結絆達は、かなりのハードスケジュールですね。
結絆達は、割れた窓から吹き込む生温い風を浴びながら、闇咲逢魔に攫われたインデックスの行方を考えていた。
「......やれやれ、いきなり連れ去るとは、なかなか強引な手口だねえ」
結絆が腕を組みながら呟く。
操祈も険しい顔をしていた。
「それでぇ? どうするのよぉ。あの子を助けないといけないんじゃない?」
「そうだな、さっさと助けに行こうぜ。」
当麻が強く頷く。
その時、神裂が前へと出た。
「私が魔術師の居場所を探します。」
神裂は落ち着いた表情で、ゆっくりと周りにある調理器具や文房具を配置し始めた。
「これで奴の居場所がわかるはずです。」
魔術が発動すると、室内に風が巻き起こり、空間がわずかに揺れる。
神裂は空気中の魔力の痕跡を辿り、闇咲が使った術式の残滓を探り始めた。
「......見えました。闇咲逢魔は学園都市の外れ、人工湖の近くにいるようです」
「おお、さすがだねえ」
結絆が感心したように微笑む。
「じゃあ、さっさと行くわよぉ」
操祈が立ち上がり、当麻も拳を握る。
「よし、インデックスを取り戻しに行くぞ!」
結絆達は神裂の導きによって、学園都市の外れにある人工湖へと向かっていた。
「ところで、闇咲逢魔の目的は何なんだろうねえ?」
結絆が歩きながら問いかけると、神裂が少し考え込んだ。
「詳しくはわかりませんが......さっき愛する者を救うために魔術を使っていると言っていましたね。」
「なるほどねえ......」
結絆は顎に手を当て、何かを考えるような仕草を見せる。
「それなら、幻想殺しが役に立つんじゃないかなあ」
「えっ?」
当麻が驚いた顔で振り向く。
「いやねえ、もし闇咲の目的が『何かの異常を打ち消すこと』なら、幻想殺しの力で解決できる可能性があると思ったんだよねえ」
「......確かに、一理ありますね」
神裂も納得するように頷いた。
「なら、闇咲の話を聞いてみる価値はありそうねぇ」
操祈が意味深に微笑む。
「まあ、まずはインデックスを取り戻すのが先だけどねえ」
結絆が軽く肩をすくめると、当麻は拳を握りしめながら前を見据えた。
「よし、行こう!」
こうして、結絆達は闇咲逢魔の待つ場所へと向かうのだった――。
人工湖のほとりにある廃墟の一角――。
重く冷たい空気が辺りを包み込んでいた。
結絆達は、静かにその場所へと足を踏み入れた。
「ここか......」
当麻が緊張した面持ちで周囲を見渡す。
神裂も鋭い視線を前方に向けていた。
そして、彼らが目にしたのは――
「ぐっ......あ、あぁぁぁぁぁぁッ!」
絶叫する闇咲逢魔の姿だった。
彼は地面に膝をつき、額を押さえながら苦悶の表情を浮かべている。
その体からは黒い瘴気のようなものが立ち上り、彼の周囲の空間を歪ませていた。
「何が......?」
操祈が目を見開く。
そして、結絆はすぐにその異変の原因を察した。
「これは......原典の汚染だねえ」
彼の視線の先には、拘束されたインデックスがいた。
その頭上には、魔術的な紋様が浮かび上がっている。
闇咲逢魔は、インデックスの脳内に記憶された魔導書を直接覗き見ようとしたのだ。
「愚かなことを......」
神裂が低く呟いた。
原典――つまり、魔導書を直視した者は、その絶大な情報量と魔術の本質に触れた影響で、心身が汚染されてしまう。
闇咲は、その法則を無視してインデックスの記憶を覗こうとした結果、自らがその呪いを受けてしまったのだ。
つまり、原典を使いこなしている結絆が規格外なだけなのである。
「は......はは......! これで......これで、彼女を......!」
闇咲は震えながらも、目の前に広がる魔術の世界に魅入られたような表情を浮かべていた。
だが、その瞳はすでに焦点を失いかけている。
「おい、まずいんじゃないか!?」
当麻が前へと踏み出そうとしたその時――
「......ッ!!」
突然、闇咲の体が激しく痙攣し、黒い瘴気がさらに強く吹き上がった。
「ひとまず、止めようかねえ」
結絆はそう言うと、手をかざし、自身の持つ原典の力を干渉させた。
次の瞬間、闇咲の体を覆っていた瘴気が徐々に収まり、彼は荒い息をつきながら地面に倒れ込んだ。
闇咲は地面に手をつきながら、苦しそうに息をしていた。
だが、それでもなお、その目には諦めの色はなかった。
「......私は......まだ......!」
彼は、震える手で懐に忍ばせていた道具に手を伸ばそうとする。
だが、次の瞬間――
「待てよ」
当麻の声が、静かに響いた。
「......?」
闇咲はその声に反応し、顔を上げる。
当麻はまっすぐに闇咲を見つめ、拳を握りしめていた。
「お前......誰かを助けたくて、こんなことをしてるんだろ?」
闇咲の表情が一瞬、わずかに揺らぐ。
「だったら、俺達にできることがあるかもしれない」
当麻の拳に力がこもる。
「助けたい人がいるなら、俺が手を貸す」
「......っ!」
闇咲の目が大きく見開かれた。
「そんなことを......私は、お前達に頼れる立場ではない......」
闇咲は震える声で叫ぶ。
「そんなことなんて知らねえよ。敵か味方かなんて関係ねぇ」
当麻は一歩前へ踏み出す。
「俺は......目の前に困ってるやつがいたら、放っておけるわけないだろ!」
その言葉は、何の打算もない、ただのまっすぐな意思だった。
闇咲は何かを言いかけたが、言葉にならなかった。
そして、沈黙の中――
「......ふふ」
静かに笑ったのは、結絆だった。
「相変わらず、凄いことを言うねえ」
結絆は苦笑しながら、当麻の背中を軽く叩く。
「ま、それが君のいいところだよお」
闇咲逢魔は、苦しそうに息をしながらも、その言葉を受け入れるように目を閉じた。
静寂が支配する病院の廊下。
結絆達は闇咲逢魔の後を追いながら、無言で足を進めていた。
「......着いたぞ」
闇咲が立ち止まり、重い扉に手をかける。
ゆっくりと開かれたその先には、薄暗い病室が広がっていた。
結絆達が足を踏み入れると、そこには一人の女性がベッドに横たわっていた。
彼女の顔色は青白く、身体は異様に痩せ細っている。
呼吸は微かに聞こえる程度で、まるで魂だけが抜け落ちたような姿だった。
「......彼女が?」
操祈が眉をひそめる。
「......ああ」
闇咲の声は、これまでにないほど弱々しかった。
「彼女は、私の......大切な人だ」
そう言って、彼は彼女の手をそっと握る。
「彼女は、元々は普通の人間だった。だが、ある日突然、呪いをかけられ、今の状態になった......」
「呪い、か」
結絆はじっと彼女を見つめた。
「どのような魔術か、分かるかねえ?」
「調べはついている......」
闇咲は苦しげな顔をしながらも、絞り出すように言葉を続けた。
「彼女にかけられた呪いは、古代の生贄の術式を応用したものだ。呪いは、特定の対象から生気を奪い続ける......。結果として、彼女は生きながらにして、少しずつ死へと引きずり込まれている」
「なんて非道な術式なのですか......」
神裂が怒りを滲ませる。
「放っておけば、確実に死ぬ」
闇咲の瞳には、深い悲しみが宿っていた。
「......だが、この呪いを解くには、術者を倒すか、それ以上の力で術式を解除するしかない」
闇咲は拳を握りしめ、苦しげに唇を噛んだ。
「私はどんな手を使っても彼女を救いたかった。だが、私の力では無理だった......!」
静寂が訪れる。
だが、その沈黙を破るように――
「だったらさ」
当麻が、ゆっくりと女性のもとへ歩み寄る。
「俺がやる」
闇咲が息を飲む。
「お前......」
「なあ、結絆、幻想殺し(イマジンブレイカー)で、呪いを打ち消せばいいんだろ?」
当麻は、ベッドに横たわる女性をじっと見つめる。
「......っ!!」
次の瞬間、結絆の目が鋭く光る。
「待つんだよお、当麻」
彼は素早く当麻の腕を掴んだ。
「......どうしたんだ?」
「この呪い......ただのものじゃない気がするねえ。触れた瞬間、迎撃の術式がくる可能性が高いよお」
結絆の声には、確かな確信があった。
「なるほどねぇ......つまり、当麻が触れたら、呪いのエネルギーが逆流して、下手をすれば当麻ごと吹き飛ばすってわけかしらぁ......」
操祈が、心配そうな顔をしながら推測する。
「......そういうことだよお」
結絆は当麻の手を放し、じっと彼を見つめた。
「でも、君なら、それでもやるんだろうねえ」
当麻は一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「ああ......」
彼は再び女性のもとへ歩み寄ると、そっと右手を伸ばした。
「......ッ!」
次の瞬間、病室全体がびりびりと震え、強烈な圧力が生まれる。
ベッドの上の女性の身体が淡く発光し、黒い靄のようなものが浮かび上がった。
そして――
「うおおおおおおおっ!!」
当麻が全力で拳を握り、黒い靄に向かって振り下ろす!!
パキィンッ!!
弾けるような音が響いた。
その瞬間、黒い靄が四散し、病室を覆っていた重苦しい気配が一気に消え去る。
「はぁ......はぁ......!」
当麻は肩で息をしながら、拳を握りしめていた。
「......うまく......いったのよねぇ?」
操祈が慎重に問いかける。
その答えは――
「......っ!」
闇咲が、驚愕に目を見開いたことで証明された。
女性の顔に、わずかではあるが血色が戻っている。
「......夢じゃないのか......?」
闇咲は震える手で、彼女の頬に触れる。
その時――
「......ぅ......」
か細い声が響いた。
闇咲の目が大きく見開かれる。
そして、女性の唇が、微かに動く。
それを見た闇咲の瞳から、涙が零れた。
「......よかったな」
当麻が、疲れた笑みを浮かべながら言う。
闇咲はそれに答えるように、静かに頷いた。
そして、結絆はそんな様子を見ながら、そっと目を細めた。
「まったく、君というやつは......」
彼は苦笑しながら、当麻の背中を軽く叩いた。
「本当に、どこまでも“ヒーロー”だねえ」
結絆は、操祈が当麻に惚れた理由を改めて理解した。
夜の病室には、安堵の空気が満ちていたのだった。
夏休み最後の日はまだ続きます。
結絆を色々な事件に関わらせようとすると、スケジュールが過密になりますね。