学園都市の夏も本格的に暑さを増してきた頃、結絆は一通の招待状を手にしていた。
「へぇ、常盤台の女子寮で"盛夏祭"ねえ......今年も凄そうだねえ。」
妹の派閥メンバーの一人から送られてきたその招待状には、常盤台中学の女子寮で行われる特別な祭りへの招待が記されていた。
「私も当麻の案内をしたり出し物の準備があるからぁ、案内は潤子ちゃんに頼むわねぇ♪」
そう言い残して、操祈は先に寮へ向かった。
そして約束の時間になり、結絆の前に現れたのは——
「......お待たせしました!女王のお兄......いえ、結絆さん。」
純白のフリルがあしらわれたメイド服に身を包んだ帆風潤子だった。
「お、おお......!」
思わず言葉を失う結絆。
普段の凛々しい姿とは一転、清楚かつ優雅な雰囲気を纏った帆風の姿は、普段とのギャップも相まって目を奪われるものだった。
「な、何か変でしょうか......?」
「いやいや、めちゃくちゃ似合ってるよお。ていうか、こんな姿、滅多に見れないんじゃないかい?」
「そ、それは......まあ、確かに......。」
頬を染める帆風を横目に、結絆は小さく笑った。
「じゃあ、早速案内してもらおうかなあ?」
「ええ、お任せください。」
そうして、結絆は帆風に案内されながら、常盤台中学女子寮の盛夏祭へと足を踏み入れるのだった——。
結絆と帆風は、常盤台中学女子寮の門をくぐった。
「いやあ、女子寮の中に入るのは久々だねえ。なかなか貴重な体験だよお。」
結絆は周囲を見渡しながら感心したように言った。
一応補足しておくと、盛夏祭以外でも、結絆は度々女子寮に入っているが、別にやましいことをしているわけではない。
常盤台中学は、学園都市屈指のお嬢様学校というだけあって、寮の敷地内は手入れが行き届いており、祭りの装飾も華やかだった。
「そう言っていただけると嬉しいです。では、案内いたしますね。」
帆風は丁寧に一礼し、メイド服の裾を持ち上げながら歩き出す。
その姿に、結絆はくすりと笑った。
「うーん、やっぱり似合ってるねえ。メイド服を着た帆風ってのもなかなか新鮮だよお。」
「そ、そうでしょうか......?」
帆風は少し頬を染めながらも、嬉しそうに微笑んだ。
寮の庭には多くの屋台が並び、生徒たちがそれぞれのブースを運営していた。
かき氷、手作りアクセサリー、洋菓子、射的ゲームなど、さまざまな催しがあり、どれも品の良いものばかりだった。
「おお、さすがお嬢様学校の祭りなだけあって、クオリティが高いねえ。」
「私たちは普段から礼儀作法や文化的な教養を学んでいますから、お祭りの場でもその成果を発揮するんです。」
帆風が胸を張って説明する中、突然、二人の前に一人の少女が現れた。
「おっ、お前は兄の方の食蜂か~。いつも兄貴が世話になってるな~」
短めの黒髪を綺麗にまとめ、本格的なメイド服に身を包んだ少女――土御門舞夏が、興味深げに二人を見つめていた。
「ん? 君は......確か元春の妹さんだよねえ?料理を振舞っているところを見たことがあるよお。」
「お、覚えてくれてたか。そうそう、土御門舞夏だ。盛夏祭の期間中はここの寮で調理担当と作法の指導をやってるんだぞ~。」
舞夏はにっと笑い、結絆に軽く手を振った。
「いやあ、学園都市も狭いもんだねえ。こんなところで会うとは思わなかったよお。」
「ま、兄貴と違っていろんな学校に研修に行ってるからな~。二人とも、今日は純粋に祭りを楽しんでほしいぞ~。」
「それはありがたいねえ。」
「それにしても、お前さんたち、なかなかいい雰囲気に見えるな~?」
舞夏はにやりと笑い、帆風のメイド服姿をじろじろと見つめた。
「いやいや、これはたまたまこういうイベントだからであって......!」
帆風が慌てて弁解しようとするが、結絆は余裕の笑みを浮かべながら帆風の手を握る。
帆風は顔が真っ赤になる。
「ふふ、まあ、せっかくの祭りなんだから全力で楽しむつもりだよお。」
「そうだな、存分に楽しんでいくんだぞ~!」
舞夏は笑いながら手を振り、調理の手伝いに戻っていった。
「......あの、私たち、本当にそういう風に見えるのでしょうか?」
舞夏が去った後、帆風が少し不安そうに尋ねる。
「さあ、どうだろうねえ?」
結絆は意味ありげに微笑みながら、祭りの屋台へと足を向けた。
その後、少しの間祭りの屋台を楽しんだ結絆達は、寮内の展示を見に行くために移動していた。
「結絆さん、どこか見に行きたいところはあったりしますか?」
「そうだねえ、確かシュガークラフトの展示をやってたよねえ。それを見に行きたいなあ。」
「はい!案内しますね。」
そして、結絆達はシュガークラフトのブースに移動した。
「おお!これは全部砂糖でできているんだねえ、やっぱり常盤台には器用な子が沢山いるんだねえ。」
結絆は、クオリティーの高いシュガークラフトの作品を興味深そうに見つめる。
すると、それを見ていた操祈の派閥のメンバーの一人が結絆達に声をかけてきた。
「結絆様に帆風さん、今日も仲がよさそうですね!」
「そうだねえ、盛夏祭も帆風に案内してもらっているよお」
「そういえば結絆様、帆風さんもシュガークラフトを作られていたんですよ!」
「ちょっと待ってください!結絆さんには内緒って言ってたじゃないですか......」
帆風がこれまでにないほどにテンパる。
結絆は不思議に思って、そのわけを聞く。
「帆風さんは、この前鼻歌を歌いながらシュガークラフトを作っていたんですよ♪展示したくないそうですが、捨てずに残してあるので今持ってきますね!」
「ああ!本当にダメです~」
少しして、派閥のメンバーの少女が一つの作品を持って戻ってきた。
「ほお、これはうまくできているねえ、飾らないのはもったいないよお。」
少女の手の中には、手をつなぐ結絆と帆風の形をしたシュガークラフトがあった。
帆風は、赤くなった顔を両手で覆いながらもじもじしている。
「帆風、素晴らしい作品を作ってくれてありがとう。その作品は盛夏祭が終わった後は、マジックシアターの控室に大切に飾ることにするよお。」
「うぅ......わかりました......」
「お二人は本当に仲がいいですね!この後も盛夏祭を楽しんでくださいね!」
派閥のメンバーの少女は、そう言って結絆達を見送る。
その後、他のブースも見ていると、結絆達はお腹が空いてきたので食事をとることにした。
「はあ、さっきはかなり取り乱しちゃいました......」
帆風は、バイキングで皿の上に食べ物を乗せながらそう呟いた。
「あの作品は凄く良いと思ったんだけどねえ。まあ、テンパる帆風を見れて面白かったよお。」
結絆は、微笑みながらケーキを大量にとる。
「帆風達とはこれからもずっと一緒にいたいねえ......」
結絆達が食事をとっていると、近くのテーブルに美琴達がいることに気付いた。
結絆達は、声をかけに行くことにする。
「美琴と初春と佐天か、君達も盛夏祭を満喫してそうだねえ。」
「結絆、アンタも来てたのね。」
美琴は、少し緊張しながら話す。
「そうそう、昼からの出し物、楽しみにしてるよお」
「ちょっと!あまりプレッシャーかけないでよ」
「女王も楽しみにしているみたいなので、皆で見に行きますね。」
帆風の純粋な言葉が美琴の体に突き刺さる。
「ええっ、御坂さんは昼から何かするんですか!?」
佐天が結絆に尋ねる。
「まだ聞いてなかったのかい?でも、サプライズなら俺から言うのはやめておこうかなあ」
そして、その時はやってきた。
常盤台中学女子寮の広場には特設ステージが設けられ、多くの生徒や招待客が演奏の時を待ちわびていた。
昼間なので暑さは感じるものの、涼しい風が夏の熱気を少し和らげている。
結絆は帆風、操祈、当麻、そして操祈の派閥メンバーたちと共に、ステージ近くの席に座っていた。
目の前では、御坂美琴がバイオリンを手に取り、深呼吸をしている。
「御坂さん、バイオリンなんて弾けるのねぇ。教養力が高いわねぇ......」
操祈が驚き混じりに呟く。
「御坂さん、バイオリンが似合ってますね......。」
帆風も感心した様子で舞台を見つめる。
結絆は腕を組みながら微笑んだ。
「前々から思ってたけど努力ができる子は、何をやってもこなせるものだねえ。」
静寂が広場を包み、美琴がゆっくりとバイオリンの弓を動かし始めた。
柔らかくも力強い音色が広場に響き渡る。
曲はクラシックの有名な一曲だったが、美琴の演奏には独自の情熱と個性が込められていた。
音が紡ぐ旋律は、聞く者の心を優しく包み込むようで、観客たちは自然と息を呑んで聴き入っていた。
結絆も目を細めながら、音の流れに身を任せる。
「......すごい。」
帆風がぽつりと呟く。
その目は、美琴の指の動きと表情に釘付けになっていた。
いつもは活発で直感的な印象の強い彼女が、こんなにも繊細で美しい演奏を奏でるとは、誰もが思っていなかったのだ。
「御坂さんったら、案外ロマンチストなのかもねぇ。」
操祈が小さく微笑む。
演奏はクライマックスを向かえ、美琴の指はさらに滑らかに動き、そして、最後の一音が広場に響き渡った。
一瞬の静寂。
そして、大きな拍手と歓声が巻き起こった。
「すっごい、御坂さん!」
「まさかこんなに上手いなんて!」
観客たちの賞賛の声が飛び交う中、美琴は少し恥ずかしそうに頭をかきながら一礼した。
その顔には、演奏をやり遂げた満足感が滲んでいた。
「演奏、楽しませてもらったよお、なかなかやるじゃないかあ。」
結絆は拍手をしながら微笑んだ。
「ですね。お見事でした。」
帆風も頷く。
操祈はくすっと笑いながら、「御坂さぁん、今度私たちの前でも演奏してくれないかしらぁ?」と茶化すように言った。
美琴はそれを聞いて顔を赤らめ、「や、やめてよ!こんなに大勢の前じゃなくても、恥ずかしいのに!」と慌てて否定した。
しかし、その表情はどこか嬉しそうでもあった。
こうして、結絆達は盛夏祭を満喫したのだった。
今回は結絆達をメインにした話になりました。
次回は当麻達をメインにした話になります。