「次は手料理よ!これなら当てられないはず!」
勢いよくそう宣言すると、美琴はミサカの手首を掴んだ。
「料理対決ですね、とミサカは状況を把握します」
「対決っていうか、判別不能なテストよ。流石に料理ならわかんないはずよ」
二人はそのまま居住エリアの大きなキッチンへ向かう。
マジックシアターの厨房は高級ホテル顔負けの設備が揃っており、広い作業台が並び、調理器具も豊富だ。
「何を作るのですか、とミサカは尋ねます」
「うーん......じゃあ、オムライス」
「無難かつ個性が出やすい選択です、とミサカは分析します」
「う、うるさいわね!いいのよ、家庭料理の方が差が出ないの!」
美琴はエプロンを身につけ、腕まくりをする。
マジックシアターにいる日は結絆にオムライスを作ることも多く、作るのにも慣れてきている。
一方、ミサカも無駄のない動きで材料を刻む。
火加減も安定している。
「ちょっと、手際良すぎない?」
「日々の訓練の成果です、とミサカは淡々と返します」
「くっ......!」
美琴は負けじとフライパンを振る。
ケチャップライスを炒め、卵を焼く。
少し焦げ目がついたが、許容範囲だ。
(これなら分からないはず......!)
やがて二皿のオムライスが完成した。
見た目もほぼ同じ。
いつもの癖でケチャップでハートを描きそうになったが、バレそうなのでやめた。
「よし、呼ぶわよ」
美琴は結絆にメッセージを送り、キッチンへ招集する。
数分後、食蜂結絆が姿を現した。
「いい匂いだねえ。これは期待しちゃうよお」
「さあ、どっちが私のか当ててみなさい!」
テーブルに並んだ二皿を前に、美琴は腕を組む。
ミサカも静かに見守る。
結絆はまず左の皿を一口。
次に右を一口。
咀嚼しながら、ふむ、と小さく頷いた。
「右が美琴だねえ」
「なんでわかったの!?」
「正解です......とミサカは驚きを見せます」
「なんでよ!?見た目同じでしょ!?」
結絆はニヤニヤと笑う。
「卵の火の通りがちょっと強いねえ。あと、ケチャップの量が気持ち多い。美琴は味を濃いめにする癖があるんだよお」
「そ、そんな細かいとこまで......!」
「ミサカのは塩加減が安定してる。でも美琴のはね、ちょっとだけ勢いがある味」
「勢いって何よ!」
完全なる敗北だった。
味覚でも結絆を迷わせることはできなかった。
すると結絆はスプーンを置き、わざとらしく首を傾げる。
「せっかくだから、食べさせてほしいなあ」
「はあ!?」
美琴の顔が一瞬で真っ赤になる。
「な、何言ってんのよ突然!」
「二人の手料理なんだから、食べさせてもらった方が嬉しいじゃないかあ」
その横でミサカが静かにスプーンを持ち上げた。
「了解しました、とミサカは応じます」
「ちょ、ちょっとアンタ!」
ミサカは迷いなく一口分をすくい、結絆の口元へ差し出す。
「はい、あーん」
「あーん」
ぱくり、と結絆は素直に食べる。
「うん、美味しいねえ。ミサカの愛情が伝わってくるよお」
「ありがとうございます、とミサカは満足げに頷きます」
その様子を見て、美琴の胸が妙にざわついた。
(な、何よあの自然さ......!)
負けたくない、という妙な対抗心がむくむくと湧き上がる。
「......わ、私だって」
「ん?」
美琴は震える手でスプーンを握り、自分のオムライスをすくう。
「ほ、ほら。あーん!」
勢い任せに差し出すと、結絆は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとねえ、美琴」
ぱくり、と食べる。
「やっぱり美琴の料理は元気が出るよお」
「......っ!」
顔がさらに熱くなる。
だが、さっきまでの悔しさとは少し違う熱だ。
ミサカはその様子を観察しながら、ぽつりと告げる。
「お姉様はわかりやすいです、とミサカは再度分析します」
「うるさい!」
キッチンに笑い声が響く。
またしても判別テストは失敗。
外見も、触れ合いも、味も、すべて見抜かれてしまった。
けれども
「......まあ、ちゃんと分かってくれてるなら、それでいいけど」
「なんだかんだ嬉しそうだねえ」
「嬉しくない!」
そう言いながらも、美琴はどこか満足げだった。
「ほら、もう一回。今度も、ちゃんと味わいなさいよ」
「はいはい、あーんだねえ」
からかうような声と、穏やかな空気。
キッチンには、三人の賑やかな時間が流れていた。
キッチンのテーブルを囲みながら、三人の甘い時間はしばらく続いていた。
「ほら、次はこっち」
「はいはい、あーん」
美琴が差し出すスプーンを、結絆は素直に口に運ぶ。
少し照れたように視線を逸らしつつも、なんだかんだで美琴は手を止めない。
一方のミサカも、一定のリズムで淡々と食べさせている。
「まだまだ食べられますよね?、とミサカは結絆に引き続き手料理を振舞います」
「ありがとう。二人に世話されるなんて、贅沢だねえ」
「べ、別に世話してるわけじゃないわよ!」
美琴はそっぽを向くが、頬はほんのり赤い。
そんな中、ミサカがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、お姉様は大覇星祭の罰ゲームとして猫耳メイドの姿で結絆とイチャイチャしていたようですね、とミサカはお姉様が案外ノリノリだったのではと推測しながら話します」
美琴の時間が数秒止まる。
「な、ななな何の話よ!?」
美琴の声が裏返る。
結絆はきょとんとし、それから思い出したように目を細めた。
「ああ、あの時のかあ。猫耳メイド、似合ってたよねえ」
「やめなさい!」
美琴は慌ててスプーンを置き、両手で顔を覆う。
大覇星祭の罰ゲーム。
確かに、勢いで負けた結果、猫耳付きメイド服を着せられた。
しかも結絆の前で“ご主人様”などと言わされ、最終的には......
「お姉様は最初こそ抵抗していましたが、途中からは笑顔だったと記録しています、とミサカは淡々と証言します」
「記録しないでよそんなの!」
「にゃん、と言っていた場面も確認済みです」
「言うなあああ!」
美琴の顔はもはやトマト色だ。
結絆は肩を震わせながら笑う。
「確かに、美琴は時々メイド服姿で手料理をふるまってくれるからねえ」
「ちょっと!?それ今ここで言う!?」
「だって事実だし」
ミサカが興味深そうに首を傾げる。
「つまり罰ゲームに限らず、自主的に着用しているのですね、とミサカは分析します」
「じ、自主的じゃないわよ!あんたが喜んでくれてるから仕方なくやってるだけで......!」
思い切りツンとした言い方だが、視線は泳ぎ、耳まで真っ赤だ。
結絆は頬杖をつきながら、にやにやと眺める。
「仕方なく、ねえ?」
「そうよ!あんたが“今日も可愛いねえ”とか言うから......その......」
語尾が小さくなる。
ミサカは冷静に告げる。
「結絆の評価を気にしている時点で、十分ノリノリなのでは、とミサカは結論づけます」
「違うったら違う!」
だが否定の声は弱い。
結絆はふっと柔らかく笑った。
「でも、俺は猫耳メイドで手料理を作ってくれる美琴のことが大好きだよお」
「......っ」
その一言で、再び美琴の鼓動が跳ねる。
ミサカはその様子を見て、小さく呟いた。
「お姉様は素直になれないだけで、結絆のことを大切に思っているのがよく分かります、とミサカは観察結果を述べます」
「ち、違......」
言い返そうとして、言葉が詰まる。
結絆はくすりと笑い、スプーンを置いた。
「まあ、要するに美琴はかわいいってことだよお」
「まとめないで!」
「ですが事実です、とミサカは同意します」
美琴は両手で顔を覆いながら、椅子に沈み込んだ。
(なんでこうなるのよ......!)
からかわれているのは分かっている。
だが、嫌ではない。
むしろ、こうして自分の行動を覚えていてくれることが、少しだけ嬉しい。
「では、猫耳メイドの再現はいつにしますか、とミサカは提案します」
ミサカは改めてスプーンを持ち上げてオムライスをすくいながら、そうつぶやく。
「するわけないでしょ!」
結絆は楽しそうに笑いながら、美琴の方を見る。
「でも、また見たいなあ」
「......気が向いたらね」
小さくそう呟く美琴の頬は、まだ赤い。
素直になれないその態度が、余計に愛らしい。
結絆とミサカは顔を見合わせ、同時に微笑んだ。
「やっぱり美琴は可愛いねえ」
「同意します」
「うるさい!」
キッチンには、また賑やかな笑い声が響く。
猫耳メイドの記憶はしばらく消えそうにない。
そしてきっと、自分は猫耳メイドで結絆の部屋に行くのだろう。
そんな予感を残しながら、美琴は二人と穏やか?な時間を過ごしていた。
ミサカは結絆の影響で美琴を容赦なくいじれるようになっています。