流星群が収まった後、浜辺には再び静かな夜が戻ってきた。
焚き火の残り火がぱちりと小さく弾け、遠くで波の音が反響する。
「先ほどは見事な流星群でしたね......」
帆風が名残惜しそうに空を見上げた、その瞬間だった。
ふっと、星空の一角が歪む。
夜の闇を裂くように、一本の光が浜辺へと降り注いだ。
「な、何あれ!?」
フレンダが反射的に結絆の腕を掴む。
光は流れ星とは明らかに違っていた。
一直線に落ちてくるのではなく、ゆっくりと、まるで意思を持つかのように結絆たちの前で停止し、そこから球状に広がっていく。
「......これは流れ星じゃないねえ、人の気配もする」
結絆は落ち着いた声で呟き、自然と一歩前に出ていた。
次の瞬間、光の中から二つの人影が現れる。
一人は、結絆よりもさらに背が高い。
筋肉のついた長身であり、その身長は優に二メートルはあるだろう。
鋭さと気品を併せ持った金髪碧眼の青年で、背中に大きな剣を携えたその佇まいにはどこか王者の風格があった。
もう一人もかなりの高身長で、こちらは百九十センチほど。
精悍な顔立ちの中に、どこか人懐っこい雰囲気を纏っている。
無駄な部分がないしなやかな体つきだった。
「......ようやく来れたか」
金髪の青年が静かに言う。
結絆は、二人を見た瞬間に理解していた。
驚きよりも先に、確信が胸に落ちる。
「なるほど、君たちは......俺の、子供だねえ」
その言葉に、周囲が一斉に息を呑む。
「えっ!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
美琴が声を裏返す。
「子供って、将来のってこと!?」
青年たちは視線を合わせ、頷いた。
「俺は、父さんとキャーリサ母さんの息子だ」
二メートルの青年が名乗る。
その声は低く、よく通る。
「身長は......まあ、見ての通り二人の遺伝だ」
結絆もキャーリサも長身である。
世界一の大富豪である結絆のもとで育てば、そこまで大きくなるのも納得はできる。
「で、俺は父さんと帆風母さんの息子!」
もう一人が少し照れたように笑う。
「背は兄さんより低いけどさ」
「二人とも十分すぎるほどデカいってわけよ......」
フレンダが半ば呆然と呟く。
結絆自身も百九十センチを超える長身であるが、それにしても結絆の子供たちは大きすぎる。
帆風は、二人の青年を見て、柔らかく微笑んだ。
「優しそうな目......結絆さんに似たんですね」
息子たちは軽く微笑んだ後に頭を下げると、真剣な表情に切り替わった。
「本題はここからだ、父さん」
キャーリサの子は続ける。
「父さんは、今後“魔神”と正面からぶつかることになる。そのためには、今のままじゃ足りない。対抗できる力を、ちゃんと得てほしい」
「未来じゃ、それが分かってるからね」
帆風の子も同意する。
浜辺の空気が一気に張り詰めた。
「魔神......かあ。あの王冠を早めに取りに行った方がいいかもしれないねえ」
結絆は顎に手を当て、少しだけ笑う。
「それだけじゃない」
二人は同時に当麻の方を見た。
「当麻おじさん」
キャーリサの子が淡々と言う。
「おじさんは数か月以内に、何回か死ぬことになる」
「え゛っ!?」
当麻は変な声を上げた。
「でも全部、蘇るから安心してね。未来では皆から好かれるヒーローみたいな存在になってるからさ」
帆風の子がさらっと付け足す。
「いやいや、軽く言うなよぉぉ!!」
当麻は頭を抱えてしゃがみ込む。
「何回かって何だよ!一回でも嫌だぞ俺は!!」
「ふふっ......相変わらず不憫ねぇ、当麻」
操祈が当麻の肩を撫でながら笑う。
結絆はそんな光景を見渡し、ゆっくりと息子たちに視線を戻した。
「......分かったよお」
穏やかだが、覚悟のこもった声だった。
「俺は、守りたいものが沢山あるからねえ。恋人も、仲間も、家族も......そして、未来の息子たちも」
焚き火の残り火が、ぱちりと音を立てる。
星空の下、過去と未来が交差する浜辺で、結絆は確かに次の一歩を踏み出そうとしていた。
焚き火の余熱が残る浜辺で、キャーリサの子は静かに結絆を見据えた。
その金色の瞳には、迷いも遠慮もない。
「父さん、手合わせがしたい」
その一言で、場の空気が変わる。
「......いきなりだねえ」
結絆は苦笑しつつも、その目は真剣だった。
「理由、聞いてもいいかなあ?」
「今の父さんが、どれほどの強さか確かめたい」
彼は背中に背負った巨大な剣へと手を伸ばす。
「そして、俺自身も力を試したい」
そう言ってキャーリサの子は一歩前に出る。
「操祈たちを巻き込むわけにはいかないねえ」
結絆は周囲を見回し、沖合に浮かぶ無人島へと視線を向けた。
「場所を変えようかあ」
次の瞬間、結絆とキャーリサの子の姿は水面を蹴って消え、無人島へと移動する。
少し遅れて、帆風たちも遠目から見守れる位置へと移動した。
無人島は、岩と木が混じる小さな島だ。
月明かりの下、二人は向かい合う。
「じゃあ......始めるよお?」
「承知......」
キャーリサの子は大剣を抜き放った。
月光を反射する刃は、常識外れの大きさだ。
次の瞬間。
――ズンッ!!
結絆のいる方向に向かって大剣が振り下ろされる。
轟音と共に、大地が裂けた。
島の中央から一直線に亀裂が走り、岩盤ごと真っ二つに割れる。
海水がその隙間に流れ込み、白い飛沫を上げた。
「......うそ」
美琴が息を呑む。
「島が......割れたってわけよ......」
フレンダの声が震える。
「結絆さんの腕力を引き継いでいますね」
帆風は、その光景を見つめながら静かに頷いた。
一方、結絆はすでに攻撃範囲から離脱していた。
大剣が地面を割る直前に水面を蹴り、横へと跳ぶ。
「いきなり、豪快すぎるねえ......!」
キャーリサの子はすぐさま剣を横薙ぎに振るう。
風圧だけで木々が薙ぎ倒される。
だが、結絆はいない。
「後ろだよお」
次の瞬間、結絆の拳が青年の脇腹に叩き込まれる。
「ぐっ......!」
鈍い衝撃音が鳴る。
しかし青年は耐え、後退しながら剣を振るって距離を取る。
「......効いてるけど、思ったより手ごたえが無いねえ」
結絆は構えを解かず、呼吸を読むように目を細める。
「剣は重い。振り続ければ、体力が先に削れる。だが、だからこそ、当てる」
キャーリサの子は踏み込み、連続で斬撃を放つ。
縦、横、斜め、どれも一撃必殺級の威力を誇る。
結絆はそれを、紙一重で避け続ける。
「......すごいですの、目では追えませんわ」
黒子が思わず呟く。
「避けながら、動きを分析してるわね。そこが結絆君の恐ろしさよ」
結絆の戦闘スタイルをよく知る沙羅は、この後の展開も読めているかのようにそう呟く。
暫くの間回避に徹した後、結絆は一瞬の隙を見逃さなかった。
「ここだねえ!」
踏み込み、拳を腹部へ。
続けて鳩尾、肩、脇腹を的確に打ち抜く。
「く......っ!」
キャーリサの子は膝をつきかけるが、歯を食いしばって立ち直る。
息を荒げながらも、青年は笑った。
「その戦い方......未来の父さんと同じだ」
「そりゃあ、俺だからねえ」
結絆は拳を下ろし、優しく微笑んだ。
無人島に残る、真っ二つに裂けた大地。
その中央で向かい合う父と子の姿を、恋人たちは息を詰めて見守っていたのだった。
結絆の戦い方は結構えげつないと思ってます。
番外編は次回で終わりです。