結絆はハードワークですね。
闇咲逢魔の件が一段落し、当麻達を見送った結絆は、夜の学園都市を歩いていた。
事件の余韻が残る静かな街。
「やれやれ、慌ただしい日々が続くねえ......」
結絆は軽く肩を回しながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
その瞬間、画面に「着信:一方通行」の文字が浮かび上がる。
「おやおや、珍しいねえ」
通話ボタンを押すと、すぐにおなじみの不機嫌そうな声が響いた。
『......おい、結絆』
「どうしたんだい? 君から直接連絡が来るなんて、雪でも降るんじゃないかねえ」
『クソくだらねェ冗談言ってる場合じゃねェンだよ。ちょっと頼みがある』
一方通行の声には、普段の飄々とした様子がなく、どこか焦りが滲んでいた。
「......ほう?」
結絆は軽く歩を止め、スマートフォンを耳に押し当てる。
『ガキがいなくなったンだよ』
「......ガキ?」
『打ち止め(ラストオーダー)だ、さっきまで一緒にいたのに、ちょっと目を離した隙にどっか行っちまった』
打ち止め(ラストオーダー)は美琴のクローンの一人である。
過去に結絆が保護し、一方通行に面倒を見てもらっているのだった。(気が向いたら過去編で書きます)
「なるほどねえ......つまり、君の保護対象がどこかに行ってしまったわけだねえ」
『......クソが』
一方通行の舌打ちが聞こえる。
彼がここまで焦るのは珍しい。
それほど打ち止めという少女の存在が、彼にとって大きいということなのだろう。
「心当たりはあるのかい?」
『......そォだなァ、前に、学園都市のどっかでクレープを食いたいとか言ってた気がする』
「なら、そのあたりを探せばいいねえ」
『......悪ィが、手伝え』
「ふふ、まあ君からの頼みだからねえ。断る理由はないよお」
そう言って通話を切り、結絆は学園都市の繁華街へと向かった。
夜のライトに照らされた賑やかな通り。
人の流れの中を探しながら、結絆は目を細めた。
「クレープ♪......クレープ♪......」
すると、不意に近くのベンチにちょこんと座る小さな影が目に入った。
特徴的なアホ毛を揺らしながら、クレープを両手で持っている少女。
「思ったよりも、あっさり見つかったねえ......」
結絆はゆっくりと近づいた。
「やれやれ、君はここにいたのかい?」
声をかけると、少女はパッと顔を上げた。
「......!」
キョトンとした表情の後、ぱあっと顔が明るくなる。
「わーい! 結絆さんだー! ってミサカはミサカは嬉しそうに駆け寄ってみたりー!」
言葉通り、打ち止めは嬉しそうに飛びついてきた。
「おっとっと......」
結絆は苦笑しながら、彼女の頭をポンポンと撫でる。
「一方通行が探していたよ。心配かけるんじゃないよお?」
「えへへ、ちょっと冒険したかったんだよ~、ってミサカはミサカは笑いながら理由を説明してみたり!」
無邪気な笑顔を浮かべる少女。
その姿に、結絆は思わず微笑んだ。
「まったく......君は本当に自由奔放だねえ」
「でも、結絆さんはミサカのことを見つけてくれたよね!」
打ち止めは満足そうにクレープを差し出す。
「お礼にミサカのクレープをあげるよ、ってミサカはミサカは一方通行に怒られたときにかばってもらえるよう賄賂を贈ってみたり!」
「はは、気持ちは嬉しいけど、君が食べなよお」
共犯者にされるのは、たまったものではないので、結絆は断ろうとする。
すると、打ち止めは頬を膨らませた。
「じゃあ、一口だけでもどうぞ!」
「......仕方ないねえ」
結絆はクレープを一口かじる。
打ち止めを見ながらクレープを食べていると、あの少女のことを思い出す。
結絆の表情が少し曇る。
「......美味しいねえ」
「えへへ!」
打ち止めが嬉しそうに笑う。
そんなやりとりをしていると、背後から不機嫌そうな声が聞こえた。
「......テメェら、のんきに何してンだ」
一方通行が腕を組んで立っていた。
「おやおや、君も、ここがわかったんだねえ」
「わーい!一方通行ー!」
打ち止めが笑いながら駆け寄ると、一方通行は大きくため息をついた。
「チッ、心配させやがって......」
そう言いながらも、どこか安堵したような表情をしている。
結絆はその様子を見ながら、くすりと笑った。
「君も大変だねえ、一方通行」
「......ったく、アイツがいなくなると落ち着かねェンだよ」
彼は不器用に頭を掻いた後、結絆を睨みつけた。
「助かった。......ありがとよォ」
「ふふ、君に感謝されるとは、光栄だねえ」
結絆は穏やかに微笑んだ。
夜の学園都市の空に、静かな月が輝いていた。
夜の学園都市の繁華街。
一方通行と打ち止めと結絆は、穏やかな時間を過ごしていた。
「ったく、心配かけやがって......」
一方通行が小さく呟きながら、打ち止めの頭を軽く叩く。
「えへへ、ごめんなさーい!」
打ち止めは笑顔で謝るが、一方通行の目はまだ少し鋭かった。
「相変わらず、振り回されてるねえ」
「チッ......コイツが勝手にいなくなるからだ」
結絆が微笑みながら言うと、一方通行は舌打ちをした。
その時だった。
「......あ、れ......?」
打ち止めが急にふらつき、膝をつく。
「ん? どうしたんだい?」
結絆が顔を覗き込むと、打ち止めの表情が苦しげに歪む。
「......頭が、痛い......ってミサカは......」
その瞬間――
バチッ!!
彼女の体が痙攣し、倒れ込んだ。
「ッ!? おい、どうした!!」
一方通行が慌てて駆け寄る。
結絆もすぐに駆け寄り、打ち止めの様子を確認した。
(これは......ただの発作じゃない......)
結絆の脳裏に、ある可能性が浮かぶ。
「......どうやら、脳に仕込まれていたウイルスが発動したようだねえ」
「......ハァ?」
一方通行が目を見開く。
「前兆はなかった......つまり、遠隔での発動か......それか、はぐれていた時に何かされたんだろうねえ」
「......くそッ、研究者ども......ッ!!」
一方通行の赤い瞳に、怒りが宿る。
だが、今は怒っている暇はない。
打ち止めを救うことが最優先だった。
「まずいねえ......放っておけば命に関わる」
結絆は冷静に打ち止めの体に手をかざした。
「君の能力でウイルスの進行を抑えられるかい?」
「チッ......やるしかねェ」
一方通行は指を鳴らし、能力を発動する。
打ち止めの体内を巡るウイルスの流れを、無理やり停止させる。
「オマエは何をする気だ?」
「俺は原典の力を使うよお」
結絆の周囲に黄金の光が揺らめく。
「少し時間はかかるけど、体内の時間を巻き戻して、ウイルスが侵入する前の状態に戻すとするかねえ......」
「......ハッ、相変わらず、チートみてェなマネしやがる」
一方通行が鼻を鳴らした。
「でもよォ、それをやってる間に妨害される可能性があるなァ」
「......だねえ」
レベル5の二人は、これから起こることを予測するかのように淡々と話す。
その時――
ガガガッ!!!
突然、銃声が響いた。
「やれやれ......やっぱり来たかい」
建物の影から、数人の研究者が姿を現す。
「おいおい、今更邪魔しに来るってわけかァ?」
一方通行がゆっくりと立ち上がる。
「そちらの子には貴重なデータが詰まっている。我々の研究のためにも回収させてもらう」
「それは、お断りだねえ、俺の仲間に手を出しておいて生きて帰れると思うなよ」
結絆は静かに手をかざす。
「当たり前だ、クソが」
一方通行はニヤリと笑った。
「お望み通り、蹴散らしてやるよ」
「撃て!!」
研究者達が一斉に銃を構えた。
だが、その弾丸が結絆や一方通行に届くことはなかった。
一方通行のベクトル操作により、全ての弾丸は逆方向へ弾き飛ばされる。
「チッ......!!」
研究員の一人が動揺した瞬間――
ゴッ!!
結絆の拳がその男の顔面に叩き込まれた。
研究員の頭が、文字通り吹き飛び、体が地面に沈む。
「次は誰の番かなあ?」
結絆の眼光が鋭く光る。
一方通行も前に出る。
「......まとめて吹っ飛ばしてやるよ」
一方通行が足を振り下ろした瞬間――
ドォンッ!!!
路面が爆発し、敵が一瞬で吹き飛んだ。
「ッ!!!」
「ば、馬鹿な......!!」
研究員達は恐怖に震えながら後退する。
「逃げるのかい? せっかく来たんだから、最後まで付き合ってもらうよお」
結絆が黄金の光を放つと、それを見た研究員達は叫びながら逃げ出した。
そして、研究員達に光が当たった瞬間、彼らは砂になった。
「チッ、手間かけさせやがって......」
一方通行が舌打ちをする。
「......さて、邪魔も片付いたことだし、続きといこうか」
結絆は打ち止めに手をかざし、黄金の光を放つ。
その瞬間、彼女の体内の時間が巻き戻り、ウイルスの侵入がなかったことになる。
「......ん......」
打ち止めの瞼がゆっくりと開く。
「......ってあれ? ミサカはミサカは......?」
一方通行がふっと息をついた。
「やれやれ、ったく......心配させやがって」
結絆も微笑む。
「君はもう大丈夫だよお」
「......よくわからないけど、助けてくれたんだね、ありがとー!ってミサカはミサカは二人に感謝の気持ちを述べてみる!」
打ち止めが無邪気に笑う。
その笑顔を見ながら、一方通行と結絆は静かに頷き合った。
二人の力で、少女は再び救われたのだった。
次回からは、新学期編になります。
姫神が、久々に出てきます。