食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回も、当麻と操祈がメインです。


当麻と操祈と子どもたち

 翌朝のマジックシアターは、前夜の緊張感が少しだけ和らいだ、穏やかな賑わいに包まれていた。

 

地下区画の避難スペースでは、炊き出しのいい匂いが漂い、あちこちで子どもたちの笑い声が響いている。

 

昨夜は不安で泣いていた子もいたが、結絆たちの手厚い支援と慣れた顔である当麻と操祈がそばにいてくれたことで、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

 

そして今朝もまた、二人は自然と子どもたちの輪の中心にいた。

 

「とうまお兄ちゃん、見て見てー!」

 

小さな男の子が、紙で折った少しいびつな紙飛行機を得意げに掲げる。

 

「おっ、昨日よりうまくなってるじゃないか」

 

「えへへ!とうまお兄ちゃんが教えてくれたから!」

 

「よし、それじゃ次はもっと遠くまで飛ぶやつ作るか」

 

当麻が床にしゃがみ込みながらそう言うと、周りにいた男の子たちも一斉に集まってきた。

 

「ぼくもやる!」

 

「わたしもー!」

 

「とうまお兄ちゃん、こっちも見てー!」

 

そんな和やかな時間が流れる中、ふいに一人の小さな女の子が、とてとてと当麻のもとへ駆け寄ってきた。

 

「とうまお兄ちゃん!」

 

「ん?どうした?」

 

当麻が振り向いてしゃがみ込むと、その女の子はにぱっと無邪気な笑顔を浮かべて、何のてらいもなく言った。

 

「わたしね、とうまお兄ちゃんのことがだーいすき!」

 

「ぶっ!?」

 

あまりにも真っ直ぐな一言に、当麻は思わず変な声を漏らした。

 

周囲にいた子どもたちが一斉に「おおーっ!」と面白がる声を上げる。

 

「告白だー!」

 

「とうまお兄ちゃん、モテモテー!」

 

「すごーい!」

 

「いやいやいや、ちょっと待てお前ら、そういうのじゃなくてだな」

 

慌てる当麻の横で、ぴくり、と操祈のこめかみがわずかに動いた。

 

次の瞬間、操祈は笑顔のまま、すうっと当麻のすぐ隣へ歩み寄る。

 

「......あらあらぁ?」

 

その声色はいつも通り甘く柔らかい。

 

だが、その裏には嫉妬心が含まれていることに当麻は気付いていた。

 

「操祈!?」

 

操祈は小さな女の子の前にしゃがみ込み、その子の目線に合わせながら、にっこりと微笑んだ。

 

「あなたは、当麻のことが大好きなのねぇ?」

 

「うん!やさしいし、いっぱいあそんでくれるもん!」

 

「そうよねぇ。当麻は優しいものねぇ」

 

操祈は一度うんうんと頷き、そこでふわりと笑みを深める。

 

「でもぉ、当麻は私の彼氏だから、誰にも渡さないわよぉ」

 

「「「おおおおおーっ!!」」」

 

周囲の子どもたちが一斉に大歓声を上げた。

 

「操祈お姉さま、やきもちー!」

 

「ラブラブだー!」

 

「とうまお兄ちゃん、あいされてるー!」

 

「お、おいおいおい!? お前ら面白がりすぎだろ!?」

 

当麻は顔を真っ赤にしながら慌てるが、操祈はそんな彼を横目に見て、ほんの少しだけ頬を膨らませる。

 

「だってぇ......事実だもの。こういうのは、ちゃんと主張しておかないとダメよねぇ?」

 

「主張ってお前......相手は小さな子どもだぞ?」

 

「子どもだからって油断してると危ないのよぉ?小さい頃の『大好き』が、そのまま将来の本気になることだってあるんだからぁ」

 

「どんな心配してんだよ!?」

 

当麻が思わず突っ込むと、子どもたちはさらにきゃっきゃと笑い転げる。

 

「とうまお兄ちゃん、あわててるー!」

 

「操祈お姉さま、ほんとに好きなんだー!」

 

「ラブラブ!ラブラブ!」

 

そのラブラブコールは、気づけば周囲の子どもたちにも伝染し始めていた。

 

「ラブラブー!」

 

「ラブラブー!」

 

「とうまお兄ちゃんと操祈お姉さま、らぶらぶー!」

 

「や、やめろお前ら! なんだこの公開処刑みたいな空気は!?」

 

顔を真っ赤にした当麻が頭を抱える一方で、操祈は最初こそ少し拗ねたような顔をしていたものの、子どもたちにからかわれているうちに、逆に少し照れてしまったのか、頬に薄く朱を差していた。

 

「......も、もう。そんなに連呼しなくてもいいのよぉ」

 

「操祈お姉さま、てれてるー!」

 

「かわいー!」

 

「~~っ......!」

 

珍しく本気で照れた操祈が、言葉を詰まらせる。

 

その姿を見た当麻は、一瞬きょとんとした後、ふっと優しい顔になった。

 

目の前で、嫉妬してくれる。

 

しかも相手が幼い子どもだというのに、本気で「渡さない」と言ってしまう。

 

そんな操祈が、どうしようもなく愛おしかった。

 

「......ったく」

 

「え?」

 

操祈が顔を上げる。

 

当麻は苦笑しながら、けれどはっきりとした声で言った。

 

「そんな心配しなくても、俺は操祈一筋だから」

 

「~~~~~っ!?」

 

その言葉に、操祈の瞳が大きく見開かれる。

 

子どもたちも「おおっ......!」と息を呑んだ。

 

そして次の瞬間、当麻は操祈の肩をそっと引き寄せると、そのまま彼女の唇へ軽くキスを落とした。

 

「............っ!?」

 

操祈の体がぴたりと固まる。

 

一秒にも満たない、短くて優しい口づけ。

 

しかし、それは十分すぎるほどの破壊力を持っていた。

 

「「「きゃあああああああああっ!!」」」

 

子どもたちの歓声が、地下区画に響き渡る。

 

「キスしたー!!」

 

「ほんとにラブラブだー!!」

 

「すごーい!すごーい!!」

 

「とうまお兄ちゃん、かっこいいー!」

 

「操祈お姉さま、顔まっかー!」

 

「やっ、やめろっ、めちゃくちゃ恥ずかしいんだぞ!!」

 

当麻は自分も真っ赤になりながら叫ぶが、もう遅い。

 

一方の操祈はというと。

 

「と、当麻ぁ......」

 

ぽーっとした顔で、自分の唇にそっと指先を当てていた。

 

「......ずるいのよぉ、そういうの......」

 

か細い声でそう呟いたかと思うと、次の瞬間にはふにゃりと幸せそうに笑う。

 

「許してあげるわぁ♪」

 

「さっきまで嫉妬してたのに切り替え早すぎるだろ......」

 

「だってぇ、こんなの見せられたら機嫌なんて一瞬で直るに決まってるじゃなぁい」

 

操祈はそう言って、今度は自分から当麻の腕にぎゅっと抱きついた。

 

「今日はずーっとこうしてるからぁ。文句ないでしょう?」

 

「......嬉しいけど、なんか疲れるんだよなあ」

 

呆れたように返しながらも、当麻の声はどこか優しかった。

 

その様子を見た子どもたちは、さらに大盛り上がり。

 

「ほんとにラブラブー!」

 

「いいなー!」

 

「わたしも大きくなったら、とうまお兄ちゃんみたいな人と結婚するー!」

 

「おい、変にハードル上げるなって!?」

 

「じゃあわたしは操祈お姉さまみたいになるー!」

 

「かわいくてつよくて、おしゃれ!」

 

「ふふっ、いい心がけよぉ♪」

 

笑い声が広がる。

 

二人と会う前は不安で泣きそうだった子どもたちが、今はこんなふうに無邪気にはしゃいでいる。

 

その光景を見て、当麻は心の中でそっと思う。

 

こんな時間があるなら、まだ大丈夫だ。

 

外の街はまだ傷ついている。

 

けれども、ここには確かに笑顔がある。

 

結絆が守ったこの場所で、今日もまた、誰かの不安が少しずつほどけていく。

 

そしてその中心で、上条当麻と食蜂操祈は、子どもたちに囲まれながら、少しだけ照れくさく、それでも幸せそうに寄り添っていた。

 

 

 

 マジックシアターの地下の孤児院児童用区画は、賑やかな笑い声に包まれていた。

 

特に今は、先ほどの“公開ラブラブ事件”の余韻がまだ残っており、子どもたちは当麻と操祈を囲んで、きゃっきゃとはしゃぎ続けていた。

 

「とうまお兄ちゃん、みさきお姉ちゃんにもう一回ちゅーして!」

 

「操祈お姉さま、顔まっかだったー!」

 

「ラブラブ!ラブラブー!」

 

「おいおいおい、もう勘弁してくれって......!」

 

当麻は真っ赤になりながら頭を抱える。

 

その隣で操祈は、最初こそ照れていたものの、今では完全に立ち直っていた。

 

「ふふーん♪いいじゃなぁい、事実なんだからぁ」

 

むしろ上機嫌そのものだ。

 

当麻の腕にぴったりと抱きついたまま、どこか得意げに胸を張っている。

 

「お前な......」

 

「だってぇ、当麻があんなこと言って、しかもみんなの前でキスまでしてくれたのよぉ♪今日くらいは自慢したっていいでしょぉ?」

 

「自慢って......」

 

当麻が呆れ半分でため息をついた、その時だった。

 

「やあやあ、なんだかすっごく甘い空気が漂ってるねえ」

 

聞き慣れた声と共に、区画の入り口から結絆の分身体がひょいと顔を出した。

 

その隣には、穏やかな笑みを浮かべた帆風の姿もある。

 

「あらぁ?お兄様に潤子ちゃんじゃない!」

 

操祈が表情を明るくする。

 

「子どもたちの様子を見に来たんだけどお......どうやら心配はいらなかったみたいだねえ」

 

結絆はにやにやとした笑みを浮かべながら、当麻と操祈の様子を見比べた。

 

操祈は当麻の腕に抱きつき、当麻は赤面しながらも満更でもなさそうにしている。

 

さらにその周囲では、子どもたちが「ラブラブー!」とはしゃいでいる。

 

状況は、誰が見ても一目瞭然だった。

 

「......お前、わざとこのタイミングで来ただろ」

 

当麻がじとっとした目を向けると、結絆は楽しそうに肩をすくめる。

 

「いやあ、まさかここまで堂々とイチャイチャしてるとは思わなかったけどねえ」

 

「イチャイチャって言うな!」

 

「でも事実よねぇ?」

 

操祈がしれっと追撃する。

 

「操祈、お前まで乗らないでくれ!?」

 

そんなやり取りに、子どもたちはまたもや大喜びだ。

 

「結絆お兄ちゃんもラブラブするのー?」

 

「潤子お姉ちゃんと仲良しー?」

 

「見たい見たいー!」

 

「おやおや、これは煽られてるのかなあ?」

 

結絆がそう言って、ちらりと隣の帆風を見る。

 

帆風は少し驚いたように瞬きをした後、すぐに頬をほんのり染めて微笑んだ。

 

「ふふ......結絆さんがお望みなら、私はいつでも」

 

「さすが潤子、話がわかるねえ」

 

そう言った次の瞬間、結絆はごく自然な動作で帆風の肩を抱き寄せ、そのままふわりと優しく抱きしめた。

 

「わぁぁぁぁっ!」

 

「ほんとにしたー!」

 

「こっちもラブラブー!!」

 

子どもたちの歓声が一段と大きくなる。

 

帆風は少し恥ずかしそうにしながらも、抵抗するどころか結絆の胸元にそっと身を預け、幸せそうに目を細めた。

 

「結絆さんとこうしていると、幸せな気持ちになります」

 

「俺も幸せだよお。それに、当麻たちだけにいい格好はさせられないからねえ」

 

「張り合うところがおかしいだろ......」

 

当麻が呆れたように突っ込むと、操祈はくすくす笑いながら結絆たちを見つめた。

 

「お兄様と潤子ちゃんは、とってもお似合いなのよねぇ」

 

「ありがとう、操祈。そっちもなかなか破壊力あったみたいだけどねえ」

 

「やめろぉぉぉ......」

 

当麻だけが一人で頭を抱えているのを見て、子どもたちはまたけらけらと笑った。

 

そんな和やかな空気の中、結絆の分身体はふと壁際の時計に目をやる。

 

そして、子どもたちに向き直ると、いつもの柔らかな声で言った。

 

「はいはーい、皆。楽しいところ悪いけど、そろそろお別れの時間だよお」

 

「えーっ!?」

 

子どもたちから一斉に不満げな声が上がる。

 

「もうちょっととうまお兄ちゃんと遊びたいー!」

 

「操祈お姉さまとおしゃべりしたいー!」

 

「気持ちは分かるけどねえ、今日は特別イベントがあるでしょお?」

 

結絆がにこっと笑って指を立てる。

 

「マジックシアター内のプラネタリウムを見に行く準備をしようねえ。昼間でもすっごく綺麗な星空が見られるよお」

 

「プラネタリウム!」

 

「お星さま!?」

 

「行きたいー!」

 

一瞬で子どもたちの目が輝く。

 

だが、それでも当麻や操祈から離れるのは名残惜しいのか、何人かはしゅんとした表情のままだった。

 

すると、一人の女の子が「そうだ」と言って、小さな袋を抱えて前に出てきた。

 

「とうまお兄ちゃん、操祈お姉さま......これ、みんなで作ったの」

 

「ん?」

 

差し出されたのは、一枚の大きな色紙だった。

 

周囲には折り紙の花や星が貼られ、中央には子どもたちの拙いけれど一生懸命な文字が並んでいる。

 

『とうまおにいちゃん ありがとう』

 

『みさきおねえさま だいすき』

 

『またあそんでね』

 

『いっしょにいてくれてこわくなくなった』

 

「......っ」

 

当麻が息を呑む。

 

操祈も、いつもの余裕を少しだけ失ったように目を見開いていた。

 

「さっきね、みんなで書いたの」

 

「ありがとうって言いたくて」

 

「また来てね!」

 

次々に重なる声に、当麻は思わず色紙を両手でしっかり受け取った。

 

「......お前ら、こんなの......反則だろ」

 

少し掠れた声でそう言いながら、当麻は照れ隠しのように笑う。

 

操祈も、そっと色紙に指先を触れ、柔らかく微笑んだ。

 

「......ありがとう。とっても嬉しいわぁ」

 

「宝物にしてね!」

 

「ありがとー!」

 

「また会いに来てねー!」

 

子どもたちの言葉に、二人は何度も頷く。

 

「よーし、名残惜しいけど、それじゃあ移動するよお」

 

結絆の分身体が手を叩くと、子どもたちは「はーい!」と元気よく返事をし、スタッフや引率の大人たちに導かれながら列を作り始めた。

 

去り際、小さな女の子が振り返って大きく手を振る。

 

「とうまお兄ちゃん!操祈お姉さま!またねー!」

 

「おう、またな!」

 

「ええ、楽しんできなさぁい♪」

 

子どもたちは何度も振り返りながら、きらきらとした期待に満ちた顔でプラネタリウムへ向かっていった。

 

その後ろ姿を見送った後、しばらくその場に静けさが戻る。

 

「......なんか、急に静かになったな」

 

当麻がぽつりと呟くと、操祈は色紙を胸に抱きしめるように持ちながら、小さく頷いた。

 

「そうねぇ......でも、この静けさが、少しだけ心地いいわぁ」

 

結絆はそんな二人を見て、優しく微笑む。

 

「その色紙、部屋でゆっくり読んだ方がいいかもねえ。たぶん、もっと泣けるよお」

 

「泣かねえよ!」

 

「当麻は、多分泣くわよぉ」

 

「操祈まで!?」

 

からかうようなやり取りに、帆風がくすりと上品に笑った。

 

「ふふ......お二人とも、ゆっくり休んでくださいね」

 

そうして結絆たちと別れた後、当麻と操祈はマジックシアター内に用意されている自分たちの部屋へ戻った。

 

静かな部屋の中、二人はソファに並んで腰を下ろし、改めて色紙を見る。

 

そこには、一人一人の小さな手で書かれた感謝の言葉や、似顔絵や、拙いハートマークがぎっしりと詰まっていた。

 

「......本当に、みんな頑張って書いたんだな」

 

当麻がしみじみと呟く。

 

「ええ......こんなの、嬉しくないわけないじゃなぁい」

 

操祈は少し潤んだ瞳で笑いながら、当麻の肩にもたれかかった。

 

しばらく二人で静かに眺めた後、当麻は立ち上がり、壁の見やすい場所を見つける。

 

「ここに飾るか」

 

「いいわねぇ。毎日見られるもの」

 

二人は一緒に色紙を丁寧に飾った。

 

壁に飾られたそれは、ただの紙ではない。

 

不安な夜を一緒に越えた証であり、子どもたちとの確かな絆そのものだった。

 

それを見上げながら、操祈はそっと微笑む。

 

「......また、あの子たちに会いに行きましょう」

 

「ああ、もちろんだ」

 

当麻も優しく頷く。

 

外の街はまだ復興の途中。

 

けれど、このマジックシアターの中では今日もまた、人と人との繋がりが、確かな温もりとして積み重なっていくのだった。




次回からは、展開が変わります。
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