学園都市の某所。
今日は珍しく、異国の客人が訪れていた。
「ふわあ~! 久々の学園都市なんだよ!」
白い修道服を身にまとった少女――インデックスが、目を輝かせながら辺りを見回す。
彼女の隣では、黒い外套を纏った青年――ステイル=マグヌスが煙草をくわえながらため息をつき、天草式の聖人――神裂火織が苦笑いを浮かべていた。
「しかし、まさか私達が再び学園都市を訪れる日が来るとは思いませんでしたね。」
神裂がしみじみと呟くと、インデックスが無邪気に頷く。
「そうだよ! 結絆がせっかく招待してくれたんだから、いっぱい楽しむんだよ!」
「私は別に遊びに来たわけでは......」
神裂はそう言いつつも、表情は柔らかい。
「おい、このエリアは禁煙だぞ?」
呆れたように言う警備員に対して、ステイルは「ちっ」と舌打ちして煙草を消した。
そんな三人の前に、ゆったりとした歩調で食蜂結絆が姿を現す。
「やあやあ、会うのは久しぶりだねえ。元気にしてたかい?」
にこやかに挨拶をする結絆に、インデックスが喜びながら近づく。
「結絆!久しぶりなんだよ、この前は先生を助けてくれてありがとう!」
「まあ、困ってる人がいたらほっとけないからねえ。今日は学園都市を楽しんでいってほしいよお」
「じゃあ、学園都市中の珍しい食べ物を食べつくすんだよ!」
そんなインデックスを見て、神裂とステイルが苦笑する。
「で? これからどうするんだい?」
ステイルが問いかけると、結絆は指を立てて提案した。
「せっかくだし、俺の拠点に招待しようかな? ちょっとしたおもてなしを用意してるからねえ」
「拠点?」
神裂が不思議そうに聞き返したが、インデックスはすでに興味津々だ。
「早速行くんだよ!」
その勢いに押されるように、ステイルと神裂も頷いた。
結絆の拠点――それは学園都市の一角にある、表向きは学園都市で一番のマジックシアターである。
「うわあ、すごいんだよ!」
豪華な内装を見てインデックスが歓声を上げる。
神裂も思わず感心し、ステイルは「学園都市の闇に関わる場所じゃないだろうな......」と疑いの目を向けるが、結絆はひらひらと手を振る。
今は表の時間だ。
「まあまあ、細かいことは気にしなくてもいいよお」
そして、結絆は、舞台の中央に立ち手を広げた。
「今日は特別に三人に、マジックショーをお届けしようと思ってねえ」
「マジックショー?」
「そう。せっかく異国から来たお客様だから、学園都市流のエンターテインメントを楽しんでもらおうかなあ?」
結絆が指を鳴らすと、天井から無数の光が降り注ぐ。
それはまるで星屑のように輝きながら、空間に浮かび上がった。
「わあ......!」
インデックスが目を輝かせる。
「さて、これはただの演出じゃないよお?」
結絆が軽く手を振ると、光の粒が集まり、巨大なトランプの形を作った。
そして、それが宙を舞い、まるで生き物のように踊り始める。
「すごい......これは超能力?」
神裂が驚きながら尋ねると、結絆は微笑んだまま首を振る。
「んー、まあ一部は正しいねえ。でもただの超能力じゃないんだよお」
結絆が指を弾くと、今度は光の中から無数の白い鳩が飛び出し、舞台を華やかに彩る。
「うわあ! まるで本物の魔法みたい!」
「......本物の魔法よりも洗練されているね」
インデックスが大はしゃぎする一方で、ステイルが興味深そうにショーを見ている。
学園都市の科学技術と超能力の融合――それは魔術師達にとって、とても新鮮だった。
「どうだい? 楽しめたかなあ?」
結絆が最後に深々と一礼すると、インデックスは大きく拍手した。
「すっごく楽しかった!」
「ふふ、楽しんでくれて何よりだよお」
結絆は満足げに微笑む。
神裂とステイルも、ショーの途中には完全に見入っていて、最後には驚きの表情を見せていた。
「学園都市でこんなに凄いマジックショーを見れるとは思ってもいませんでした......」
神裂が呟くと、ステイルも「そうだね」と同意した。
「このショーは凄かったね、魔術師よりも『マジック』を使いこなしていたからね。」
「ふふ、それは光栄だねえ」
そうして、学園都市での特別なひとときは、穏やかに過ぎていった。
そして、気付けば辺りは暗くなり始めていた。
インデックス達は夕食をどうするか考えていると、当麻から鍋パーティーの誘いが来たので結絆達は移動することにした。
当麻の部屋に着くと、そこには、鍋の用意をしながら談笑する当麻と操祈がいた。
「三人とも久しぶりだな!元気にしてたか?」
当麻が、ステイル達に話しかける。
「この前は世話になったね、こっちは皆元気にやっているよ」
「お兄様~、追加の具材は買ってきてくれたのよねぇ?」
「たくさん買ってきたよお、これだけあれば、好きなだけ食べられるねえ」
結絆達は、会話を弾ませながら、鍋の準備をするのだった。
「いえ~い! やっぱり大人数で食事をする時は鍋に限るんだよ!」
インデックスが感動したように鍋を見つめ、じゅるりとよだれを垂らす。
鍋の中では具材がグツグツと煮え、食欲をそそる香りが漂っていた。
「ほらほら、インデックス。そんなに前のめりになると火傷するよお?」
結絆が微笑みながら忠告すると、インデックスは「はやくたべたいんだよ!」と頬を膨らませる。
「はいはぁい、そろそろ火が通ってきたから食べるわよぉ~」
操祈が取り分けた具材を差し出すと、インデックスは歓喜の声を上げた。
「いただきまーす!」
勢いよく食べ始めるインデックスを見て、当麻が苦笑する。
「おいおい、そんなに急いで食べると喉に詰まるぞ」
「むぐむぐ......おいしい!」
「ふふっ、気に入ってもらえたみたいねぇ」
操祈も満足そうに微笑む。
一方、結絆はのんびりと箸を動かしながら、ぐつぐつと煮える鍋を見つめた。
「いやあ、こうしてみんなで囲む鍋っていうのは格別だねえ」
「そうだよな。まさに、平和って感じがするよな」
当麻がしみじみと呟くと、操祈がクスリと笑った。
「それにしても、結絆と当麻とインデックスの組み合わせって、なんだか不思議な感じがするわねぇ」
「んー、まあそれは気にしてもしょうがないってやつだねえ」
そう言いながら結絆は鍋の具材をすくい、静かに口へ運ぶ。
科学と魔術を使いこなす結絆、科学サイドにいながら幻想殺しを宿す当麻、そして魔術サイドの魔道書図書館であるインデックス、立場の違いに関係なく鍋を囲めるいい関係を築けているのである。
部屋には、しばらくの間、和やかな空気が流れていた。
――だが、その穏やかな時間は、突如として破られた。
ガシャン!
窓が突然割れ、冷たい風が部屋に吹き込む。
「なっ!?」
当麻が反射的に立ち上がる。
「......私の名は闇咲逢魔だ」
結絆が鍋の湯気越しに、侵入者を睨みつけた。
そこに立っていたのは、黒いスーツを着た一人の大男。
「......静かにしてもらおう」
闇咲逢魔――インデックスを狙う魔術師の一人のようだ。
その目は、まるで獲物を見定めるようにインデックスへと向けられていた。
「私は助けたい人がいる、インデックスを貸してほしい。」
低く響く声に、当麻はすぐに前へ出る。
「ふざけるな! インデックスを連れて行かせるわけにはいかねえ!」
当麻が拳を握る。
だが――
「無駄だ」
闇咲が、腕に装着している弦を弾くと、次の瞬間、無数の花びらのような風が舞い、室内の空間が歪んだ。
「くっ......!」
視界が乱される。
「っ!? インデックスちゃん!!」
操祈の叫びが響くが、時すでに遅し。
闇咲はインデックスの腕を掴むと、そのまま虚空へと飛び込んだ。
「インデックス!!」
当麻がベランダの外を見たが、そこには既に二人の姿はなかった――
そして、束の間の静寂の後、風が吹き抜け、割れた窓から生温かい空気が入り込む。
「......これは、随分と厄介なことになったねえ」
結絆はゆっくりと立ち上がりながら、外を見つめた。
「さて、さっさとインデックスを取り戻すとしようかねえ」
鍋パーティーいいですよね、大人数で鍋を囲むと盛り上がるので楽しいです。