食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回からは、0930事件編です。

とは言いつつ、その数日前からスタートします。


0930事件編
ペア契約とまさかのカップル


 マジックシアターの地下空間

 

最近日課になっているトレーニングを終えた御坂美琴は、一枚のチラシをじっと見つめていた。

 

「......ねえ帆風さん、これ見た?」

 

「どれですか、御坂さん?」

 

帆風潤子が覗き込むと、そこには大きな文字で《ハンディアンテナキャンペーン開催中!》と書かれている。

 

個人の携帯電話が簡易基地局の役割を果たし、通信環境を補助する新機能。

 

その下には、さらに目を引く一文があった。

 

「男女ペア契約で限定・ラヴリーミトンゲコ太ストラップ進呈......!」

 

その瞬間、美琴と帆風の視線が、ぴたりと合った。

 

「......行くわよね?」

 

「......行きましょう!」

 

即断即決だった。

 

 

 

 「えっと、なんで俺まで呼ばれたのかなあ?」

 

少し離れた場所で、苦笑いしながら結絆は腕を組んでいる。

 

「ペア契約だからに決まってるでしょ、アンタは......私の彼氏なんだから」

 

「男女のペアということなので、結絆さんとならピッタリです!」

 

「よし、じゃあ早速行こうかあ」

 

結絆は戸惑いを見せつつも、二人の喜ぶ顔を見るために付き合うことにした。

 

 

 

 目的の店は第二十二学区の地下にある。

 

数週間前にシェリー=クロムウェルによって破壊された地下街も、今ではすっかり元通りになり、学生や会社員たちの姿をよく見かけるようになった。

 

店内はキャンペーン目当ての客で賑わっていた。

 

受付を済ませると、まずはハンディアンテナ機能の説明と、ペア契約用の登録手続きに移った。

 

その途中で、店員がにこやかに言った。

 

「記念に、ツーショット写真を撮影できますが、いかがですか?」

 

「撮る!」

 

「お願いします!」

 

二人の声が、見事に重なる。

 

最初は美琴と結絆。

 

美琴はいつもの勝気な表情を少しだけ柔らかくして、結絆の隣に並ぶ。

 

「ほら、ちゃんとカメラの方に向きなさいよ」

 

「こんな感じでいいかなあ?」

 

シャッター音が鳴る。

 

「悪くないじゃない」

 

画面に映った自分たちの姿を見て、美琴は満足そうに頷いた。

 

次は帆風の番だ。

 

帆風は控えめながらも、しっかりと結絆の腕に抱き着いている。

 

「結絆さん、素敵な写真にしましょうね」

 

「うん、最高の一枚を撮るよお」

 

ぱしゃり。

 

写真を確認した帆風は、思わず頬を緩めた。

 

「......はい、とても素敵です。部屋に飾る写真がまた一枚増えました!」

 

手続きを終え、カウンターで渡された小さな袋。

 

中には、ピンク色を基調にしたゲコ太ストラップが入っていた。

 

結絆が受け取った方には、緑色のゲコ太ストラップが入っていた。

 

「......かわいい」

 

「想像以上ですね」

 

美琴はストラップを携帯に付け、帆風も同じようにする。

 

二人とも、明らかに機嫌がいい。

 

その様子を眺めながら、結絆は自分の分として渡されたストラップを手の中で転がした。

 

「喜んでくれたなら、付き合った甲斐があったねえ」

 

「当たり前でしょ。限定だし、それに結絆とツーショットも撮れたから」

 

「結絆さんとの思い出にもなりますから」

 

結絆は少し考えた後、ふっと笑って言った。

 

「じゃあさあ、俺の分もあげるよお」

 

「......え?」

 

「え?」

 

二人が同時に振り向く。

 

「二人が持ってたほうが、ゲコ太も喜ぶでしょお?」

 

差し出されたストラップを見て、美琴は一瞬固まった後、顔を赤くする。

 

「......嬉しいに決まってるでしょ」

 

美琴は奪うように受け取ると、すぐに携帯に付けた。

 

「ありがとうございます、結絆さん」

 

帆風も大切そうに受け取り、胸元でぎゅっと握る。

 

二人の表情は、さっきよりもさらに明るくなっていた。

 

「はは、そこまで喜ばれると、こっちも嬉しくなるねえ」

 

携帯ショップを出た後も、美琴と帆風は何度もストラップを揺らしては笑い合っている。

 

「結絆のことがもっと好きになったかも」

 

「はい、結絆さんは最高に素晴らしい方です」

 

その様子を少し後ろから眺めながら、結絆は小さく呟いた。

 

「......恋人たちが喜んでるのを見てると、俺も幸せになるねえ」

 

結絆にとっては、限定ストラップ以上に上機嫌な二人の笑顔が何よりの戦利品だった。

 

 

 

 限定ストラップを手に入れて上機嫌なまま、三人は商店街を歩いていた。

 

美琴は携帯を何度も取り出しては、ゲコ太のストラップを揺らして確認している。

 

「......やっぱ可愛い、これ」

 

「はい。揺れるたびに表情が変わるようで、見ていて飽きませんね」

 

帆風も同じように、結絆からもらった分を含めて二つのストラップを並べ、嬉しそうに眺めていた。

 

結絆は、そんな二人の様子を微笑ましく見ている。

 

地下の商店街の角を曲がったところで、甘い香りがふわりと漂ってきた。

 

ガラスケースの中に並んでいるのは、黄色くて丸い――ヒヨコを模したお菓子。

 

「かわいい......」

 

「ヒヨコさんですね」

 

二人が同時に立ち止まる。

 

「おっ、興味津々だねえ」

 

「だ、だって可愛いじゃない」

 

「見た目もですが、こちらのお店は味も評判が良いと聞いています」

 

結局、三人揃って店に入ることになった。

 

「いらっしゃ......ってあら?」

 

カウンターの奥から出てきたおばちゃんが、結絆の顔を見るなり、にやりと笑う。

 

「この前とは別の女の子たちを連れてくるなんて、モテモテね」

 

「ま、まあ、否定はできないけどお......」

 

「まあまあ、いいじゃないの」

 

そう言いながら、おばちゃんはトングでヒヨコ菓子を手際よく袋に入れていく。

 

......明らかに、注文した数より多い。

 

「サービスしとくわ」

 

「いいのかい?」

 

「いいからいいから」

 

「......相変わらずだねえ」

 

強引に袋を渡され、結絆は小さくため息をついた。

 

店を出てから、美琴が横目で結絆を見る。

 

「“この前”って、なによ」

 

「あー......この前ミサカと遊園地デートした後に、ここに寄ったんだよお」

 

「............」

 

美琴の動きが止まった。

 

「......ふーん」

 

声は平静を装っていたが、ストラップを握る指に、わずかな力がこもる。

 

「遊園地......ですか」

 

帆風は少し驚いたように目を瞬かせた後、柔らかく微笑んだ。

 

「きっと、楽しい一日だったのでしょうね」

 

帆風の脳裏に浮かぶのは、以前、自分が結絆と一緒に遊園地へ行った時の記憶。

 

観覧車から見下ろした街の景色。

 

何気ない会話。

 

笑顔で一緒に食べた料理。

 

(......ミサカちゃんも、同じように素敵な時間を過ごされたのでしょうね)

 

そう想像すると、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

一方で、美琴はヒヨコ菓子を一つ手に取って、むっとした表情のままかじった。

 

「......美味しい」

 

「でしょう?」

 

「......でもさ」

 

美琴はちらりと結絆を見る。

 

「遊園地、まだ一緒に行けてないんだけど」

 

「遊園地のチケットは沢山持ってるから、今度一緒に行こうかあ」

 

「そ、そうね。楽しみにしてるから」

 

帆風はそんな二人のやり取りを、くすりと笑いながら眺めている。

 

「ですが、御坂さん。こうして今、一緒に過ごしている時間も、十分に特別ではありませんか?」

 

「......まあ、それは」

 

美琴は少し照れたように、もう一口ヒヨコ菓子を食べた。

 

「......そうね」

 

結絆は袋からヒヨコ菓子を取り出し、二人に差し出す。

 

「ほら、追加分もあるし、まだまだ食べられるよお」

 

「......結局、あのおばちゃんの思惑通りじゃない」

 

「ですね。でも、悪くありません」

 

三人並んで歩きながら、ヒヨコ菓子を頬張る。

 

ストラップが揺れて、微かな音を立てる。

 

美琴はその音を聞きながら、さっき感じた小さな嫉妬を、そっと胸の奥にしまった。

 

なんだかんだ言いつつも、結絆とのデートを取り付けられたので満足しているのである。

 

一方帆風は、結絆と過ごした楽しい記憶が、こうして重なっていくことを静かに噛みしめる。

 

「......今日も、本当にいい日だねえ」

 

結絆のその一言に、二人は顔を見合わせて、同時に笑った。

 

ヒヨコ菓子の甘さと、穏やかな街の空気が、三人の時間をやさしく包み込んでいた。

 

 

 

ヒヨコを模したお菓子を食べ終えた三人は、引き続き地下街を散策していた。

 

地上とは違い、柔らかな照明と一定の温度に包まれた空間は、どこか落ち着く。

 

「地下街って、適当に歩くだけでも楽しいわよね」

 

「わかります。新しいお店も多いですし、雨の日でも安心ですから」

 

「新しくできた店に行くのは楽しいからねえ」

 

結絆たちがそんなことを言っていた直後だった。

 

「......チッ、どこ行きやがったンだ、あのガキはァ」

 

聞き覚えのある、苛立ちを隠そうともしない声。

 

三人がそちらを見ると、通路の向こうから歩いてくる二人組がいた。

 

一方通行、そしてその隣には金髪の少女、エステル=ローゼンタール。

 

「......一方通行」

 

「エステルさんも」

 

「お、こんなところで会うとは、奇遇だねえ」

 

結絆は軽く手を上げると、二人を見比べて、にやりと笑った。

 

「やっと付き合うことになったのかい?」

 

「えっ!?」

 

エステルは一瞬で顔を赤くし、両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。

 

「そ、そんな、えっと......」

 

視線が定まらず、もじもじと身体を揺らす様子は、どう見ても図星だった。

 

一方通行は深いため息をひとつ吐き、頭を掻いた後、諦めたようにエステルをぐっと抱き寄せる。

 

「......まァ、見ての通りだなァ」

 

「ちょっ、一方通行......!」

 

突然の動作に、エステルはさらに真っ赤になるが、抵抗はしない。

 

「おおー」

 

美琴は腕を組み、少し驚いたように二人を眺めた後、ふっと口元を緩めた。

 

帆風も、どこか安心したような優しい表情を浮かべている。

 

「そっかあ。いやあ、よかったよかった。今度お祝いの品を送るよお」

 

結絆は心底楽しそうに笑う。

 

「うるせェ」

 

そう言いながらも、一方通行はエステルを離そうとはしなかった。

 

少しの沈黙の後、一方通行は周囲をきょろきょろと見回し、眉をひそめる。

 

「......なァ、結絆」

 

「どうしたんだい?」

 

「打ち止め(ラストオーダー)を見なかったかァ?」

 

「見てないねえ、ここに来た形跡もないよお。またあの子は迷子になっているのかい?」

 

結絆の疑問に代わりに答えたのはエステルだった。

 

「今ね、一方通行と打ち止めは、晩御飯のメニューをかけて鬼ごっこをしてるのよ」

 

「はァ!?言うンじゃねェ!」

 

「だって、事実じゃない」

 

エステルは少し得意げに微笑む。

 

「勝った方が、今日の夕食を決められるの」

 

「......で、逃げ足の速さで完全に置いてかれた、ってことだねえ」

 

結絆が補足するように言うと、一方通行は舌打ちをした。

 

「チッ......あのガキ、無駄に学習能力高ェンだよ」

 

その様子を見て、美琴と帆風は顔を見合わせる。

 

「......なんか、想像できるわね」

 

「とても微笑ましいです」

 

「......あんた、すっかり保護者じゃない」

 

「ンだとォ」

 

美琴は肩の力を抜き、少し呆れたように、けれどどこか温かい目で一方通行を見る。

 

「きっと、打ち止めさんも楽しんでいらっしゃるのでしょうね」

 

帆風も同じように、一方通行へと穏やかな視線を向ける。

 

「......まあなァ」

 

一方通行は視線を逸らし、ぼそりと呟いた。

 

結絆はそんな様子を見て、くすっと笑う。

 

「いいじゃないかあ。騒がしくて、平和で」

 

「......テメェに言われると腹立つンだよ」

 

エステルは一方通行の腕にそっと手を添えながら、地下街の奥を見つめた。

 

「そのうち、戻ってくるわ。きっと」

 

「そうだねえ」

 

地下街の人波の中、それぞれがそれぞれの大切な存在を思い浮かべる。

 

何気ない偶然の再会は、確かに温かな余韻を残していった。

 

「......もう少し探してくるかァ」

 

「行こう、一方通行!」

 

一方通行とエステルが去っていく背中を見送りながら、美琴がぽつりと言う。

 

「......あの二人が付き合うことになったなんて」

 

「ですね」

 

結絆は二人の横で、のんびりと歩き出した。

 

「今日はいろいろ見られて、得した気分だねえ」

 

地下街の照明の下、穏やかな時間は、まだゆっくりと流れ続けていた。




結絆が過密スケジュールになっていますが、分身の魔術が使えるので何とかなっていたりします。
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