空を見上げた。

 

長く続く流れ星の帯は、どこか現実離れしていて、それでも確かにここにある奇跡だった。

 

(願い事、かあ......)

 

結絆は目を閉じる。

 

(これからも、恋人たちや仲間たちと皆で笑って、こうして同じ空を見上げて幸せに過ごせますように)

 

言葉にすればそれだけだった。

 

でも、その願いは胸の奥から自然と溢れ出てきたものだった。

 

やがて、流れ星は少しずつ数を減らし、夜空は元の静けさを取り戻していく。

 

「......終わっちゃった?」

 

「みたいだねえ」

 

「はぁ......疲れた」

 

フレンダが再び寝転がる。

 

「流れ星はきれいだったけど、願い事マラソンはもう勘弁してほしいってわけよ」

 

「綺麗でよかったじゃない」

 

沙羅が穏やかに微笑む。

 

「忘れられない夜になりましたね!」

 

白羽の言葉を聞いた結絆は小さく頷き、皆の姿を見渡した。

 

「本当に、いい夜だねえ」

 

星空の下、波の音と微かな笑い声が重なり合う。

 

その時間は、誰の願いよりも確かな形で、彼らの心に刻まれていった。




次回も番外編の続きですが、展開が変わります。
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