不穏な視線
夏の日差しが降り注ぐ学園都市の午後。
帆風潤子は校舎の廊下を歩きながら、ここ数日続く違和感に眉をひそめていた。
朝からずっと、背中に突き刺さるような視線を感じていたのである。
(また......ですね。)
背後に誰かの視線を感じる。
しかし振り返っても、それらしい人物は見当たらない。
すれ違う生徒達は皆、普段と変わらない様子だ。
最初は気のせいかと思った。
しかし、寮で過ごしている時も、友人と食事をしている時も、そしてトレーニング中に至るまで、ずっと何者かの視線を感じる。
(何かの勘違い......ではないはず......)
「気のせい......ではない、ですよね。」
独り言のように呟きながら、帆風は手にしたスマートフォンを見つめた。
そこには、つい先ほど送ったメッセージの返信が届いていた。
『結絆さん、少しお時間をいただけませんか?』
『いいよお、何かあったのかい?』
『実は......』
帆風は、食蜂結絆に今朝から続く違和感について相談することに決めた。
何か異変が起きているなら、彼ならきっと力になってくれる。
そして、帆風は、食蜂操祈の派閥が集まるラウンジへと向かった。
帆風の真剣な表情に、ソファにくつろいでいた食蜂操祈が興味深そうに目を細めた。
「なぁに? そんなに神妙な顔してぇ」
「実は......今朝から、誰かに見られているような気がするんです......」
「視線ねぇ......それって具体的にはどんな感じかしらぁ?」
操祈の問いに、帆風は慎重に答えた。
「今朝からずっと、何かの気配を感じます。振り返っても誰もいないのですが......」
操祈は顎に指を当て、考え込む。
そこへ、のんびりと紅茶を飲んでいた食蜂結絆が口を開いた。
「なるほどねえ、つまりここ最近、誰かに見られてる気がするってことかい?」
「はい。振り返っても誰もいないのですが、確かに誰かの気配を感じるのです。」
帆風は真剣な表情で頷いた。
結絆は腕を組み、何かを考えているようだった。
「ただの推測での話じゃなくて、確実に『監視されている』と感じるわけだよねえ?」
「ええ。私は元々、戦闘時に気配を探る訓練を受けています。その感覚が言っているのです......誰かが、私を見ていると。」
「ほほう、ストーカーかもしれないねえ」
帆風はハッとして結絆を見る。
「ストーカー......!?ですが、私にそんな覚えは......」
「自覚がないうちに誰かの目を引いてることもあるからねえ。君のファンクラブとか、結構いるんじゃないのかい?」
帆風は少し頬を赤らめ、視線を落とした。
「そんなことは......」
操祈はニヤリと笑う。
「でもぉ、たしかに潤子ちゃんは目立つわよねぇ。長身でスタイル抜群だし、強いしぃ、真面目で可愛いしぃ」
「そ、そんな......」
「まぁ、冗談はさておいて、ちょっと調べてみる価値はありそうねぇ」
操祈が興味深げに言う。
「学園都市でそんなことしてくるってことは、単なるストーカーじゃ済まない可能性もあるわねぇ。」と呟きながら考え込んでいる。
結絆はゆっくりと息をつき、微笑を浮かべた。
「......ちょっと、うちの情報網を使って調べてみるよお。何か裏があるかもしれないからねえ。」
「それなら私も、潤子ちゃんの周囲に不審者がいないか、心理掌握で少し探ってみるわぁ。あとぉ、派閥の子たちにも協力してもらってぇ、物理的に監視してみるのもアリねぇ」
「ありがとうございます、お二人とも......。」
操祈は小さく微笑んで、「心配しないで、私達は潤子ちゃんの味方なんだゾ☆」と軽くウィンクした。
こうして、帆風を狙う何者かの正体を突き止めるための調査が始まった。
翌日、結絆はラウンジで操祈と帆風を集め、調査の結果を伝えた。
「どうやら、何者かが帆風の行動を監視してるのは間違いなさそうだねえ。」
「え......?」
帆風の表情が固まる。
「ただの偶然じゃないってことぉ?」
操祈が眉をひそめる。
「そうだねえ、しかも普通のストーカーとかじゃない。相手は、学園都市の監視システムにも引っかからないように動いてるみたいだよお。」
「まるで......プロの諜報員みたいですね。」
帆風の声には、微かな緊張が滲んでいた。
「誰が、何の目的で......?」
「それを今から突き止めるんだよお。」
結絆は不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっとしたおびき出し作戦でもやってみようかあ?」
操祈もまた、楽しげな表情を浮かべた。
「ふふっ、面白くなってきたじゃない♪」
帆風を見つめる視線の主。その正体を暴くため、彼らは動き出す。
帆風潤子が感じていた監視の目——その正体を突き止めるべく、結絆と操祈は調査を進めていた。
結絆は自身の情報網を駆使し、学園都市内の監視カメラや電子通信を分析。
操祈もまた、自身の心理掌握(メンタルアウト)を使い、帆風の周囲に不審な精神波を感知できる者がいないかを探っていた。
そして、ある共通点に気付く。
「......なるほどねえ。」
結絆は腕を組み、画面に映るデータを見つめる。
「この監視の正体、どうやら電撃系能力者に干渉することで『監視されている』と錯覚させる仕組みだったみたいだねえ。」
「どういうこと......ですか?」
帆風が真剣な表情で尋ねる。操祈が小さく息をつきながら説明を補足した。
「つまりねぇ、電撃使いは微弱な電流の流れで周囲の電場を感じることができるわけだけどぉ、それに極めて微細な干渉を加えることで『誰かが見ている』ような錯覚を植え付けることが可能ってことよぉ。」
「実際に監視カメラや尾行を使っているわけじゃなくて、脳に直接錯覚を与えていたってことですか......!」
帆風が驚愕する。
「でも、それができるのは......」
結絆は小さく笑い、画面の端に映るデータを指差した。
「この人物だねえ。電撃を操る能力者で、かつ特殊な波長を送ることで電場に細工をする技術を持ってる。もちろん、学園都市の研究機関が開発した能力者ってわけだねえ。」
操祈が画面を覗き込み、視線を細める。
「......へぇ、また随分と面白い人がいたものねぇ。」
「さて、こっからが本番ってわけだねえ。直接会って、お話ししてみる必要があるかなあ。」
結絆は立ち上がり、帆風の肩を軽く叩いた。
「安心しなよお。ちゃんと俺たちが何とかしてあげるからねえ。」
帆風は結絆と操祈を交互に見つめ、そして小さく微笑んだ。
「......はい。お願いします!」
こうして、監視者の正体を突き止めた結絆たちは、次の行動へと移るのだった。
アニメのOVAと似た感じの事件に見えますが、あっちとは何の関係もありません。
たまたま同時期に、似た感じの事件が起きていたと考えてもらったら大丈夫です。