食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回から、結絆たちの高校の二学期が始まります。




法の書編
新学期の始まり


 夏の暑さが、まだまだ残る学園都市。

 

今日から二学期が始まる。

 

「はあ......夏休み、終わっちゃったねえ......もっと遊びたかったんだけどねえ」

 

食蜂結絆は、登校しながら軽く伸びをする。

 

「ったく、お前何言ってんだよ。」

 

隣を歩くのは上条当麻。

 

「結絆、お前普通に夏休み楽しんでたじゃねぇか。海に行ったり、祭りに行ったり、挙句の果てには魔術師や天使とバトルまで......」

 

「うんうん、どれもいい思い出だねえ」

 

結絆は、笑みを浮かべながらそう話す。

 

「お前の基準、ほんとおかしいわ!!」

 

当麻がツッコミを入れていると、後ろから軽快な声が聞こえてきた。

 

「おっとぉ! そこの二人、しっかり青春してるかにゃー!!」

 

「......朝から賑やかだねえ」

 

振り返ると、そこには金髪サングラスの土御門元春と、エセ関西弁を話す青髪ピアスがいた。

 

「いやー、やっぱり新学期初日ってワクワクするやん?」

 

青髪ピアスがニヤニヤしながら言う。

 

「それでお前らは、何でそんなにテンション高いんだ?」

 

当麻が呆れたように聞くと、元春がニヤリと笑った。

 

「決まってんだろぉ? 新学期といえば、新しい女の子との出会いぜよ!!」

 

この言葉を、舞夏が聞いたらどう思うのだろうか......

 

「そうやでぇ! しかも今学期は転入生もいるってウワサやしなぁ!!」

 

「......本当に懲りないねえ」

 

結絆が苦笑いすると、元春が肩を組んできた。

 

「結絆、お前もイケメンなんだから、せっかくの機会だしもっと女の子と仲良くしたらいいんじゃないかにゃー?」

 

「......まったく、余計なお世話だねえ」

 

「そもそも、こいつもう色々な女子と関わってるだろ......」

 

当麻が呆れながら言うと、青髪ピアスが驚いたように手を打った。

 

「そーいや、お前常盤台の女王様の兄ちゃんやったな!?」

 

「うん、そうだよお」

 

「くそぉぉ!! なんでお前ばっかりに出会いが偏ってるんや!!」

 

青髪ピアスが涙を流しながら結絆の肩を揺さぶる。

 

「それは、日頃の行いだねえ......」

 

結絆は適当に受け流した。

 

「お前ら、バカ騒ぎしてないでさっさと行くぞ」

 

当麻が呆れながら歩き出す。

 

「まあ落ち込んでてもしゃーないしなあ......」

 

青髪ピアスが不満げに続こうとしたその時――

 

ドスッ!!

 

「ぐぅっ!? いったぁぁ!!」

 

突然、青髪ピアスの後頭部に何かが直撃した。

 

「お前達、朝から騒ぎすぎよ!!!」

 

現れたのは吹寄制理。

 

怪しい健康グッズを買っている女の子である。

 

「まったく、二学期早々騒がしいのが復活してるとは思わなかったわよ!!」

 

「ふ、吹寄!? いやいや、これは青春のエネルギーを発散してるだけやって!!」

 

「貴様らの青春には騒がしさしかないのか!!!」

 

 吹寄は拳を握りしめる。

 

「ま、まあまあ、落ち着いてほしいよお」

 

結絆が間に入るが、吹寄の怒りは収まりそうにない。

 

「ったく......このクラス、本当にバカばっかりだな......」

 

当麻がため息をつく。

 

「それが、良いところなんだよねえ」

 

結絆はどこか楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

 二学期が始まって最初のHR(ホームルーム)が終わった後、小萌先生が教室の前に立ち、新しいクラスメイトを紹介した。

 

 「今日は新しい仲間を紹介するんですよ~。転入生ちゃん、入ってきてくださ~い。」

 

そう言われて、扉が静かに開かれた。

 

そこから現れたのは、長い黒髪に、どこか儚げな雰囲気の少女――姫神秋沙だった。

 

「......姫神秋沙。よろしく」

 

簡潔な自己紹介。

 

彼女は特に感情を表に出すことなく、静かに一礼した。

 

(姫神......秋沙、だったねえ)

 

食蜂結絆は彼女を見て、少し懐かしい気持ちになった。

 

彼女とは以前、三沢塾で顔を合わせていたのだ。

 

姫神がハンバーガーを大量に頼んでいた時に、結絆が食べるのを手伝ったのはいい思い出である。

 

結絆は軽く手を上げて声をかける。

 

「やあ、姫神さん。久しぶりだねえ」

 

その声に、姫神が視線を向けた。

 

彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに落ち着いた表情を取り戻した。

 

「......あなたは、あの時の」

 

「うんうん、三沢塾の時以来だねえ。元気にしてたかい?」

 

「......うん。あなたのおかげで、今こうして普通の生活ができている」

 

彼女は少しだけ目を伏せて言った。

 

以前、三沢塾での事件に巻き込まれた彼女を、結絆や当麻が助けたことがあった。

 

「まあ、色々あったけど、こうやって新しいスタートを切れて良かったねえ」

 

「......感謝してる」

 

姫神は小さくそう呟いた。

 

すると、周囲の生徒達が興味津々に結絆と姫神のやり取りを見つめていた。

 

「おいおい、結絆! いつの間に転入生の知り合い作っとんねん!?」

 

青髪ピアスが驚いたように叫ぶ。

 

「うん、ちょっと前にねえ」

 

結絆がさらっと答えると、元春もニヤリと笑った。

 

「なるほどなぁ、つまり既にフラグも立ててるってわけですたい。」

 

「......そういうのじゃないんだけどねえ」

 

結絆は軽く肩をすくめた。

 

「姫神、こんな奴と関わって大丈夫なのか?」

 

当麻が半分冗談交じりに言うと、姫神は少し考えた後、静かに答えた。

 

「......私は、彼には感謝してる」

 

「おおっ!? なんかすごく信頼されてるやん!!」

 

青髪ピアスが興奮気味に叫ぶ。

 

「うんうん、いい関係だねえ」

 

結絆は微笑みながらそう言った。

 

こうして、姫神秋沙の転入初日は、少しにぎやかに幕を開けたのだった。

 

 

 

 自己紹介から少しして、姫神も少しずつクラスに馴染んできた。

 

 昼休み、結絆や当麻、元春、青髪ピアス、吹寄、姫神といった面々が集まって弁当を食べていると、話題は自然と姫神のことになった。

 

「そういえば姫神さん、君って確か......特殊な体質を持ってるんだよねえ?」

 

結絆が穏やかな口調で尋ねると、姫神は一瞬だけ戸惑ったような顔をした。

 

だが、すぐに小さく息をつき、静かに口を開いた。

 

「......うん。私は吸血殺し(ディープブラッド)っていう能力を持ってる」

 

「ディープブラッド......?」

 

当麻が首をかしげる。

 

「......私の血を吸った吸血鬼は、必ず灰になる。どんなに強い吸血鬼でも、例外なく」

 

その言葉に、一同は驚きの表情を浮かべた。

 

「吸血鬼を......殺す?」

 

吹寄が眉をひそめる。

 

「すごいなあ、それ......でも、吸血鬼って本当にいるんかいな?」

 

青髪ピアスが半信半疑の様子で尋ねる。

 

そんな彼を見て、結絆はクスッと笑った。

 

「うん、いるねえ。俺も一度戦ったことがあるよ」

 

その一言に、場の空気が凍りついた。

 

「......は?」

 

当麻が思わず聞き返す。

 

「吸血鬼と......戦った?」

 

元春が驚いた表情を浮かべた。

 

「うん、少し前の話だけどねえ。結構な強敵だったよ。あいつら、普通の手段じゃまず倒せないからねえ」

 

結絆は懐かしむように語るが、周りの面々は呆然としていた。

 

「ちょ、ちょっと待て、結絆! 僕達はついさっきまで吸血鬼なんてファンタジーの話やと思ってたのに、お前は普通に戦ったことがあるってどういうことやねん!」

 

青髪ピアスが信じられないと言わんばかりに叫ぶ。

 

「いやぁ、色々あるんだよねえ。俺の仕事柄、そういうのとも縁があるってわけだよお」

 

結絆は肩をすくめた。

 

「......よく生きて帰ってこれたね」

 

姫神は結絆をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。

 

「まぁ、流石に吸血鬼は学園都市にはいないはずだけどねえ。」

 

結絆は意味深に微笑んだ。

 

(吸血鬼......そんな存在までいるのかよ......)

 

当麻は、また一つ学園都市の外の世界の深さを実感するのだった。

 

 

 

 これは少し前のお話

 

学園都市の外――とある国の片隅での出来事だった。

 

その日、結絆は“用事”で異国の地を訪れていた。

 

用事のついでに裏の情報網を駆使し、魔術に関する異変を調査していた彼の耳に、「吸血鬼」の情報が入ってきた。

 

「吸血鬼ねえ......また随分とファンタジーな話だねえ」

 

結絆は呟きながらも、警戒を緩めることはなかった。

 

そして、その夜。

 

結絆は狭い路地で、それと遭遇した。

 

「......ククク。人間が一人、迷い込んできたか」

 

月明かりの下、現れたのは異様な存在だった。

 

長い銀髪、血のように赤い瞳。

 

黒いコートをまとい、まるで闇そのものと同化するかのような男。

 

「......いやあ、ここに来れば面白いものが見られるって聞いてねえ。君は、噂の吸血鬼さんかなあ?」

 

結絆は笑みを浮かべながら、自然な口調で尋ねる。

 

「ふん......人間の分際で我に話しかけるとは。愚かな」

 

男は不敵に笑うと、スッと腕を前に伸ばした。

 

――その瞬間、結絆の周囲の空気が変わる。

 

「......ほう」

 

気付けば、周囲の建物の影がまるで生き物のように蠢いていた。

 

「影を操る能力......いや、これは魔術か......」

 

吸血鬼は手をかざし、闇の中から無数の黒い槍を作り出した。

 

「楽しませてくれよ、人間!」

 

ズバァン!!

 

槍が一斉に放たれる。

 

超音速で飛んでくる魔術の槍を、結絆は冷静に見極めた。

 

「遅いねえ」

 

――シュンッ!

 

彼の身体が、まるで風のように動く。

 

超高速の移動によって槍をすり抜け、次の瞬間には吸血鬼の懐に入り込んでいた。

 

「なっ――!?」

 

驚愕する吸血鬼の胸元に、結絆の拳が炸裂する。

 

ドゴォン!!

 

吸血鬼の体が吹き飛び、建物の壁を突き破る。

 

「おやおや。吸血鬼ってのはもっと頑丈かと思ったけどねえ?」

 

結絆は余裕の表情を浮かべながら、ゆっくりと相手に近づいた。

 

「貴様......ッ!」

 

吸血鬼は血を吐きながらも、すぐに立ち上がる。

 

そして、腕をかざした瞬間――

 

バシュゥゥゥゥッ!!!

 

突如として、無数のコウモリが発生した。

 

その群れがまるで嵐のように結絆へと襲い掛かる。

 

「......本気を出してきたってことかなあ?」

 

結絆は軽く息をつくと、目を細めた。

 

――次の瞬間、彼の周囲に金色の光が広がった。

 

「“原典”の力、使わせてもらうよ」

 

結絆が軽く指を鳴らすと、周囲の空気が一変する。

 

まるで世界そのものが塗り替えられるかのように、金色の輝きがコウモリの群れを一掃した。

 

「な、何ッ!? 貴様、ただの人間では......!?」

 

動揺する吸血鬼の前で、結絆は静かに微笑んだ。

 

「さて......そろそろ決めようかねえ」

 

結絆はゆっくりと右手を掲げると、その手には黄金に輝く魔法陣が浮かび上がった。

 

「消えてもらうよお――」

 

彼の言葉と共に、魔法陣が炸裂する。

 

「ぐあああああああああ!!!」

 

吸血鬼は悲鳴を上げ、光に飲み込まれた。

 

やがて、彼の姿は灰のように消え去り、後にはただ静寂が残るだけだった。

 

結絆は軽く息をつくと、夜空を見上げた。

 

「......案外、吸血鬼も大したことなかったねえ。まぁ、こういうのがいるってことは、もっと厄介なのもいるのかもしれないけどねえ」

 

そう呟きながら、彼は夜の闇の中へと消えていった。

 

 

 

 吸血鬼を倒した後、結絆は静かに夜の森を歩いていた。

 

先ほど倒した吸血鬼――あれは単なる“手駒”に過ぎない。

 

もっと強大な存在が背後にいることは、彼の情報網でも確認済みだった。

 

そして、その存在が待つ場所へと足を踏み入れる。

 

人が立ち寄ることのない、深い森の奥。

 

そこに、闇の王がいた。

 

「......来たか、人の子よ」

 

響き渡る、重厚な声。

 

木々の間から現れたのは、一人の大男だった。

 

長く流れる白銀の髪、漆黒のローブを纏い、血のように紅い瞳を持つその姿。

 

周囲の空気すら支配するかのような圧倒的な存在感――まさしく吸血鬼の王。

 

「さっきの吸血鬼よりもやばそうだねえ......そして、君も吸血鬼のようだねえ?」

 

結絆が問いかける。

 

「......私の名は、エルンスト。この地を統べる吸血鬼の王である。」

 

エルンストは悠然と名乗ると、結絆を見据えた。

 

「貴様は、何者だ?」

 

結絆はふっと笑い、静かに答えた。

 

「食蜂結絆。ちょっとした“怪物”だよお」

 

次の瞬間――

 

ドンッ!!!

 

大地が揺れるほどの衝撃が走る。

 

エルンストの足元が砕け、彼の姿が消えた。

 

――否、超高速で結絆に迫ったのだ。

 

「ほう......!」

 

結絆は即座に腕を構え、強烈な拳を受け止める。

 

衝撃で、森の木々が吹き飛び、風圧が周囲を切り裂く。

 

「いきなりとは、ずいぶん荒っぽいねえ!」

 

結絆はエルンストの腕を弾き、後方へ跳ぶ。

 

しかし、その動きに呼応するように、エルンストも即座に詰め寄る。

 

――ズバッ!!

 

エルンストの指先が鋭い刃のように変わり、結絆の頬をかすめた。

 

「くっ......!」

 

結絆は間一髪で距離を取る。

 

その間に、エルンストは両手を広げ、まるで闇そのものを操るように魔術を発動させた。

 

「闇よ、全てを喰らえ――!」

 

ズズズ......!

 

大気が震え、漆黒の魔法陣が展開される。

 

そこから無数の影の獣が出現し、結絆へと襲い掛かった。

 

「......なるほどねえ」

 

結絆は静かに右手を掲げた。

 

「こっちも少し、本気を出させてもらうよ」

 

瞬間――

 

金色の光が結絆の全身を包み込む。

 

聖人としての神速の動き、そして“原典”の力が解放される。

 

結絆の手の中に、異世界の金属でできた金色の剣が形成される。

 

結絆は、銃以外にも剣も作っていたのである。

 

結絆は、それを振るうと、影の獣達は一閃で消滅した。

 

「なに......!?」

 

エルンストが目を見開く。

 

しかし、その動揺すら一瞬だった。

 

彼は即座に身を翻し、獲物を狩る獣のように結絆へ突進する。

 

「これは、恐ろしいねえ!!」

 

 

 

 二人の戦いは激化した。

 

超速の拳撃と剣撃が交差し、夜の森が戦場と化す。

 

一瞬の油断が即死を意味するほどの、苛烈な攻防。

 

互いに傷を負い、しかしどちらも引かない。

 

そして、ついに――

 

「......これで、決めるよお!」

 

結絆が剣を掲げると、上空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 

「“原典”よ......その力を示せ!」

 

天から降り注ぐ黄金の光が、エルンストを包み込む。

 

しかし――

 

「......ッ!」

 

エルンストは膝をつきながらも、にやりと笑った。

 

「フ......フフ......少しは効いたぞ!」

 

結絆は剣を収め、深く息をつく。

 

「......君は、中々しぶといねえ」

 

エルンストはゆっくりと立ち上がり、結絆を見た。

 

「貴様も......強いな、人の子よ」

 

しばしの沈黙の後、エルンストは微笑んだ。

 

「久しく、これほどの戦いを楽しんだことはない」

 

結絆も肩をすくめて笑う。

 

「俺もだよお......いやはや、まさか君とこんなにいい戦いができるとは思わなかったよお」

 

エルンストは腕を組み、静かに言った。

 

「貴様の強さ......認めよう」

 

結絆も頷く。

 

「お互いにねえ。君ほどの存在と敵対するのも疲れるし......友人になれたら、それが一番平和じゃないかねえ?」

 

エルンストは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「......いいだろう。貴様のような人間なら、悪くない」

 

結絆とエルンストは、がっちりと握手を交わした。

 

こうして、学園都市の“怪物”と吸血鬼の王は、奇妙な友情を築くこととなった。

 

 

 

 激闘の余韻を残したまま、結絆とエルンストは夜の森を抜け、静かな湖の畔へとやってきた。

 

そこには、エルンストが住んでいる屋敷があり、まるで、おとぎ話に出てくる古城のような佇まいを見せていた。

 

「......へえ、なかなか雰囲気のある場所だねえ」

 

結絆は屋敷の内部を見回しながら呟いた。

 

高い天井、燭台の灯りに照らされた重厚な石造りの壁。

 

まるで中世ヨーロッパの貴族の館のようだ。

 

エルンストは優雅に手を振り、席へと促した。

 

「人の子よ。戦った者同士、まずは食事を共にしようではないか」

 

結絆も軽く肩をすくめながら、席に着いた。

 

目の前には豪華な料理が並ぶ。

 

ローストビーフ、濃厚なスープ、香ばしいパン......どれも一級品の見た目だ。

 

「......これは、とてもうまそうだねえ」

 

エルンストは小さく笑うと、ワインのグラスを持ち上げた。

 

「当然だ。私の住まいに招いた客に、粗末なもてなしはせぬ」

 

結絆は目の前の料理に手を伸ばし、ナイフとフォークで肉を切り取る。

 

一口食べて、目を見開いた。

 

「......うん、これはとてもおいしいねえ。吸血鬼って、血ばかり飲んでるわけじゃないのかい?」

 

「無論、血は必要だ。だが、それは“生きるため”の糧に過ぎぬ。美食を楽しむことと、血を糧にすることは別の話だ」

 

エルンストはワイングラスを傾けながら静かに言った。

 

結絆もワインを嗜みつつ、ある話題を切り出す。

 

「ところで、君に忠告しておきたいことがあるねえ」

 

「ふむ?」

 

エルンストは興味深そうに結絆を見つめる。

 

「『吸血殺し』って言葉を聞いたことがあるかい?」

 

エルンストはワイングラスを置き、目を細めた。

 

「......聞いたことはある。が、詳しいことまでは知らぬ」

 

結絆はナイフを置き、真剣な表情で説明する。

 

「簡単に言えば、それを持つ者の血を吸った吸血鬼は――即死する」

 

「............ほう」

 

エルンストの表情がわずかに険しくなる。

 

「それほどの力を持つ者が、この世に存在するのか?」

 

「うん。俺は学園都市で実際に見たことがあるねえ。幸いなことに、その力の持ち主は吸血鬼を無差別に殺そうとはしていないけど......君も不用意に近づかない方がいいねえ」

 

エルンストは静かに頷いた。

 

「忠告、感謝する」

 

そして、彼は懐から一つの小さな箱を取り出した。

 

「私からも、ひとつ贈り物をしよう」

 

箱を開くと、そこには小型の指輪が収められていた。

 

それは青く透き通る宝石を嵌め込んだ、どこか神秘的な雰囲気を持つ指輪だった。

 

「これは?」

 

結絆が指輪を手に取ると、エルンストはゆっくりと説明を始めた。

 

「その指輪には水に関する魔術が込められている。私の一族が代々受け継いできた魔導書だ。」

 

「原典ってことかい......?」

 

結絆は指輪を眺めながら、そこから伝わる不思議な魔力を感じ取った。

 

どうやら、これはただの装飾品ではない。

 

「貴様ほどの者ならば、これを使いこなせるだろう」

 

エルンストは微笑しながら言う。

 

「友好の証として、受け取るがよい」

 

結絆はしばし考えた後、ゆっくりと頷いた。

 

「......いいのかい?」

 

「ああ。貴様とは剣を交えた仲だ。それに――」

 

エルンストは結絆をじっと見つめ、静かに続ける。

 

「貴様は“人の世の異端”でありながら、我々吸血鬼とも対等に接する者。そのような存在は、この世にそう多くはない」

 

結絆は少し考え、指輪を指にはめた。

 

瞬間――

 

指輪が淡い青色の光を放ち、彼の体に“何か”が流れ込む感覚があった。

 

「......これは」

 

まるで、水そのものが力となって体に馴染んでいくような感覚。

 

指輪の原典が、結絆に“水の力”を与えているのだ。

 

「中々面白いねえ......」

 

結絆は指を軽く動かしながら、その新たな力を確かめた。

 

エルンストは満足げに微笑む。

 

「それが貴様の力となることを願おう」

 

結絆も微笑み返し、グラスを掲げた。

 

「じゃあ、改めて......君との友好に、乾杯しようかねえ」

 

「ふふ......よかろう」

 

二人はグラスを鳴らし、吸血鬼と人間の奇妙な友情が、ここに正式に結ばれたのだった。




結絆の所有する原典の数が、増えていますね。

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