常盤台中学女子寮の盛夏祭——それは、普段は外部の人間が立ち入ることのできない学園の中枢を、限られた招待客だけが体験できる特別な日だった。
食蜂操祈は優雅に髪をかき上げながら、待ち合わせの場所へと向かっていた。
そこには、少し居心地が悪そうにしている一人の少年が立っている。
「やっほぉ♪待たせちゃったかしらぁ?」
「いや、今来たところだぞ......ってか、俺ってめっちゃ場違いじゃないか?」
上条当麻が怪訝そうに辺りを見回す。
周囲には華やかに飾り付けられた屋台が並び、常盤台の生徒たちが優雅に立ち振る舞っていたが、明らかに男性の姿はほとんどない。
「ふふん、そりゃあ、私の大切な彼氏なんだしぃ、全然場違いじゃないわよぉ」
操祈は得意げに微笑むと、当麻の腕に軽く手を添えた。
「さぁて、それじゃあ早速案内してあげるわねぇ♪ 常盤台中学の誇る盛夏祭ツアー、スペシャルガイド付きよぉ?」
「......いや、なんか、めっちゃ視線を感じるんだけど......?」
当麻は少し気まずそうに辺りを見渡した。
案の定、周囲の生徒たちは興味津々といった様子でこちらを見ていた。
中には、操祈に何か言いたげな視線を送る派閥のメンバーもいる。
「まぁ、男の子が女子寮に入ってるんだもの、珍しいのは仕方ないわよねぇ。でも気にしないでいいのよぉ?」
「いや、流石に無理があるだろ......」
結絆が、時々女子寮に出入りしているという事実を当麻はまだ知らない。
苦笑する当麻をよそに、操祈は彼の腕を引いて歩き出した。
「まずはこの屋台ねぇ♪ 常盤台の生徒が腕を振るって作ったお菓子や軽食が並んでるの。もちろん、私の派閥の子たちも協力してるのよぉ?」
指をさした先には、上品な盛り付けが施されたスイーツや、華やかにデコレーションされたフルーツジュースが並んでいた。
「おっ、これ結構うまそうだな......」
「当然でしょぉ? 常盤台の名にかけて、クオリティにはこだわってるんだからぁ」
そんな風に楽しげに巡っていると、ふと前方から一人の少女が歩いてくるのが見えた。
「ん? あれって......」
「上条当麻だ~。横にいるのは......む......、妹の方の食蜂か~、」
メイド服に身を包んだ少女——土御門舞夏がこちらを見つけ、軽く手を上げた。
「なによぉ、ていうか舞夏ちゃんも来てたのねぇ?」
「んー、手伝いがあるからな~。調理場の様子を見に移動してたんだけどな~......そっちはデートか~?」
「えっ、いや、これは......!」
当麻が慌てているのを尻目に、操祈は余裕の笑みを浮かべた。
「さぁ、どうかしらぁ?」
「ははっ、まあいいか。せっかくだし楽しんでいくんだぞ~」
そう言い残し、舞夏は軽やかに去っていく。
「......なぁ、今の完全に誤解されたよな?」
「ふふん、別に否定する理由もないんじゃなぁい?」
そんな冗談めかしたやり取りをしながら、操祈は当麻を連れてさらに祭りの奥へと進んでいくのだった。
食蜂操祈は学園都市でも屈指の名門校・常盤台中学の女子寮で行われる盛夏祭を楽しんでいた。
もちろん、ただの参加者ではなく、彼女はこの祭りの重要な一員であり、派閥のメンバーたちと共に各ブースの準備にも関わっていた。
「ねぇん、せっかくだから、もっと常盤台らしいところを案内してあげるわよぉ♪」
操祈は当麻の腕を軽く引きながら、寮の奥にある一角へと導いた。
そこにあったのは、茶道部と華道部のブースである。
普段は格式高い生徒たちが集うこれらの部活も、盛夏祭では一般客向けに開放されていた。
「へぇ、なんかすごい雰囲気だな」
当麻は畳敷きの茶道部の一室を見渡した。
部員たちは涼しげな着物姿で、来客に丁寧にお茶を振る舞っている。
「常盤台の茶道部はねぇ、お茶だけじゃなくて、お点前の所作とかもすっごく本格的なのよぉ♪ どう? 当麻も試してみるぅ?」
「俺が? いやいや、こういうのはなんか緊張するというか......」
「大丈夫よぉ、みんな優しく教えてくれるから♪」
結局、操祈に押される形で、当麻は正座し、お茶をいただくことになった。
部員の一人が見事な手さばきで茶を点て、静かに差し出した。
「ほぉ、すげぇ......じゃあ、いただきます」
当麻は慎重に湯呑を持ち上げ、一口含む。
「おお、これ、なんか落ち着く味がするな......」
「ふふん♪ でしょう? せっかくの機会なんだから、少しは文化的な時間を楽しんでいきなさぁい♪」
操祈は満足げに微笑んだ。
その後、彼女は当麻を華道部のブースへと連れて行った。
ここでは、訪れた人が実際に花を生ける体験ができるようになっていた。
「華道ってのも奥が深いんだろうな......」
「そうよぉ♪ ただ花を飾るだけじゃなくてねぇ、全体のバランスとか意味合いとかも考えなきゃいけないのよぉ」
操祈が手本を示しながら、優雅に花を生ける。
当麻も見よう見まねで試みるが、どうにも形が整わない。
「うーん、これでいいのか?」
「ふふっ......すっごく独創的な生け花になってるわねぇ♪ でも、当麻らしくていいんじゃなぁい?」
操祈はクスクス笑いながら、当麻の作品を眺めた。
彼も照れながら苦笑しつつ、操祈とのやり取りを楽しんでいた。
こうして、二人は常盤台の格式高い文化を堪能しながら、特別なひとときを過ごしていくのだった——。
今回は、当麻達の視点で書いてみました。
盛夏祭の話は今回でおしまいです。
次回は、結絆がこの前連れて変えったトラの話を書こうと思います。