食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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前回の続きです。


アイテムの少女たちとのトランプ、その3

 静まり返ったテーブル。

 

「それじゃあ、ショーダウンね」

 

麦野が先にカードを開いた。

 

「Kのワンペアよ」

 

「おー、悪くないですね」

 

絹旗が頷く。

 

次はフレンダ。

 

「ふっふっふ......スリーカード!7が三枚ってわけよ!」

 

「へえ、強いじゃない」

 

「結局、読み勝ったってこと!」

 

得意げに胸を張る。

 

滝壺は静かにカードを表にした。

 

「......ツーペア。10と4」

 

「堅実だねえ」

 

結絆が微笑む。

 

最後に絹旗。

 

「私は......ストレートです」

 

場がざわつく。

 

「え、ちょっと待って、強くない?」

 

「超勝ったかもしれません」

 

フレンダが焦った顔で結絆を見る。

 

「結絆、まさか変なの出さないよね?」

 

「どうだろうねえ」

 

結絆はようやく自分のカードを手に取る。

 

「じゃあ、俺も開けようかあ」

 

一枚ずつ、ゆっくりとめくっていく。

 

♣の9。

 

♦の9。

 

「......ペアね」

 

♥の9。

 

「ちょっと待って」

 

♠の9。

 

場が凍りつく。

 

「え?」

 

最後の一枚は関係ない数字。

 

「フォーカードだねえ」

 

にこりと微笑む。

 

数秒、誰も言葉を発しない。

 

「......は?」

 

「ちょっと待ってちょっと待って!」

 

「超ありえません!」

 

「何で交換なしでフォーカードなのよ!」

 

フレンダが机を叩く。

 

「しかも自分のカード最後まで見てなかったよね!?」

 

「見てなかったねえ」

 

「意味分かんないってわけよ!」

 

麦野も呆れ顔だ。

 

「本当に運がバグってるわね......」

 

「結絆、怖い」

 

滝壺がぽつりと呟く。

 

絹旗は両手を上げた。

 

「これは超どうしようもないです」

 

結絆は困ったように笑う。

 

「いやあ、偶然だよお」

 

「偶然でフォーカード引く人初めて見た」

 

「結局、主人公補正ってやつ?」

 

「運はあるからねえ」

 

ひとしきりツッコミが飛び交った後、結絆は指を軽く鳴らした。

 

「じゃあ命令権、もらうねえ」

 

「はいはい、どうぞ」

 

「変なのやめてよね?」

 

「安心して」

 

結絆はゆっくりと滝壺の方を見る。

 

「滝壺。前に王様ゲームをやった時みたいに、耳元で俺が驚くような話をしてほしいなあ」

 

「......驚く話?」

 

「うん。びっくりするやつ」

 

フレンダがにやにやする。

 

「何それ面白そう!」

 

「超気になります」

 

滝壺は少しだけ視線を落とし、そして立ち上がった。

 

「......分かった」

 

結絆の隣に移動し、そっと身をかがめる。

 

滝壺の唇が、結絆の耳元に近づく。

 

小さな声。

 

「......麦野は、ひそかに結絆に好意を抱いてる」

 

「......え?」

 

結絆の目が見開かれる。

 

テーブルの向こうで麦野が嫌な予感を感じ取り、何か言おうとするが、滝壺は続ける。

 

「......気づいてないみたいだけど」

 

そして、ほんの一拍置いて。

 

「......それと、私も」

 

「え?」

 

「結絆のこと、好き」

 

空気が止まる。

 

結絆の思考が一瞬、真っ白になる。

 

滝壺は静かに離れ、元の席へ戻った。

 

数秒の沈黙。

 

「......今、何て?」

 

結絆がゆっくりと滝壺を見る。

 

「本当」

 

静かな瞳。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ滝壺!何言ったのよ!?」

 

麦野が珍しく狼狽える。

 

「私は事実を伝えただけ」

 

「え、え、え!?何言っちゃったの!?」

 

フレンダは口をぱくぱくさせる。

 

「超爆弾発言みたいですね」

 

結絆は額に手を当て、深く息を吐いた。

 

「......この一週間で一番の衝撃だねえ」

 

その頬はわずかに赤い。

 

滝壺は静かに微笑む。

 

「......驚いた?」

 

「うん、ものすごくねえ」

 

部屋の空気は、先ほどまでのカードゲームの熱とはまったく別の熱を帯び始めていた。

 

ポーカーの勝者が得た“驚き”は、想像以上に強烈なものだったのだった。

 

 

 

 滝壺の爆弾発言から数分。

 

空気はまだどこか落ち着かない。

 

麦野はずっとそわそわしており、フレンダと絹旗はにやにやと結絆を観察し、滝壺はいつも通り静かに座っている。

 

そして当の結絆は、珍しく取り乱していた。

 

「いやあ......うん......すごいねえ......」

 

「顔真っ赤ってわけよ」

 

「うるさいよお」

 

耳をさすりながら咳払いを一つ。

 

「......さてと!次は何しようかあ」

 

強引な話題転換だった。

 

絹旗がすぐに手を挙げる。

 

「七並べをしたいです。超王道ですが、駆け引きが楽しいです」

 

「いいね、それ!」

 

「頭も使うし、今の空気を整理するにはちょうどいいわ」

 

麦野が頷く。

 

滝壺もこくりと首を縦に振った。

 

「じゃあ五ゲーム目は七並べで決まりってわけよ」

 

フレンダがトランプを集める。

 

「今度は私がシャッフルするから。結絆は触らないで」

 

「信用ないなあ」

 

「あるわけないでしょ!」

 

手際よくカードを切り、丁寧に配っていく。

 

1人につき10枚程度。

 

結絆は配られたカードを扇状に広げた。

 

――次の瞬間、思わず口元が緩む。

 

(......これは)

 

♠7、♥7、♦7、♣7。

 

7が4枚すべて揃っている。

 

さらに。

 

6、8が複数枚。

 

5や9も混ざっている。

 

(勝ったねえ)

 

内心で確信する。

 

七並べは7を起点に広げていくゲーム。

 

7付近のカードを多く持つ者が主導権を握る。

 

やはり、結絆に隙はない。

 

「......何その顔」

 

フレンダがじとっと見る。

 

「いやあ、普通だよお?」

 

「絶対なんかある」

 

「超怪しいです」

 

麦野がため息をつく。

 

「とにかく始めるわよ」

 

七並べ開始。

 

「え?」

 

「ちょっと待って」

 

「まさか」

 

中央に四枚同時に置かれる。

 

♠7、♥7、♦7、♣7。

 

縦に並ぶ4枚の7。

 

完全なスタートライン。

 

「はあああ!?」

 

「超全部持ってたんですか!?」

 

「何それ!」

 

「......すごい」

 

結絆はにこりと笑う。

 

「これで全スート開通だねえ」

 

「開通だねえ、じゃないってわけよ!」

 

「確率どうなってるのよ!」

 

麦野が机を叩く。

 

場は一気に騒然。

 

だが結絆の手は止まらない。

 

「じゃあ次は......」

 

♠6。

 

「さらに......」

 

次のターンには♠8。

 

「ちょっと!全然出せないんだけど!」

 

「俺が持ってるからねえ」

 

♥6、♥8。

 

あっという間に7を中心に左右が広がっていく。

 

「待って待って待って!」

 

「超独走状態です!」

 

フレンダは慌てて自分の手札を見る。

 

「私、端っこのカードばっかなんだけど!」

 

「私もよ!」

 

麦野はKや2を握りしめている。

 

滝壺は静かに4を出すが、まだ遠い。

 

結絆の手札はみるみる減っていく。

 

「いやあ、気持ちいいねえ」

 

「腹立つ!」

 

「超腹立ちます!」

 

フレンダが叫ぶ。

 

「結絆、絶対裏で何かしてると思う」

 

「何もしてないよお」

 

事実、シャッフルをしたのも配ったのもフレンダだ。

 

純粋な豪運である。

 

結絆はさらにカードを置く。

 

「5も少しはあるよお」

 

盤面が一気に中央寄りに充実する。

 

「ちょっと、私たち何もできないんだけど!」

 

「超展開が早すぎます」

 

「......結絆、楽しそう」

 

「うん、ちょっとねえ」

 

フレンダたちはただ翻弄されるだけだった。

 

「もう!何なの今日!」

 

「結絆の日ってわけ!?」

 

「超主人公補正継続中です!」

 

結絆は笑いながら最後の数枚を整える。

 

「さあて......このゲームもどうなるかなあ」

 

七並べはまだ始まったばかりだが、流れは完全に結絆に傾いていた。

 

四枚の7が並んだ瞬間から、この勝負の主導権は、彼の手の中にあったのだった。

 

 

 

 盤面の中央には四枚の7が十字に広がり、その左右には6と8が並んでいる。

 

残り手札も少ない彼は、事実上この場の“支配者”である。

 

結絆は指先でカードをくるくると回しながら、わざとらしく言った。

 

「いやあ......これさあ」

 

四人が一斉に視線を向ける。

 

「俺が出すカードによって、誰が2位になるか変わるよねえ。どれ出そうかなあ?」

 

「うわ出た」

 

「超ラスボス発言です」

 

「性格悪くなってない?」

 

麦野が呆れた声を出す。

 

実際その通りだった。

 

今、5や9を出せば中央付近がさらに広がる。

 

だが4や10を出せば、別の誰かの道を開通させることにもなる。

 

結絆は完全に生殺与奪の権を握っている。

 

その時。

 

「......ゆはん?」

 

甘い声。

 

フレンダがそっと椅子を引き、結絆の隣に寄ってくる。

 

「何かなあ」

 

結絆の視界には、上目遣いのフレンダ。

 

わざとらしく潤んだ瞳。

 

「ねえ......ちょっとだけでいいから、私に有利なカード出してくれない?」

 

「うん?」

 

「ほら、さっきフォーカードで勝ったし?逆立ちもやらされたし?ここは恋人サービス的な?」

 

両手を胸の前で合わせ、くいっと小首を傾げる。

 

「お願い、ゆはん?」

 

「ちょっとフレンダ!」

 

「露骨すぎるでしょ!」

 

「超あざといです!」

 

他の三人が総ツッコミ。

 

だがフレンダは気にしない。

 

「いいじゃない。交渉も戦術のうちってわけよ」

 

結絆は一瞬考えるふりをする。

 

「ふーん......」

 

「ね?ね?」

 

結絆はゆっくりとカードを一枚持ち上げた。

 

「出すのはいいけどお」

 

「うん!」

 

「端の方のカードって、他の人にも近くのカードを出してもらわないと出せないよねえ」

 

「......え?」

 

結絆は盤面を指差す。

 

「例えばさあ、俺が♠の10出しても、その先のJやQ持ってる人が出してくれないと、結局フレンダのKは出せないよねえ?」

 

「......あ」

 

「つまり俺一人じゃどうにもならない部分もあるんだよお」

 

「......じゃあ、私が有利になる保証は?」

 

「ないねえ」

 

「............」

 

しばし固まる。

 

そして。

 

「現実は残酷ってわけよ......」

 

がくりと項垂れた。

 

机に額をつける。

 

その様子を見て、麦野が吹き出す。

 

「作戦失敗!撤退!撤退!」

 

「早いねえ、まあでも、完全に意地悪する気はないよお」

 

結絆は肩をすくめる。

 

「ほんと?」

 

即座に顔を上げるフレンダ。

 

「超立ち直り早いです」

 

結絆は盤面を眺める。

 

「バランス取れるように出すつもりだからねえ。とはいってももう終わっちゃうけど」

 

再び場が騒がしくなる。

 

結絆はくすくす笑いながらカードを選ぶ。

 

「さあて......誰の運命が動くかなあ」

 

指先が一枚を弾く。

 

四人は固唾を呑む。

 

七並べは、単なる数字の並びではない。

 

今やそれは、結絆の気分一つで左右される心理戦へと変貌していた。

 

そしてフレンダは心の中で誓う。

 

(次こそは、絶対主導権を握ってやるってわけよ......!)

 

だが今この瞬間、盤面の王は間違いなく結絆だった。

 

 

 

 結絆の独壇場となった七並べは、その後も流れが変わることはなかった。

 

「じゃあ、これで最後だねえ」

 

結絆が一枚を置く。

 

ぱちん、と軽い音。

 

手札がゼロになる。

 

「......はい、上がり」

 

「早っ!」

 

「超圧勝です!」

 

「結局、全部持っていったじゃない!」

 

結絆は肩をすくめる。

 

「いやあ、7が四枚はさすがに強かったねえ」

 

「それ自分で言う!?」

 

圧倒的な一位。

 

そして、二位争いは静かに決着する。

 

「......これで、私も終わり」

 

滝壺が最後の一枚を置いた。

 

「お、滝壺が二位か」

 

「超健闘です」

 

麦野が小さく息を吐く。

 

「まあ、今回は仕方ないわね」

 

フレンダが首を振る。

 

そして全員の視線が、滝壺に集まった。

 

今回の特別ルールでは、すでに命令権を得ている者が一位になった場合、次点が命令権を得る。

 

結絆は先ほどのゲームで命令権を使っている。

 

つまり......

 

「滝壺、命令権ゲットだねえ」

 

「......うん」

 

静かな声。

 

だがその瞳はどこか決意を秘めている。

 

「何お願いするの?」

 

「怖いのはやめてよ?」

 

フレンダが身構える。

 

滝壺は、まっすぐ結絆を見た。

 

「......さっき、フレンダと絹旗はハグしてもらった」

 

「超そうでしたね」

 

滝壺は続ける。

 

「......私と麦野は、まだしてもらってない」

 

麦野がぴくりと肩を揺らす。

 

「ちょ、ちょっと滝壺?」

 

「だから」

 

ほんの少しだけ、声が柔らかくなる。

 

「私たちにも、ハグしてほしい」

 

一瞬の沈黙。

 

フレンダはにやりと笑った。

 

「いいじゃない。公平ってわけよ」

 

「超同意します」

 

絹旗も頷く。

 

「まあ......別に異論はないわ」

 

麦野は視線を逸らしながらも否定しない。

 

結絆は少しだけ目を丸くし、それから優しく笑った。

 

「なるほどねえ。了解」

 

立ち上がり、まずは滝壺の前に立つ。

 

「じゃあ、滝壺から」

 

「......うん」

 

滝壺も立ち上がる。

 

距離が縮まる。

 

そっと腕を回し、静かに抱きしめる。

 

滝壺は一瞬だけ目を閉じる。

 

結絆の体温、鼓動、腕の力。

 

ほんの数秒。

 

やがてゆっくりと離れる。

 

「......どうだったかなあ?」

 

結絆が微笑む。

 

滝壺は少しだけ頬を赤くして、小さく言った。

 

「......ちょっと、ドキドキした」

 

それを聞いたフレンダが茶化すように口笛を吹く。

 

滝壺は視線を逸らしながらも、どこか嬉しそうだった。

 

次は麦野。

 

「べ、別に変な意味じゃないから?」

 

「分かってるよお」

 

「念のためよ」

 

強気な口調だが、耳は赤い。

 

結絆は一歩近づく。

 

麦野は一瞬だけためらい、それから覚悟を決めたように腕を広げた。

 

「......さっさとしなさい」

 

「はいはい」

 

軽く笑いながら、包み込むように抱き寄せる。

 

麦野の体がわずかに強張る。

 

だが数秒後、その力が抜けた。

 

普段は強気で堂々としている彼女が、今だけは静かに身を委ねている。

 

結絆がそっと離れると、麦野の表情から、いつもの鋭さが消えていた。

 

頬が赤く、目元がどこか柔らかい。

 

年相応の、少女のような顔。

 

「......な、何よ」

 

「いやあ、麦野もそんな表情をするんだなあって」

 

「うるさい!」

 

慌ててそっぽを向く。

 

フレンダが笑い転げる。

 

「今の麦野めちゃくちゃ可愛かった!」

 

「フレンダ!?」

 

「超レアな表情でしたね」

 

部屋は一気に賑やかになる。

 

結絆はその様子を見ながら、どこか穏やかに微笑んだ。

 

七並べの勝敗は決した。

 

だが、それ以上に五人の距離はまた少しだけ近づいたようだった。




トランプの話は次で終わりです。
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