食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回からは、学園都市復興編です。


学園都市復興編
復興への第一歩


 学園都市を襲った前方のヴェントの襲撃は、街のあちこちに深い傷跡を残していた。

 

倒壊した学生寮、壁の崩れた校舎、停止した研究施設。

 

普段なら最先端の技術と秩序に満ちた学園都市も、今は復旧作業用の車両と慌ただしく走り回る警備員や風紀委員たちで埋め尽くされている。

 

住む場所を失った学生たちは臨時避難所へ分散していたが、それでも受け入れ先は足りず、不安げな表情を浮かべる者も少なくなかった。

 

そんな中、学園都市中に一斉配信されたのは、食蜂結絆の名義による支援告知だった。

 

『マジックシアターを臨時の生活支援拠点として開放するよお。寮や学校が被害を受けて困ってる子たちは、遠慮なく来てねえ』

 

その知らせに、多くの学生たちは驚き、そして安堵した。

 

学園都市で屈指の巨大複合施設であるマジックシアターは、結絆が普段から施していた時空間の魔術の影響もあって、今回の襲撃でもほとんど被害を受けていなかった。

 

しかも最近整備が進んでいた地下区画は、本来なら新たな居住区画やバックヤード、設備拡張用のスペースとして使う予定だったため、広さも設備も申し分ない。

 

臨時避難所として転用するには、まさに理想的だった。

 

もっとも、その場で指揮を執るべき結絆の本体は、今は学園都市にはいない。

 

アメリカへ向かう飛行機の機内。

 

結絆はファーストクラスの席に座り、隣で眠る御坂美琴を横目に見ていた。

 

「......ふふ、美琴の寝顔は、かわいいなあ」

 

小さく呟きながら、結絆はそっと微笑む。

 

彼の意識は確かに学園都市へも向いていたが、本体との距離が離れているということもあって、今回動かしている分身体は完全な多重並列操作ではなく、情報共有と簡易的な指示をメインにした運用だった。

 

細かな作業は、それぞれの分身体が結絆本人の判断パターンをなぞるように半自律で動き、必要な時だけ本体が意識を差し込む形にしている。

 

そのため脳への負担は驚くほど少なく、結絆は美琴の寝息を聞きながら、かなり余裕を持って状況を見守れていた。

 

「ん......んぅ......」

 

眠っている美琴が小さく身じろぎし、無意識に結絆の肩へ頬を寄せる。

 

「おっと......。こりゃ役得だねえ」

 

くすりと笑いながら、結絆はそっと彼女の髪を撫でた。

 

その間にも、学園都市では結絆の分身体たちがてきぱきと動いていた。

 

マジックシアター正面ゲートでは、結絆の分身体の一人が避難してきた学生たちを迎えている。

 

「はいはーい、慌てなくて大丈夫だよお。まずは受付で名前と学校、怪我の有無を教えてねえ」

 

穏やかな笑顔と柔らかな口調に、緊張していた学生たちの表情が少しずつ和らいでいく。

 

その隣では帆風潤子が名簿を整理し、避難区画の割り振りを行っていた。

 

「こちらにお並びの方は地下第一居住区画へどうぞ。女性用区画は奥にあります。小さなお子さんがいらっしゃる方は、あちらの静養区画を優先してご案内いたします」

 

彼女の気品と落ち着きに満ちた対応は、それだけで周囲に安心感を与える。

 

そして、蜜蟻愛愉は、物資の搬入と配布を担当していた。

 

「はい、毛布と着替えとお菓子セットよお☆落ち込んでる時は甘いものを食べて笑顔になりなさあい!」

 

包容力のある明るい笑顔と弾む声に、泣きそうだった子どもたちも思わず笑顔になる。

 

地下区画では、さらに本格的な整備が進んでいた。

 

広々とした空間には簡易ベッドがテキパキと並べられ、区画ごとに男女別、年齢別、学校別の居住エリアが用意されていく。

 

空調、給排水、照明、衛生設備まで全てが手際よく整えられ、仮設とは思えないほど快適な生活空間が出来上がっていた。

 

「結絆君、この区画の壁面補強は終わったわ。次は医療スペースの拡張に入るから、衛生ラインの増設をお願い」

 

そう指示を飛ばすのは橘沙羅だ。

 

冷静沈着な表情でタブレットを操作しながらも、その動きには一切の迷いがない。

 

「了解だよお、沙羅。こっちは水脈から直接引いて浄化ラインも繋げるねえ」

 

結絆の分身体が軽く指を振ると、地下深くの水脈から引き上げられた清浄な水が、まるで生きた龍のように配管へ滑り込んでいく。

 

シャワー室、洗濯スペース、手洗い場が次々と稼働し始め、衛生環境は一気に安定した。

 

「超反則級ですね......」

 

結絆たちの作業を手伝っていた絹旗最愛が思わず呟き、隣のフレンダ=セイヴェルンが肩をすくめる。

 

「結局、これ見てると学園都市の復旧工事は結絆一人で半分くらいはやれそうって思っちゃう訳よ......」

 

「実際、やろうと思えばできるけどお、他のみんなの仕事を奪うのもよくないからねえ。俺が動けないときに何もできないと困るし」

 

結絆の分身体が冗談めかして笑うと、手伝いに来ていた学生たちからも小さな笑いが漏れた。

 

そして結絆は、ただ寝る場所を提供するだけでは終わらせなかった。

 

「生活だけじゃなくて、心を休める場所も必要だからねえ」

 

その方針のもと、マジックシアターの動物園エリア、植物園エリア、水族館エリアも順次開放された。

 

動物園エリアでは、巨大なトラのレグルスが普段よりも小さな姿で子どもたちの前に現れ、ふさふさの体を低くして大人しく座っていた。

 

「わあ......!」

 

「すごい......本物......!」

 

最初は恐る恐るだった子どもたちも、結絆の分身体が「大丈夫だよお、優しい子だからあ」と声をかけると、そっと毛並みに触れ、すぐに歓声を上げるようになる。

 

水族館エリアでは、青い光に包まれた専用の巨大水槽の中をアトラスが優雅に泳ぎ回っていた。

 

ミサカ00000号は案内役として子どもたちを引き連れ、「ミサカは本日限定で特別ガイドを務めます、とミサカは誇らしげに宣言します」と胸を張る。

 

その隣では食蜂美管が楽しそうに笑いながら、「ほら見て!アトラス、とっても賢いんだよ!」と、まるで自分のことのように自慢していた。

 

植物園エリアでは、白羽が緑に囲まれた静かな空間で避難してきた学生たちを優しく迎えていた。

 

「ここは落ち着ける場所ですから、疲れたらいつでも休んでくださいね」

 

柔らかな声、穏やかな笑み、美しい黒髪の姿。

 

その場にいるだけで心がほどけるような彼女の雰囲気に、張り詰めていた生徒たちの肩から少しずつ力が抜けていく。

 

一方、大衆食堂では警策看取、弓箭入鹿、弓箭猟虎、悠里千夜たちが中心となり、結絆の分身体と共に炊き出しを行っていた。

 

大鍋で作られた温かなスープ、山のように炊かれたご飯、栄養バランスまで考えられた副菜。

 

さらに結絆の分身体たちは分担して、空間移動で必要物資を搬入しながら配膳補助まで行っていく。

 

「焦らなくても大丈夫だよお、ちゃんと全員分あるからねえ。温かいうちに食べるんだよお」

 

その優しい声に導かれるように、避難してきた学生たちは少しずつ食事を手にし、勢いよく食べ始める。

 

 

 

 そして夜。

 

地下区画の巡回を終えた結絆の分身体は、静かに眠りについた学生たちを見回していた。

 

安全な寝床。温かな食事。安心できる明かり。

 

それだけで、救われる心がある。

 

その様子は、情報共有を通じて機内の本体にも自然に伝わってくる。

 

「......うん、みんな落ち着いたみたいだねえ」

 

結絆が小さく呟くと、隣で眠っていた美琴が、うっすら目を開けた。

 

「ん......結絆......まだ起きてたの......?」

 

「起きてるよお。でも大丈夫、向こうも順調だし。むしろ......」

 

結絆はくすっと笑って、美琴の少し寝ぼけた顔を見つめる。

 

「こうして美琴の寝顔を見てる余裕があるくらいには、ねえ」

 

「なっ......!い、いきなり何言ってんのよ......!」

 

寝起きで頬を赤くした美琴が、恥ずかしそうに結絆の肩を軽く小突く。

 

だが次の瞬間、眠気に負けたのか、再び彼の肩にもたれかかって目を閉じた。

 

「......もう、勝手に見てなさいよ」

 

「うん、堪能するよお」

 

その返事に、美琴の耳までほんのり赤くなる。

 

学園都市は傷ついた。

 

けれど、その傷を埋めるように、人が支え合い、助け合い、少しずつ前を向いていく。

 

そしてその中心には、遠くアメリカへ向かう空の上からでも、分身体と仲間たちを通して街を支え続ける食蜂結絆がいた。

 

マジックシアターは今夜、“夢”を見せる場所ではなく、傷ついた学生たちにとっての“帰れる場所”になっていた。

 

瓦礫の街に灯るその明かりは、復興の始まりを告げる、確かな希望そのものだった。

 

 

 

 夜も更け、マジックシアターの地下区画では、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。

 

避難してきた学生たちの多くは、すでに簡易ベッドでくつろいでいる。

 

動物園エリアや水族館エリアで心を和らげた子どもたちも、温かな食事を終えてすっかり眠そうな顔になっていた。

 

そんな中、地下区画の巡回と案内を一通り終えた白井黒子は、額の汗をハンカチで拭いながら、近くで物資の確認をしていた結絆の分身体へと歩み寄った。

 

「ふぅ......ひとまずこの辺りは落ち着きましたの。ですが、こうして見ると本当に驚かされますわね。これだけの人数を整然と受け入れてしまうなんて......」

 

「皆が協力してくれるおかげだよお。黒子も頑張ってくれてるから、かなり助かってるよお」

 

結絆がいつもの柔らかな笑みでそう言うと、黒子は少しだけ胸を張る。

 

「結絆さんのお役に立てることが、私にとって最大の喜びですの」

 

そう言ってから、ふと黒子は首を傾げた。

 

「......そういえば、お姉様は今どのようなご様子ですの?アメリカ行きの機内にいらっしゃるとは聞いておりますけれど」

 

その問いに、結絆の分身体はにやりと口元を緩めた。

 

「気になるかい?」

 

「き、気になりますの!お姉様がきちんと休めているのかは、当然確認すべき事項......」

 

「ふふ、じゃあ特別に見せてあげるよお」

 

そう言うと結絆は、ポケットから端末を取り出した。

 

そこには本体と完全に同期したデータが共有されている。

 

画面を数回操作した後、黒子の前にそっと差し出した。

 

「ほら、美琴の寝顔だよお。ついさっき撮ったのもあるよお」

 

「なっ......!?」

 

そこに映っていたのは、機内の薄暗い照明の中、結絆の肩にもたれかかって穏やかに眠る御坂美琴の姿だった。

 

少しだけ頬を緩め、無防備に目を閉じた表情。

 

いつもの勝ち気な雰囲気は影を潜め、年相応、いや、それ以上に愛らしい少女の寝顔がそこにあった。

 

「~~~~っ!!??」

 

黒子の顔が一瞬で真っ赤になる。

 

「お、おおおおお姉様が......っ!こ、こんなにも無防備で......っ!しかも結絆さんの肩に......っ!な、なんですのこの尊すぎる光景はぁぁぁぁぁっ!!」

 

声を上げる黒子に、結絆は楽しそうに肩を揺らした。

 

「いやあ、あんまり可愛かったから、つい何枚も撮っちゃってねえ」

 

「何枚も!?何枚もですの!?ま、まさか他にも......!」

 

「あるよお。ほら、これは頬がちょっとふにっとしてるやつ。こっちは寝ぼけて俺の腕をぎゅっと掴んできた時のやつだねえ」

 

「ほわああああああああっ!!」

 

黒子は思わずその場で身をよじらせ、両手で口元を押さえて悶え始めた。

 

「お姉様......!なんて......なんて可愛らしいのでしょう......!この世にこんな尊い人が存在してよろしいのですの!?いえ、よろしいに決まっておりますけれどもぉぉぉっ!!」

 

その騒ぎに、近くで休憩していた常盤台中学の女子生徒たちが、何事かと視線を向ける。

 

「白井さん、どうしたんですか?」

 

「何かあったんですか?」

 

すると黒子は、はっと我に返ったように端末を抱え込み、数秒迷った末に、ぷるぷる震えながら言った。

 

「......これを見れば、理由がわかると思いますの」

 

「え?」

 

「何をですか?」

 

「お姉様の......寝顔写真ですの......!」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

次の瞬間、数人の常盤台生が一斉に黒子の周囲へ集まった。

 

「み、御坂様の!?」

 

「そんな貴重なものが!?」

 

「ぜひ拝見したいですわ!」

 

黒子は名残惜しそうにしつつも、結絆の端末をそっと見せる。

 

そして......

 

「きゃあああっ......!」

 

「か、可愛すぎますわ......!」

 

「いつもの凛々しい御坂様も素敵ですけれど、こんな無防備なお顔をなさるなんて......!」

 

「し、しかも結絆様の肩に寄りかかって......!」

 

常盤台の少女たちは一瞬で頬を紅潮させ、目をきらきらと輝かせ始めた。

 

「尊いですわ......」

 

「これはもう芸術です......」

 

「保護すべきですわ......!」

 

「でしょお?」

 

結絆がくすくす笑いながら次の写真を見せると、今度はさらに大きな悲鳴が上がる。

 

「この、少しだけ口元が緩んでるお姉様......!」

 

「幸せそうでいらっしゃいますわ......!」

 

「結絆様の隣だからこそのお顔ですね......!」

 

気づけば、周囲にいた別の常盤台生まで「何の騒ぎですか?」「御坂様の写真ですって?」と集まり始め、小さな人だかりができていた。

 

「......あら?」

 

黒子はその様子を見て、ふと気づく。

 

自分だけではない。

 

ここにいる常盤台の生徒たちもまた、御坂美琴という存在に強く惹かれているのだ。

 

凛々しく、強く、優しく、そしてこんなにも可愛らしい。

 

「......お姉様、知らぬ間に信者......いえ、ファンを増やしておられますのね......」

 

黒子がしみじみと呟くと、結絆はにこりと笑った。

 

「美琴は人を惹きつけるからねえ。本人はあんまり自覚ないけど」

 

「ええ、本当にその通りですの......!」

 

そしてその頃、当の美琴は機内で何も知らず、結絆の肩に頬を寄せたまま、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

 

自分の寝顔が学園都市のマジックシアターで密かな“鑑賞会”を開かれ、常盤台中学の後輩たちの心を撃ち抜き、新たなファンを量産しているなど、知る由もなく。

 

 

 

 マジックシアターの地下区画に設けられた臨時避難スペースは、夜になっても完全には静まり返らなかった。

 

あちこちで小さな話し声や、毛布の擦れる音、遠くから聞こえる水の流れる音が混ざり合い、普段暮らしている場所とは違う、どこか不思議な落ち着きを生み出している。

 

だがそれでも、幼い子どもたちにとっては見知らぬ場所であることに変わりはない。

 

大人でさえ不安になる状況だ。

 

親のいない孤児院の児童たちならなおさらだった。

 

その夜、地下の避難スペースの一角には、学園都市内の孤児院から避難してきた児童たちがまとまって休めるよう、特別に区画が設けられていた。

 

そこに姿を見せたのは、上条当麻と食蜂操祈の二人だった。

 

「こらこら、暴れない暴れない。ベッドの上で飛び跳ねると危ないからなー」

 

上条当麻は苦笑しながら、ぴょんぴょんと簡易ベッドの上で跳ねようとしていた小さな男の子をひょいと抱き上げる。

 

「えー!だってふかふかなんだもん!」

 

「気持ちは分かるけどな。壊したら寝れなくなるぞ?」

 

「はーい......」

 

少ししゅんとしたものの、男の子はすぐに当麻の首にぎゅっと抱きついてきた。

 

「孤児院は壊れちゃったけどさ、とうまお兄ちゃんたちが来てくれたから安心したよ!」

 

その無邪気な一言に、当麻は一瞬目を丸くした後、照れくさそうに頭を掻く。

 

「そ、そうか。そりゃよかったな」

 

その様子を見ていた食蜂操祈は、くすっと小さく笑った。

 

「ふふっ、相変わらず子どもには甘いのよねぇ、当麻」

 

「そりゃあなあ......っていうか、操祈だってめちゃくちゃ懐かれてるじゃねえか」

 

当麻の視線の先では、操祈が数人の女の子たちに囲まれていた。

 

「操祈お姉さまー!髪きれいー!」

 

「今日もいいにおいするー!」

 

「リボンかわいいー!」

 

小さな手で髪に触れられたり、服の裾をつままれたりしながらも、操祈はまったく嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうに微笑んでいる。

 

「もう、みんな甘えん坊さんなんだからぁ♪でも、そんなに褒めても今日はお菓子は増えないわよぉ?」

 

「ええーっ!」

 

「けちー!」

 

「ふふっ、でもぉ、お利口さんにしていたらぁ、少しくらいは考えてあげてもいいかもねぇ」

 

その言葉に、子どもたちはぱっと顔を輝かせた。

 

二人はこの孤児院には以前から何度かボランティアで足を運んでいた。

 

最初は結絆に誘われたのがきっかけだったが、気づけば定期的に顔を出すようになっていた。

 

勉強を見たり、一緒に遊んだり、食事を作ったり。

 

短い時間の積み重ねだったが、それでも子どもたちにとって二人は“憧れの存在”であり、“会えると嬉しい人”になっていた。

 

だからこそ、こんな非常時に顔を見せるだけでも意味がある。

 

避難生活の緊張で泣き出しそうになっていた幼い女の子が、操祈の服の裾をきゅっと握る。

 

「......おうち、もうないの?」

 

その小さな声に、周囲の空気が少しだけ沈んだ。

 

当麻も操祈も、すぐには言葉を返せなかった。

 

けれども、操祈は、しゃがんでその子と目線を合わせると、そっと頭を撫でる。

 

「今までのおうちは、ちょっとお休み中って感じかしらぁ。でもねぇ、ここには優しい人がいっぱいいるし、お兄様もみんなのために頑張ってるの。だから大丈夫よぉ」

 

「......ほんと?」

 

「ほんとよぉ。少なくとも、あなたが一人ぼっちになることは絶対にないわぁ」

 

その言葉は、どこまでも柔らかく、それでいて不思議なほど強かった。

 

女の子は少しだけ唇を結んだ後、こくりと頷き、操祈の胸元にぎゅっと抱きついた。

 

「うぅ......こわかったよぉ」

 

「うん、怖かったわよねぇ。よく頑張ったわぁ」

 

操祈は優しくその小さな背中を撫でる。

 

その横では、当麻がの男の子たちに囲まれていた。

 

「なあ、とうまお兄ちゃん!外、まだ危ないの?」

 

「怪獣とか来ない?」

 

「また建物壊れる?」

 

矢継ぎ早の質問に、当麻は少し困ったように笑う。

 

「怪獣は来ねえよ。......まあ、変なのはたまに来るけど」

 

「えっ、来るの!?」

 

「いやそこ食いつくな!......でもな」

 

当麻はそう言って、少年たちの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

 

「ここには結絆がいるし、風紀委員も警備員もいる。お前らが知ってる強い人たちもいっぱいいる。だから、少なくとも今は心配しなくていいぞ」

 

「......ほんとに?」

 

「今日は俺も操祈もここにいるしな」

 

その言葉に、男の子たちは顔を見合わせてから、少しだけ安心したように笑った。

 

「じゃあ、今日は眠れそうかも」

 

「ぼく、とうまお兄ちゃんの隣で寝たい!」

 

その声を皮切りに、男の子たちが当麻の元へ群がった。

 

「いやいやいや、その人数は流石に無理だって!」

 

「えー!」

 

わっと笑い声が広がる。

 

その笑い声を聞きながら、操祈はふと当麻を見つめた。

 

いつものように特別気の利いたことを言うわけでもない。

 

完璧に不安を消せるわけでもない。

 

けれども、当麻はただそこにいて、まっすぐに言葉を届けるだけで、人の心を軽くしてしまう。

 

(やっぱり、当麻ってずるいのよねぇ)

 

そんなことを思いながら、操祈は小さく微笑んだ。

 

その後、二人は子どもたちのために簡単な“お楽しみ会”を開くことにした。

 

当麻は男の子たちと一緒にカードゲームや簡単なじゃんけん大会をし、負けたら変顔をするというルールにまんまと巻き込まれて、子どもたちを大笑いさせる。

 

「とうまお兄ちゃん、へんな顔ー!」

 

「おい、今のはお前らがやらせたんだろ!?」

 

一方の操祈は、女の子たちに髪を軽く結ってあげたり、ハンカチを使った小さな手品を見せたりしていた。

 

「わあぁ......! お花みたい!」

 

「すごーい、操祈お姉さますごーい!」

 

「ふふっ、これくらいお安い御用よぉ♪」

 

さらに二人は、以前孤児院で好評だった絵本の読み聞かせも始めた。

 

当麻が少し不器用ながらも一生懸命に読み、操祈が場面に合わせて声色を変えたり、子どもたちに「次どうなると思う?」と問いかけたりする。

 

そのうちに、さっきまで不安げだった子どもたちの表情はすっかり和らぎ、あちこちからあくびが漏れ始めた。

 

「そろそろ、眠くなってきたころか?」

 

当麻がそう尋ねると、何人かの子どもたちがこくこくと頷く。

 

「とうまお兄ちゃん、今日は一緒にいてくれる?」

 

「操祈お姉さま、行かないで......」

 

「明日もいてくれる?」

 

その問いに、当麻と操祈は顔を見合わせた。

 

そして当麻が、穏やかな声で答える。

 

「おう!今日は一緒にいるし、明日も一緒に遊ぼうな!」

 

操祈も、優しく微笑んで続ける。

 

「ええ、明日も遊んであげるわよぉ。だからぁ、今日は安心して眠りなさぁい」

 

その一言で、子どもたちはようやく本当に安心したように毛布へ潜り込んでいった。

 

静かな寝息が少しずつ増えていく。

 

その光景を見つめながら、当麻は小さく息を吐いた。

 

「......やっぱり、知ってる顔がいるってだけで違うもんなんだな」

 

「そうねぇ。大変な時は、人のぬくもりが一番効くのよねぇ」

 

操祈はそう言って、そっと当麻の腕に自分の腕を絡めた。

 

「お兄様が場所を作って、みんなが支えて......その中で私たちができることをする。悪くない役割分担じゃなぁい?」

 

「だな」

 

当麻は静かに頷く。

 

外の街はまだ傷ついたまま。

 

しかし、このマジックシアターの中には、確かに守られている時間があった。

 

泣いていた子どもたちが笑って、怯えていた子どもたちが眠りにつける。

 

それだけでも、きっと意味はある。

 

そして今夜もまた、結絆が守った“帰れる場所”の中で、上条当麻と食蜂操祈は、子どもたちの不安を少しずつほどいていくのだった。




食蜂操祈がボランティア活動をやっているという設定を用いています。
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