エンデュミオンや大覇星祭を長めに書きたいので、6巻の内容は今回でおしまいです。
夏休みも終わり、学園都市にはいつもの喧騒が戻っていた。
結絆は、放課後の校舎を歩いていた。
その傍らには、上条当麻の姿もある。
「で、結絆。今日はどこ行くんだ?」
「うーん、特に予定はないねえ。当麻は、何か気になることでもあるかい?」
結絆は軽く肩をすくめながら答える。
当麻は少し考えた後、あることを思い出したように手を叩いた。
「そういや、この前、ちょっと変わった子と知り合ったんだよな」
「ほう?」
「風斬氷華って名前の女の子なんだけどさ。どうも学園都市に来たばかりみたいで、知り合いもいないらしいんだよ」
「なるほど......それは、興味深いねえ」
「よかったら、結絆も会ってみないか? なんというか、不思議な雰囲気の子なんだよな」
結絆はしばし考えた後、軽く笑った。
「面白そうだねえ。じゃあ、行ってみようかね」
待ち合わせ場所は、学園都市のとある公園だった。
ベンチに座る一人の少女が、そわそわと落ち着かなさげに周囲を見回している。
「風斬ー!」
上条が手を振ると、少女はぱっと顔を上げ、少し嬉しそうな表情を浮かべた。
「上条さん!」
透き通るような白い肌、きれいな黒髪、そして、どこか儚げな雰囲気を纏った少女――風斬氷華。
「こっちは食蜂結絆。俺のクラスメイトで、なんというか、ちょっと変わったやつだ」
「いやいや、なんか、雑な紹介だねえ」
結絆は軽く笑いながら氷華を見つめる。
(......なるほどねえ)
彼女の姿を見た瞬間、結絆は直感的に“違和感”を覚えた。
普通の人間とは異なる、奇妙な“揺らぎ”。
それは、学園都市の科学サイドに深く関わる存在――虚数学区の一部。
(AIM拡散力場が......人の形を取ってる、ってところかねえ)
普通の人間には察知できないが、結絆ほどの力があればすぐに理解できる。
風斬氷華という存在は、本来この世界に“存在しないはずのもの”だ。
だが、結絆は特に動じることもなく、にこやかに手を差し出した。
「初めまして、風斬さん。俺は結絆だよお。よろしくねえ」
「え......えっと、よろしくお願いします......?」
風斬は少し戸惑いながらも、結絆の手を握る。
結絆はそのまま、彼女の手を優しく握りながら、微笑んだ。
「君は、ここにいてもいいんだよ」
「......え?」
その一言に、風斬の表情が変わった。
まるで、自分の正体を見透かされたような――しかし、それでも受け入れられたような、そんな顔。
結絆は軽く笑って続ける。
「君がどんな存在かなんて、関係ないねえ。当麻と友達なんだろお? だったら、俺とも友達になろうじゃないかあ」
風斬は、よくわからない表情を浮かべたものの、やがて少しずつ微笑みを見せた。
「......はい!」
その声は、どこか嬉しそうだった。
当麻はそんな二人を見て、ホッとしたように笑った。
「なんだ、お前ら意外とすぐに打ち解けたな」
「ま、俺も結構変わり者だからねえ」
結絆は肩をすくめ、風斬に向かって軽く手を振った。
「じゃあ、せっかくだし、どこかでお茶でもしようかねえ?」
「え......いいんですか?」
「もちろん。友達付き合いってのは、そういうものだからねえ」
風斬は少し驚いた後、嬉しそうに頷いた。
結絆はそんな彼女を見ながら、内心で思う。
(人間かどうかなんて関係ない。彼女は彼女だ。それだけで十分だと思うよお)
こうして、結絆は風斬氷華と新たな友情を結ぶのだった。
結絆と当麻、風斬の三人は、学園都市のとあるカフェで紅茶とケーキを楽しんでいた。
柔らかな午後の日差しが差し込み、窓際の席に座る三人を優しく包み込む。
「うーん、このケーキは美味しいねえ」
結絆はフォークでふわりとしたショートケーキをすくい、一口頬張る。
風斬もそっとカップを持ち上げ、紅茶の香りを楽しんでいる。
「紅茶って、こんなに美味しいんですね......」
「そうだろ! ケーキと紅茶の組み合わせは最強だからな!特に結絆の選ぶ店のやつは滅茶苦茶美味いぞ。」
当麻が豪快に笑いながらケーキを口に放り込む。
結絆はそんな彼を見て、くすっと笑った。
しかし、そんな穏やかな時間は突然破られた。
ゴゴゴゴゴ......ッ!
突如、カフェの外の地面が大きく揺れ、アスファルトが割れる。
そこから巨大な土の塊が盛り上がり、まるで生き物のように動き出した。
「な、なんだ!?」
当麻が立ち上がると、土の塊はみるみるうちに人型を成していく。
全身が硬い岩と土で構成され、異様な光を放つ眼を持つ巨人――ゴーレムが姿を現した。
「これは超能力じゃなさそうだねえ......学園都市で魔術を使うとは......随分と派手なことをするねえ......」
結絆はゆったりと紅茶の入ったティーカップを置きながら、目の前の怪物を見据える。
ゴーレムは咆哮を上げると、巨大な腕を振り上げ、カフェの壁を叩き潰そうとする。
「危ねえ!!」
当麻がとっさに動いた。
右手を前に突き出し、幻想殺し(イマジンブレイカー)が発動する。
バキィィィン!!!
ゴーレムの腕が触れた瞬間、ゴーレムの腕は轟音と共に粉々に砕け散る。
そのまま当麻は駆け出し、ゴーレムの胴体へと拳を叩き込んだ。
ドンッ!!
ゴーレムの体が大きく揺れ、一瞬の沈黙の後、ズゥゥン......と崩れ落ちていく。
「ふぅ......なんとかなったか」
当麻が息を整えながら振り向くと、その場にいた結絆と風斬は落ち着いた様子で彼を見ていた。
「さすがだねえ、当麻」
「こ、こんなことって......」
風斬は怯えながらも、どこか興味深そうに当麻の右手を見つめていた。
しかし、事態はまだ終わっていなかった。
「へぇ......中々やるじゃない」
低く冷たい声が響く。
三人が振り向くと、そこには、特徴的な服装に身を包んだ女性が立っていた。
「......誰だ?」
当麻が警戒する。
「シェリー=クロムウェル......」
結絆がぼそりとその名を口にする。
「イギリス清教の魔術師。だが、考え方の違いで学園都市やインデックスを狙ってるらしいねえ?」
シェリーはニヤリと笑う。
「詳しいな、お坊ちゃん。学園都市にもこれくらい魔術サイドに詳しい奴がいるとはね」
結絆は紅茶をひと口飲み、軽く微笑む。
「で、何のつもりだい? 学園都市で魔術を使うってのは、さすがにただの観光客として済まされるものじゃないだろう?」
シェリーは服に付いた土を払いながら、その鋭い目を光らせた。
「戦争の火種を作るためさ」
「......ほう?」
「学園都市と魔術サイド......この二つが完全に衝突すれば、どちらかが滅びるまで争うことになる」
「それを、お前は望んでるのか?」
当麻がシェリーを睨みつける。
「......私はただ、仕向けるだけよ。後は勝手に炎が燃え広がる」
結絆は静かに彼女を見つめる。
「ふーん......なら、今すぐここで君を止めたら、その火種は消えるんじゃないかねえ?」
結絆の目がわずかに鋭く光る。
シェリーは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑って肩をすくめた。
「そいつはどうかな」
その言葉と同時に、彼女の姿が消える。
ただ、遠くのビルの影から、小さく呟く声が聞こえた。
「......まあ、今日はこのへんで帰るとするさ。でも覚えておけよ。近いうちに、もっとでかい戦いが始まる」
その声が風にかき消されると、彼女の気配は完全に消えた。
「......なんだったんだ、あいつ」
当麻が苦々しく呟く。
結絆はしばらく考えた後、フッと笑った。
「ま、いずれわかるさ。彼女が撒いた火種が本当に燃えるかどうかはねえ」
風斬は不安そうに結絆を見た。
「戦争って......そんなこと、本当に起こるんですか?」
結絆は風斬の不安を和らげるように、優しく微笑んだ。
「大丈夫だよお、風斬さん。俺達がいる限り、そんなことはさせない。」
当麻もそれに頷き、右手を握りしめる。
「そうだな。......俺達が守ってみせるさ」
学園都市の午後は、何事もなかったかのように穏やかに戻っていった。
だが、その裏では確かに、新たな戦いの予兆が静かに広がり始めていた。
一方、平穏なはずの学園都市・第七学区。
しかし、その静寂は突如として破られた。
ゴゴゴゴゴ......ッ!
轟音とともに、地面が大きく割れ、巨大な土塊が盛り上がる。
瞬く間に人型を成し、ビルの三階ほどの高さのゴーレムが姿を現した。
周囲の建物を押しのけながら、ゆっくりと前進する。
「くっ......!! 土の巨人を操るとは、原理はわかりませんが、まずは逃げ遅れた人の非難が優先ですわね!!」
白井黒子は唇を噛みしめながら、街に取り残された人々を見渡した。
風紀委員(ジャッジメント)の一員として、まずは市民を避難させるのが最優先だ。
「皆さん、急いで避難してくださいまし! 」
黒子は空間移動(テレポート)を駆使し、逃げ遅れた人々を次々と安全な場所へ移動させる。
しかし、ゴーレムの動きは速く、地面を砕きながら黒子へと迫る。
ドゴォォン!!
巨体が足を踏み出すたびに道路が陥没し、街灯がなぎ倒されていく。
黒子は焦る気持ちを抑えながら、最後の一人を避難させるべく飛び出した。
だが――
「くっ......間に合いませんの......!!」
次の瞬間、ゴーレムの巨大な拳が黒子目掛けて振り下ろされる。
逃げる時間がない。
(しまった......!!)
そう思った瞬間だった。
バチバチバチィッ!!!
雷鳴と共に、青白い電撃がゴーレムの腕を貫いた。
ドォォォン!!!
ゴーレムの腕が爆裂し、土塊となって崩れ落ちる。
黒子が目を見開く。
「まったく......アンタ、一人で無茶しすぎじゃない?」
その声の主は――
「......お姉様!!」
常盤台のエースである少女――御坂美琴が、颯爽と現れた。
「黒子、避難は終わったの?」
「は、はい! これで全員ですの!」
「なら、こいつを倒すのに専念できるね」
美琴はニヤリと笑い、帯電する指をゴーレムに向ける。
次の瞬間、彼女の周囲に無数の電撃が発生し、空気を焼く音が響いた。
「さぁ、行くわよ!!」
そして、彼女の代名詞でもある、超電磁砲(レールガン)が繰り出される。
ズドォォォン!!!!
超高速の硬貨がゴーレムの胸部を貫き、その巨体を大きく吹き飛ばす。
衝撃波が周囲を巻き込み、ゴーレムは大破した。
「ふぅ......どうやら、これで決まりみたいね」
美琴はホッと息をつき、黒子へと振り向いた。
「助かりましたの、お姉様!」
黒子は嬉しそうに美琴に抱きつくが、次の瞬間――
「ちょ、ちょっと黒子!? いきなりくっつくな~!!!」
「お姉様ぁぁ~~♡」
こうして、学園都市第七学区の危機は、美琴と黒子の活躍によって幕を閉じたのだった。
一方、結絆達は、逃走したシェリーを追い詰めていた。
ゴォォォォォッ!!!!
瓦礫が弾け飛び、砂煙が舞う。
シェリー=クロムウェルが操る巨大なゴーレムが、轟音とともに結絆と当麻の前に立ちはだかる。
「ハッ、流石にタフなもんだねえ......」
結絆は苦笑しながらも、冷静にゴーレムを破壊する。
一方、当麻は右拳を握りしめ、警戒を解かない。
「しつけぇな......お前らも、学園都市の犬ってわけか......!!」
シェリーは悔しそうに唇を噛みながら、指先を地面に滑らせる。
すると、また新たなゴーレムが地中から隆起し、結絆達に襲いかかった。
ドゴォォォン!!!
「っと!!」
結絆は素早く跳躍し、ゴーレムの攻撃を回避。
そのまま着地すると、鋭い視線をシェリーへ向けた。
「どうしてこんなことをするんだい?」
「......あんた達に、理解できるわけがない!!」
シェリーの叫びとともに、再びゴーレムが拳を振り下ろしてくる。
しかし――
バシュゥン!!
当麻の右手が振るわれ、ゴーレムの拳が幻想殺し(イマジンブレイカー)によって掻き消される。
「もうやめろよ! こんなことをしても、誰も喜ばねえじゃねえか!!」
当麻の声に、シェリーの動きが一瞬止まる。
その目には、深い怒りと悲しみが宿っていた。
「......喜ぶ? そんな言葉が、私に届くと思ってるのか?」
シェリーは歯を食いしばり、手を握りしめる。
「私はかつて、学園都市とイギリス清教が合同で行った魔術師と能力者を融合させる実験の被験者だった......!!」
「......っ!?」
当麻と結絆が思わず息を呑む。
シェリーは続けた。
「二十年ほど前、能力者に魔術を使わせることができれば、どれほど強大な力を生み出せるか――それを試す実験が行われた。しかし、結果は......」
シェリーの目が険しくなる。
「......失敗したのよ。実験に参加した私の親友は血まみれになった後に、無惨に殺された......」
重い沈黙がその場に落ちる。
結絆は、体の構造を組み替えることで魔術をノーリスクで使えるようになっているが、普通の能力者は魔術を使うべきではない。
実際に、能力者である土御門元春も、御使堕しの際に魔術を使用して重傷を負っている。
能力者は普通の人間とは体の"回路"が違うのである。
シェリーの拳は震え、その感情が伝わるほど強く握りしめられていた。
「学園都市は『魔術と科学の融合』なんて夢みたいなことを語りながら、結局、実験の失敗を隠蔽し、私の親友を犠牲にした......!!」
彼女の怒りが爆発する。
「だから私は復讐する! 学園都市とイギリス清教、その両方を地獄に突き落としてやる!!」
結絆は静かにシェリーを見つめる。
その瞳には怒りや軽蔑ではなく、どこか哀れみが込められていた。
「......そうかい。だけど、そんな復讐をしても、君の親友が喜ぶとは思えないねえ」
「何......?」
シェリーが鋭く睨む。
しかし、結絆は微笑んだまま、肩をすくめる。
「君が幸せに生きて、そして死んだ後に親友に面白い話を聞かせてあげた方が、ずっといいんじゃないかい?」
「っ......!!」
シェリーは言葉を詰まらせる。
「それにねえ」
結絆は少しだけ表情を引き締めた。
「俺は学園都市のやり方を全面的に肯定するつもりはないけど、だからって『学園都市にいるすべての人間が敵』って考えは、短絡的すぎるんじゃないのかい?」
シェリーの拳がわずかに揺れる。
「......お前らの言葉なんて、信じられるか......!!」
その瞬間、彼女は再びチョークを滑らせ、新たなゴーレムを召喚しようとする――
だが、次の瞬間――
「もうやめろっつってんだろ!!」
当麻が駆け出し、右手を振り抜いた。
その手がシェリーのチョークを握る手に触れた瞬間――
幻想殺しが、彼女の魔術をかき消した。
「っ......!!」
シェリーの身体がガクリと揺れる。
崩れ落ちそうになる彼女を、結絆がそっと支えた。
「......君の気持ちは分からなくもないよ。でも、復讐が終わった後、君は本当に幸せになれるのかい?」
シェリーは俯いたまま、拳を握りしめる。
そして――
「......くそっ......!! なんで、こんな......!!」
声を震わせ涙を流しながら、彼女はその場に崩れ落ちた。
――こうして、長きに渡る復讐の炎は、静かに消えていった。
あっさりした感じですが、シェリーとの戦いはこれで終わりです。