食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回はちょっと長めです。


超能力実演

 翌朝。

 

眩しい陽光がホテルの窓から差し込み、白いカーテンを透かして部屋に柔らかな光を注いでいる。

 

結絆が目を覚ますと、隣では美琴が小さく欠伸をしながら起き上がっていた。

 

髪は寝癖で少し跳ねており、まだ眠たげな目元をこすっている。

 

「おはよう、美琴。よく眠れたかい?」

 

「時差ボケ忘れるくらいぐっすり。あんたの背中さすり、意外と効いたわよ」

 

そう言いながらも、美琴の頬はほんのり赤い。

 

結絆はくすっと笑いながらベッドから身を起こす。

 

「それは良かったねえ。じゃあ、ご褒美に美味しい朝ごはんでも食べに行こうかなあ」

 

「ご褒美って何よ......まあ、いいけど。お腹空いたし」

 

二人は軽く身支度を整え、ホテルのレストランへと向かった。

 

そこは高級ホテルに相応しく、開放的で気品漂う空間だった。

 

天井は高く、窓からは朝の街並みを見渡すことができた。

 

客席の合間には観葉植物が丁寧に配置され、落ち着いたクラシックの旋律が静かに流れている。

 

そして、何よりも目を引いたのは、ずらりと並べられた豪華なビュッフェだった。

 

焼き立てのクロワッサン、卵料理はシェフ特製のオムレツやスクランブルエッグ、肉料理はステーキにベーコンと揃っており、サラダやチーズ、スモークサーモンにフルーツまで豊富に揃っている。

 

さらには和食のエリアまであり、白米、味噌汁、焼き魚も用意されていた。

 

結絆は目を輝かせながらトレーを手に取り、早速料理を取りに向かう。

 

「おお、朝からこれは贅沢だねえ......選ぶだけで楽しいよお」

 

「アメリカのホテルって、量で勝負って感じのイメージがあったけど......これは質もすごいわね」

 

美琴も感心したように頷きながら、皿にサーモンとフレッシュチーズを乗せていく。

 

二人は席につき、それぞれのトレーを眺めながら顔を見合わせた。

 

「「いっただきまーす」」

 

最初に手をつけたのは、目の前でシェフが作ってくれたベーコンとチーズ入りのふわふわオムレツ。

 

ナイフを入れると中からとろりとチーズが溶け出し、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

 

一口頬張ると、濃厚でありながらも塩気は控えめ。

 

朝にぴったりな味わいだった。

 

「......ん~、美味いねえ。これ、食べた瞬間に目が覚めるやつだよお」

 

「クロワッサンもサクサクで最高。バターの香りがすごい......ねえ、このメープルシロップも試してみなさいよ」

 

「ん、ありがとう。あ、美琴、それ取るならヨーグルトも合うかもしれないよお」

 

まるでグルメレポーター同士のような会話を交わしながら、二人はゆったりと朝食を楽しむ。

 

食事の間、昨日の空港での出来事や、今夜の実演についての軽い話題が飛び交ったが、どれもどこか穏やかだった。

 

そしてふと、美琴が結絆の顔を見ながら呟く。

 

「......なんだか、こうやって朝からゆっくり話すの、久しぶりな気がするわね」

 

「確かに、夕方と夜はよく一緒にいるけどお、朝はお互い早いからねえ」

 

「だから、こんな静かな朝ってのは......案外貴重よ」

 

結絆はその言葉に目を細め、コーヒーを飲み干す。

 

「......わかるよお、何も起きない時間って、ありがたいんだよねえ」

 

窓の外には、朝の都市が動き始めている。

 

車が行き交い、人々が仕事へと向かう姿が小さく見える。

 

その喧騒が、今のこの穏やかな時間をより特別なものにしていた。

 

やがて食事も終盤に差しかかり、二人はお腹を満たして席を立った。

 

「さて、今日の主役は俺たちだからねえ。そろそろ準備しよっかあ」

 

「そうね。変な事件、起きなきゃいいけど......」

 

「大丈夫だよお。起きても俺たちが片付けるだけ。......ま、まずは食後の歯磨きからだねえ」

 

「そこからかーい」

 

美琴のツッコミがレストランに響き、二人の笑い声が朝の空気に溶けていった。

 

 

 

 会場に着くと、そこはすでに熱気と期待に包まれていた。

 

巨大な野外ステージの背後には星条旗が風にたなびき、客席には各国の代表団と関係者、報道陣、そして地元の一般市民までがずらりと集まっている。

 

青空のもと、色とりどりの旗やプラカードが掲げられ、ステージ前には簡易的に設けられた警備エリアがありながらも、子供たちが最前列に並び、目を輝かせながら二人を見つめていた。

 

結絆と美琴が車から降りると、さっそく歓声が上がった。

 

「わあっ、MISAKAだ!」

 

「Mikoto and Yuhan!!」

 

アメリカの子供たちは、日本からやってきた二人のレベル5に憧れを込めた視線を向け、手を大きく振っている。

 

手作りの応援ボードには「ELECTRIC PRINCESS」や「We love Yuhan!」といったキャッチーな言葉が躍っていた。

 

「......すごいわね、まるでアイドルみたい」

 

少し驚いた様子の美琴に、結絆はニコニコしながら手を振り返した。

 

「そりゃあ、美琴は学園都市の看板スターだもんねえ。俺はついでって感じだけど」

 

「何言ってるのよ。手を振ってる子たち、半分はあんた目当てよ」

 

そう言いながらも、美琴も負けじと笑顔で子供たちに手を振り返す。

 

その姿に、子供たちの歓声はさらに高まり、色とりどりの風船が空に舞い上がった。

 

会場のスタッフに案内され、二人は控えエリアへと足を進める。

 

その途中、スーツ姿の男たちが集まった一角から一人が手を振ってきた。

 

「おーい、結絆、美琴嬢!今日は期待してるぜ!」

 

ロベルト=カッツェ。

 

アメリカ合衆国大統領でありながら、どこか気さくな雰囲気を持つその男は、満面の笑みで二人を迎え入れた。

 

彼のまわりには、イギリス、フランス、ロシア、中国など、世界各国から集まった要人たちが控えていた。

 

「ロベルト。昨日ぶりだねえ」

 

結絆は微笑を浮かべながら近づき、ロベルトとがっしりと握手を交わした。

 

美琴は横でジト目を向ける。

 

「......本当に仲良しなのね。あんた、どこまで交友関係広いのよ」

 

「そりゃあ、学園都市の顔として、国際交流も大事にしてるんだよお?」

 

冗談交じりに返す結絆に、美琴は溜め息をつきつつも微笑んだ。

 

「まあ、頼りになるのは確かだけどさ」

 

ロベルトは二人のやりとりを楽しそうに聞きながら、ふと他の役人たちに目をやった。

 

「紹介しよう。こっちはイギリスのミセス・グレース、こっちは中国のファン博士、そしてあっちが......」

 

次々と紹介される各国の要人たち。

 

それぞれが穏やかな微笑を浮かべつつも、鋭い視線を二人に向けていた。

 

まるでただの挨拶ではなく、この場に立つ者の力量を見極めようとするかのように。

 

だが、結絆も美琴もそれに臆することはなかった。

 

むしろ、余裕の笑みを湛えたまま、丁寧に握手を交わしていく。

 

「今日は我々も楽しみにしているのです。学園都市の“超能力”というものを、ぜひ目の当たりにしたい」

 

「もちろん、お見せしますよ。俺たちの力をねえ」

 

結絆のその言葉に、美琴も頷く。

 

「安全第一でね。でも、見て後悔はさせないわよ」

 

そのやり取りに周囲の空気がわずかにざわめいた。

 

好奇心、期待、警戒、あらゆる感情が入り混じった視線が、二人の存在に集まっていく。

 

ふと、ロベルトが顎をしゃくって会場の中央を示した。

 

「そろそろ始まりの準備をしようか。ここから先はお前たちの舞台だ!」

 

「了解だよお」

 

「任せなさい」

 

二人は揃って頷き、観客の待つメインステージへと歩き出す。

 

 

 

 歓声と拍手、カメラのシャッター音が彼らの背を押す。

 

空は青く澄み、風がステージの幕をやさしく揺らしていた。

 

超能力という非現実を、現実の世界へと示す一日が、今まさに始まろうとしていた。

 

晴れわたる青空の下、巨大なステージの中心に二人の姿が立つ。

 

観客席はすでに満員で、世界中の報道陣が一斉にカメラを構え、誰もが固唾を呑んでその瞬間を待っていた。

 

ロベルト=カッツェ大統領が壇上に立ち、声を張る。

 

「さあ、みんな!これが噂の“学園都市”の力だ。思う存分、楽しんでいってくれよ!」

 

拍手と歓声が巻き起こる中、最初にステージの中央へと進み出たのは、美琴だった。

 

制服姿のまま、風を受けながら凛と立つその姿に、カメラのフラッシュが集中する。

 

「御坂美琴。レベル5、能力は電撃使いと超電磁砲よ!」

 

そう言って、美琴は軽く右手を掲げる。

 

次の瞬間、バチンッという鋭い音と共に、指先から稲妻が放たれた。

 

光の蛇が空気を裂いて走り、上空のドローン型ターゲットに直撃。

 

一発でそれを焼き切り、爆ぜるように破壊する。

 

観客席から驚きと歓喜の声が上がる。

 

「まだまだぁ!」

 

美琴は足元を軽く蹴るようにして、地面の砂鉄を巻き上げた。

 

そのまま指先をくい、と動かすと、空中に舞った砂鉄が次第に形を成していく。

 

磁力で集められたそれは、鋭利な槍、巨大な盾、空飛ぶ竜のような姿へと変化し、自在に空中を舞い踊った。

 

彼女が指を鳴らすと、砂鉄の彫刻たちは一斉に炸裂するように空中で光の粒と化し、舞い散っていく。

 

「見たかこれ!すげえ......!」

 

「まるで魔法みたいだ!」

 

どよめく観衆。

 

その喝采を背に受け、美琴は照れたように軽く手を振った。

 

「さーて、じゃあ今度は俺の番だねえ」

 

入れ替わるようにして、結絆がステージの中心へ歩み出た。

 

軽く肩を回し、あくび交じりに観客を見渡す。

 

「どうもどうもー、食蜂結絆だよお。......じゃあ、ちょっと力仕事でも見せようかなあ」

 

その言葉と同時に、後方から巨大な戦車がステージへと運ばれてくる。

 

厚い鋼鉄でできた車体は明らかに一人の人間が持ち上げられる代物ではない。

 

「これ、何トンあるのかなあ?」

 

「約五十トンです」

 

結絆の質問にスタッフは答える。

 

「うーん、能力なしでも楽に持ち上がるねえ......まあ、驚いてくれるだろうからいいかあ......」

 

結絆はゆっくりと戦車の前に立つと、両足を肩幅に開き、片手を車体の下へ滑り込ませた。

 

そして、呼吸を一つ整えると......

 

「ほいっと」

 

おもちゃの車を持ち上げるかのような感覚で、片手で戦車を持ち上げた。

 

巨大な金属の塊が、軽々と宙に浮かぶ。

 

観客席は、瞬間的に静まり返った後、轟くような歓声に包まれた。

 

「ありえねぇ......」

 

「人間じゃねえ......!」

 

結絆は片手で戦車を上に掲げたまま、もう片方の手で軽く手を振ってみせる。

 

「ちなみにこれ、能力だけじゃなくて“鍛錬”の賜物でもあるからねえ。すごいでしょお?」

 

続けて結絆は複数台の戦車でジャグリングを披露した後に静かに地面へ戻すと、スタッフが用意した別のパフォーマンスに向かった。

 

ジャグリングを見た観客たちは、驚きのあまり言葉を失っていたという。

 

複数の標的が設置され、その中央には狙撃銃が自動で弾を発射する装置が設けられていた。

 

「じゃあ、次はこれ。良い子は絶対真似しないでねえ」

 

装置が起動すると、銃口から弾が高速で放たれる。

 

結絆はそれを、まるで風を読むかのようにタイミングを合わせ......

 

ガチンッ!

 

歯で受け止めた。

 

信じられない光景に、再び観客の声が凍りつく。

 

「なにあれ......歯!?」

 

「うそでしょ、見えてるっていうの!?」

 

結絆は口から取り出した弾丸を指先でひょいと掲げ、にかっと笑った。

 

「うーん、ちょっと苦かったかなあ」

 

その軽口に、どっと会場が笑いと驚きに包まれる。

 

最後に、美琴と結絆は並んでステージ中央に立ち、二人で同時に空に向けて力を放つ。

 

電撃と衝撃波が融合し、空を駆ける虹色のオーロラのような光が天を貫いた。

 

空を舞う輝きの下、会場は総立ちとなり、喝采が止むことはなかった。

 

 

 

 前半のプログラムを終えた結絆と美琴がステージの片隅で一息ついていると、観客席のほうからひときわ元気な声が響いた。

 

「ねえ、ねえ、お兄ちゃん!今度は別のも見せてよ!」

 

声の主は、五歳くらいの小さな男の子だった。

 

明るい金髪にそばかす混じりの頬、真っ直ぐな眼差しで結絆を見上げている。

 

結絆はその様子に目を細め、ゆっくりとしゃがみ込んで彼と目線を合わせた。

 

「今のだけじゃ満足できなかったのかなあ?」

 

「うん!電気や怪力もすごかったけど......今度は、もっと......びっくりするやつ!」

 

「小さい子って、ほんと容赦ないわね」

 

その言葉に、美琴が後ろで肩をすくめて笑う。

 

結絆はくすっと笑うと、男の子の前で両手を合わせるようにして組んだ。

 

「じゃあ......ちょっとだけ、特別な手品を見せてあげようかあ。」

 

結絆は指をパチンと鳴らした。

 

すると、両手の隙間からふわりと何かがこぼれ出すように見えた。

 

最初は一枚、また一枚と、まるで空中から引き出されるように現れるカードたち。

 

それが次々に連なり、彼の手の中に一組のトランプが形作られていく。

 

赤と黒の模様が太陽の光を反射し、周囲の空気すら静まり返るほど幻想的な光景だった。

 

「うわぁぁ......!」

 

「どうやってるの!?」

 

「魔法みたい......!」

 

周囲にいた子供たちや観客が次々と集まり、目を丸くしてその様子を見つめる。

 

「はい、できたよお」

 

結絆は完成したばかりのトランプを軽くシャッフルしてみせた後、小さな男の子の目の前に差し出した。

 

「これ、プレゼントだよお。まだまだいろんな見世物があるから、楽しんでいってねえ」

 

男の子は一瞬、信じられないといったようにトランプを見つめ、それから瞳を輝かせて大きくうなずいた。

 

「ありがとうっ!すっごくカッコよかった!ぼくも能力者になりたい!」

 

「その時は、学園都市においで。マジックシアターもあるから楽しめるよお」

 

そう言って結絆が笑いかけると、男の子は大事そうにトランプを胸に抱え、友達のもとへと駆け戻っていった。

 

トランプを見せながら興奮した様子で何かを話している。

 

周囲の大人たちも微笑ましくその様子を見守っていた。

 

美琴が結絆の隣に歩み寄ってくる。

 

「......あんた、ああいうの本当に上手いわよね。子供の心を掴むっていうかなんというか」

 

「子供の笑顔って、なんか......いいよねえ。ああやってキラキラしてるとさあ、こっちまで元気になるよねえ?」

 

彼の言葉に、美琴もふっと優しく笑った。

 

「......そうね。戦ったり、見せつけたりするだけが力じゃないって、今の見てたら分かる気がするわ」

 

「うん、そうだよお。力って、誰かを守るためにあるのが一番だけど、たまには笑わせたり、感動させたり、そんな風に使えるのも......悪くないでしょお?」

 

「......ほんと、あんたって時々、びっくりするくらいまともなこと言うのよね」

 

「普段からまともだと思うけどなあ......」

 

一般人からすれば、二人とも変人である。

 

二人は視線を交わし、軽く笑い合った。

 

その背後では、子供たちが結絆からもらったトランプで楽しそうに遊び始めていた。

 

戦車を持ち上げる力も、稲妻を操る能力も、それらが子供たちの夢と希望に変わる瞬間。

 

結絆と美琴が見せた力は、ただの超能力ではなく人の心に残る奇跡のようなものだった。

 

 

 

 超能力の実演を終え、会場の空気は熱気と興奮に包まれていた。

 

拍手と歓声が鳴りやまず、子供たちの笑顔が会場のあちこちに花のように咲いている。

 

そんな中、控えのテントへと戻ってきた結絆と美琴を、一人のスーツ姿の男が出迎えた。

 

肩幅が広く、軍人上がりのような鋭い目つきのその男は、アメリカ政府の防衛技術局に所属している役人だった。

 

「やあ、ミスター・ショクホウ。お見事なパフォーマンスだった。さすが“学園都市の切り札”と呼ばれるだけはある」

 

皮肉交じりの笑みを浮かべた男は、わざとらしく一つの台の上に置かれた金属の塊を指さした。

 

黒光りするその塊は、大人の頭ほどの大きさで、見るからに重厚な質感をしていた。

 

「だが......どうだろう。君の力、ほんの少し試させてもらっても?」

 

結絆はその挑発を含んだ言葉に目を細め、ゆっくりと男の視線を受け止める。

 

「それって......試すっていうより、ケンカ売ってるって言わないかなあ?」

 

「はは、まあまあ。これは我々の最新の軍用合金だ。ダイヤモンドよりも硬く、通常の爆薬では表面にひび一つ入らん代物。だが......君の鍛錬された肉体で、壊せるものかどうか、ぜひ見てみたいと思ってね」

 

周囲の関係者たちが興味深そうに集まり、空気がざわつき始める。

 

美琴は横でため息をついた。

 

「またこういうのに乗っちゃうんでしょ、あんた......」

 

結絆はくるりと美琴のほうを振り返って、にこりと笑った。

 

「まあ、期待には応えないとねえ。......というわけで、やってみよっかあ」

 

彼はゆっくりと台に歩み寄り、合金の塊に両手を添える。

 

常人では片手では抱えきれないその重量をものともせず、彼の手はぴたりと表面を捉えると、ゆっくりと力を込め始めた。

 

ギリッ。

 

最初はかすかな金属音。

 

だが次第に、それが軋みへと変わっていく。

 

結絆の手のひらから、圧倒的な握力が伝わり、合金の塊はまるで粘土のように凹み始めた。

 

彼の筋肉は膨れ上がることもなく、表情も穏やかなままだ。

 

ただ左右からじわじわと、静かに、確実に、破壊の力を加えていく。

 

「ば、馬鹿な......我々の合金が......」

 

役人の顔色が青ざめていく中、結絆はなおも圧縮を続ける。

 

そして、ついには塊が拳ほどの大きさになると、結絆は一度それを持ち上げ、両手でゆっくりと......引きちぎった。

 

まるで紙を破くように、左右にちぎられた合金の塊が、悲鳴のような金属音を立てる。

 

暫くの間沈黙が続く。

 

それを破ったのは、役人が情けない音を立てて腰を抜かした音だった。

 

「......ひっ......!」

 

彼は尻もちをつき、そのまま言葉を失って呆然と結絆を見上げる。

 

一方、結絆はその場に割れた金属片をそっと置くと、手のひらをパンパンとはたいて、軽やかな笑顔を見せた。

 

「こんな感じで、いいかなあ?あ、壊しちゃったのは、ごめんねえ?」

 

美琴は隣で、呆れたように片手を腰に当てて言った。

 

「ほんと......あんたって、たまに怪物みたいなことするわよね」

 

「えー?いつもは優しいって言ってくれるのにい?」

 

「そんなには言った覚えないから!」

 

美琴がぷいっとそっぽを向きながらも、どこか照れたような表情を浮かべているのを見て、結絆は満足そうに微笑んだ。

 

その後、割れた合金の破片を前にして呆然と立ち尽くす役人は、少しの間笑い者にされたという。

 

 

 

 華々しい実演が終わったが、会場の熱気はまだ冷めやらぬまま。

 

少し疲れはあったものの、観客の歓声と子供たちの瞳に宿った輝きを思い返すだけで、二人の胸は満ち足りた気持ちでいっぱいだった。

 

そんな中、一人の男がゆったりと姿を現す。

 

「お疲れ様、二人とも、最高だったぞ!」

 

気さくな口調とは裏腹に、どこか風格を帯びた声が空気を震わせる。

 

アメリカ合衆国大統領、ロベルト=カッツェだ。

 

いつものように柔らかい笑みを浮かべていたが、その眼光だけは鋭さを失っていない。

 

「いやぁ、実演は大成功だったな。子供たちも喜んでいたし、各国の役人もお前たちの力に感嘆していた。これ以上ないアピールだったな」

 

「ありがとお。ちょっと頑張りすぎちゃったかなあ」

 

結絆は肩を軽くすくめて笑う。

 

美琴もどこか満足げに頷いた。

 

「まあ、楽しんでもらえたなら何よりかなあ。全力ってわけじゃなかったけど」

 

「はは......全力じゃないってのがまた恐ろしいな」

 

ロベルトは少しだけ口角を上げて言うと、やや声のトーンを落とし、真剣な表情を浮かべて二人に向き直った。

 

「......なあ、仮に......“仮に”だ。お前たちがアメリカ軍と戦うことになったら、勝つのはどっちだと思う?」

 

一瞬、静寂が訪れた。

 

しかしそれはごく短い間だった。美琴は目を細めながら肩をすくめる。

 

「電子兵器ばっかりでしょ、こっちの兵器って。学園都市の兵器よりも数十年遅れてるから、制御系統をハッキングすれば、勝負にすらならないと思うけど?」

 

その言葉に、ロベルトの口元がピクリと動く。

 

「おお、頼もしいな。で、結絆。お前は?」

 

結絆は一歩、前に出て空を見上げた。

 

その眼にはどこか、遠くを見据えるような深さが宿っている。

 

「俺だったらあれかなあ。剣を一振りして、軍の基地を真っ二つにしてみせるよお。......そのほうが、戦わずに士気を下げられるからねえ。それでも向かってくるようなら、拳で大きめのクレーターでも作ろうかなあ。いい観光名所になると思うよお」

 

何気ないような口調だったが、その言葉の奥に秘められた破壊力を理解していたロベルトは、しばし沈黙のあと、ふっと笑った。

 

「......なるほど。やっぱりそうか。そりゃあ、どっちが勝つか聞いた俺が馬鹿だったかもしれないな」

 

彼はポケットから取り出した葉巻を指先で転がしながら、ふっと息を吐く。

 

そして、再び視線を二人へと戻した。

 

「......正直な話、軍の一部がな。どうやら独断でお前たちを監視しようとしてる。場合によっては無力化も視野に入れてるらしい」

 

「......へぇ。勝ち目ないのに?」

 

美琴が眉をひそめて呟くと、結絆もあまり驚いた様子は見せず、ゆるく笑ってみせた。

 

「人間誰しも恐怖に陥ると判断を誤るからねえ。よくある話だよお」

 

ロベルトはわずかに眉をひそめながら、二人を見据える。

 

「だから、もし仮に攻撃されたら......優しく、やり返しておいてくれ」

 

その口調は、いつになく静かだった。

 

「優しく、ねえ......」

 

美琴は苦笑いを浮かべた。

 

「その言葉、あんたの部下が聞いたら震え上がると思うけど」

 

「ははっ。だったら余計に丁寧に頼んでおかないとな」

 

ロベルトは再び笑顔を取り戻すと、軽く頭を下げてその場を去っていった。

 

その背中を見送りながら、美琴はぽつりと呟く。

 

「......世界のトップって、大変なのね」

 

「だねえ。でも......俺たちも、同じようなものかもしれないよお」

 

結絆の言葉に、美琴はちらりと横顔を見つめた。

 

頼もしくて、どこか掴みどころのない彼の姿が、今はほんの少しだけ遠くに感じられた。




戦車でジャグリング......恐ろしいですね
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