学園都市の夏は太陽がジリジリと照りつけ、道行く人々は皆、暑さに文句を言う。
そんな中、結絆は久しぶりにゆっくりと街を歩いていた。
「いやあ、やっとちょっと息抜きができるねえ」
最近の忙しさから解放され、少しだけのんびりとした時間を楽しもうとしていたところ、ふと前方に見知った顔があった。
「あれ、結絆さん?」
聞き慣れた声に顔を向けると、そこには初春飾利と佐天涙子がいた。
二人とも買い物袋を手にしており、どうやらショッピングの帰りのようだった。
「おやおや、奇遇だねえ。こんなところで何してるんだい?」
「えへへ、ちょっと夏物のセールを見に行ってたんです!」
佐天が元気よく袋を持ち上げる。
初春は汗を拭いながら、「最近、暑いですよねぇ」と苦笑いを浮かべた。
「まったくだねえ。この暑さの中で買い物とはご苦労なことだよお」
結絆は軽く肩をすくめたが、佐天はむしろ楽しそうに笑っていた。
「でもでも! こういう時にこそ、都市伝説の話とかしながら歩くと気が紛れません?」
「都市伝説?」
「そうですよ! 学園都市には色んな噂があるじゃないですかー。例えば、『学園都市の夜を音速を超えて移動する謎の女がいる』とか、『未発表の超能力が闇に葬られている』とか......」
前者については、先日結絆が戦った神裂火織そのままである()
佐天は楽しそうに語るが、初春は少し苦笑しながら「またそんな話を......」と呆れ気味だった。
「でもですね、最近一番気になってるのは......」
佐天はわざと声を潜めながら、結絆の顔を覗き込んできた。
「とある研究施設の噂って知ってます?」
「......とある研究施設の噂?」
その単語を聞いた瞬間、結絆の表情がわずかに曇った。
内容によっては、その研究施設を潰さなければならないと結絆は考える。
「うん! なんでもね、学園都市には世界中の偉人や聖人のDNAが保管されてて、それを解析した結果、ボタン一つで天才をいくらでも製造できる施設があるって話なんですよ!」
かつて結絆が能力開発を受けていた施設、そして、そこで起こった悲劇を結絆は思い出す。
佐天の言葉には好奇心と興奮が滲んでいたが、結絆は、少し不快そうに顔をしかめる。
「......そいつはただの都市伝説だろう?」
「まあ、そうなんですけどね。でも、もし本当だったらすごくないですか? だって、天才がいくらでも作れるってことですよ?」
「......それは果たして『天才』と呼べるものかねえ」
結絆は静かに呟いた。
その目はどこか遠くを見つめていた。
初春は佐天の勢いに押されつつも、結絆の様子に気づき、小さく首を傾げる。
「結絆さん......?」
「いや、なんでもないよお。ただ......あまり軽々しくそういう話を信じない方がいいねえ」
「うぅ~、やっぱり結絆さんは大人ですよね。都市伝説のロマンがわかってないなぁ~」
佐天は頬を膨らませながらも、楽しそうに笑う。
(才人工房、か......)
結絆は内心、嫌な気配を感じていた。
その都市伝説を誰が流しているのかは分からない。
だが、学園都市という場所においては、都市伝説とされるものの中に、決して笑い話では済まされないものもあるのだ。
――そして、もしその噂が真実だったとしたら。
学園都市の公園の一角。
「ねえ、初春。サンタクロースっていつまで信じてた?」
移動販売車で買ったアイスクリームを食べながら歩いていた佐天涙子は、ふとそんな疑問を口にした。
ちなみに、アイス代は全て結絆が払っている。
結絆は、仲間には優しいのである。
「小学校高学年ぐらいまでですかね、佐天さんは、いつまで信じてたんですか?」
「私も小学校高学年ぐらいまでかな~、結絆さんはいつまで信じてましたか?」
「俺は、ずっとプレゼントを配る側だったからねえ。むしろ、夢を壊さないように気を付けていた側だよお」
プレゼントをもらって喜ぶ操祈達の顔を見るのが、結絆のクリスマスの楽しみでもあった。
「あぁ......なんとなく想像ついちゃいます。でも、夢を配るっていうのも素敵ですよね!」
そうして、結絆達はサンタクロースの話を続けた。
その後
「ねえ、初春。トナカイって本当にいるのかな?」
「えっ、どういう意味ですか?」
「いや、だってさ、トナカイって、サンタクロースのソリを引きながら空を飛ぶイメージがあるけど、実際に見たことないし。本当に存在するのかなーって思ってさ」
「そりゃ、動物としてはちゃんと存在してますよ!寒いところとかに生息していますよ」
初春飾利は当然のように答えたが、佐天は納得がいかない様子だった。
「でもさー、写真とか映像では見るけど、本当にこの世にいるのか確かめたことないでしょ? もしかしたら、全部作り物だったりして......!」
「いやいや、さすがにそれはないですって......」
呆れ気味の初春だったが、ふと隣にいた結絆に目を向けた。
「結絆さんなら、本物のトナカイを見たことあったりします?」
「......ふむ。トナカイが実在するかどうか、気になるかい?」
結絆はニヤリと笑う。
「気になります!」
佐天は目を輝かせる。
「だったら、見せてあげるよお。君達、少し時間はあるかい?」
「えっ!? まさか、どこかにトナカイがいるんですか!?」
「さあて、それは見てのお楽しみだよお」
佐天と初春が顔を見合わせて頷くと、結絆は二人を連れて歩き出した。
結絆が佐天達を連れてやってきたのは、学園都市でも有名な「マジックシアター」という施設だった。
「えっ、ここって......あの、世界でも有名なマジックショーが行われるっていう?」
「そうだねえ。派手なステージマジックや、目を疑うような奇跡が次々と起こる場所だよお」
佐天は目を輝かせた。
「うっわ~! すごいですね! でも、トナカイと関係あるんですか?」
「まあまあ、中に入ってみれば分かるよお」
結絆が先導しながら裏口へと進む。
関係者用のエリアに入り、少し奥へ進むと、まるで別世界のような広大な空間が広がっていた。
そこには、動物が悠々と歩き回る一角があり、その中に――本物のトナカイがいた。
「ええええっ!? トナカイ!? 本物じゃん!!」
佐天は目を丸くして駆け寄る。
「結絆さんは、本当にトナカイを飼っているんですね......」
初春も驚きを隠せない様子だった。
「いやあ、そりゃあいるに決まってるよお。わざわざ北国まで捕まえに行ったんだからねえ」
「え、えええっ!? じゃあ、結絆さんがこれを連れてきたんですか!?」
「まあねえ」
結絆はさらりと言ったが、佐天と初春には衝撃的すぎた。
「すごすぎますよ......どうやって手に入れたんですか?」
「さあて、そこは秘密だよお。世の中には知らないほうがいいことが沢山あるからねえ」
結絆が軽く笑っていると、ふと背後から重い足音が響いた。
「ん?」
佐天が振り返った瞬間――彼女は絶句した。
「......う、うわあああああああ!?!? な、なにこれ!? でかい!!」
そこに立っていたのは、獅子のような堂々たる姿を持ち、黄金色の瞳を光らせた巨大な虎――レグルスだった。
レグルスは、最近さらに成長して、体長は10メートルを超えようとしている。
「ふむ、結絆よ......この子らは何者だ?」
「俺の知り合いだよお。悪い子じゃないからねえ。まあ、肉は柔らかそうだけどねえ」
「結絆さん!それ、笑えない冗談ですって!」
初春が、取り乱しながらツッコむ。
「今は、満腹だからな......それに、結絆の仲間なら食うつもりはない」
そして、レグルスは大きなあくびをして、その場にどっかりと座り込んだ。
「こ、こいつ......めっちゃカッコイイ!!」
佐天の目が輝く。
「結絆さん、このトラも......もしかしてペットですか!?」
「ペットっていうか、仲間ってとこだねえ」
結絆が肩をすくめると、レグルスは静かに佐天達を見つめた。
「......ほう、貴様ら、なかなか面白い目をしているな」
「え、えっ!? 本当にしゃべってるの!? ていうか、これも結絆さんが捕まえてきたんですか!? すごすぎるでしょ!」
「まあ、俺の能力を使えば、こういうこともできるんだよお」
結絆はニヤリと笑うと、驚きと興奮の入り混じった表情を浮かべる佐天と初春を見つめた。
「どうだい? トナカイも、本当にいたし、レグルスみたいな不思議な生き物もいる......世の中、まだまだ君の知らないことでいっぱいだよお」
「......うわぁ~、都市伝説どころの話じゃないですね......」
佐天はため息をつきつつも、ワクワクした様子でトナカイとレグルスを交互に見つめたのだった。
今回は、完全に本編と関わりのない話ですね。
次は、結絆と黒子のやり取りを書こうと思います。