結絆がいるので、原作から流れが変わります。
統括理事長からの任務
学園都市第七学区に存在する窓のないビル。
都市の管理を一手に担う存在であるアレイスター=クロウリーは、巨大な生命維持装置の中で静かに浮かんでいた。
「食蜂結絆――君に任せたい仕事がある」
結絆は、アレイスターの透き通るような声を聞きながら、ふわりと微笑んだ。
「俺に直々にお仕事の依頼なんて、珍しいねえ。何をすればいいのか教えてくれるかい?」
宙に浮かぶアレイスターは、その問いに答える前に、モニターに映像を映し出す。
そこに映し出されたのは、とある進学塾の風景だった。
「これは......三沢塾かい?」
「そうだ。表向きは進学塾だが、裏では魔術的な実験が行われている可能性がある。すでに魔術サイドから騎士団が派遣されているようだが全滅したらしい。そこで君と上条当麻に三沢塾の様子を見てきてもらいたい。」
「魔術サイドの問題に、俺や当麻が突っ込んでも問題ないのかい?」
「今回は、あくまで偵察という体で話を進めているから問題ない。」
結絆は軽く肩をすくめる。
アレイスターは危機的状況であっても、それを当麻の成長のダシにするので、食えない男だなあと内心考える。
「それで当麻と一緒ってことかい。まあ、悪くはないねえ。あいつなら派手に暴れてくれそうだからねえ」
「ただし、繰り返すが、今回はあくまで『偵察』だ。危険があれば撤退しても良い。」
「わかってるよお。でも......どうしても深入りしなきゃいけなくなったら?」
アレイスターは一瞬沈黙したが、すぐに冷淡に言い放った。
「その時は、適宜判断せよ。君は私の意図を理解できるはずだ」
「フフ......あなたは本当に俺のことを買ってくれてるんだねえ」
結絆は軽く笑いながらも、その瞳は鋭く光っていた。
こうして、結絆は上条当麻とともに三沢塾の偵察に向かうこととなる。
「んー......混んでるねえ」
夕暮れ時ののファストフード店。
三沢塾に向かう前に、結絆と当麻はファストフード店に食事を取りに来ていた。
結絆と当麻は、店の入口で人の多さに顔をしかめる。
「マジかよ、混んでそうな時間ではあるけど、ほぼ満席じゃねえか......」
当麻が店内を見渡すが、空席は見当たらない。
仕方なく、結絆はカウンターで注文を済ませた後、トレーを持って辺りを見回した。
「おや? あそこ、座れそうじゃないかい?」
結絆が指差したのは、窓際の四人掛けのテーブル。
ただし、すでに一人の少女が座っていた。
黒髪のロングヘアに、ぼんやりとした表情。
なぜか巫女服を着ているその少女は、テーブルの上に大量のハンバーガーを積み上げ、深刻そうにうなだれていた。
「......どうしよう」
かすれた声が聞こえた。
「ん? なんかあの子、すごい量頼んでないか......?」
当麻が目を丸くする。結絆も思わず苦笑した。
「おーい、ちょっといいかなあ?」
結絆が声をかけると、少女――姫神秋沙は顔を上げた。
「......?」
「悪いんだけどお、ここ、相席させてもらっていいかい?」
姫神は数秒ほど結絆を見つめた後、こくりと小さく頷いた。
「......いいよ」
「サンキュー」
結絆と当麻は向かいの席に腰を下ろした。
そして、改めて姫神の前に積まれたハンバーガーの山を見て、当麻が絶句する。
「......いや、多すぎだろ」
「......無料券。たくさんもらえたから、つい」
「それにしても限度ってもんがあると思うんだけどねえ?一人で全部食べ切るつもりかい?」
結絆が苦笑すると、姫神はさらに肩を落とした。
「......食べ切れる気がしない。頼みすぎた。後悔」
「まあまあ、そんな落ち込まなくても」
結絆は軽く笑いながら、ハンバーガーを一つ取る。
「よかったら、俺たちも手伝おうかあ?」
「え?」
姫神が目を瞬かせる。
「おい、いいのかよ?」
「困ってる人がいたら、助けるのが紳士ってものだよねえ?」
「......いや、お前、ハンバーガー食べたいだけだろ」
「......ふふっ」
姫神がくすっと笑った。
さっきまでの沈んだ表情が、少し和らぐ。
「じゃあ、遠慮なく......いただきまーす!」
当麻が早速手を伸ばし、三人の食事会が始まるのだった――。
「うーん、なかなかいいねえ」
結絆は手際よくハンバーガーの包装を剥がし、次々と口に運んでいた。
「......本当に、よく食べるね」
姫神がじっと結絆を見つめながら、小さく呟いた。
「まあねえ、俺の能力があればこれくらい余裕だよお」
「能力......?」
「俺の能力である自己制御(セルフマスター)は、体の状態を自由に調整できるんだよお。消化器官を強化してるから、どれだけ食べても平気ってわけだねえ」
「......なるほど」
姫神は感心したように頷いたが、向かいの当麻はというと――。
「......もう無理......」
テーブルに突っ伏していた。
「おやおやあ?まだ3個しか食べてないじゃないかあ」
「3個で十分だろ!? 普通の人間の胃袋ならな!」
当麻は苦しそうに腹をさすりながら、ため息をついた。
「お前、よくそんなに食えるよな......。つーか、姫神も大丈夫なのか?」
「......わたしは、ゆっくり食べるから。問題ない」
姫神は淡々と答えながら、ハンバーガーを一口かじった。
結絆はそんな二人を横目に、さらにもう一つハンバーガーを開封する。
「よし、まだまだいくよお!」
「お前ほんとに人間か?」
「まだ人間は辞めていないよお。そうだ、当麻も自己制御を試してみるかい?」
「やめろ、何かの間違いで変なことになりそうだ......」
当麻がげんなりした表情で首を振る中、結絆は相変わらずハンバーガーを食べ続けていた。
「ふう......完食、っとお」
結絆は最後のハンバーガーを飲み込み、満足げに胸を叩いた。
「まさか、全部食べきれるとはな......」
当麻は呆れながら、テーブルの上に積まれていた包み紙の山を見つめる。
結絆の圧倒的な食欲のおかげで、ハンバーガーの山はすっかり消え去っていた。
「......すごい」
姫神も感心したように結絆を見つめる。
「まあ、これくらいはねえ? さっきも話したけど、能力のおかげで、消化器官をいくらでも強化できるからねえ」
「......面白い能力なのね」
「ところで、当麻の能力は......えっと、なんだったっけえ?」
「おい、そこ忘れるなよ!」
当麻はツッコミを入れながら、自分の右手を見せた。
「俺の能力は幻想殺し(イマジンブレイカー)。右手で触れた異能の力を打ち消す......って能力なんだけどよ」
「便利そうなのね?」
「いや、便利って言われてもな。いいことばっかりじゃねえんだよ......身の回りの不運を引き寄せてしまうしな。でも、俺は、それを不幸だとは思わないな。」
当麻は苦笑いしながら、チラリと姫神に視線を向けた。
「そういえば、姫神の能力って何なんだ?」
「......わたしの能力?」
姫神は一瞬迷ったように目を伏せたが、やがて静かに口を開いた。
「......吸血殺し(ディープブラッド)」
「吸血殺し?」
結絆が興味深そうに聞き返す。
「......吸血鬼を、甘い香りで誘って、その血を吸った吸血鬼を、問答無用で灰に返す能力」
姫神は淡々とした口調で説明した。
結絆と当麻は顔を見合わせる。
「マジか......」
当麻が驚いたように呟く。
「吸血鬼限定とはいえ、かなりえげつない能力だねえ......」
「......だから、利用されていた」
姫神の言葉に、結絆と当麻は息をのんだ。
「......利用?」
「......わたしは、学園都市の外で。吸血鬼狩りの道具として、生きていた」
静かに語られる言葉に、結絆の表情がわずかに曇る。
「吸血鬼が本当にいるとはねえ......それで、今はどういう状況なのかなあ?」
「......色々あって、学園都市に保護された。でも、今は、完全に自由というわけじゃない」
「......そっかあ」
結絆は考え込むように腕を組み、当麻は複雑そうに頬を掻いた。
「......まあ、詳しい話はさておき」
結絆はニッと笑い、姫神を見た。
「今は、こうして俺たちと楽しく飯を食えた。それだけでも、悪くないんじゃないかい?」
「......そうかもしれない」
姫神は小さく微笑んだ。
その表情は、どこか柔らかく、少しだけ穏やかになったように見えた。
夜の学園都市。
無機質な高層ビル群が整然と並び、街灯の光が静かに舗道を照らしていた。
そんな中、食蜂結絆はとある施設の前に立っていた。
「三沢塾、ねえ......」
建物を見上げながら、結絆は小さく呟く。
彼の隣には、腕を組んだ上条当麻が立っていた。
「結絆が統括理事長から指示を受けたってのは百歩譲ってわかるとして、何で俺も?」
「当麻が選ばれた理由はわからないけどねえ、まあ、君には君の役割があるんじゃないかなあ」
結絆は微笑みながら答えるが、当麻の顔には釈然としない表情が浮かんでいる。
結絆は、アレイスターの意図はある程度わかっているが、結絆にも彼なりの目的があった。
それは、魔術についての知識を得ることである。
今回の頼みを引き受けたのは好奇心によるものも大きい。
二人は互いに視線を交わし、三沢塾の建物の中へと足を踏み入れた。
三沢塾の内部は意外にも整然としており、一見すると、普通の進学塾のように見えた。
教室の中の様子を見ても、生徒たちは静かに机に向かい、黒板の前では講師が淡々と授業を進めている。
しかし、結絆はこの異様なまでの静けさに違和感を覚えた。
「......やっぱり、何か変だねえ」
授業中とはいえ、誰も結絆達の存在を気に留めることがない。
まるで見えていないかのようである。
「だな。しかも、普通の塾にしちゃ、空気が妙に張り詰めてる」
二人は周囲に気を配りながら、慎重に内部を探索していく。
しかし、表面上は何の問題もないように思えた。
すると、不意に結絆の背後から足音が近づいてきた。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
結絆達が振り返ると、白衣を纏った男が立っていた。
その目は鋭く、結絆たちを値踏みするような視線を向けている。
「俺たちはちょっとここの塾に興味があってねえ。見学でもいいかと思ってお邪魔したんだけどお」
結絆が軽く笑いながら言う。
「申し訳ありませんが、当塾では現在、外部の見学者は受け付けておりません」
男の冷淡な声が響く。結絆は微笑みを崩さずに答えた。
「まあまあ、そう堅苦しいこと言わなくてもいいじゃないかあ?」
「......それ以上、踏み込むのであれば、こちらもそれなりの対応を取らせていただきます。」
男の目が一瞬鋭く光った。
次の瞬間、結絆は空気の変化を感じた。
「っ!当麻、下がれ!」
同時に、周囲の空間が歪んだかのような錯覚を覚える。
男の周囲には、目に見えない何かが渦巻いていた。
「どうやら、ただの塾講師じゃなさそうだな......!」
当麻は拳を握りしめ、結絆もまた次の行動に備えた。
三沢塾の裏に潜む何か。その真相を暴くために、二人は目の前の敵に向き合うのだった。
薄暗い照明の下、結絆と当麻は並んで立っていた。
目の前には、塾講師を名乗る男——だがその雰囲気は、明らかにただの教師ではない。
異様な空気を纏い、手には幾何学模様が刻まれた杖を握っている。
「......お前が、この塾を支配している魔術師かい?」
結絆が静かに問いかけると、男は薄く笑った。
「支配とは人聞きが悪い。私はただ、知識を分け与えているに過ぎませんよ。もちろん、普通の学問ではなく、より高次の、ね」
「随分と胡散臭い話だな」
当麻が不機嫌そうに肩をすくめる。
その右手に、無意識に力がこもる。
「おっと、話を続ける気はないみたいですね?」
男が杖を掲げると、空間が一瞬歪んだ。
次の瞬間、結絆と当麻の足元から無数の魔法陣が浮かび上がる。
鮮やかな光が奔り、地面が変質していく。
「重力結界——“深淵の沈黙に身をゆだねよ”」
途端に二人の身体が重くなる。
まるで鉛の塊を背負わされたかのように、思うように動けない。
「くそっ、体が......!」
当麻が歯を食いしばる。
「なるほど、局所的な重力操作かねえ。でも、大したことはないねえ」
結絆は即座に能力を発動した。
殺気で男の思考を乱し、魔術師の集中力を逸らす。
すると、魔法陣の輝きが一瞬鈍った。
「なっ!」
魔術師が驚いたその隙を突き、当麻が一歩踏み込む。
「お前の小細工なんざ、右手でぶっ壊せば終わりだッ!」
右手を突き出し、魔法陣へと叩きつける。
バキンッ! 空間が弾けるような音を立て、重力の束縛が一瞬で消え去った。
「ちぃ......!」
魔術師は苦々しく舌打ちするが、その手は次の詠唱を刻み始めている。
「もう一度縛るつもりかねえ? 悪いけど、今度はそうはいかないよ」
結絆が一気に距離を詰める。
そして結絆は圧倒的な速度で拳を突き出す。
その一撃が、魔術師の腹部を捉えた。
「ぐあっ......!」
壁へと吹き飛ばされ、男はうめき声をあげる。
だが、まだ意識はあるようだった。
「......よし、うまいこと加減できたねえ」
結絆は溜息をつきながら、なおも動こうとする男を見下ろした。
「さて、そろそろ情報を吐いてもらおうかねえ?」
そして、彼らの戦いは終焉を迎えたのだった。
前半は姫神とのやり取りを、後半は三沢塾に乗り込む話を書きました。
次回は、アニメ版でカットされたキャラとの戦闘です。