学園都市の一角にある、とある劇場。
表向きは華やかなマジックシアターだが、その裏では学園都市の暗部組織として名を轟かせる『ドリーム』の拠点でもある。
今日もまた、劇場の舞台では煌びやかなショーが繰り広げられていた。
そして、その楽屋に結絆は足を組みながら座っていた。
舞台の進行を確認しつつも、コーヒーを片手に一息ついていると、控え室の扉がノックされる。
「おやあ、お客さんかなあ?」
扉が開くと、そこには緑髪の少女が立っていた。
長い緑色の髪は流れるように背中を覆い、深い紺色のシルクハットをちょこんと被っている。
手にはトランプを持ち、黒の燕尾服に白いグローブをはめている姿は、まさに絵に描いたようなマジシャンだった。
「初めまして! 私はエスメラルダ。素敵な劇場だと聞いて、お邪魔させてもらったわ」
少女はにこやかに笑いながら、結絆に視線を向ける。
「ほう、珍しいお客さんだねえ。で、何の用かな?」
「うふふ、私は見ての通りマジシャンよ。だから、あなた達に私のマジックを見せに来たの!」
そう言うや否や、エスメラルダはシルクハットを軽く振ると、中から無数の紙吹雪を宙へと舞わせた。
紙吹雪は宙でゆらゆらと踊りながら、一瞬で花びらに変わる。
そして、彼女が一息吹きかけると、その花びらは金貨となってテーブルの上に落ちた。
「どうかしら?」
「へえ......面白いねえ。なかなかの腕じゃないかあ」
結絆が興味深そうに言うと、エスメラルダは満足げに微笑む。
「それなら、お願いがあるの。私をこの劇場に雇ってほしいの」
「雇う?」
「ええ。私はただのマジシャンじゃないわ。本物の『魔法』を使えるの。でも、それだけじゃなくて、私はこの劇場の空気が気に入ったの。だから、ここで働きたいのよ」
結絆は、少し考え込むように顎に手を当てる。
そして、エスメラルダがどこかの魔術結社のスパイなのではないかと怪しむ。
「ふーん。なるほどねえ。で、何か裏があるのかい?」
「ふふ、どうかしら? でも、あなた達の劇場にとって、私の存在はきっとプラスになるはずよ?」
彼女の言葉と、確かな腕前を見せられた結絆は、ゆっくりと微笑む。
「いいねえ。試しに一週間、ここで働いてみたらいいよお。その間に、俺達の期待に応えられるか、見極めさせてもらうよお?」
「ええ、望むところよ!」
こうして、エスメラルダという名の緑髪の美少女マジシャンは、結絆のマジックシアターに新たな風を吹き込むこととなった。
マジックシアターの一室。
結絆は椅子に深く腰掛け、静かに紅茶を飲んでいた。
劇場での公演は順調であり、新しく加わったエスメラルダもすでに観客を魅了しつつあった。
だが、そんな平穏を破るかのように、控え室の扉が軽くノックされた。
「どうしたんだい?」
扉が開き、無表情な少女が一人、部屋へと入ってきた。
「結絆、報告があります、とミサカは資料をあなたの目の前に差し出します。」
ミサカ00000号はそう言いながら、タブレットを操作する。
「何か面白い話でも持ってきたのかなあ?」
「エスメラルダについての情報を提供します、とミサカは報告します」
「ほう?」
「彼女は学園都市外の魔術結社《水鏡の教団》の構成員であり、スパイとしてこの劇場に送り込まれた可能性が高いです、とミサカは伝えます」
結絆は微かに目を細めた。
直感が当たりすぎるのも、考え物である。
「......魔術結社ねえ。やっぱり、そういうオチかい」
「魔術の痕跡も確認済みです。彼女の使用するマジックは、技術だけではなく、実際の魔術によるものと判断されます、とミサカは補足します」
結絆はゆっくりとカップを置き、指を組んだ。
「スパイってことは、学園都市の情報を探ってるのかねえ?」
「その可能性は高いです、とミサカは分析します」
「なるほどねえ......まあ、普通なら追い出すなり始末するなりって話になるんだろうけど」
結絆は不敵に笑う。
「せっかくだし、逆に利用させてもらおうじゃないか」
「利用......とは?」
「こっちからも情報を抜き出すんだよお。スパイを泳がせるってのも、面白いじゃないかあ」
ミサカは無言で結絆を見つめる。
結絆は微笑みながら続けた。
「エスメラルダの行動を注意深く観察するよお。どこで誰と接触するか、何を探っているのか、そして......その先にいる《水鏡の教団》の動きを掴む。そうすれば、こっちが有利に立ち回れるからねえ?」
「合理的な判断です、とミサカは同意します」
「よしよし、じゃあしばらくはお楽しみってわけだねえ」
結絆は再び紅茶を一口飲むと、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「エスメラルダ、君は本当にいい贈り物を持ってきてくれたみたいだねえ」
マジックシアターの控え室。
公演の幕が下りた後、劇場内には静けさが広がっていた。
そんな中、結絆はソファに深く腰掛け、紅茶を片手に一息ついていた。
すると、扉が軽くノックされる。
「入って来てもらって大丈夫だよお」
開いた扉の向こうには、緑髪のマジシャン──エスメラルダがいた。
「ねえ、結絆さん。ちょっと付き合ってくれない?」
「ほお、もしかして、買い物の誘いかい?」
「違うわよ。ポーカーよ、ポーカー!」
エスメラルダはニヤリと笑いながら、片手にトランプを持って見せた。
「ポーカーねえ。急にどうしたんだい?」
「せっかくこの劇場にいるんだもの。オーナーであるあなたと、一度は勝負してみたかったのよ」
「へえ、面白いねえ。でもただの遊びじゃ退屈だよお?」
「もちろん。ただの遊びじゃつまらないわよね?」
エスメラルダはトランプを器用にシャッフルしながら、にんまりと笑う。
「だから、こうしましょう。何回か勝負して、勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられる。どう?」
「へえ......なるほどねえ」
結絆は微笑みながら、指をトントンとテーブルに叩いた。
「負けたら言うことを聞く......ねえ。そりゃあ面白いねえ。賭け事の基本はリスクとリターンだし、なかなかいい提案だねえ」
「でしょ?」
「でもいいのかい? 俺に負けたら、どんな命令をされるか分からないよお?」
「ふふ、逆も然りでしょ? 私が勝ったら、あなたに面白いことをしてもらうわ」
「おお、怖い怖い。じゃあ、やるとしようか」
結絆は軽く指を鳴らし、エスメラルダがテーブルにトランプを広げる。
「さあ、ポーカーの時間よ。お手柔らかにね?」
「いやあ、そっちこそ後悔しないようにねえ?」
二人のゲームが幕を開ける。
一試合目、テーブルの上にカードが並べられる。
エスメラルダは自信たっぷりに微笑みながら、自分の手札を公開した。
「ツーペアよ。なかなかいい手でしょ?」
「ふうん、確かに悪くはないねえ」
結絆は、ゆっくりと伏せていたカードをめくる。
「でも、俺はフルハウスだよお」
「えっ......!?」
場に広がるのは、3枚のクイーンと2枚のジャック。
エスメラルダは一瞬目を見開いた後、軽く肩をすくめた。
「......まあ、一回目は様子見ってことで」
「おやあ?賭け事の世界ではそれを負け惜しみって言うんじゃないかねえ?」
「うるさいわね、次は勝つんだから!」
エスメラルダはすぐさまカードをシャッフルし、再び配り始める。
二試合目が始まった。
「......ふふっ、今度は行けるかもね」
「自信があるんだねえ?」
結絆は変わらず余裕の笑みを浮かべたまま、カードを見つめる。
「私はスリーカード!」
エスメラルダが自信満々にカードを見せる。
しかし。
「いやあ、悪くないけどねえ。こっちはフラッシュだよお」
結絆が見せたのは、全てハートの5枚のカード。
エスメラルダの表情が一瞬固まる。
「......二連敗?」
「うんうん、いい勝負だったねえ」
結絆はにこやかに微笑みながら、テーブルの上で指を軽くトントンと叩いた。
「さて、二回とも俺の勝ちだけどお、最終的に勝ったら、何をお願いしようかねえ?」
「ぐっ......」
エスメラルダは悔しそうに唇を噛んだが、すぐに目を細め、不敵な笑みを浮かべた。
「......わかったわ。じゃあ、次から本気を出す」
「へえ、最初から本気じゃなかったって?」
「そりゃあ、遊びのつもりだったからね。でも、これ以上負けるのは気分が悪いわ」
エスメラルダはトランプを手に取り、シャッフルを始める。
「次は私が勝つわよ。覚悟しておきなさい」
「おお、怖い怖い。じゃあ、次も楽しませてもらうよお」
二人の勝負は、ますますヒートアップしていくのだった。
オリキャラを一人出してみました。
エスメラルダの話は、後2話くらい続きます。