食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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前回の続きです。


アイテムの少女たちとのトランプ、終結

 ハグの余韻がまだどこかに残る中、フレンダがぱん、と手を叩いた。

 

「はいはい!次次~!」

 

「切り替え早いねえ」

 

「最後まで遊び倒すってわけよ」

 

絹旗が腕を組む。

 

「次は何にします?」

 

麦野がふっと笑う。

 

「ここまで来たら、王道中の王道じゃない?」

 

滝壺が小さく呟く。

 

「......大富豪」

 

「いいね!」

 

「超盛り上がります!」

 

こうして六ゲーム目は大富豪に決定した。

 

結絆はにこりと笑う。

 

「大富豪かあ」

 

「何その余裕の笑み」

 

「嫌な予感しかしないんだけど」

 

結絆は肩をすくめる。

 

「だってさあ、俺にぴったりなゲームだねえ」

 

「は?」

 

「何が?」

 

「そりゃあ、俺は世界で一番の大富豪だからねえ」

 

結絆はあっさりと言った。

 

「超ビッグマウスです!」

 

「その余裕、後で後悔させてやるわ」

 

麦野が鋭く笑う。

 

滝壺がカードを集め、静かにシャッフルを始める。

 

ぱさ、ぱさ、と落ち着いた音。

 

「......今回は私が配る」

 

「結絆は触らないで」

 

「はいはい」

 

均等にカードが配られていく。

 

一人十枚程度。

 

結絆は受け取った手札をゆっくり広げた。

 

その瞬間。

 

(......これは)

 

ジョーカーが入っており2が2枚、Aが3枚。

 

革命されても革命返しすら狙える構成。

 

(本当に、今日はどうなってるのかなあ)

 

思わず笑みが漏れる。

 

「その顔やめて!」

 

「絶対強いじゃない」

 

「超嫌な予感です!」

 

結絆は涼しい顔でカードを整える。

 

「普通だよお?」

 

「その台詞、今日何回目!?」

 

ゲーム開始。

 

最初は滝壺から。

 

「......3」

 

静かなスタート。

 

麦野が4を出す。

 

絹旗が6。

 

フレンダが8。

 

そして結絆。

 

「じゃあ......2で一旦流して、それから10を二枚」

 

「いきなり!?」

 

「超強気ですね」

 

場が進む。

 

やがて結絆がAの三枚出し。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

「もう終わっちゃう......」

 

麦野たちは焦る。

 

「みんな、協力するわよ!」

 

「超包囲網です!」

 

麦野が頷く。

 

「とにかく結絆を勝たせない」

 

滝壺も小さく頷く。

 

「......共闘」

 

「怖いなあ」

 

だが包囲網は甘くない。

 

結絆がKを出せば、すぐ上で止める。

 

単体出しを誘導し、2やジョーカーを使わせようとする。

 

「ジョーカーまだ温存してるでしょ!」

 

「さあねえ」

 

だが――

 

流れは止まらない。

 

結絆は絶妙なタイミングで革命を起こす。

 

「9を四枚」

 

「はあああ!?」

 

「革命!?」

 

「超最悪です!」

 

一気に場がひっくり返る。

 

強かった2が最弱に。

 

ジョーカーは依然として切り札。

 

「うわあああ!」

 

フレンダが頭を抱える。

 

麦野が歯噛みする。

 

「この構成で革命まで入ってるとか反則でしょ!」

 

「運がいいだけだよお」

 

「それが一番タチ悪い!」

 

滝壺が静かに2を出すが、革命下ではただの弱札。

 

結絆がすかさずジョーカーを重ねる。

 

「はい、流し」

 

「終わった......」

 

そして最後の一手。

 

「これで上がりだねえ」

 

カードを置く。

 

「......マジ?」

 

「また!?」

 

「超理不尽です!」

 

フレンダは椅子にもたれかかる。

 

「私たち、四人で協力したよね?」

 

「したわよ」

 

「......完敗」

 

滝壺がぽつり。

 

麦野が天井を仰ぐ。

 

「はあ......本当に世界一かもね」

 

結絆は柔らかく笑う。

 

「だから言ったでしょお?俺にぴったりなゲームだって」

 

「悔しいけど否定できないってわけよ......」

 

四人は揃ってため息。

 

こうして六ゲーム目、大富豪。

 

結局“世界一の大富豪”を止めることは、誰にもできなかったのだった。

 

 

 

 大富豪の決着がつき、場にはため息と悔しさが漂っていた。

 

「また結絆が一位だった......」

 

「超どうなってるんですか今日は」

 

「もはや災害レベルね」

 

麦野が肩をすくめる。

 

結絆はにこにことしているが、ふと思い出したように言った。

 

「そういえばさあ、俺は四ゲーム目で命令権使ってるから、今回もゲットできないんだよねえ」

 

「あ、そうだった」

 

一度命令権を得た者は、二ゲーム終了するまでは命令権を使用できない。

 

ポーカーで命令権を使った結絆は、今回も対象外だ。

 

「じゃあ二位が命令権ってことね」

 

フレンダが胸を張る。

 

「今回の二位は私ってわけよ!」

 

「うわ、嫌な予感」

 

「超不穏です」

 

絹旗が一歩引く。

 

フレンダはにやりと笑い、ゆっくりと立ち上がった。

 

「さーて、誰にしようかなー?」

 

「絶対決まってるでしょ」

 

麦野が呆れる。

 

フレンダは指をぴっと伸ばした。

 

「絹旗!さっきの借りを返すってわけよ」

 

部屋の空気が一瞬ざわつく。

 

「どんな命令かなあ?」

 

結絆が楽しそうに聞く。

 

フレンダは満面の笑みで宣言した。

 

「逆立ち腕立てよろしく!」

 

「......は?」

 

「しかも綺麗なフォームでね?」

 

「超そのままの返しじゃないですか!」

 

絹旗が抗議する。

 

「だって絹旗は、私にやらせたじゃん?」

 

「それはゲームの流れであって......!」

 

「はい決定!」

 

パン、と手を叩くフレンダ。

 

他の三人は面白そうに見守る体勢に入る。

 

絹旗は渋々立ち上がる。

 

「......やればいいんですね、やれば」

 

「まあ頑張りなさい」

 

麦野がくすっと笑う。

 

絹旗は壁際へ移動し、深呼吸。

 

「......超本気でいきます」

 

両手を床につき、勢いよく脚を振り上げ、絹旗は見事な逆立ちを決める。

 

「おおー」

 

「フォームが綺麗ね」

 

「さすが身体能力高い」

 

だが――。

 

腕が、ぷるぷると震え始める。

 

「......くっ」

 

ゆっくりと肘を曲げる。

 

下がる、下がる。

 

しかし上がる前に震えが増す。

 

「ちょ、ちょっと待って、これキツい......!」

 

「さっき私もそうだったってわけよ!」

 

フレンダが笑う。

 

絹旗は歯を食いしばる。

 

「超、負けません......!」

 

だが明らかに限界が近い。

 

そのとき。

 

フレンダの目がきらりと光る。

 

「......そうだ」

 

「何よその顔」

 

麦野が怪訝そうに見る。

 

フレンダはそっと絹旗の横へ回り込む。

 

「な、何する気ですか」

 

「ちょっとした応援ってわけよ」

 

そして――。

 

つん。

 

「ひゃっ!?」

 

絹旗の腹を指でくすぐる。

 

「ちょ、やめ......!ちょ、超卑怯です!」

 

「妨害禁止って言ってなかったもんね~!」

 

さらにこちょこちょ。

 

「ふ、ふふっ、ちょ、無理......!」

 

体勢が崩れかける。

 

だが絹旗は必死に踏ん張る。

 

「ここで......落ちたら......!」

 

「おお、根性あるねえ」

 

結絆が感心する。

 

「超......やりきります!」

 

くすぐりを受けながら、ゆっくりと肘を曲げる。

 

床ぎりぎり。

 

「うわ、いける?」

 

「頑張れー」

 

そして――。

 

「はああっ!」

 

ぐっと押し上げる。

 

腕が伸びきる。

 

「......できた」

 

一回、成功。

 

フレンダが驚く。

 

「え、マジ?」

 

「超まだ終わりません!」

 

二回目。

 

再び下がる。

 

くすぐりは続く。

 

「ちょ、笑わせないでください!」

 

だが絹旗は耐える。

 

押し上げる。

 

三回目。

 

限界。

 

「......これで!」

 

最後の一押し。

 

ぐっと体を持ち上げ、静止。

 

そして勢いよく脚を下ろし、着地。

 

どさっと床に座り込む。

 

「はあ、はあ......」

 

肩で息をしながら、汗をぬぐう。

 

「......これは間違いなく成功ね」

 

麦野が言う。

 

「超根性です」

 

絹旗の勇姿を見届けた結絆が拍手する。

 

「お見事」

 

絹旗は荒い呼吸のまま顔を上げた。

 

そして、にやりと笑う。

 

「......超やり切りましたよ!」

 

「悔しいけど認めるってわけよ」

 

「妨害込みで成功はすごいわ」

 

滝壺が小さく拍手する。

 

部屋は笑いに包まれた。

 

逆立ち腕立てをやり切った絹旗は、まだ少し肩で息をしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 

「はあ......超キツかったです......」

 

フレンダがにやりと笑う。

 

「でも妨害ありで成功は素直にすごいってわけよ」

 

「でしょう?」

 

絹旗はふっと前髪をかき上げ――そのまま、にやぁ、と悪い笑みを浮かべた。

 

「......ところで」

 

「ん?」

 

「さっきの話なんですが」

 

その場の空気が、わずかに変わる。

 

「私がフレンダに逆立ち腕立てを命令したとき」

 

「うっ」

 

フレンダの表情が固まる。

 

「どさくさに紛れて、うやむやのまま次のゲームに進みましたよね?」

 

「............」

 

「確か逆立ちは成功しましたが、腕立ては“超やってない”ですよね?」

 

それを聞いて麦野が吹き出す。

 

「......確かに」

 

滝壺がこくりと頷く。

 

「いや、あれは雰囲気的に成功扱いだったってわけよ?」

 

「なってません」

 

「なってないわね」

 

「なってない」

 

フレンダは視線を泳がせるが、三方向から即否定。

 

「ということで」

 

「ちょっと待って」

 

「フレンダも、逆立ち腕立てをするべきです」

 

「横暴!」

 

「公平よ」

 

麦野が冷静に言う。

 

「自分が言い出した種目なんだから」

 

滝壺もぽつり。

 

「......因果応報」

 

「滝壺まで!?」

 

フレンダは助けを求めるように結絆を見る。

 

「ゆはん!」

 

「うん?」

 

「結絆は味方だよね?」

 

結絆は少し考えてから、にこっと笑った。

 

「俺はフレンダが逆立ち腕立てするところ、見て見たいなあ」

 

「この裏切り者~」

 

場が笑いに包まれる。

 

観念したフレンダは、立ち上がる。

 

「わ、分かったわよ......やればいいんでしょ!」

 

「妨害は......なしでお願いね?」

 

絹旗をじっと見る。

 

絹旗は無言で両手を前に出した。

 

「やる気満々じゃない!」

 

「先ほどの仕返しです」

 

「やめて!」

 

フレンダは壁際へ。

 

「よし......せーのっ!」

 

両手を床につき、勢いよく脚を振り上げる。

 

先ほどと同様、逆立ちは成功した。

 

だが、問題はここから。

 

肘を曲げようとした瞬間、絹旗が近づく。

 

「ちょ、近い!」

 

「応援しますよ!」

 

「その手の形で!?」

 

わきわき。

 

「やめなさい!」

 

つん。

 

「ひゃっ!」

 

腹をくすぐられる。

 

「ちょ、ちょっと待っ、笑わせないで!」

 

腕がぶるぶる震える。

 

「さっき私も同じ目に遭いました」

 

「恨み深い!」

 

さらにこちょこちょ。

 

「む、無理無理無理!」

 

肘が曲がりきらない。

 

ぷるぷる。

 

「落ちる落ちる!」

 

どさっ。

 

「一回目は超失敗ですね」

 

「うるさい!」

 

フレンダは顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「もう一回!」

 

「もちろん妨害ありです」

 

「絹旗の鬼~!」

 

二回目、今度は慎重に下がる。

 

「よし......」

 

しかし。

 

こちょ。

 

「んっ!」

 

耐える。

 

「今回は耐えるってわけよ!」

 

だが絹旗の攻撃は執拗。

 

「超ここです!」

 

「ひゃああ!」

 

また崩れる。

 

どさっ。

 

「限界!」

 

フレンダは床に転がる。

 

「もう無理!」

 

息を切らす。

 

そのとき。

 

「じゃあ、ちょっと手伝おうかあ」

 

結絆が立ち上がった。

 

「え?」

 

「足を支えてあげるよお」

 

「やっぱり持つべきものは最高の彼氏ってわけよ!」

 

フレンダの目が輝く。

 

再挑戦。

 

逆立ち。

 

今度は結絆が後ろから足首を軽く支える。

 

「安定感が増してる......」

 

「超ズルいです」

 

「サポートありも実力よ」

 

フレンダはゆっくり肘を曲げる。

 

ぷるぷる。

 

「いける......!」

 

下がる。

 

床ぎりぎり。

 

「押して!」

 

「頑張って」

 

結絆が優しく支える。

 

「はあああ!」

 

ぐっと押し上げる。

 

腕が伸びる。

 

「......できた!」

 

「おおー!」

 

拍手。

 

フレンダはそのまま二回目も挑戦。

 

今度は少しスムーズ。

 

再び成功。

 

着地。

 

ふらふらしながらも胸を張る。

 

「はあ......はあ......どうよ!」

 

「サポート付きですが成功ですね」

 

「やればできるじゃない」

 

フレンダは息を整えながら、にやりと笑う。

 

「これで借りは返したってわけよ!」

 

絹旗も満足げに頷く。

 

「超スッキリしました」

 

結絆はくすくす笑う。

 

「王様ゲームは盛り上がって楽しいねえ」

 

部屋は再び笑い声に包まれる。

 

ゲームの延長戦は、いつの間にか筋トレ大会へ。

 

五人の夜は、まだまだ賑やかに続いていくのだった。

 

 

 

 逆立ち騒動がようやく落ち着き、五人は再びテーブルを囲んだ。

 

麦野が腕を組み、じっと結絆を見る。

 

「ねえ、結絆」

 

「どうしたんだい?」

 

「さっきから思ってたんだけど」

 

真面目な顔。

 

「本気でイカサマしたら、あんたどこまでできるの?」

 

「お」

 

場の空気が少し変わる。

 

フレンダが身を乗り出す。

 

「それ私も気になってた!」

 

「超確かにです」

 

滝壺も静かに視線を向ける。

 

結絆は少し考え、ふっと笑った。

 

「じゃあ、ちょっと待ってて」

 

自室の棚から、未開封のトランプを持って戻ってくる。

 

「新品だよお」

 

封を切り、中身を取り出す。

 

「まず確認ね」

 

カードを広げる。

 

♠AからK、♥AからK、♦、♣と、きっちり順番通りに並んでいる。

 

「本当に新品ね」

 

「超きれいに並んでます」

 

結絆はカードを整え、軽く構えた。

 

「じゃあいくよお」

 

パラパラ、とリフルシャッフル。

 

一回。

 

二回。

 

三回。

 

指先の動きは滑らかで、カードが美しく弧を描く。

 

「ちょっと待って、綺麗すぎない?」

 

「超プロっぽいです」

 

四回、五回。

 

六回。

 

「八回くらいやろうか」

 

「え、そんなに!?」

 

七回。

 

八回。

 

そして、結絆はカードを揃え、テーブルに広げた。

 

「はい、どうぞ」

 

四人が覗き込む。

 

「......え?」

 

「ちょっと待って」

 

「嘘でしょ」

 

そこには――

 

♠AからK、♥AからK、♦、♣。

 

最初とまったく同じ配列が並んでいた。

 

「はああ!?」

 

「超意味不明です!」

 

「今八回シャッフルしたわよね!?」

 

麦野がカードをめくる。

 

「間違いない......順番通り」

 

フレンダが呆然。

 

「どういうこと?」

 

結絆は肩をすくめる。

 

「完璧なリフルシャッフルを8回すれば、元に戻せるよお」

 

「さらっと言ってるけど普通にできることじゃないわね」

 

「理論知ってても普通できないって!」

 

滝壺が小さく言う。

 

「......手が、機械みたい」

 

「褒め言葉かなあ」

 

四人は顔を見合わせる。

 

「......本気でやられたら勝てないわね」

 

「超無理ゲーです」

 

結絆はくすっと笑う。

 

「それと、さっきはやってなかったけどお」

 

「まだあるの!?」

 

「カードの配列を覚えることもできるよお」

 

「は?」

 

結絆はデックを揃え、絹旗に差し出す。

 

「好きなようにシャッフルして」

 

「超本気でやりますよ?」

 

「うん」

 

絹旗は念入りにシャッフルする。

 

リフル、ヒンズー、カット。

 

さらにフレンダが横から混ぜる。

 

「これでどう?」

 

「上から順に言えばいいかなあ?」

 

「え、嘘でしょ!?」

 

結絆は淡々と口を開く。

 

「♣7、♦K、♠3、♥10、♣A、♦2......」

 

「ちょっと待って」

 

麦野が実際にカードをめくる。

 

「......合ってる」

 

「え」

 

結絆は止まらない。

 

「♠J、♥4、♣9、♦Q......」

 

一枚ずつ確認。

 

全て一致。

 

「嘘でしょ!?」

 

「超全部当たってます!」

 

フレンダが頭を抱える。

 

「記憶力どうなってるのよ!」

 

滝壺が静かに言う。

 

「......チート」

 

最後の一枚まで言い切る。

 

完璧。

 

結絆は笑った。

 

「まあ、本気でやったらこんな感じかなあ」

 

四人は完全に言葉を失う。

 

麦野がぽつり。

 

「......あんたを相手にカードゲームするの、無謀すぎるわね」

 

「超今さらです」

 

「でも楽しいからやめないってわけよ」

 

フレンダがにやりと笑う。

 

結絆は肩をすくめる。

 

「次もイカサマなしでやろうかあ」

 

「今の見た後に言われても説得力がないってわけよ!」

 

部屋に再び笑い声が広がったのだった。

 

 

 

 神業じみたシャッフルと完全記憶を見せつけられ、さすがのフレンダもぐったりとテーブルに突っ伏した。

 

「......もうカードはお腹いっぱいってわけよ」

 

「超同感です。脳が疲れました」

 

「正直、勝てる気しないしね」

 

麦野がため息をつく。

 

滝壺もこくりと頷いた。

 

「......ちょっと、お腹すいた」

 

その一言で空気が変わる。

 

「あ、それ!」

 

フレンダが勢いよく起き上がる。

 

「結絆、夕食作って!」

 

「急だねえ」

 

「だってもう夜ってわけよ?」

 

時計を見れば、確かにいい時間だ。

 

絹旗も両手を合わせる。

 

「超お願いします。さっきの運動でエネルギー不足です」

 

「まあ、私も何か食べたいわね」

 

麦野も否定しない。

 

四人の視線が一斉に結絆へ。

 

結絆は苦笑する。

 

「はいはい。じゃあ作ろうか」

 

立ち上がると、軽く指を鳴らした。

 

次の瞬間――。

 

結絆が、三人増えた。

 

「「「よっと」」」

 

「え」

 

「は?」

 

「超分裂しましたね」

 

何度見ても結絆が複数人いる状況には慣れないらしい。

 

「分身体だよお」

 

本体の結絆が説明する。

 

「料理をするなら、手分けした方が早いからねえ」

 

分身体の一人は冷蔵庫を開け、鯖と鮭を取り出す。

 

もう一人は鍋を火にかける。

 

「ちょっと待って、情報量多い!」

 

「超便利すぎます!」

 

キッチンから包丁で食材を切る音が響く。

 

鯖と鮭をほぐし、フライパンに油を引き、ご飯を投入。

 

強火で一気に炒める。

 

香ばしい匂いが部屋に広がる。

 

「うわ、いい匂い......」

 

フレンダが鼻をひくひくさせる。

 

一方で、もう一体は寸胴鍋にスープを仕込み、麺を茹で始める。

 

「ラーメンまで!?」

 

「餃子も焼くよお」

 

さらに別のフライパンで餃子が並べられる。

 

ジュウウ、と音が弾ける。

 

「手際良すぎない?」

 

「超三人分の働きです」

 

「実際三人いるからねえ」

 

本体はのんびりお茶を淹れている。

 

「いや、本体も働きなさいよ!」

 

「指示出しはしてるんだけどねえ」

 

分身体たちは完璧に連携し、チャーハンはぱらぱらに仕上がる。

 

鮭の赤、鯖のほぐし身、刻みネギ。

 

香りが食欲を刺激する。

 

ラーメンは澄んだスープに麺が美しく泳ぎ、餃子は羽根つきで完璧な仕上がり。

 

「はい、もうすぐできるよお」

 

「早っ!」

 

「超レストラン並みです」

 

料理を待つ間、リビングに戻った結絆の腕に、フレンダがすり寄る。

 

「結絆って本当に万能よね」

 

「そうかなあ」

 

反対側から絹旗もぎゅっと抱きつく。

 

「超料理スキル高すぎます」

 

「二人とも近いねえ」

 

「いいじゃない」

 

「ご褒美です」

 

結絆は苦笑しながらも、そのままソファに座る。

 

フレンダは肩に頭を乗せ、絹旗は腕に頬をすりすり。

 

「......結絆の隣は癒されるってわけね」

 

「超充電中です」

 

その様子を少し離れて見ている二人。

 

「......仲がいいね」

 

滝壺は静かに結絆を見る。

 

さっきのハグの温もりが思い出される。

 

(......少し、羨ましい)

 

麦野も内心で思う。

 

(はっ、別に羨ましくなんか......)

 

だが、ほんの少しだけ胸がもやっとする。

 

その空気を感じ取ったのか、結絆が声をかける。

 

「滝壺も麦野も、こっちに来るかい?」

 

「え」

 

「別に遠慮しなくていいよお」

 

滝壺は一瞬迷い、そっと隣に座る。

 

麦野はため息をつきながらも反対側へ。

 

「......狭いわね」

 

「超人口密度高いです」

 

そのとき、キッチンから声。

 

「できたよお」

 

分身体たちが料理を運んでくる。

 

湯気の立つチャーハン、ラーメン、餃子。

 

「うわああ!」

 

「超豪華です!」

 

「お店開けるわよこれ」

 

五人はテーブルを囲む。

 

トランプから始まった夜は、いつの間にか賑やかな晩餐へ。

 

分身体が静かに消える中、結絆は笑った。

 

「さあ、食べようかあ」

 

「いただきます!」

 

結絆の万能さに改めて驚きながら、五人の夜はさらに温かく続いていくのだった。




アイテムのメンバーとの絡みの話はもう少し続きます。
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