甘いデザートを平らげ、最後に冷たい水を飲み干した軍覇が大きく息を吐いた。
「っしゃあ!!完全に回復できたぞ!!」
「むしろ最初よりも元気そうだねえ!」
結絆も嬉しそうである。
「俺はこのまま地下のトレーニングルームに戻る!!まだ鍛えたりないからな!!」
軍覇は拳を握りしめ、ぎらりと笑った。
「本当に底なしだねえ!」
「結絆はどうすんだ?」
「俺はちょっと用事があってねえ。知り合いのお迎えだよお」
「知り合い?」
「打ち止めがマジックシアターに来てるんだ」
「おお、あのチビっ子か!!」
軍覇は豪快に笑う。
「じゃあな!!次はもっとヤベェ負荷でやろうぜ!!」
「うん、次は1兆Gだねえ」
二人は拳を軽くぶつけ合い、別れた。
そして、軍覇は地下へ、結絆はエントランスへと向かうのだった。
大型台風が近づいているが、マジックシアターのエントランスは、観光客で賑わっている。
頭上にはホログラムで映し出された魚たちが泳いでいたかと思えば、その後満点の星空が映し出される。
それを見た子供たちの歓声が響きわたる。
そして、その中でもひときわ元気な声が響いた。
「おーいっ!!結絆さーん!!ってミサカはミサカは両手をぶんぶん振ってみたり!!」
打ち止めが人混みの中から飛び出してくる。
「おっと」
結絆は自然に受け止めた。
「迎えに来てくれてありがとーってミサカはミサカは全身で感謝を伝えてみる!!」
「いらっしゃい、打ち止め」
結絆は柔らかく笑う。
「今日はどこから行きたいかなあ?」
「動物園エリアに行きたい!!ってミサカはミサカは即答してみる!!」
打ち止めの目がきらきらと輝く。
「了解だよお」
結絆は打ち止めの手を取り、歩き出す。
エレベーターに乗って動物園エリアの階に着くと、空気が変わる。
広大な人工の森、澄んだ空、鳥のさえずり。
「すごーい!!本物の森みたい!!」
「ここは気候も自動制御してるからねえ」
「全部結絆さんのなの!?」
「まあ、そうなるかなあ」
「ずるーい!!ってミサカはミサカは抗議してみる!!」
二人が喋りながら歩いていると、遠くに巨大な影が見えた。
ゆっくりと動く、山のような存在。
「......ほえ?」
打ち止めが立ち止まる。
そこにいたのは、巨大ナマケモノのテリーだった。
結絆とその部下である天城は、かつて違法カジノを潰した際にテリーを保護したのである。
全長は十メートルを優に超える。
太い腕で、木の枝ごと葉を掴み、のっそりと口へ運んでいる。
むしゃ......。
葉がその大きな口の中に消える。
「おっきぃ!!??ってミサカはミサカは現実を疑ってみる!!あれナマケモノ!?ほんとにナマケモノ!?!?」
打ち止めが目を丸くする。
「うん、あいつはテリーだよお。巨大なナマケモノだねえ」
テリーはのんびりと瞬きをし、二人に気づく。
そして、ゆっくりと手を振った。
「手を振ってくれたよ、ってミサカはミサカはナマケモノさんに手を振り返してみたり!」
「人懐っこいんだよねえ」
テリーはまた葉をむしゃむしゃ食べる。
「なんでこんなに大きいの!?ってミサカはミサカは疑問を投げかけてみる!!」
「大きいサイズでいるのが好きみたいだねえ。戦闘時やトレーニング時はサイズを変えることもできるよお」
「え」
「閉園後は自主的にトレーニングしてるからねえ」
「ええええええ!?!?」
打ち止めは結絆を見上げる。
「ここってテーマパークじゃないの!?ってミサカはミサカはマジックシアターの方向性を確認してみる!!」
「テーマパークだよお。ちょっとだけ戦闘力高めだけどねえ」
過去に戦闘兵器として扱われていただけあって、テリーはトレーニングをするのが日課になっているのである。
テリーは、再びゆっくりと葉を噛みしめる。
その圧倒的な体躯。
それなのに漂う、のどかな空気。
「すごい......」
打ち止めは目を輝かせた。
「こんなの初めて見た!!ってミサカはミサカは感動してみる!!」
「気に入ったかい?」
「うん!!」
楽しそうな打ち止めを見て、結絆は小さく笑う。
「じゃあ、他の子たちも見に行こうかあ」
「いるの!?まだいろいろいるの!?!?」
「まだまだたくさんいるよお」
森の奥では、リスが高速で駆け回り、遠くでは巨大な蛇が横切る。
マジックシアターの動物園エリアは、今日も少しだけ規格外に賑わっていた。
打ち止めの歓声が、人工的な青空に響く。
結絆はその声を聞きながら、穏やかに微笑んだ。
巨大ナマケモノのテリーにたっぷり驚き、興奮も冷めやらぬまま、打ち止めはくるりと振り向いた。
「ねえねえ結絆さん、動物さんたちにエサをあげたいな!!ってミサカはミサカは強く希望してみる!!」
「じゃあ次は、ふれあいコーナーがいいかなあ?」
「それそれ!!」
目をきらきらさせて跳ねる打ち止めに、結絆は柔らかく笑った。
「行こうかあ。こっちだよお」
二人は森の小道を抜け、開放的な広場へと向かう。
そこは“ふれあいコーナー”。
大型動物とは違い、比較的小型で人懐っこい動物たちが自由に歩き回っているエリアだ。
中へ入ると――。
「わあああああ!!」
犬、猫、ウサギ、モルモット、ヤギの子どもまで、様々な動物たちがのんびりと過ごしている。
芝生の上を元気よく走り回る犬。
木陰で丸くなって寝ている猫。
ぴょこぴょこ跳ねるウサギ。
そして、打ち止めは結絆の隣で笑顔でジャンプしている。
「ほら、動物たちが君を待ってるよお」
その後、注意事項の説明を終えた係員がエサの入った小さなカップを渡してくれた。
「はいどうぞ、わんちゃん用のおやつです」
「ありがとー!!」
打ち止めはしゃがみ込み、近くにいた柴犬にそっと手を差し出す。
「どうぞーってミサカはミサカは丁寧に差し出してみる!!」
柴犬はくんくんと匂いを嗅ぎ、ぱくり。
「食べた!!食べたよ結絆さん!!」
「うん、よかったねえ」
次の瞬間。
「わんっ!」
犬が嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る。
「え、遊びたいの?ってミサカはミサカは状況を把握してみる」
打ち止めは立ち上がり、走り出した。
「こっちだぞー!!」
「わふーん!」
犬も全力で追いかける。
芝生の上を小さな影と小さな影が駆け回る。
結絆はその様子を微笑ましく眺めていたが......
気づけば、背後に気配を感じた。
振り向くと。
「......わん」
「......ばう」
「わおん」
十数匹の犬たちが、結絆を囲んでいた。
「遊んでほしいのかなあ?おいでおいで」
次の瞬間。
どどどどどっ!!
犬たちが一斉に飛びつく。
「おっと」
結絆はバランスを崩さない。
1億Gに適応した肉体は、この程度ではびくともしない。
「元気だねえ、君たち」
大きなゴールデンレトリバーが肩に飛び乗ってきて、顔をぺろぺろ舐める。
「はは、くすぐったいよお」
頭を撫で、耳の後ろを掻いてやると、犬はうっとりと目を細める。
「君も撫でてほしいのかあ?」
別の犬が尻尾を振りながら体を押し付けてくる。
結絆はしゃがみ込み、両腕を広げた。
「ほらおいで」
わらわらと集まる犬たち。
大型犬が膝に頭を乗せ、小型犬が肩によじ登ろうとする。
「わー!!結絆さんが犬まみれになってる!!ってミサカはミサカは実況してみたり!!」
打ち止めが走って戻ってくる。
「毎日触れ合ってるからねえ」
仕事終わりに動物たちと触れ合うのが結絆の日課である。
「ずるい!!ミサカにも分けて!!」
「はいはい」
結絆は一匹を抱き上げ、打ち止めに渡す。
犬は打ち止めの腕の中でくるりと丸まる。
「ふわふわ......」
打ち止めの頬が緩む。
「かわいい......ってミサカはミサカは癒やされてみる......」
犬のかわいさを堪能した打ち止めは、今度はフリスビーを手に取った。
「それっ!!」
打ち止めの投げた白いディスクが弧を描く。
一匹のボーダーコリーが猛スピードで駆け出す。
ぱしっ!
見事にキャッチ。
「すごーい!!」
犬は得意げに戻ってくる。
結絆も別のフリスビーを手に取る。
「じゃあ俺もやろうかあ」
結絆の投げたフリスビーは空気を裂くような速度で飛んでいく。
犬たちが一斉に猛ダッシュ。
数匹が競り合い、ジャンプ。
ばしっ!!
なんとかキャッチに成功した。
「ごめんごめん、ちょっと強すぎたかなあ」
「ちょっとどころじゃないよ!!ってミサカはミサカはツッコミを入れてみる!!」
結絆は苦笑し、次は本当に優しく投げる。
犬たちは嬉しそうに走り回る。
芝生の上で笑い声と犬の鳴き声が混ざっていた。
暫く犬たちと戯れていると、猫が近づき結絆の足元にすり寄る。
「にゃあ」
「君も甘えたいのかあ?」
抱き上げると、猫は喉を鳴らす。
「結絆さんは、完全に動物マスターだよね!!」
「いやあ、ただ好かれてるだけだよお」
今度はウサギがぴょんと跳ね、打ち止めの足元へ。
「わあ!」
優しく撫でる。
「ここ、最高だぁ......」
打ち止めがぽつりと呟く。
「いつでも好きなだけ来ていいからねえ」
「うん!!」
結絆は穏やかに笑った。
犬たちは元気に走り、猫はのんびりと伸びをし、ウサギは跳ねる。
その中心で。
打ち止めの笑顔と、犬たちに囲まれた結絆の姿が、あたたかな光景を作っていた。
マジックシアターは今日も平和である。
次回までは平和な感じが続きます。