原作とは違い、インデックスが彼のことを覚えているので、内容がかなり変わっています。
偽物のアウレオルスを倒した結絆と当麻は、三沢塾の最上階へ足を進める。
三沢塾の最上階。
そこにいたのは、緑髪の長身の男――本物のアウレオルス=イザード。
「必然......やはり貴様らは来たか」
低く響く声とともに、アウレオルスはゆっくりと振り返った。
その眼には一切の迷いもなく、まるで神の如く傲然とした態度を崩さない。
「さっきの『偽物』は退屈しのぎにはなったが......やはり使えん。今からは、私の『本当の力』を知るがいい」
その言葉と同時に、結絆と当麻の周囲の空間が変化する。
結絆達がいた小部屋が大きなホールに変わり、天井から床まで全てがきらびやかな装飾に変わっていく。
「おい、さっきの偽物のよりかなりヤバイぞ」
当麻は焦る。
「なるほどねえ......言葉を現実にする魔術、アルス=マグナってやつかい。本で読んだことはあるけど、実在していたとはねえ」
結絆は軽くため息をつきながらも、目の前の敵をじっと見据えた。
隣の当麻も拳を固く握りしめている。
「確かに厄介な相手だねえ......けど、倒せないわけじゃなさそうだねえ」
「ほう。ならば試すがいい」
アウレオルスが手に持った黄金の鍼(はり)を自身の首元に刺した。
次の瞬間――
「黄金に変われ」
その言葉とともに、空間全体が輝いた。
結絆と当麻の足元が一瞬で黄金に変質していく。
が、当麻の右手がすぐさま床を触れることで、その変化は無効化される。
「......幻想殺し(イマジンブレイカー)、その力、やはり厄介だな」
「そっちこそ、簡単にやれるとは思わないでほしいねえ!」
結絆は素早く前に出て、アウレオルスの懐に迫る。
拳を握りしめ、渾身の力を込めた一撃を放つ。
だが、
「止まれ」
その一言だけで、結絆の動きが完全に止まった。
すかさず当麻が結絆に触れる。
すると、結絆は動けるようになる。
「ッ......くそっ!一筋縄ではいかないようだねえ......」
「貴様ら如きが、この私に抗えるとでも思っているのか?」
アウレオルスは冷笑を浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。
そして、
「今日起こったことをすべて忘れろ」
その言葉が放たれた瞬間、世界が歪んだ。
結絆と当麻の意識がぼやける。
強制的に、記憶が崩れ落ちる感覚。
だが――
「悪いねえ、こっちも手は打ってあるんだよお」
結絆はニヤリと笑う。
結絆は、常に能力で五感を強化している。
つまり、彼はそれによって常人とは比べ物にならないレベルの直感(第六感)を持っている。
結絆はアウレオルスが話す前に身を屈めて当麻の元へ移動していた。
彼の頭部には、既に当麻の右手が触れていたのである。
幻想殺しが発動し、アウレオルスの『忘却』の魔術が打ち消される。
結絆はすぐさま当麻の右手を当麻自身の頭部に当てて、当麻にかかった魔術も打ち消す。
「貴様......まさか、私の行動を読んでいたのか!?」
驚愕するアウレオルスを前に、結絆はゆっくりと口を開いた。
「言葉を現実にする魔術......確かに厄介だけど、未来を読めば対処できないわけじゃないねえ。」
そして、結絆は笑みを深めながら言った。
「さあ、ここからは反撃のターンだよお」
当麻が拳を握り、前に踏み出す。
「ああ!反撃開始だっ!」
アウレオルスは、再び黄金の鍼を首に刺す。
「圧死せよ」
何もないはずのところからトラックが降ってきて、結絆と当麻を押しつぶそうとする。
「ぬるいねえ、そんな軽いもので俺をつぶせると思ってるのかい」
結絆は、トラックを片手で受け止めてアウレオルスに投げつける。
アウレオルスは「消滅せよ」と唱えると、トラックは跡形もなく消える。
「失血死せよ」
当麻は、異変を本能的に察知して、自身の胸元に右手を当てる。
しかし、結絆にかかった魔術の解除が遅れてしまい、結絆の全身から血が噴き出る。
「本当になめられているねえ、この程度で俺が死ぬとでも思っているのか?」
結絆は、自身の能力である自動制御(セルフマスター)を発動、噴き出た血の一滴一滴を体内に戻す。
そして、細胞分裂を加速して、全身の傷を即座に塞いだ。
「貴様......人であることを辞めているのか......」
流石にアウレオルスも動揺を隠せない。
「そのセリフ、さっき当麻からも言われた気がするよお」
「俺はもう何もツッコまないからな!」
当麻が鋭いツッコミを入れた。
戦いの最中、アウレオルス=イザードは黄金の鍼を手に取りながら、鋭い視線で結絆と当麻を睨みつけていた。
彼の手には、能力の発動の鍵になるであろう鍼が、まだ何本もある。
結絆は鋭く問いかけた。
「......聞きたいことがあるんだけどねえ。君は、何のために学園都市にいるんだい?」
アウレオルスは目を細め、一瞬の沈黙の後に言葉を発した。
「決まっている。我が目的はただ一つ、インデックスを救うことだ」
その言葉に、当麻が驚いたように息をのむ。
「お前......インデックスを助けるためにここに来たのか?」
アウレオルスは鋭く頷き、怒りを込めた声を上げた。
「そうだ。インデックスの記憶が一年ごとに消されるという呪いを打破する方法を探すため、私はこの学園都市にやってきた。貴様らのような無能な科学サイドの住民の知識が、何かしらの手がかりになるかもしれぬと考えてな!」
その言葉に、結絆と当麻は顔を見合わせる。
すると当麻が、一歩前に進み出た。
「......インデックスは、もう助かってるぞ」
その瞬間、あたりに沈黙が走る。
少し間をおいて、
「何......?」
アウレオルスの表情が強張った。
「記憶を消す必要なんて、もうないんだよ。俺達は、既にその問題を解決した。インデックスは今、普通に暮らしてる」
当麻が淡々と告げる。
アウレオルスの瞳が揺れた。
手にした鍼がかすかに震える。
「嘘をつくな......! そんなはずがあるか! 彼女は——」
「本当だよお」
結絆が続ける。
「あの子はもう、お前が思ってるような状況にはいない。彼女は記憶消去という苦しみから解放されて、自分の意思で生きているんだよお」
アウレオルスは言葉を失い、呆然と立ち尽くす。
彼の目的は、既に無意味なものとなっていた。
しかし、その事実を受け入れるには、まだ時間が必要なようだった......。
三沢塾の一室。
きらびやかに装飾された机や椅子が、破壊されて散乱し、荒れ果てた部屋の中央には、力なく膝をついたアウレオルス=イザードの姿があった。
彼の顔には衝撃と困惑の色が濃く刻まれている。
「......インデックスが、助かっている、だと?」
結絆は静かに頷く。
「そういうことだねえ。お前さんがずっと苦悩してた理由、それはもうとっくに解決してるんだよ」
結絆は、改めて真実を告げたのだった。
アウレオルスの表情が歪む。
救うために全てを捧げてきた少女が、既に救われていた。
ならば、自分は何のためにここにいたのか。
そんな彼を見つめながら、結絆はスマートフォンを取り出した。
「ま、論より証拠......だねえ。直接、本人の声を聞くといいよお」
そう言ってインデックスの番号を押し、通話ボタンをタップする。
数コールの後、元気な少女の声が響いた。
『もしもし?結絆なの?』
「やあやあ、元気そうで何よりだねえ。実はちょっと代わってほしい人がいるんだけどお」
『ん?誰なのかな?』
「アウレオルス=イザード。......昔、君の先生をしていた男だよ」
沈黙......
通話の向こうのインデックスが目を見開いたのが分かるような静寂が訪れる。
そして数秒後、インデックスの優しい声が響いた。
『......アウレオルス......先生?今、そこにいるの!?』
アウレオルスは息をのんだ。
かつて命を懸けて守ろうとした少女の声。
懐かしく、それでいて遠い存在だと思っていた少女が、今、目の前にいるように思えた。
『元気に、してる?』
その問いかけに、アウレオルスは震える声で答えた。
「......無論、愚問だ......。君の記憶が消えてから、私は......」
『ううん、もういいの』
インデックスは穏やかな口調で続けた。
『わたしね、いろんな人に助けられて、今すごく楽しく生きてるんだよ。でもね、先生がいないとどこか寂しい気持ちがするんだよ。昔みたいに......先生に魔術の奥深さを教えてほしいんだよ!』
「............ッ!」
アウレオルスの目が揺れた。
彼の脳裏に蘇るのは、まだ幼かったインデックスに魔術を教えていた日々。
彼女は魔術に強い興味を持ち、真剣な眼差しで知識を吸収していた。
そしてそれは、彼にとっても幸福な時間だった。
『お願い、先生。もう、独りで背負わなくてもいいんだよ』
彼の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「......馬鹿な......私が......私が......このようなことで......」
震える手で顔を覆い、押し殺した嗚咽が漏れる。
結絆と当麻は静かにその光景を見守っていた。
『時間がある時に会いに来てほしいんだよ。またね、先生!』
通話が切れた後、アウレオルスはしばし天井を仰ぎ、深く息を吐いた。
そして、かつてのような鋭い目つきではなく、どこか柔らかな表情で結絆達を見た。
「......私は......何をすればいい......?」
結絆は、優しく笑った。
「まずは、これまでの行いを清算することから始めるのがいいと思うよお?」
アウレオルスは小さく笑い、静かに頷いた。
その姿は、確かに改心した男のものだった。
三沢塾の崩壊した廊下に立ち尽くしていたアウレオルス=イザードは、静かに息を吐いた。
インデックスの声を聴いたことで、彼の心の中にあった執念とも言えるものが消え去り、代わりにあるのは静寂だった。
「......私は愚かだったな」
ぽつりとそう呟いた彼は、結絆と当麻に向き直る。
「この三沢塾を、元に戻そう」
アウレオルスの澄んだ瞳が光る。
もはや黄金の鍼を使うことはなく、彼が両腕を広げ、静かに呟くと、アルス=マグナの力が解放された。
「逆転せよ——この空間はかつての姿に還れ」
瞬間、塾全体を包んでいた歪んだ魔力が消え去り、崩れかけていた廊下や部屋がまるで時間を巻き戻すように再生されていく。
壁に空いた穴は塞がり、粉々に砕けていた机や椅子も元通りになった。
結絆はその光景を目の当たりにしながら、アウレオルスの魔術の精密さに感心する。
「すごいねえ......。時間を戻したわけじゃないのに、まるで過去に戻ったみたいだよお」
「アルス=マグナは本来、人間が踏み入れてはならない領域だ。しかし......私はそれを手に入れ、そして今、捨てた」
アウレオルスはどこか寂しげに微笑み、懐から小さな手帳を取り出した。
それは古びた革表紙の本で、見た目は普通の手帳のようだったが、結絆はそれを見た瞬間に直感した。
——これは、魔導書の「原典」であると。
「......どういうつもりだい?」
「これは私には扱いきれなかったものだ。私はこれを解析しようと試みたが、私の知識では限界があった。お前ならば、真の価値を見出せるかもしれない」
アウレオルスは迷いなく結絆にその手帳を差し出す。
結絆は一瞬ためらいながらも、それを受け取った。
「いいのかい?」
「......私はもう、それに執着する必要がなくなった。インデックスが今、幸せでいるならば、それでいい」
アウレオルスは静かに微笑んだ。
「この魔導書が、何らかの形でお前の助けになることを願おう」
結絆は手帳を眺めながら、ふっと微笑んだ。
「......面白いお土産を貰ったねえ」
こうして、三沢塾の騒動は終息を迎えた。
三沢塾編は、これで終了です。
ハッピーエンドで終わった感じですね。
次回は、結絆が原典と向き合う話を書くつもりです。
余談ですが、アルス=マグナはアウレオルスの意思を世界に反映させる魔術ですが、結絆達は結局その原理に気付くことなく戦闘が終わってしまいましたね。