敵対する暗部組織をあっさりと壊滅させた後、結絆と麦野は何事もなかったかのようにマジックシアターの高級ブランド街へ戻ってきていた。
つい数分前まで廃ビル街で戦闘をしていたとは思えないほど、ここは平和で華やかだ。
磨き上げられた大理石の床、天井から吊るされた豪奢なシャンデリア、ガラスケースの中で輝く宝石や時計。
その中を歩く美男美女の二人組は、周囲の客や店員の視線を自然と集めていた。
「......結構見られてるわね」
麦野は周囲から向けられる視線に気付き、わずかに眉をひそめる。
だがその頬は、ほんのり赤い。
先ほどの戦いで変な緊張はほぐれたはずなのに、今度は別の意味で落ち着かない。
結絆と並んで歩いているだけで、恋人同士に見られている気がしてしまうのだ。
元々は何気なく誘われたデートではあるのだが、それでも意識するとどうにも気恥ずかしい。
そんな麦野の様子を見て、結絆はくすくす笑う。
「みんな、綺麗なお姫様に見惚れてるんじゃないかなあ」
「っ、あんたね......!」
「俺も見惚れてるからねえ」
「~~っ!!」
さらっと追撃を食らい、麦野は危うくその場でしゃがみ込みそうになる。
だが、ここで負けてなるものかと咳払いを一つした。
「ほ、ほら!アクセサリーの店、入りましょう」
半ば強引に話題を変えながら、麦野は目の前の店へ入っていく。
店内は静かで落ち着いた空気に包まれていた。
黒を基調とした内装に、柔らかな照明。
ショーケースの中にはネックレス、リング、ブレスレット、イヤーカフ、カフスなどが整然と並び、それぞれが小さな芸術品のように光を放っている。
店員が二人を見るなり、洗練された笑みを浮かべて一礼した。
「いらっしゃいませ。本日はペアでお探しでしょうか?」
「っ!?」
麦野が勢いよく店員の方を向いた。
「ぺ、ペアって......!」
しかし結絆は動じることなく、にこやかに答える。
「うん、そんな感じかなあ」
「ちょっ、勝手に......っ!」
「折角だし、お互いに似合うものを選び合おうよお」
結絆がそう言うと、麦野は文句を言いかけた口を閉じた。
表向きは平然を装いながら、麦野は腕を組む。
「ふん。なら、私があんたに似合うのを選んであげるわ」
「ありがとう。じゃあ俺も、麦野に似合うのを探すねえ」
「変なの選んだら、承知しないわよ」
「怖いなあ。でも、麦野がつけたら何でも似合いそうで困るねえ」
「だから......っ!」
またしても不意打ち。
麦野は小さく舌打ちしながら、顔の熱を誤魔化すようにショーケースへ視線を向けた。
しばらくの間、二人は別々に店内を見て回っていた。
麦野は一見すると気怠そうに商品を眺めているが、実際はかなり真剣だ。
結絆は服装のセンスも良いし、顔も良い。
だからこそ、半端なものでは釣り合わない。
「......あいつには、派手すぎるのは違うわね」
宝石がぎらつくネックレスを一瞥し、麦野は却下する。
結絆は目立つ存在ではあるが、下品な派手さとは無縁だ。
もっと、洗練されていて、上品で、それでいて芯の強さを感じさせるものがいい。
そんな中、麦野の目が一つの品に留まった。
細身のシルバーブレスレット。
装飾は控えめだが、中央には黒と赤を基調とした繊細な意匠が施されている。
以前、鏡の世界で一緒に作ったスターカッター(時空を移動する船)を思わせるような色合いで、シンプルなのに妙に存在感があった。
「......これ、あいつに似合いそうね」
思わず手に取り、麦野は小さく呟く。
一方その頃、結絆も別のショーケースの前で足を止めていた。
「んー......」
彼の視線の先にあったのは、同じシリーズのアクセサリー。
細身のシルバーブレスレットで、中央に黒と赤の美しい意匠。
女性用に少し華奢な作りだが、デザインは同じ。
気の強い麦野に似合うのは、単なる可愛らしさではない。
強さと気品、鋭さと美しさ、その全てを引き立てるもの。
「うん、これだねえ」
結絆は迷わずそれを選んだ。
「決まったわ」
「俺もだよお」
店の中央で合流した二人は、それぞれ手にした小箱を見せ合おうとする。
そして、ほぼ同時に蓋を開いた。
「......え?」
「おや?」
麦野が選んだのは、結絆向けの黒と赤のシルバーブレスレット。
結絆が選んだのは、麦野向けの同シリーズのブレスレット。
色も、意匠も、シリーズも、まったく同じだった。
しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは結絆だった。
「ふふ」
「な、何よ」
「俺たちは相性いいかもしれないねえ」
その一言は、何気ないようでいて、あまりにも破壊力が高かった。
麦野の顔が一瞬で真っ赤になる。
「~~~っ!!」
「おや、本当に赤くなったねえ」
「うるさいわね!たまたまでしょ、たまたま!」
「でも、同じものを選ぶって凄い偶然だよお?」
「だからそれがたまたまだって言ってんのよ!」
そう怒鳴りながらも、麦野はそのブレスレットを見つめる目を逸らせなかった。
たまたま。
そう、たまたまのはずだ。
なのに、胸の奥が妙に温かい。
自分が選んだものと、結絆が自分のために選んだものが同じ。
それが、まるで心の向きまで重なったみたいで。
「これ買うよお」
結絆は店員に声をかけた。
「かしこまりました」
「ちょ、ちょっと!自分の分は自分で払うから......」
「今日は俺が誘ったデートだからねえ。俺から麦野へのプレゼントってことにさせて欲しいなあ」
柔らかく、けれど有無を言わせない声音だった。
麦野は口を開きかけ、結局閉じる。
「わかったから......好きにしなさい」
その代わり、そっぽを向きながら小さく付け足した。
「......ありがと」
結絆はその小さな声をちゃんと聞き取って、嬉しそうに笑った。
アクセサリーを受け取り、互いにその場で身につけた後、結絆は麦野をマジックシアター上層階へと案内した。
「次はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「んー、ちょっとお腹空かない?」
「......まあ、少しは」
「じゃあ、いい店があるんだよお」
案内されたのは、マジックシアターでも特に予約の取りづらい高級レストランだった。
大きなガラス窓の向こうには、夜の学園都市の街並みが宝石箱のように広がっている。
キャンドルの灯り、上質なテーブルクロス、静かな生演奏。
「結絆......あんた、最初からここに連れてくるつもりだったの?」
「今日の締めにぴったりかなあってねえ」
「......本当に、ずるい男ね」
麦野は呆れたように言いながらも、内心では鼓動がうるさいほど高鳴っていた。
食事は、二人にとって驚くほど穏やかな時間になった。
麦野は普段なら打ち明けないような話まで、自然と口にしていた。
アイテムのこと。
大切な仲間である、滝壺やフレンダや絹旗のこと。
昔の自分。
そして、結絆と出会ってから、少しずつ変わってきた自分のこと。
結絆はそれを茶化さず、ただ静かに聞いていた。
時折、優しく笑いながら。
その眼差しが、麦野にはどうしようもなく心地よかった。
食事を終え、デザートと食後の紅茶が運ばれてきた頃。
窓の外には、夜景がいっそう鮮やかに広がっていた。
結絆はふと、麦野を真っ直ぐに見つめた。
「麦野」
「......何よ」
その声色が、今までと少し違う。
ふざけた軽さが引いており、真剣さを滲ませた声音。
麦野の背筋が、自然と伸びる。
「今日、一緒に服やアクセサリーを選んで、敵を潰して、食事をして......改めて思った」
「......」
「俺は、麦野と一緒にいる時間がすごく好きだよお」
胸が、どくんと跳ねる。
「強くて、綺麗で、ちょっと不器用で、でも仲間思いで。そういう麦野のことを、もっと近くで見ていたい」
結絆は微笑んだ。
その笑みはいつも通り優しいのに、言葉はまっすぐで、逃げ場がない。
「麦野。俺と付き合ってくれないかなあ」
世界が、ほんの一瞬止まった気がした。
麦野は目を見開いたまま、言葉を失う。
結絆の恋人が多いことは知っている。
自分もその輪の中にいる女性たちを見てきた。
そして、自分が彼に惹かれていることも、とっくに自覚していた。
けれど。
こうして真正面から、正式に告白されるなんて。
「......っ、あんた......」
声が震える。
自分でも情けないと思うくらい、胸がいっぱいになる。
「そんなの......」
麦野は唇を噛み、視線を逸らし、それでも最後にはちゃんと結絆を見た。
「断るわけ、ないでしょ......!」
その瞬間、結絆の表情がふっとほどけた。
「ありがとう」
「......ただし!」
麦野は真っ赤な顔のまま、勢いで続ける。
「私は簡単な女じゃないから!ちゃんと大事にしなさいよ!」
「もちろんだよお。大事にするからねえ」
「他の女たちばっかり構ってたら、原子崩しで吹き飛ばすわよ!」
「おお、怖い怖い。でも、嫉妬してくれるのは嬉しいなあ」
「誰が嫉妬よっ!」
怒鳴りながらも、麦野の目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。
嬉しくて、幸せで、どうしようもなく、満たされて。
結絆は席を立つと、そっと麦野の傍へ回り込んだ。
「沈利」
「......何よ」
「これからもよろしくねえ、俺の大切なお姫様」
そう言って、彼は麦野の頬に優しく触れた。
麦野は一瞬だけ目を閉じ、それから小さく息を吐く。
「......よろしく、結絆」
結絆はそっと麦野を抱き寄せたのだった。
レストランの静かな灯りの中で、夜景を背に抱き合う二人は、まるで一枚の絵のようだった。
麦野は最初こそ硬直したが、やがて観念したように結絆の背へ腕を回す。
「......ほんっと、ずるい男ね」
「そうかなあ?」
「こんなの、好きになるに決まってるじゃない」
その囁きに、結絆は優しく笑った。
こうして、麦野沈利は正式に結絆の恋人の一人になった。
新たな力を手に入れ、過去の呪縛から少しずつ解き放たれ、そして、自分をまっすぐ見てくれる相手の隣に立つ。
黒と赤のブレスレットが、二人の距離が確かに繋がったことを示すように、静かに光を反射していた。
窓の外では、学園都市の夜景がきらめいている。
だが、麦野にとって今一番眩しいのは、目の前で微笑む結絆の存在だった。
その夜、マジックシアターで、また一つ新しい恋が、確かに始まったのだった。
マジックシアター最上階の高級レストランで、甘くて眩しい時間を過ごした後。
正式に恋人同士となった結絆と麦野は、居住エリアへと戻っていた。
煌びやかな高級レストラン街の灯りは少しずつ遠ざかり、代わりに見慣れた居住エリアの落ち着いた照明が二人を迎える。
いつもの帰り道のはずなのに、麦野には妙に景色が違って見えた。
「......」
麦野はちらりと結絆を盗み見る。
整った横顔。
自然体なのにどこか色気のある立ち姿。
さっきまであんなに真っ直ぐな言葉をぶつけてきたくせに、今は妙に平然としているのが少し腹立たしい。
「おや?どうしたんだい、沈利」
「な、何でもないわよ」
「ふふ、そうかなあ?」
「......余裕ありそうな顔を見てるとムカついてくるわね」
「おやおや。俺だって内心は結構どきどきしてるんだけどなあ」
「嘘つき」
「本当だよお。今だって、隣に大切な彼女がいると思うと嬉しくて仕方ないからねえ」
「っ......!」
不意打ち。
麦野は思わず足を止めかけ、すぐに顔を逸らす。
「いちいちそういうこと言うんじゃないわよ......!」
「だって、本当のことだからねえ」
くすくすと笑う結絆に、麦野は軽く肘を入れてやりたくなったが、結局できなかった。
代わりに、ほんの少しだけ距離を詰める。
それだけで結絆が嬉しそうに目を細めたのが、麦野にとっては、また悔しかった。
居住エリアのラウンジに差しかかった時だった。
「お、来た来た!」
ソファの方から、聞き慣れた明るい声が飛んでくる。
視線を向けると、そこにはフレンダ、絹旗、そして滝壺の三人がいた。
どうやら二人のことを待っていたらしく、テーブルの上には飲みかけのジュースやお菓子が並んでいる。
フレンダはソファの背もたれから身を乗り出すようにして、にやにやと笑っていた。
「結局、帰ってくるの遅いなーって思ったら、やっぱりそういうことだったってわけよ!」
「うぐっ......」
麦野が思わず詰まる。
対して結絆は、いつも通り穏やかに手を振った。
「ただいま、皆」
「おかえり」
滝壺がふわりと微笑みながら言う。
その声はいつも通り穏やかで、どこか安心感があった。
絹旗も腕を組みながら、口元に小さな笑みを浮かべる。
「お二人とも、超いい顔してますね」
「......何よ、その言い方」
「いや、見れば超わかるってことです」
絹旗の言葉に、フレンダが大きくうなずいた。
「うんうん、わかるわかる!っていうか、麦野のその顔、超わかりやすいんだけど!」
「はぁ!?どんな顔してるっていうのよ!?」
「恋する乙女の顔!」
フレンダがびしっと指を突きつける。
「......っ!」
麦野の顔が一気に赤くなる。
「な、何言ってんのよフレンダ!!」
「いやだって、いつもの『ぶっ飛ばすわよ』って顔じゃなくて、なんかこう......ふにゃってしてるわけよ。あー、麦野も乙女だったんだなーって」
「フレンダァァァ!!」
今にも原子崩しを撃ちそうな勢いでフレンダを睨みつけ、髪を逆立てる麦野。
しかしフレンダは慌てて結絆の後ろへ回り込む。
「ひっ、ちょ、待って待って!今はお祝いモードだから!」
「そうですよ。フレンダがうざいのは超わかりますけど、ここで撃ち抜いたら、せっかくの空気が超台無しです」
「フォローしてくれてるのか、けなされてるのかわかんないってわけよ......」
絹旗がさらりと止めに入りながら、肩をすくめる。
「まあでも、なんやかんやで......」
彼女は、フレンダ、滝壺、そして麦野へ順番に視線を向けた。
「4人とも、結絆に超惚れちゃったってことですね」
その一言に、場の空気が少しだけ静まる。
フレンダは頬をかきながら苦笑いした。
「......まあ、否定はできないわけよ」
「私も、そうだね」
滝壺がこくりと頷く。
彼女たちはもうすでに結絆の恋人として、その事実を穏やかに受け入れている。
そして視線が麦野へ向く。
「......何よ」
麦野はむすっとした顔で腕を組んだ。
けれどその耳まで赤い。
「......否定、しないわよ」
「おおー!」
「超素直じゃないですか」
「麦野、かわいい」
「うっさい!!」
だが、怒鳴った後で、麦野はふっと力を抜いた。
目の前にいる三人は、自分の仲間だ。
ずっと一緒に戦ってきたアイテムのメンバー。
そして今は、結絆を通してさらに不思議な縁で繋がっている。
麦野は少しだけ視線を逸らしながら、小さく口を開いた。
「でも、そうね......」
三人がきょとんとする。
「祝ってくれて、ありがと」
その言葉は、ぶっきらぼうで、少しだけ照れ隠しが混じっていた。
それでも、麦野が本気で感謝していることは三人にちゃんと伝わる。
フレンダが一瞬ぽかんとした後、にやっと笑った。
「おおっ、麦野がデレた!」
「明日は槍でも降りますかね」
「今日はすごくいい日」
「あんたたちぃ......!」
再び麦野が拳を握るが、今度はその顔に本気の怒気はない。
むしろ、どこか晴れやかだった。
そんなやり取りを、結絆は少し離れたところから微笑ましそうに見ていた。
自分の大切な人たちが、こうして笑い合っている。
それだけで胸が温かくなる。
そして、ひとしきり騒ぎが落ち着いたところで、結絆はそっと麦野の方へ身体を向けた。
「ねえ、沈利」
「......何よ」
ついさっきまでフレンダたちにからかわれていたせいで、まだ少し頬が熱い。
そんな麦野に、結絆はいつもの柔らかな笑みを向けた。
「今晩はゆっくり語り合わないかい?」
その言葉に、麦野は目を瞬かせる。
今日一日にあったことだけでも、話したいことは山ほどある。
他にも能力のことや昔のこと。
そして、これからのこと。
胸の奥に、くすぐったいような期待が広がる。
「......まあ、いいわよ」
わざとそっけなく返しながらも、声はどこか柔らかい。
「私も、まだ話したいことあるし」
「ふふ、よかった」
結絆が嬉しそうに笑う。
その瞬間だった。
「......あっ」
フレンダが、何かを察したような顔になった。
絹旗も同じように目を細める。
「おやおや、これは超......」
滝壺も、ほんのりと意味深な笑みを浮かべた。
「夜の結絆は、すごいよ」
その一言に、麦野の動きがぴたりと止まった。
「............は?」
空気が凍る。
結絆は苦笑いをしているが、フレンダたちは止まらない。
「いやー、結局、語り合うってそういう意味も含んでるわけでしょ?」
「フレンダ、言い方が超生々しいです」
「でも事実。夜の結絆は、いろいろすごい」
滝壺が至極真面目な顔で言うのが、逆に破壊力を増していた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
麦野がぎこちなく振り向く。
「な、何よそれ」
「そのままの意味ってやつ?」
「超察してください」
「大丈夫、結絆は最初は優しくしてくれるから」
「......」
麦野はゆっくりと、ゆっくりと首を回して、隣の結絆を見た。
ジト目だった。
それはもう、ものすごくわかりやすいジト目だった。
「......結絆?」
「ど、どうしたのかなあっ!?」
珍しく、結絆の声が少しだけ上ずる。
「どういうことかしら」
「え、えーっとだねえ......」
「語り合うって、純粋に会話するって意味じゃなかったわけ?」
「もちろん、まずはそうだよお?」
「まずは?」
「おやおや、沈利、そこに反応するんだねえ」
「結・絆?」
笑顔。
しかし圧がある。
フレンダが小声で囁く。
「うわぁ、こうなった麦野は面倒くさいから避難避難~」
「超面白いですね」
「でも、たぶん大丈夫。結絆はちゃんと大事にしてくれるから」
「滝壺、それフォローになってないわよ」
麦野は真っ赤になりながらも、視線を結絆から逸らさない。
結絆は苦笑しつつ、そっと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫だよお。沈利が嫌がることは絶対にしないから」
その一言は、ふざけた空気の中でも不思議と真っ直ぐだった。
麦野は数秒だけじっと彼を見つめる。
そして、ふっと肩の力を抜いた。
「......なら、まあいいわ」
「ふぅ......」
「ただし」
麦野はじとっとしたまま付け足す。
「変なことしたら、その場で原子崩しぶち込むから」
「おお、なんか命懸けだねえ」
「当然でしょ」
そう言いながらも、その声に拒否の色はない。
むしろ、照れと少しの期待が入り混じっている。
それを見たフレンダたちは、顔を見合わせてにやにやし始めた。
「いやー、これは今夜、長くなりそうなわけよ」
「超同感です」
「明日の麦野、少し眠そうかもしれない」
「全員まとめて消し飛ばすわよ!!」
ラウンジに麦野の怒声が響き渡り、その直後に結絆の楽しそうな笑い声と、フレンダたちの慌てた悲鳴が重なった。
その夜の居住エリアは、いつもよりずっと温かかった。
新しい恋人が増えたこと。
仲間が幸せそうに笑っていること。
そして、その中心に結絆がいること。
そんな幸福を、皆がちゃんと感じていたからだ。
やがて、ひとしきり騒いだ後。
結絆は改めて麦野の手を取る。
「じゃあ、行こうかあ」
「......ええ」
麦野は一瞬だけフレンダたちを振り返り、少しだけ照れくさそうに言った。
「......じゃ、おやすみ」
「おやすみー!」
「超ごゆっくり」
「お幸せに」
「うっさい!!」
最後に一発怒鳴ってから、麦野は結絆に手を引かれて歩き出した。
おそろいのブレスレットが、廊下の灯りを受けてきらりと光る。
今夜はきっと、特別な夜になる。
そんな予感を胸に、麦野は少しだけ頬を熱くしながら、結絆と共に静かな廊下の奥へと消えていったのだった。
麦野もヒロインになりました。
次回からは、学園都市復興編です。