過去の回想もあります。
学園都市の繁華街にある焼肉店。
ここは、高位能力者の学生や高給取りな研究者がよく訪れる高級店であり、一般の学生には少し入りづらい場所だった。
「おお、やっぱりここはいい肉を揃えてるねえ」
テーブルの上に広げられた大量の肉が乗った皿を眺めながら、食蜂結絆は満足げに頷いた。
「......おいおい、こんなもん食わせるために呼び出したのかよォ」
向かいに座るのは一方通行。
学園都市最強の超能力者(レベル5)であり、普段ならこんな場所にわざわざ出向くことはない。
しかし、結絆に強引に連れ出された結果、こうして焼肉を囲むことになったのだった。
「そう言いつつも、食べる気満々だよねえ? 今日はせっかくの飯だし、楽しもうじゃないかあ」
結絆はにこやかに笑いながら、トングで一枚の肉を網の上に置く。
ジュウゥゥ......と食欲をそそる音が広がり、煙が立ち上った。
「......ジュウジュウいい音が鳴ってるじゃねェかァ!」
そう言いながら、一方通行もノリノリでトングを手に取り、カルビを鉄板の上に投下した。
「はァ......ったく、こんな高そうな店、よく知ってんなァ」
「まあねえ、とは言ってもそんなに頻繁に来てるわけじゃないけどねえ」
結絆は焼けたお肉をヒョイと掴んだ後、タレに絡めてパクっと食べた。
「ん~、美味いねえ。こういう贅沢も悪くないもんだねえ」
一方通行も負けじと箸を伸ばし、焼き上がった肉を口に運ぶ。
途端に、表情が緩んだ。
「......まァ、確かに悪くねェなァ、肉の脂が急流すべりのごとく流れ込んでくるぜェ」
「だろう?」
例えが謎だが、二人の間では通じているので問題はなさそうだ。
二人がしばらく焼肉を楽しんでいると、結絆がふと話題を変えた。
「そういえば、最近妹達(シスターズ)の皆は元気にしてるかい?」
一方通行の手が一瞬止まる。
「......あァ?」
「ほら、御坂のクローン達さ。君も色々と面倒を見てるんだろお?」
結絆は焼肉のタレを付けながら、一方通行の表情をじっと見た。
「チッ......まァな。今は俺だけじゃなく、各国の機関も動いてるし、学園都市の監視もある。下手なことはできねェし、させねェよ」
「なるほどねえ。さすが、最強の肩書きを持つ男は違うねえ」
「皮肉かよ」
過去に自身の反射を破った男に対して、一方通行はそう返す。
「いやいや、純粋に感心してるんだよお」
結絆は箸を置き、軽く笑う。
「最初に会った頃の君なら、妹達のことなんてどうでもいいって態度だったけど......今は違う。ちゃんとヒーローやってるんじゃないかねえ」
「......うるせェ」
一方通行はそっぽを向きながら肉を頬張ったが、どこか照れくさそうだった。
「ま、彼女達は君に感謝してるんじゃないかねえ。彼女達が生まれた経緯については何とも言えないけど、今こうして生きていられるのは君のおかげでもあるんだからねえ」
「......ンなこと、言われてもなァ」
一方通行は短くため息をついた。
「今さらその話をぶり返す意味は、俺にはわかんねェよ」
「その様子なら安心だねえ」
結絆はニッと笑い、焼肉をひょいと摘んで口に運ぶ。
「じゃあ今度、病院にいる妹達の皆も誘って飯でも食いに行かないかい?今、こうやって、俺と君が焼肉を食べてるみたいにねえ!」
一方通行は「だなァ!」と言いながら、ジュウジュウと焼ける肉を箸で掴み白米と共にかきこんでいた。
これは過去の話
学園都市の一角、灰色のコンクリートに囲まれた無機質な訓練場。
そこで、一人の子供が実験のために能力を制御していた。
一方通行(アクセラレータ)。
一方通行は既に学園都市最強の称号を手にしていたが、その力のせいで他者を傷つけることを恐れ、必要最低限の関わりしか持たなかった。
「......チッ、またか」
訓練用のターゲットを撃ち抜く度に、彼の目は鋭くなる。
そして、訓練相手の繰り出した攻撃に対しては、計算された反射で弾丸を跳ね返し、完璧な制御で電撃や火炎放射を無効化する。
だが、その精密な能力制御が意味するのは、彼がそれだけ自身の力を恐れているということだった。
そんな彼の背後から、不意に声がかけられた。
「へえ、君が噂の最強のレベル5ってやつかねえ?」
ゆったりとした口調。
しかし、どこか底知れないものを感じさせる声。
振り向くと、金髪に鮮やかな金色の瞳を持つ少年が立っていた。
食蜂結絆(しょくほうゆはん)、学園都市の闇が生んだ怪物である。
「......あァ、てめェは誰だ?」
一方通行は眉をひそめる。
「ま、俺は、ただの通りすがりの一般人だよお。今日は学園都市最強の君にちょっと興味があってねえ」
「興味? 俺に?」
「ああ。だけど、思ってたのと違うねえ」
結絆はニヤリと笑い、指を立てて言った。
「君って、意外と......優しいんじゃないかねえ?」
一方通行の表情が一瞬、固まる。
「......ふざけんなァ。俺は学園都市最強だ。ガキでも兵器でも、全部叩き潰せる化け物だ」
「そう言いながら、君は一度も“人間”に攻撃しなかったねえ」
「......」
「この訓練場で、君はターゲットを正確に撃ち抜き、物理法則を無視したような防御をしてみせた。でも、それだけだ」
結絆の視線は鋭く、一方通行の内面を見透かすようだった。
「たとえばねえ、君なら“他の被験者”を標的にしたって余裕で勝てるんじゃないかねえ?」
「......」
「でも、君はそれをしない。いや、できないんじゃないかい?」
一方通行は舌打ちした。
「......チッ。何が言いてェ」
「君はねえ、ただ力が強すぎるだけの普通の人間なんだよお」
結絆はそう言いながら、近づいていく。
「俺は......化け物だって言ってるだろ」
「違うねえ。君はただ......人を傷つけたくないから距離を置いてるだけだ」
一方通行の拳が震える。
「......そんなわけねェだろ」
「確かに君の能力は圧倒的だ。でも、使い方次第だと思うよお」
結絆はふっと笑い、目を細めた。
「君は、誰かを傷つけるためじゃなく......守るために、その力を使うべきじゃないかねえ?」
「......守る?」
「そうだねえ。例えば、大切なものを守るために力を振るうなら、君は“化け物”じゃなくなる。ヒーローになれるんじゃないかねえ?」
一方通行は驚いた顔をした。
「......バカかよ。俺みてェな奴がヒーローだと?」
「何も間違ってないよお。ヒーローは、生まれつきヒーローなわけじゃない。“選択”によって決まるんだよお」
結絆は軽く肩をすくめた。
「君がどう生きるかは、君が決めたらいいんだよお」
その言葉に、一方通行はしばらく沈黙した後、小さく笑った。
「......テメェ、変なヤツだな」
「よく言われるねえ」
それが、二人の出会いだった。
この日を境に、一方通行は少しずつ結絆と関わるようになり、そして――やがて、世界に背を向けるのではなく、“守るために戦う”ことを選ぶようになったのだった。
結絆と一方通行の出会いについても、書いてみました。
察している方もいると思いますが、絶対能力進化に一方通行は参加していないという設定で書いています。
その辺の話は、過去編を書くときについでに書くつもりです。