食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回は、ドリームのメンバーとのやり取りの話です。

これまで、何回か出ているキャラもいます。

後半は、精神系能力者同士の絡みです。


暗部の日常

 夜の学園都市。

 

ドリームの拠点の一つであるネオンが薄暗く輝くビルの一室で、食蜂結絆は足を組んでソファに腰掛けていた。

 

向かいに座るのは、一人の少女――蜜蟻愛愉(みつあり あゆ)。

 

彼女は微笑みながら紅茶のカップを口元へ運ぶ。

 

「今日の仕事も大変だったわねえ、結絆クン」

 

「そうだねえ、でもまあ、いつも通りだよお」

 

結絆は肩をすくめながら、適当にテーブルの菓子をつまむ。

 

蜜蟻愛愉――

 

彼女は「心理穿孔(メンタルスティンガー)」という精神操作系の能力を持ち、ドリームの暗部活動の「後処理」を担当している。

 

捕らえた敵の記憶を改ざんしたり、意識を操作して都合のいい情報を流させたり、場合によっては廃人にすることすら厭わない。

 

彼女は結絆や操祈と並んで、精神系能力者の最高峰に位置している。

 

普段、結絆達が暴れても大きな問題になっていないのは、ミサカと蜜蟻の頑張りによるものが大きかったりする。

 

「今回の処理、やっぱり手こずったかい?」

 

結絆がそう尋ねると、蜜蟻は小さく笑った。

 

「それなりにねえ。でも、まあ大丈夫よお? 戦闘要員の皆さんが派手に暴れたせいで、記憶の改ざんがちょーっと面倒だったけどお♪」

 

「はは、悪いねえ」

 

結絆は苦笑するが、蜜蟻は特に気にしていない様子だった。

 

「いいのよ。これがあたしの仕事だからあ。でも、その代わりちゃんと感謝してね?」

 

「もちろんだよお。お疲れ様、蜜蟻」

 

結絆が蜜蟻の頭を撫でながらそう言うと、蜜蟻は満足げに頷いた。

 

「それとねぇ、最近は操祈ちゃんの派閥の運営も大変なのよお」

 

「へえ、そっちもかい?操祈の派閥は人数がどんどん増えているからねえ」

 

「ええ♪ 操祈ちゃんの派閥って、人が多いじゃない? 表向きは華やかだけど、裏じゃ色々あるのよぉ。例えば、派閥の内情を探ろうとするスパイの記憶をいじったり、うるさい人達に“ちょっとした処置”をしたりねぇ♪」

 

蜜蟻はくすくすと笑いながら、紅茶をもう一口飲んだ。

 

「なるほどねえ。人数が多いと狙われることも多いからねえ、派閥の運営もなかなか大変そうだ」

 

「でも、結絆クンがいるから楽しいわよお? だって、結絆くんの指示があれば、あたしはどんなことでもできちゃうんだからあ♪」

 

蜜蟻の言葉には、どこか狂気じみた愛着が滲んでいた。

 

結絆はそんな彼女を見て、微笑を返す。

 

「君がいると助かるよお。これからも頼りにしてるねえ」

 

「ええ、もちろん♪ これからも、よろしくねえ」

 

蜜蟻は満足そうに微笑みながら、結絆と向かい合って紅茶を楽しむのだった。

 

 

 

 学園都市の一角、人気のない倉庫の一室。

 

この倉庫もドリームの拠点の一つである。 

 

食蜂結絆は、目の前にいる少女――警策看取(ごうざく みとり)を見つめていた。

 

「それで......結絆さん、今日はどうしたの?」

 

壁にもたれかかりながら、警策は結絆に視線を向ける。

 

「いやあ、君の液化人影(リキッドシャドウ)の能力をもっと活かせるものを用意したからねえ」

 

結絆はそう言いながら、ゆっくりと右手を掲げる。

 

次の瞬間、空間が歪み、異空間の裂け目が生じた。

 

「ええっ......!?結絆さん!?」

 

警策が驚愕する中、結絆はその裂け目の中に手を差し入れる。

 

ゴォォ......と低い音が響くと、結絆の手が未知の金属を掴んで引き出した。

 

それは、漆黒に輝く不定形の金属。

 

まるで液体と固体の狭間にあるような、不思議な質感を持っている。

 

「こいつはねえ、異空間に眠ってた未知の金属だよお。学園都市のどんな合金とも違う。おそらく、意識を持った液体金属ってところかなあ?」

 

警策はじっとそれを見つめ、興味深そうに眉をひそめた。

 

「......意識を持った金属?」

 

「そうそう。ちょっとした刺激を与えると、まるで生きてるみたいに形を変えるんだよお。君の能力に組み込めば、さらに応用が利くんじゃないかなあ?」

 

警策はしばらくの間状況を飲み込めずにいたが、やがて不敵な笑みを浮かべた。

 

「......面白いわね。それ、試してみてもいいかしら?」

 

「もちろんだよお。君ならうまく使いこなせると思うよお」

 

結絆が金属を手渡すと、警策は慎重に指先で触れた。

 

次の瞬間――金属が波紋のように広がり、警策の手に同化していく。

 

「......!」

 

警策の目が見開かれる。

 

彼女の能力である液化人影は、比重の大きい金属を自在に操る能力。

 

しかし、今までの制約として、学園都市の技術で作られた特殊金属しか使えなかった。

 

だが、今手にしたこれは――異空間から持ち込まれた未知の金属。

 

まるで彼女の意志を感じ取るかのように、滑らかに形を変え、警策の指先から腕へと吸い込まれていく。

 

「......これで、もっと結絆さんの役に立てそうね。」

 

警策は笑いながら手を開閉し、黒く輝く金属が彼女の意志通りに変化するのを楽しんでいた。

 

「気に入ったかなあ?」

 

「もっちろん!これがあれば、今までよりもできることが増えそうよ......」

 

警策は満足げにニヤリと笑い、結絆を見た。

 

「ありがとう、結絆さん。私の活躍に期待しててね。」

 

「それは楽しみだねえ」

 

結絆は微笑みながら、警策が未知の金属を操る姿を見つめていた。

 

 

 

 夜の学園都市。

 

煌々と光るネオンの下、食蜂結絆は夜風を楽しみながら散歩をしていた。

 

「......あら、まさかドリームのリーダーさんに出会うなんて」

 

唐突に響く女の声。

 

気配もなく現れたのは、スクールの構成員――獄彩海美(ごくさい かいび)。

 

彼女は余裕の笑みを浮かべながら、結絆の目の前に立ち塞がった。

 

「何か用かなあ?」

 

結絆は軽く首を傾げながら問いかける。

 

「さあね。ただ、あなたみたいな人がいると、ウチの活動に支障が出るかもしれないから」

 

「へえ? それは怖い話だねえ」

 

結絆の口調はどこまでも柔らかい。

 

それでいて、その目にはまったく警戒の色がない。

 

獄彩はそんな結絆の態度を見て、心の中で舌打ちをした。

 

(......無防備すぎる。これはもう、なめられてるの確定でしょ)

 

彼女は瞬時に結絆の精神状態を読み取り、微笑を深めた。

 

「じゃあ、ちょっとした遊びをしない?」

 

獄彩が軽く指を振ると、目に見えない力が結絆へと向かう。

 

彼女の能力である心理定規(メジャーハート)は、相手の「好意の度合い」を操る能力。

 

本来なら、誰にでも「私のことが好き」と思わせることができるはずだった。

 

だが――

 

「......え?」

 

獄彩の表情が一瞬、固まる。

 

(......効いてない!?)

 

何の手応えもない。

 

まるで、感情そのものが操作不可能な領域にあるかのように。

 

「へえ、面白いことをするねえ」

 

結絆は微笑んだまま、まるで風が吹いたのを感じ取るように肩を竦める。

 

「でもねえ、それ、俺には意味がないよお?」

 

獄彩は奥歯を噛みしめた。

 

(ありえない......! 私の心理定規が効かない!?)

 

彼女の能力は心理掌握(メンタルアウト)ほどの規模ではないが、確実に相手の感情を操る強力なものだ。

 

しかし、目の前の男には何の効果もない。

 

「......あなた、一体なにものなの?」

 

絞り出すように問う獄彩に、結絆は肩をすくめて答えた。

 

「うーん、それを説明するのは面倒だけどお......まあ、能力の序列ってやつかなあ。それに、俺の心に干渉できたとしても、君が廃人になるだけだから、どの道意味がなかったねえ。」

 

原典の汚染とは、それだけ凶悪なのである。

 

最も、魔術の存在を知らない獄彩がそれを知る余地はない。

 

そう言いながら、結絆は獄彩の額を指で軽く弾いた。

 

「!?」

 

その瞬間、獄彩は圧倒的な力の差を感じた。

 

自分の能力が完全に通じないという事実。

 

それだけではなく、結絆の精神領域が自分とは比較にならないほど高度な場所にあるということを。

 

「あ、あなた......」

 

獄彩は無意識に後退した。

 

結絆は一歩前へ出る。

 

「心理系能力者同士、ちょっとは楽しめるかと思ったけどお......残念だねえ。俺に通じるような技じゃなかったねえ?」

 

「......くッ」

 

獄彩は歯噛みしながら結絆を睨んだ。

 

しかし、結絆はまるで何も気にしていない様子で、くるりと背を向ける。

 

「じゃあねえ、獄彩海美ちゃん。また会うことがあったら、もう少し面白い手を考えてきてねえ?」

 

そのまま、結絆は何事もなかったかのように歩き去っていく。

 

獄彩は悔しそうに唇を噛みながら、結絆の背中を睨み続けた。

 

(......くそっ、早くうちのリーダーに報告しないと)

 

結絆の力を甘く見ていた自分を恥じながら、獄彩はその場を後にした。




蜜蟻と警策を出してみました。

警策は、ドリームの回で何度か戦闘している描写を入れていたので、わかっていた方も多いと思います。

獄彩の能力については、結絆の方が能力の強度が上なので、全く効かないという設定にしています。

余談ですが、結絆と蜜蟻は口調が同じなので書いててややこしくなってきます......
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