食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回からは、結絆とアイテムのメンバーたちとのやり取りです。


アイテム編その2
アイテムの少女たちとのトランプ


 夕暮れのマジックシアター居住エリア。

 

静かな廊下に、軽快な足音が四つ響いていた。

 

「今日は仕事もないので超暇ですね」

 

先頭を歩く絹旗最愛が振り返り、にやりと笑う。

 

隣にはフレンダ、少し後ろに滝壺理后、そして腕を組んで歩く麦野沈利。

 

「だからって、なんであいつの部屋に行くのよ?」

 

麦野が肩をすくめる。

 

「いいじゃんいいじゃん。結絆って面白いし。一緒にいれば退屈しないってわけよ」

 

フレンダが明るく言い、滝壺もこくりと頷く。

 

「結絆、きっと喜ぶと思う」

 

四人は結絆の部屋の前に立ち、絹旗がノックを数回。

 

「結絆ー。超遊びに来ました」

 

すぐに扉が開き、結絆が顔を出す。

 

「おやおやあ、最愛にフレンダに滝壺に麦野じゃないかあ。どうしたのかなあ?」

 

「超トランプしに来ました」

 

即答する絹旗に、結絆は一瞬目を丸くしてから楽しそうに笑った。

 

「いいねえ。ちょうど書類整理も終わったところだし、一緒に遊ぼうかあ」

 

部屋に通されると、中央のテーブルを囲む形で五人が腰を下ろす。

 

結絆は棚から新品のトランプを取り出した。

 

結絆はトランプの入った箱を開け、カードを滑らかに取り出す。

 

その手つきは妙に手慣れていた。

 

「超手際いいですね」

 

「マジックシアターの支配人だからねえ。こういうのも嗜みだよお」

 

そう言いながら、結絆はカードを扇状に広げ、軽く指を弾く。

 

ぱらぱらと空気を切る音が心地よく響く。

 

続いてリフルシャッフル。

 

カードが美しく弧を描いて噛み合う。

 

「おー、すごいじゃん」

 

「超プロみたいです」

 

フレンダと絹旗が素直に感心する。

 

結絆はにやりと笑い、さらに数回シャッフルを重ねる。

 

「今日はイカサマはしないよお?安心してねえ」

 

「当たり前でしょ。やったらぶっ飛ばすから」

 

麦野がじろりと睨むが、結絆は涼しい顔だ。

 

「まずは何やる?」

 

フレンダが結絆に尋ねる。

 

「まずは定番でいこうかあ。ババ抜きがいいかなあ」

 

「超定番ですね」

 

「だからこそ、性格が出ると思う」

 

滝壺がそう呟く。

 

結絆は軽く手を叩いた。

 

「とはいえ、普通にやってもしょうがないから、ルールを一つ追加しようかあ。最初に上がった人が、ここにいる誰かに何か一つお願いできる、ってのはどうかなあ?」

 

一瞬の沈黙。

 

「へえ?面白いじゃん」

 

フレンダの目が輝く。

 

「内容は?」

 

麦野が鋭く問う。

 

「常識の範囲内ねえ。危険なのはなし。拒否権は基本的にはなし、ってことでどうだい?」

 

「超スリリングですね......」

 

「勝ったら結絆にお願いできる?」

 

滝壺が静かに確認する。

 

「もちろんだよお。俺も対象だからねえ」

 

それを聞いて、四人の空気がわずかに変わる。

 

「へえ......じゃあ本気出さないとね」

 

「結局、勝てばいいってわけよ!」

 

「超負けません」

 

「......頑張る」

 

結絆はくすくす笑いながらカードを持ち直す。

 

「じゃあ時計回りでいこうかあ。最初は俺から引くよお」

 

五人の視線が交差し、テーブルの上には緊張と期待が入り混じった空気が満たされる。

 

誰が最初に抜けるのか、ジョーカーは誰の手にあるのか、そして勝者の願いは何になるのか。

 

「それじゃあ......ババ抜き、開始だねえ」

 

結絆が隣の絹旗の手札に手を伸ばす。

 

こうして、少し賑やかで、少しだけ真剣な五人の勝負が幕を開けた。

 

 

 

 「それじゃあ、いくよお」

 

結絆の指先が、絹旗の手札へと伸びる。

 

ほんの一瞬、絹旗がじっと結絆の目を見つめた。

 

「超心理戦ですね」

 

「顔に出てるよお?」

 

「超出てないです!」

 

軽口を交わしながら、結絆は一枚引き抜く。

 

自分の手札に加え、すぐに視線を落とした。

 

「おっ、揃ったねえ」

 

結絆は、さらりと同じ数字のカードを二枚、テーブル中央へ捨てる。

 

「はやっ!まだ始まったばっかなんだけど?」

 

フレンダが声を上げる。

 

「運がいいのか、それとも......」

 

麦野が疑わしげに目を細める。

 

「イカサマはしてないよお。ちゃんと普通にやってるからねえ」

 

結絆は肩をすくめ、次の滝壺へとターンを回す。

 

ゲームは順調に進んでいく。

 

誰かが引き、そろえば捨て、揃わなければ次へ。

 

だが目立っているのは結絆だった。

 

「おやあ、また揃っちゃったねえ」

 

ぱさり。

 

「え、また!?」

 

ぱさり。

 

「超おかしいです」

 

ぱさり。

 

流れ作業のように、結絆の手札は減っていく。

 

「ちょっと待ちなさいよ。あんた強すぎでしょ」

 

「強いっていうかあ......今日は流れが来てるんだよお」

 

にこにこと穏やかに笑いながら、次のカードを引く。

 

絹旗の手札から一枚。

 

数秒、静止。

 

「......超どうですか」

 

ぱさり。

 

「はい、これで最後だねえ」

 

引いたカードと同じ数字のカードを捨てると、結絆の手にはもうカードが一枚も残っていなかった。

 

「......は?」

 

「嘘でしょ!?」

 

「超早すぎます!」

 

「......もう終わったの?」

 

フレンダたちは、結絆に驚きの目を向ける。

 

結絆は満足げに手を叩いた。

 

「というわけで、俺が一位だねえ」

 

「ちっ......!強すぎるじゃねぇか」

 

麦野が舌打ちする。

 

「お願い、かあ......」

 

フレンダがわくわくした目で見る。

 

結絆は顎に指を当て、わざとらしく考える素振りをした。

 

「うーん......何にしようかなあ」

 

「変なの言ったら超許しませんよ」

 

「常識の範囲内って言ったのあんたよ」

 

麦野の視線が鋭い。

 

しかし結絆はふっと笑った。

 

「じゃあさあ」

 

視線をフレンダと絹旗に向ける。

 

「恋人の二人にハグしてもらおうかなあ」

 

一瞬、空気が止まる。

 

「......へ?」

 

フレンダが目を瞬かせる。

 

「超それだけですか?」

 

「うん。それだけだよお」

 

結絆は穏やかに言った。

 

「せっかくの機会だからねえ。まずは、こういうのもいいでしょお?」

 

次の瞬間、フレンダがにやっと笑う。

 

「なーんだ、そんなこと?むしろ大歓迎ってわけよ!」

 

立ち上がり、勢いよく結絆に抱きつく。

 

「はい、ぎゅー!」

 

「おっと」

 

柔らかく受け止めながら、結絆も腕を回す。

 

「超ずるいです。私もです」

 

絹旗も立ち上がり、反対側から抱きついた。

 

三人がぴったりと寄り添う形になる。

 

「ふふ、あったかいねえ。二人とハグしてると幸せになれるよお」

 

「結局、こういうのが一番平和ってわけよ」

 

「超満足です」

 

少し離れた場所で、麦野が鼻を鳴らす。

 

「ま、健全でよかったわね」

 

「......幸せそう」

 

麦野と滝壺は静かに呟いた。

 

こうして一ゲーム目は、思いのほか和やかな形で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 再び全員が席に戻り、結絆はカードを回収する。

 

「じゃあ次いくよお?」

 

結絆がカードをまとめようとしたところで、フレンダが手を上げた。

 

「ちょっと待った!」

 

「ん?」

 

「さっきのルール、ちょっと追加したいんだけど」

 

全員が視線を向ける。

 

「一度命令する側になった人は、その後二ゲームが終わるまでは、たとえ一位になっても命令権ゲットなしってのはどう?」

 

「なるほどねえ。連続で勝っても命令できないようにすればある程度平等になる感じだねえ」

 

「超賛成ですね」

 

「賛成。面白くなる」

 

滝壺が静かに言う。

 

麦野も肩をすくめる。

 

「別にいいわよ。どうせ次は私が勝つし」

 

「よし、決まりってわけよ!」

 

フレンダが満足げに笑う。

 

「じゃあ俺は次勝っても権利なしだねえ」

 

「結絆は強すぎるので超ハンデです」

 

「うーん、皆が手厳しいよお」

 

結絆は再びカードを丁寧にシャッフルし始める。

 

今度は先ほどよりもさらに丁寧に、念入りに。

 

ぱらぱらとカードが混ざる音。

 

「さあて......二ゲーム目、どうなるかなあ」

 

五人の視線が再び交差する。

 

新たな駆け引きの気配を漂わせながら、二ゲーム目が始まろうとしていた。

 

 

 

「それじゃあ二ゲーム目、今度は種目を変えようかあ」

 

結絆がカードを整えながら言う。

 

「何にするの?」

 

「ダウトはどうだい?心理戦がもっと濃くなるよお」

 

「超いいですね。駆け引きが面白そうです」

 

「面白そう」

 

滝壺がこくりと頷く。

 

「ふん、心理戦なら負けないわよ」

 

麦野が不敵に笑う。

 

ルールを簡単に確認し、時計回りでスタート。

 

最初の宣言は絹旗から。

 

「超“3”を一枚」

 

ぱしりと伏せて置く。

 

「ほんとにー?」

 

フレンダがニヤニヤしながら絹旗をからかう。

 

「いきなり超チェックしますか?」

 

「むぅ......今回はスルーってわけよ」

 

次はフレンダ。

 

彼女はカードを見た瞬間、ほんのわずかに眉が動いた。

 

「えっと......“4”を二枚!」

 

勢いよく置く。

 

沈黙。

 

結絆がにやりと笑う。

 

「顔に出てるよお?」

 

「出てないってば!」

 

「ダウト」

 

「はあ!?」

 

カードをめくると......一枚は4、もう一枚は7。

 

「ほらねえ」

 

「うわー!やっちゃった!」

 

山札を抱え込むフレンダに、絹旗が真顔で言う。

 

「超わかりやすかったですね」

 

「私ってポーカーフェイス向いてないの?」

 

「向いてないわね。フレンダは顔に出すぎる」

 

麦野が即答する。

 

ゲームは進む。

 

滝壺は淡々と宣言し、ほとんど表情を変えない。

 

絹旗は理詰めで確率を読み、慎重に動く。

 

結絆はというと――。

 

「“6”を一枚だよお」

 

穏やかに置く。

 

「......ダウト」

 

麦野が即座に言う。

 

めくると、本当に6。

 

「ちっ」

 

麦野が舌打ちする。

 

「結絆、強いね」

 

「心理戦は嫌いじゃないからねえ」

 

しかし今回は、結絆も何度か疑われ、山札を抱える場面もあった。

 

そして何より、フレンダの被弾率が高い。

 

「“Q”を一枚!」

 

「ダウト」

 

「また!?」

 

めくると8。

 

「嘘でしょー!?」

 

「超顔が“嘘ついてます”って言ってます」

 

「そんなに!?」

 

テーブルは笑いに包まれる。

 

だが終盤、空気が変わった。

 

手札が減ってきた麦野が、鋭い視線で順番を見極める。

 

「......“2”を一枚」

 

静かな声。

 

誰も動かない。

 

次は結絆。

 

「“3”を一枚だよお」

 

絹旗がじっと見つめるが、今回は見送る。

 

滝壺も成功。

 

フレンダの番。

 

手札はかなり多い。

 

「“4”を......一枚」

 

おずおずと置く。

 

麦野が即座に言い放つ。

 

「ダウト」

 

めくると10だった。

 

「もーーー!」

 

再び山を抱え込むフレンダ。

 

「超安定の展開です」

 

「結局、私に勝ち目はないってわけよ」

 

その間に、麦野の手札は着実に減っていく。

 

そして――。

 

「......これで終わりよ」

 

最後の一枚を静かに置く。

 

誰もダウトを言わない。

 

めくられることもなく、麦野の手札はゼロ。

 

「私が一位ね」

 

「やられたあ」

 

結絆は二枚を残したまま二位だった。

 

「超悔しいです」

 

「......惜しかった」

 

フレンダはまだ大量のカードを抱えている。

 

麦野は腕を組み、ゆっくりと結絆を見る。

 

「さて、命令権よね」

 

「どうぞお」

 

結絆は素直に両手を広げた。

 

「結絆、私たちのことをマッサージしなさい」

 

一瞬、空気が止まる。

 

「......へ?」

 

「肩とか背中。さっきから座りっぱなしで凝ってるのよ」

 

当然のように言う麦野。

 

その瞬間、絹旗が立ち上がった。

 

「麦野、超ナイスです!」

 

「でしょ?」

 

「最高のチョイスってわけよ!」

 

フレンダも賛成。

 

滝壺もこくり。

 

「お願い」

 

結絆は苦笑しながら立ち上がる。

 

「はいはい。お姫様方のご要望とあらば何なりと」

 

まずは麦野の後ろに立ち、肩に手を置く。

 

「......力加減はどうかなあ?」

 

「もう少し強く」

 

「了解だよお」

 

指が的確に筋をとらえ、ぐっと押す。

 

「......あ、そこ」

 

麦野の声がわずかに緩む。

 

次は絹旗。

 

「超気持ちいいです......」

 

「普段から緊張してるんじゃない?」

 

「超してません」

 

だが声は少し甘い。

 

「結絆のマッサージは格別~」

 

フレンダは嬉しそうに笑いながら肩を差し出す。

 

滝壺の肩も優しく揉む。

 

「......楽になった」

 

「それはよかったあ」

 

数分後、四人の表情は明らかに柔らいでいた。

 

「コンディション回復、って感じね」

 

「超万全です」

 

「次は絶対勝つ!」

 

フレンダが拳を握る。

 

結絆は軽く肩を回しながら席に戻った。

 

「さてさて、三ゲーム目どうする?」

 

場の空気はさらに温まり、勝負はまだ続く気配を漂わせていた。




原作では、この辺りの時期はアイテムのメンバーたちはギクシャクしていましたが、結絆がいるので仲良しです。
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