ふれあいコーナーでたっぷり遊び、遊んでくれた動物たちに名残惜しそうに手を振った打ち止めは、まだ興奮冷めやらぬ様子だった。
「次はどこ行くの!?ってミサカはミサカは次の冒険を期待してみる!!」
「そうだねえ、じゃあ、少し刺激が強いところに行こうかあ」
「刺激!?」
結絆はにこりと笑う。
「猛獣ゾーンだよお」
「もうじゅう......?」
その言葉の響きに、打ち止めの背筋がぴんと伸びる。
二人はゲートを抜け、雰囲気の変わったエリアへと足を踏み入れた。
空気が変わる。
森はより深く、木々は高く、足元の土も踏み固められている。
少し歩いていると、遠くから低い唸り声が聞こえた。
「......うわ」
最初に見えたのは、巨大なライオンだった。
少し茶色の混じった黄金の鬣が風に揺れ、大きな瞳が鋭く光る。
その体躯は普通のライオンよりもかなり大きい。
「おっきい......」
「この子は特に筋肉質なんだよお」
「襲ってこないよね!?ってミサカはミサカは確認してみる!!」
その時。
森の奥から、さらに大きな影が現れた。
圧倒的な存在感を放つ巨大なトラであるレグルス。
天衣装着を使うドリーム所属の猛獣であり、動物園エリアのボスである。
地面を踏みしめるたびに、ずしんと重い音が響く。
「......え?」
打ち止めの動きが止まる。
「なにあれ」
「レグルスだよお」
「トラだよね!?トラなんだよねあれ!?ってミサカはミサカは慌てふためいてみたり......」
レグルスは静かに近づき、結絆の前で止まる。
そして、ゆっくりと頭を下げた。
「今日もご苦労さま」
結絆が労いの言葉をかけると、レグルスは目を細める。
「な、な、な......懐いてる!?」
「仲間だからねえ」
その周囲には、白銀の毛並みを持つ大きなオオカミの群れ。
さらに少し離れた場所には、山のような体格のグリズリーが腕を組むように立っている。
ぐるるる......
あちこちから低い唸り声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと待って、ここの柵は大丈夫だよね!?安全だよね!?ってミサカはミサカは命の心配をしてみる!!」
「大丈夫だよお。打ち止めは餌じゃないからねえ」
レグルスが打ち止めを見つめる。
数秒の静寂。
やがて、ふっと鼻を鳴らした。
「......怖いけど、かっこいい」
打ち止めは小さく呟く。
「王様みたい」
「レグルスは動物園エリアの王だからねえ」
結絆は柔らかく微笑んだ。
その時、打ち止めが少し離れた場所にある説明パネルに興味を示す。
「ねえこれ何書いてあるの!?ってミサカはミサカは読もうとしてみる!!」
「ここにいる動物たちについての説明が書いてるよお、ちょっと見ておいで」
「うん!」
打ち止めが離れたのを確認し、結絆の表情が変わる。
穏やかだった目が、鋭い光を帯びる。
レグルス、ライオン、オオカミ、グリズリー。
猛獣たちが静かに集まる。
「......明日の夜はねえ、マジックシアターに侵入者が来るって“予知”があったんだあ」
結絆の声は低い。
猛獣たちの耳がぴくりと動く。
「その時は、追い払うのを手伝ってねえ」
一瞬の静寂。
そして――。
「明日の晩飯はバイキングだな」
そう言ってレグルスが深く頷いた。
かつて結絆がレグルスを連れて帰った時に、特殊な電磁波を利用して脳の信号を言語データに変換する装置をレグルスに着けているので、彼はしゃべることができるのである。
ライオンが低く唸り、オオカミたちが揃って頭を下げる。
グリズリーはゆっくりと胸を叩いた。
「ありがとう」
結絆は空間移動で柵の中に入ってレグルスたちの額を撫でる。
「頼りにしてるよお、マジックシアターに手を出せばどうなるかを知らしめないとねえ」
猛獣たちの瞳が静かに燃える。
その後少しして......
「結絆さーん!!」
打ち止めが戻ってくる。
空気がふっと和らぐ。
「このトラさん、さっきより近くない!?ってミサカはミサカは疑問を投げてみる!!」
「気のせいだよお」
「ほんと!?」
レグルスがゆっくりと伏せる。
圧倒的な巨体が地面に横たわる姿は、迫力満点だ。
「......すごい」
打ち止めは息を呑む。
「怖いけど、なんか安心する」
「守ってるからねえ」
「結絆さんが?」
「皆でだよお」
森の中、猛獣たちは静かに佇む。
その迫力は凄まじい。
だが同時に、確かな統制と信頼がある。
打ち止めは小さく拳を握った。
「ミサカも強くなりたいな!!ってミサカはミサカは拳を突き上げてみる」
「じゃあこの後、軍覇とトレーニングするかい?」
「それはちょっと遠慮しときたいかも......」
げんなりした表情の打ち止めを見て、結絆はくすりと笑う。
レグルスの瞳が、穏やかに細められた。
明日に備えて今日は休息を取るべきだ。
猛獣ゾーンには、王者たちの静かな気配と、小さな少女の鼓動が響いていた。
猛獣ゾーンを後にしながらも、打ち止めは何度も振り返っていた。
「レグルス、最後までかっこよかった......ってミサカはミサカは余韻に浸ってみる」
「次来たときは食事しているところを見るのもいいかもしれないねえ。豪快で見ごたえがあるよお」
「うん!」
そう言いながら二人が次に向かったのは、水族館エリア。
自動ドアが開いた瞬間、ひんやりとした空気と、青い光に包まれる。
巨大水槽の中を、色とりどりの魚たちが泳いでいる。
「わああああ......」
打ち止めの声が自然と小さくなる。
天井まで届く大きな水槽。
その中央を、ゆったりと横切る巨大な影。
「でっか......」
「ジンベエザメだよお」
全長二十メートル。
ゆっくりと尾を振り、悠然と泳ぐその姿はまるで海の王者のようだ。
「サメって怖いイメージあったけど、なんか優しそう......ってミサカはミサカは印象を更新してみる」
「この子は穏やかだからねえ、水族館エリアとつながっている地下水路にいるホオジロザメは獰猛だからサメによって結構違うよお」
ジンベエザメが二人の前を通過する。
大きな口、細かな白い斑点。
まるで星空が泳いでいるようだ。
「うわあ......飲み込まれそう......」
「大丈夫だよお。打ち止めは小さいけど食べ物じゃないからねえ」
「ミサカもそのうち大きくなるもん!!ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる!!」
そんなやり取りをしつつ奥へ進むと、少し変わった水槽がある。
「ねえ結絆さん、あれ何?」
丸い水槽の中を、ぷくぷくとしたフグたちが泳いでいる。
だが......
「ゴーグルつけてる!!」
小さなゴーグルを装着したフグたちが、誇らしげに泳いでいた。
「鏡の世界から連れてきた子たちだよお」
「なんでゴーグル!?」
「うーん、生態はよくわかってないからねえ......」
フグの一匹が、ぷくーっと膨らみながらこちらを向く。
ゴーグル越しのかわいらしい目がきらりと光る。
「かわいい!!ってミサカはミサカはテンションが上がってみたり!!」
結絆はくすりと笑う。
「触れないけど、見てるだけで面白いでしょお?」
「うん!!」
水族館の奥には、大きなイルカプールがある。
ショーの時間ではないので観客席に座っている人は少なめだが、ショーの時間は毎回満席になる程の人気っぷりである。
「イルカさんがいるよ!!」
打ち止めの声を聞いて水面からぴょこっと顔を出すイルカたち。
その中に、ひときわ大きく、堂々とした個体がいた。
「アトラスだよお」
「おおー!!」
アトラスたちが結絆を見つける。
きゅいーん!
イルカたちが高い鳴き声を出した。
結絆は片手を軽く上げ、指を鳴らして合図を出した。
その瞬間......
ざばあっ!!
一斉にイルカたちが水面を跳ねる。
「うわああああ!!」
アトラスが最初に高く跳び、その後を追うように他のイルカたちが弧を描く。
水しぶきが光を受けてきらめく。
「すごいすごいすごい!!ってミサカはミサカは叫んでみる!!」
結絆が手を回す。
イルカたちは円を描くように泳ぎ、再びジャンプ。
今度は三匹同時に回転。
どぱん!!
見事な着水を決める。
「もう一回!!」
打ち止めがぴょんぴょん跳ねる。
「じゃあ最後は派手にねえ」
結絆が腕を大きく振り上げる。
アトラスが深く潜る。
一瞬の静寂。
そして――。
どおおおおん!!
アトラスが大ジャンプを決め、通常の倍以上の高さまで跳び上がり空中でひねりを加える。
続けて他のイルカたちも次々と跳躍。
まるで流星群のようだ。
「おおおおおお!!」
打ち止めは全力で拍手する。
「最高!!イルカさんたち最高!!」
アトラスが水面から顔を出し、きゅいっと鳴く。
「ありがとうって言ってるよお」
「すごいね結絆さん!!合図だけであんなことできるなんて!!」
「普段から一緒に遊んでるからねえ」
水族館の青い光の中。
巨大なジンベエザメ、ゴーグルをつけたフグ、そして宙を舞うイルカたち。
「ここ、夢みたい!!」
打ち止めは満面の笑みで言った。
結絆は静かに頷く。
「夢を見ることができる場所、それがマジックシアターだよお」
アトラスが最後にもう一度跳ねる。
水しぶきが虹を作った。
その下で、打ち止めは心からはしゃいでいた。
イルカたちのパフォーマンスを満喫した頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「いっぱい遊んだー!!ってミサカはミサカは満足感を表明してみる!!」
「それはよかったよお。おっ、そろそろ夕食の時間だねえ」
「ごはんだ!?」
目を輝かせる打ち止めに、結絆は微笑む。
「今日は皆と一緒に食堂で食べようかあ」
「みんなって、あのすごい人たち!?」
「そうだよお」
二人はマジックシアターの居住エリアにある食堂へ向かう。
広い空間には長いテーブルが並び、すでに料理の香りが漂っていた。
「結絆君」
最初に声をかけたのは沙羅だった。
「お帰りなさい。ずいぶん楽しそうだったわね」
「ただいま、沙羅。結構楽しめたよお」
沙羅は打ち止めを見て、柔らかく微笑む。
「あなたが打ち止めさんね。今日はようこそ」
「は、はい!ってミサカはミサカはスタイル抜群な女の人を前にしてちょっと緊張してみたり......」
「ふふ、大丈夫よ」
そこへ美琴が近づいてくる。
「打ち止め、今日は結絆に色々案内してもらってたの?」
「そうだよーお姉様!!」
「よかったわね、私も今度結絆に案内してもらおっと」
美琴は料理の乗ったトレーを持って席についた。
「ようこそいらっしゃいました。今日はゆっくりしていってくださいね」
帆風が優雅にお辞儀する。
「いっぱい食べるのよお、可愛い子にはサービスしちゃうからあ」
蜜蟻は作った料理を並べながら言う。
「わあ、とっても豪華!?」
さらに麦野、絹旗、フレンダ、黒子、そしてドリームの他の女性陣まで次々に声をかける。
「ちっちゃくて可愛いじゃない」
「超元気そうですね」
「おおおお姉様、この子抱っこしてもよろしいですの?」
「ちょ、黒子落ち着きなさい!」
一瞬で打ち止めは女性陣に囲まれた。
「人がいっぱいだ!?ってミサカはミサカは包囲網を確認してみたり」
結絆は少し離れて笑っている。
「人気者だねえ」
「結絆さんの周りにいる人ってなんでこんなに美人ばっかりなの!?ってミサカはミサカは疑問を投げてみる!!」
「うーん、俺が優秀だからかなあ」
「その通りです、結絆様は素晴らしいお方です。」
白羽は打ち止めの頭を撫でながらそう言った。
そうこうしているうちに料理が並ぶ。
大皿のローストビーフ、魚介のパエリア、サラダ、スープ、山盛りのパン。
さらに打ち止め用に小さめのハンバーグプレートまで用意されている。
「いただきます」
全員の声が重なる。
打ち止めは、ぱくりとハンバーグを口に入れる。
「おいしい!!」
「よかったわ」
沙羅が微笑む。
結絆も山盛りの料理を次々と平らげていく。
「あんたは相変わらず食べすぎよ」
「今日もトレーニング頑張ったからねえ」
「1億Gの後で普通に食事してる時点でおかしいのよ」
テーブルは笑いに包まれる。
打ち止めは蜜蟻にデザートを追加され、黒子に頭を撫でられ、帆風におかわりを勧められる。
「みんな優しいね......」
「ここは皆の家だからねえ。大切な人たちと一緒に毎日楽しく暮らしているよお。」
結絆一人では、ここまでマジックシアターを発展させたり統括理事会の一員になることはできなかっただろう。
仲間の大切さを結絆はよく知っている。
その時。
ごうっ、と低い音が響いた。
食堂の大きな窓ガラスが、微かに震える。
外を見ると、空は真っ黒な雲に覆われていた。
雨が横殴りに打ち付ける。
「台風、強くなってきたわね」
沙羅が冷静に呟く。
雷光が空を裂き、遅れて音が聞こえる。
「ちょっと怖いかも......ってミサカはミサカは......」
打ち止めが窓を見つめる。
結絆は立ち上がり、そっと肩に手を置く。
「大丈夫だよお」
建物はびくともしない。
マジックシアターは結絆の管理下にあり、防御システムも万全だ。
統括理事会の一員や、レベル5が複数人いる施設を攻める愚か者はそうそういない。
「ここは、そう簡単には揺らがないからねえ」
再び、強い風が吹く。
だが室内は暖かく、料理の香りと笑い声に満ちている。
「それにねえ」
結絆はにこりと笑う。
「もし何かあっても、俺たちがいる」
「そうね、万全の備えはしてあるわ」
沙羅が頷く。
「台風だろうが侵入者だろうが、簡単にはやられないわよ」
美琴も腕を組む。
打ち止めは小さく拳を握った。
「ミサカもいるよ!!」
その言葉に、皆が笑う。
「頼もしいわね」
外では雨と風が激しさを増していく。
だが食堂の中は、温かい光に包まれている。
笑い声や食器の触れ合う音。
嵐の前触れの中で、結絆たちは静かに、そして確かに、絆を深めながら夕食を楽しんでいた。
今回までで平和な話は終わりです。
0930事件の内容は、当麻が学園都市にいないので、原作からそこそこ展開を変えています。