「さて、三ゲーム目だねえ」
カードを整えながら、結絆が穏やかに言う。
「次は何する?」
「ここはブラックジャックなんてどうかなあ。さっきまでとはまた違う駆け引きになるよお」
「超いいですね。運と度胸の勝負です」
「......面白そう」
滝壺が静かに頷く。
麦野は腕を組んだまま、ふっと笑った。
「いいじゃない。さっきは私が勝ったんだし、流れは来てるわ」
そこで結絆が軽く手を上げる。
「ただし、今回は俺はプレイヤーじゃなくてディーラーをやるよお」
「え?」
「一ゲーム目で命令権を使っちゃったからねえ。俺がプレイヤーで勝っても意味がないし、公平にいこうかなって」
「なるほどね」
「じゃあ、結絆が仕切り役ってこと?」
「まあそんなところだねえ」
四人も異論はないらしく、席を整える。
「ブラックジャックは三本勝負でいこうかあ。一番多くディーラーに勝った人が今回の勝者、ってことで」
「超了解です」
「よし、やるわよ」
結絆は手際よくカードをシャッフルする。
リズミカルな音がテーブルに心地よく響く。
「それじゃあ、まずは一枚ずつ」
ぱしり、ぱしり、と四人の前に伏せたカードが配られる。
四人がそっとカードをめくる。
「7か......悪くないわね」
麦野が呟く。
「私は10!結構いい感じってわけよ!」
フレンダが笑う。
「......6」
滝壺は淡々。
「私は9です。超微妙ですね」
絹旗が小さく息をつく。
「さあ、順番にどうぞ。合計が21を超えたらバースト、負けだよお」
最初は麦野。
「7ね......引くわ」
カードが一枚追加される。
「......9。合計16か......」
「どうする?」
「もう一枚」
麦野の前にカードが置かれる。
「......8」
一瞬の静寂。
「7+9+8で24......バーストね」
麦野がため息をつく。
「攻めすぎましたね」
「うるさい」
次は絹旗。
「9......超引きます!」
追加カード。
「5。14ですね、まだいけそうです」
「どうする?」
「もう一枚」
しかし、絹旗の手元に置かれたカードは10だった。
「9+5+10で24。超バーストです」
絹旗ががくりと肩を落とす。
「二人とも攻めたねえ」
結絆がくすりと笑う。
次はフレンダ。
「私は今10だし......一枚だけ引く!」
カードが置かれる。
「8!18っ!」
「どうする?」
「......止めちゃおっと!」
自信ありげに腕を組む。
最後は滝壺。
「6......引く」
カードが一枚。
9、合計は15となった。
「もう一枚いく?」
「......いく」
カードが追加される。
「合計20になったから、おしまい」
「おお」
フレンダが目を丸くする。
「止める」
静かに宣言。
全員の視線が結絆に集まる。
「さて、ディーラーの俺の番だねえ」
結絆は自分のカードを表にする。
「最初は8」
そして一枚引く。
「......7。15だねえ」
「まだ引くの?」と絹旗。
「うーん、ディーラーは3枚以上引くってルールにしようかあ。その方が面白いからねえ」
もう一枚。
「6が出たねえ。8+7+6で21!」
ぴったり21。
場が静まる。
「うわー、強い!」
フレンダが叫ぶ。
フレンダは18、滝壺は20。
二人とも惜しいが、今回はディーラーの結絆の勝ちだ。
結絆はカードを回収する。
「一試合目は俺の勝ちだねえ」
「ぎゃぁ~!」
「......強い」
「くっ......次は外さないわ」
「超リベンジです」
ブラックジャック三本勝負、その第一戦は波乱の幕開けとなった。
「それじゃあ、ブラックジャック三本勝負――第二戦、いくよお」
結絆がカードを丁寧にまとめ、再びシャッフルする。
軽やかな音がテーブルに響き、四人の視線が自然と引き締まる。
「超ここで取らないと終わりますね」
絹旗が小さく息を吐く。
「焦ってまたバーストしないようにしなさいよ」
麦野が横目で言う。
「さっき攻めすぎたのは誰でしたっけ?」
「......うるさい」
結絆がくすりと笑う。
「はいはい、喧嘩しないの。じゃあ一枚ずつ配るよお」
ぱさり、ぱさり、とカードが置かれる。
「確認どうぞ」
麦野はそっとめくる。
「......10」
「私は5ってわけよ」
フレンダが少し不満げ。
「......9」
滝壺は淡々。
「私は8です。超悪くないですね」
絹旗は目を細める。
「じゃあ麦野から」
「10なら、引くわ」
追加カード。
「7。17ね」
「止める?」
「......止める」
堅実な選択。
次はフレンダ。
「5だし、引くしかないってわけよ!」
カードを引く。
「6!11!」
「まだいくよねえ?」
「当然!」
もう一枚。
「9!20!」
「おお」
「止める止める!これ以上は無理!」
次は滝壺。
「9......引く」
カード。
「8。17」
「どうする?」
「......止める」
冷静な判断。
そして絹旗。
「8ですね......引きます」
カード。
「7。15」
「まだ余裕あるねえ」
「もう一枚」
カードが置かれる。
「6。21」
一瞬、空気が固まる。
「超21です」
「やるじゃない」
麦野が目を細める。
最後に結絆の番。
「俺は......7だねえ」
もう一枚引く。
「5。合計12だねえ」
「3枚目も引きなさいよ?」
「もちろん」
結絆は続けてカードを一枚めくる。
「8。合計20かあ。ここで止めるよお」
全員の数字が出揃う。
麦野17、フレンダ20、滝壺17、絹旗21、結絆20。
「基準は俺の20。超えた人が勝ちだよお」
「ってことは......」
「21の絹旗の勝ちね」
麦野があっさり認める。
「超やりました!」
絹旗が小さく拳を握る。
「最終戦で勝負が決まるねえ」
結絆がにこやかにカードを回収する。
第三戦。
場の空気は一段と張り詰める。
「最愛の勝ちはほぼ確定してるけどお、他の3人も勝つチャンスはあるからねえ」
「超逃げ切ります!」
「結局、私が決めるってわけよ!」
「......頑張る」
「ふん、私も本気よ」
カードが配られる。
麦野はめくる。
「6」
フレンダ。
「9!」
滝壺。
「4」
絹旗。
「10」
結絆は静かに確認。
「さあどうぞ」
麦野。
「6じゃ弱いわね。何枚か引きましょう」
麦野は合計2枚のカードを引いた。
「6+9+8で23。バーストだねえ」
「くっ......!」
次はフレンダ。
「9なら......じゃんじゃん引いちゃう!」
フレンダも2枚のカードを引いた。
「合計22だねえ」
「うわああ!」
「超バーストです」
「攻めすぎたってわけよ......」
滝壺も、3枚引いたところでバーストしてしまった。
「......残念」
滝壺は静かにカードを伏せる。
残るは絹旗。
「10ですね」
場は静まり返る。
「引きます」
カード。
「9。19」
「19かあ」
「......超止めときます」
勝ちが確定しているが、彼女は堅実な判断をした。
続けて、結絆の番。
「俺は......8と7と6かあ」
「うわ、また21!?」
フレンダが叫ぶ。
結絆はにやりと笑う。
「ってことは基準21......?」
絹旗が計算する。
「基準は21。でも今回は“バーストしてない中で一番高い人”が勝ち、ってことにしようかあ」
「ずるくない?」
「俺が勝っても意味ないからねえ」
結絆は肩をすくめる。
バーストしていないのは絹旗19のみ。
「あまり勝った気はしませんが......超、私の勝ちです」
「決まりね」
麦野が息を吐く。
「絹旗が強かったってわけよ!」
フレンダが笑う。
「......おめでとう」
滝壺が静かに言う。
絹旗は小さく胸を張った。
「二戦目と三戦目、連勝です。超完全勝利ですね」
結絆は楽しそうに拍手する。
「お見事だよお。冷静さが勝因かなあ」
「ありがとうございます」
「次は私が取り返すから覚悟しなさい」
「まだまだ終われないってわけよ!」
テーブルの上にはまだ温もりが残り、笑い声が絶えない。
こうしてブラックジャック三本勝負は、絹旗最愛の鮮やかな逆転勝利で幕を閉じたのだった。
ブラックジャック三本勝負を制した絹旗は、満足げに腕を組んだ。
「それじゃあ優勝者の命令権、発動です」
「はいはい、何でも来なさいってわけよ」
フレンダが余裕ぶって笑う。だがその目は少し警戒している。
絹旗はにやりと口角を上げた。
「フレンダ。逆立ちしながら超腕立てをしてください」
一瞬、空気が止まる。
「......は?」
「逆立ちしながら、です」
「それ、腕立てってレベルじゃないんだけど!?」
「超シンプルな命令です」
「シンプルじゃないってば!」
「いいじゃない。ほら、やりなさいよ」
「私も見てみたい」
「いやあ、なかなか攻めたねえ」
「薄情者ー!」
4人は楽しそうにしているが、フレンダは悲鳴を上げている。
「逆立ちくらいならできるってわけよ!」
フレンダはぶつぶつ言いながら、部屋の壁際に移動する。
両手を床につき、勢いよく脚を振り上げる。
ひょい、と綺麗に逆立ち成功。
「おおー」
「超安定してます」
「やるじゃない」
麦野が感心する。
しかし問題はここからだ。
「じゃ、腕立ても......って」
フレンダの腕がぷるぷると震え始める。
「ちょ、ちょっと待って」
「まだ何もしてませんよ?」
「いや、してるって!う、腕がやばいって!」
必死に身体を支えるが、肘がわずかに曲がった瞬間、全身が揺れる。
「う、うわっ」
フレンダは崩れ落ちそうになったが、すかさず結絆が抱きかかえ、事なきを得た。
「無理無理無理!逆立ち腕立てとか人間のやることじゃないってわけよ!」
「超情けないです」
「うるさい!」
「結絆なら、できる?」
滝壺が首を傾げる。
その一言で、全員の視線が結絆に向く。
「え、俺かい?」
「だってあんた、化け物じみた身体能力してるじゃない」
麦野が当然のように言う。
「お手本見せて、結絆」
フレンダが床に座ったまま上目遣いでおねだりする。
結絆は苦笑する。
「いやあ、別に化け物じゃないよお」
「超説得力ゼロです」
「やって」
滝壺がじっと見つめる。
「......しょうがないなあ」
結絆は上着を軽く整え、壁から少し離れた場所に立つ。
「ちゃんと見ててねえ」
床に両手をつき、助走もなしにすっと脚を上げる。
壁に触れもせず、真っ直ぐに伸びた美しい逆立ち。
「え」
「壁なし!?」
フレンダが目を見開く。
結絆の身体は一直線。ぶれない。
「じゃあいくよお」
ゆっくりと肘を曲げる。
頭が床すれすれまで下がる。
そこから、静かに押し上げる。
一回。
もう一回。
呼吸も乱れない。
「......うそ」
「超フォームがきれいすぎます」
「筋肉どうなってんのよ......」
三回、四回と滑らかに続く。
やがて結絆はぴたりと止まり、そのまま言った。
「これだけだと面白くないよねえ」
「まだ何かやるの!?」
次の瞬間、結絆は片手をゆっくり浮かせ、指先だけで床を支えた。
「は?」
「ちょっと待って」
人差し指だけで逆立ちを維持。
さらに肘を曲げる。
「まさか」
指立て腕立て。
ゆっくりと沈み、ぐっと押し上げる。
「......」
誰も声を出せない。
もう一回。
指先だけで全体重を支え、完璧なフォームを維持している。
やがて結絆は静かに脚を下ろし、何事もなかったように立ち上がった。
「はい、おしまいだよお」
部屋は静まり返っている。
フレンダは口を半開きにしたまま固まっていた。
「......何あれ」
「超、人間やめてます」
「本当に化け物じゃない」
「......すごい」
滝壺がぽつりと呟く。
結絆は照れたように笑った。
「いやいや、ちょっと鍛えてるだけだよお」
「ちょっとのレベルを超えてるってわけよ!」
フレンダが叫ぶ。
絹旗は満足げに頷いた。
「お手本は完璧でした。フレンダ、再挑戦しますか?」
「するわけないでしょ!」
部屋に笑い声が広がる。
こうして絹旗の命令は、思わぬ形で結絆の規格外ぶりを証明する結果となったのだった。
逆立ち指立てという衝撃の余韻がまだ残る中、結絆はぱん、と手を打った。
「さてさて。さっきまでは俺がやりたい種目をやってたけどお、皆は何かやりたいのはあるかなあ?」
その一言に、四人は顔を見合わせる。
麦野は腕を組み、フレンダはまだどこか納得いかない顔で結絆を見ている。
絹旗は真剣に考え込み、そして滝壺が静かに口を開いた。
「......ポーカーをやってみたい」
「お、いいねえ」
結絆が柔らかく笑う。
「超王道ですね」
「ポーカーかあ......心理戦の極みってわけよ」
フレンダが目を細める。
「面白いじゃない。運試しにはぴったりね」
麦野も頷く。
「じゃあ四ゲーム目はポーカーで決まりだねえ」
結絆がカードを手に取ろうとした、その瞬間。
「ちょっと待った!」
フレンダがぴしっと指をさす。
「何かなあ?」
「結絆はカード交換禁止!」
「は?」
「それと、シャッフルと配るのも結絆以外がやる!」
力強い宣言に、絹旗が即座に同意する。
「超賛成です。ゆはんは運がバグってます」
「バグってないよお?」
「さっきのブラックジャックで21連発してたじゃない」
麦野が呆れたように言う。
「......結絆は、運が強い」
滝壺もこくりと頷く。
結絆は肩をすくめた。
「そんなに信用ないの俺?」
「信用してるからこそ警戒してるってわけよ!」
「超ハンデです」
「ふふ、まあいいよお。それで公平ならねえ」
シャッフル役は麦野に決まった。
「私がやるわ。イカサマ疑われたくないし」
手慣れた手つきでカードを混ぜる。
絹旗が横でじっと見張り、フレンダが「ちゃんと混ぜてる?」と覗き込む。
「うるさいわね」
十分にシャッフルされたカードは絹旗に渡り、彼女が五枚ずつ配る。
「はい、五枚です」
全員の前に伏せられたカード。
結絆はまだ触れない。
「それじゃあまずは手札確認だよお」
四人がそっとカードをめくる。
「うわ......微妙」
フレンダが眉をひそめる。
「私は......悪くないわね」
麦野の口元がわずかに上がる。
「......ペアはできてる」
滝壺が淡々と呟く。
「私は様子見ですね」
絹旗は冷静だ。
そして全員の視線が結絆へ。
「ゆはん、見ないの?」
「ん?ああ」
結絆はにこりと笑った。
「せっかくだから皆がカード交換を終えてからカードを見ようかなあ」
「は?」
「何それ余裕すぎない?」
「超舐めてます?」
「いやいや、駆け引きを横から見るのも楽しいかなってねえ」
実際、結絆はカードを伏せたまま両肘をつき、四人の様子を観察している。
「......じゃあ交換いくわよ」
麦野が三枚を差し出す。
「攻めますね」
「当然よ」
フレンダは二枚交換。
「これで何とか......」
滝壺は一枚だけ。
「強気か慎重か分かんないってわけよ」
「......内緒」
絹旗は二枚交換。
「読み合いですね」
新しいカードが配られ、それぞれが最終手札を確認する。
ポーカーフェイスを装う者、隠しきれない者。
「フレンダ、顔」
「出てないって!」
「出てるわよ」
麦野がにやりと笑う。
結絆は顎に手を当て、楽しそうに眺めている。
「いいねえ、この空気」
「他人事みたいに言うな!」
「だって本当に他人事だしねえ」
「超ムカつきます」
滝壺がじっと結絆を見る。
「......本当に見てない?」
「見てないよお」
両手をひらひらさせる。
「じゃあ最後に結絆も見なさいよ」
「そうですね。全員のが出揃ってからです」
「はいはい」
四人のベット(今回はチップ代わりのポイント制)も終わり、いよいよショーダウンの空気が漂う。
そのとき、結絆がようやく自分のカードに手を伸ばした。
「さて......どんな手かなあ?」
四人の視線が一斉に集まる。
運が規格外の男が、今この瞬間まで自分の手札すら見ていない。
果たしてそれは余裕か、それとも
相変わらず、結絆は運がバグってます。