食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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前回の続きです。


結絆はミサカたちを引き寄せる

 一方通行とエステルを見送った後、結絆と美琴と帆風は再び地下街を歩き始めた。

 

人の流れは相変わらず多いが、先ほどまでよりも、どこか穏やかな空気が漂っている。

 

「それにしても、あの二人は思ったより熱々だったわね」

 

「はい。とてもお似合いでした」

 

「まあ、本人たちは認めたがらないだろうけどねえ」

 

そんな会話を交わしながら進んでいると、不意に前方から聞き覚えのある声がした。

 

「あれは......結絆ですか、とミサカは結絆に近づきます」

 

「ん?」

 

「......あ」

 

三人の足が止まる。

 

通路の向こうから、白いワンピース姿の少女が小走りで近づいてくる。

 

ミサカ00000号だった。

 

「ミサカもこっちに来てたんだねえ。」

 

「こんにちは、結絆にお姉様に潤子さん、とミサカは挨拶します」

 

ぴたりと立ち止まったミサカは、三人の顔を順番に見た後、ふと視線を下げた。

 

「......そのストラップは何ですか、とミサカは質問します」

 

ミサカの目に映ったのは、美琴と帆風の携帯に揺れるゲコ太ストラップだった。

 

二体のゲコ太が、小さく揺れている。

 

「あ、これ?」

 

美琴は携帯を少し持ち上げる。

 

「限定のやつよ。ペア契約でもらえたの」

 

「とても可愛らしいですよね」

 

帆風も自分の携帯を見せると、ミサカの視線はさらに釘付けになる。

 

「......羨ましいです、とミサカは正直な感想を述べます」

 

声は抑えめだったが、表情が緩んでいるのが分かった。

 

「欲しかったの?」

 

「欲しいというほどではありませんが......少しだけ羨ましいです、とミサカは不満を顔に出します」

 

結絆は頬を膨らませるミサカを見て、くすっと笑った。

 

「ちょうどよかったねえ」

 

「?」

 

結絆はポケットから、先ほどのお菓子屋でもらった袋とは別の、小さな包みを取り出す。

 

「実はさあ、さっきペア契約した時にサービスしてくれてねえ」

 

「......まさか」

 

包みを開くと、中にはゲコ太ストラップがいくつか入っていた。

 

その中から、結絆は緑色のゲコ太とピンク色のゲコ太を一つずつ取り出す。

 

「はい、ミサカ」

 

「......?」

 

「緑とピンク。好きなほう使ってもいいし、両方付けてもいいよお」

 

一瞬、ミサカは言葉を失ったように目を見開いた。

 

「......本当によろしいのですか、とミサカは心を落ち着けながら確認を取ります」

 

「うん。元々は帰ったら渡そうと思ってたけど、ちょうどいいからねえ」

 

結絆はミサカや入鹿のために、多めにストラップをもらっていたのである。

 

ミサカはゆっくりとストラップを受け取った。

 

指先でそっと触れ、その感触を確かめるように見つめる。

 

「......ありがとうございます、とミサカは深く感謝します」

 

声はいつも通り淡々としていたが、わずかに上がった口元が、その気持ちを物語っていた。

 

「よかったじゃない」

 

「ミサカちゃん、よかったですね」

 

美琴と帆風がそう言うと、ミサカは小さく頷く。

 

「ミサカは、結絆の優しさを感じています、とミサカは内心を報告します」

 

その言葉に、結絆は少しだけ照れたように頭を掻いた。

 

「大げさだねえ」

 

「大げさではありません、とミサカは否定します」

 

ミサカはストラップを胸の前で握りしめた。

 

「このような小さな贈り物でも、結絆の気持ちは確かに伝わります。......ミサカは、今、とても幸せな気分です」

 

地下街の喧騒の中で、その言葉だけが静かに響いた。

 

「素直なところがミサカちゃんのいいところですね」

 

帆風は穏やかに微笑んだ。

 

「結絆、そこまで考えてたのね」

 

結絆が気が利く人間であることを美琴は理解しているが、改めて優しさや気遣いを感じた。

 

「さてと、もう少し一緒に歩こうかあ」

 

結絆は三人の顔を見渡し、ゆったりと歩き出す。

 

「了解です、とミサカは同行を承諾します」

 

ミサカの携帯に揺れる、緑とピンクのゲコ太。

 

その小さな揺れが、胸の奥に生まれた温かな気持ちを、確かに形にしていた。

 

地下街の明かりの下、幸せな余韻は、静かに、しかし確かに続いていく。

 

 

 

 ミサカが携帯に付けたゲコ太ストラップを揺らしながら歩いていると、地下街の少し開けた通路の向こうから、やけに騒がしい声が聞こえてきた。

 

「もー!今日は豚肉の日だーっ、てミサカはミサカは腕を振り回しながら主張してみたり!」

 

「うるせェ、今日は牛だっつってンだろォ!」

 

「あ」

 

「この声......」

 

美琴と帆風が同時に足を止める。

 

次の瞬間、小さな人影が勢いよく人混みを縫って飛び出してきた。

 

「あっ、結絆さん発見!ってミサカはミサカは合流を宣言してみたり!」

 

「おっと」

 

結絆は慌てずに手を伸ばし、突っ込んできた打ち止めを受け止めた。

 

「元気だねえ」

 

「元気じゃなきゃ鬼ごっこなんてできないもん!ってミサカはミサカは胸を張ってみる!」

 

遠くに一方通行の姿も見える......が、こちらに気づく前に、人混みに紛れてしまったようだった。

 

「一方通行は?」

 

美琴が尋ねると、打ち止めはくるっと振り返る。

 

「晩御飯のことで意見が合わなくて、鬼ごっこで勝負することになったの!ってミサカはミサカは事情を説明してみたり!」

 

「......あー、さっき一方通行が言ってたやつか」

 

「ふふ、楽しそうですね」

 

「今日はねー、ミサカは豚肉が食べたいの!しゃぶしゃぶでもいいし、生姜焼きでもいいし、とにかく豚肉!」

 

打ち止めは両手をぶんぶん振りながら力説する。

 

「でもあの人は牛肉の気分なんだって!焼き肉かステーキだって譲らないんだよ!だから鬼ごっこで決着をつけるって話になったのー!」

 

「......ほんと、あんたたちって」

 

「仲が良い証拠ですね」

 

美琴や帆風は苦笑いし、ミサカは少し離れた位置で結絆からもらったストラップを優しく撫でている。

 

「鬼ごっこ、楽しそうだねえ」

 

結絆はそう言いながらも、少し考えるように顎に手を当てた。

 

「でもさあ」

 

「んー?」

 

「焼き肉で豚肉と牛肉を焼けばいいと思うよお」

 

一瞬、地下街のざわめきが遠のいたような気がした。

 

「............」

 

打ち止めはぱちぱちと瞬きをし、次の瞬間、ぱあっと顔を輝かせた。

 

「おおー!流石は結絆さん!鬼ごっこが終わったら、あの人にも伝えてみるねってミサカはミサカは今日の晩御飯を楽しみにしながらくるっとターンしてみたり!」

 

言葉通り、打ち止めはその場でくるっと一回転し、満面の笑みを浮かべた。

 

「単純というかなんというか......」

 

美琴は呆れたように言いながらも、口元は緩んでいる。

 

「ですが、とても良い案だと思います。喧嘩にならず、両方楽しめますから」

 

帆風は素直に頷いた。

 

「でしょお?」

 

結絆は肩をすくめる。

 

「鬼ごっこはまあ......心配かけない程度にするんだよお」

 

実際は、結絆の部下数名が少し離れた位置から打ち止めを常に見守っているのだが、本人が気を付けるに越したことはない。

 

「うん!」

 

打ち止めは大きく頷いた。

 

「鬼ごっこは鬼ごっこでやるけど、晩御飯は焼き肉で決まりだっ!ありがとう結絆さんってミサカはミサカは感謝の気持ちを伝えてみたり!」

 

そう言って、打ち止めは地下街の奥へ向かって駆け出した。

 

打ち止めの声はすぐに人波に溶けていく。

 

残された四人は、その後ろ姿を見送った。

 

「......なんだかんだで、楽しそうよね」

 

美琴がぽつりと呟く。

 

「はい。温かい関係だと思います」

 

「一方通行は不器用な人ですが妹達のことを大切にしていますから、とミサカはかつて結絆と一方通行が妹達を救ってくれたことを思い出します。」

 

「俺にとって妹達は全員家族だからねえ。一方通行も打ち止めも、今日の晩御飯、うまくいくといいねえ」

 

結絆は小さく笑った。

 

地下街の明かりの下、それぞれが誰かの食卓を思い浮かべながら、穏やかな時間が再び流れ始めていた。




次回からは場面が変わります。
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