放課後、学園都市の駅前通りは帰宅する学生達で賑わっていた。
「ねぇ当麻ぁ、せっかくだしどこか寄ってかなぁい?」
操祈が当麻の腕に軽く手を添えながら、小首を傾げて問いかける。
彼女の口調はいつも通りの甘えたようなものだったが、どこか楽しげな雰囲気が混じっていた。
「んー、そうだな......特に予定もないし、どこか適当にぶらつくか?」
「じゃあ私にお任せしてくれる? 今日は当麻を私がエスコートしちゃうんだゾ☆」
そう言って操祈は、当麻の腕を軽く引きながら歩き出す。
まず、二人が向かったのは、駅近くのクレープ屋だった。
甘い香りに誘われて、操祈はメニューをじっくりと眺める。
「私はやっぱり、いちごチョコホイップにしようかしらぁ。定番だけど間違いないわよねぇ」
「じゃあ俺はバナナカスタードで」
二人並んでクレープを受け取り、近くのベンチに座る。
「ふふっ、こういうのも悪くないわよねぇ」
「まぁな。放課後に甘いもん食いながらのんびりってのも、いいよな!」
操祈は満足そうにクレープを頬張りながら、当麻をちらりと見た。
「ねぇねぇ、当麻は最近何か面白いことあったぁ?」
「面白いことって言われてもなぁ......ああ、昨日、上条家の冷蔵庫が完全に空っぽだったっていう大事件があったぞ」
「なにそれ、ただの節約生活じゃない?」
操祈は思わず吹き出す。
「いや、マジでなんもなかったんだよ。飲み水すら怪しかったからな......」
「もう、当麻ってば、ちゃんと栄養考えてるぅ? そんなんじゃ私が養ってあげたくなっちゃうじゃない」
「うっ、本当に頼りっきりになりそうだから、それは遠慮しとく......」
「ちぇー」
操祈が頬を膨らませて拗ねたふりをすると、当麻は苦笑しながらクレープを頬張った。
その後、二人はゲームセンターへと足を運んだ。
クレーンゲームでぬいぐるみを狙う操祈の横で、当麻は彼女の様子を見守る。
「よーし、ここで決めちゃうわよぉ」
慎重にレバーを操作し、アームで狙いを定めた。
しかし、掴んだと思ったぬいぐるみは、残念ながら途中で落ちてしまう。
「んもぉ! こういうのって絶対操作されてるわよねぇ!」
「そんな簡単に取れたら店が儲からないからなあ」
「じゃあ、当麻が取ってくれたら許してあげるわよぉ」
「なんで俺が?」
「いいからいいから、ほら!」
操祈に半ば押しつけられる形で当麻も挑戦することになり、一発でぬいぐるみをゲットする。
「えぇぇ!? なんで当麻はできるのよぉ!」
「たまたまだろ、ほら」
そう言って、当麻は操祈にぬいぐるみを渡す。
「......ふふっ、じゃあこれは私のお守りにしちゃおうかなぁ」
そう言いながら食蜂は嬉しそうにぬいぐるみを抱えた。
最後に、二人は夜の公園を少し散歩することにした。
昼間とは違い、静かな雰囲気が心地よい。
「今日は楽しかったわよぉ。当麻とこんな風にのんびりできるの、私は凄くうれしいのよぉ」
「そうだな、また一緒にいろんなところに行こうぜ!」
操祈の機嫌は終始よく、当麻もどこか穏やかな表情をしていた。
そんな他愛のない会話を交わしながら帰路についていた二人だったが、突然、道端で座り込んでいる金髪のシスターの姿が目に入った。
ゆったりとした修道服を身にまとい、道に迷っているようで目をキョロキョロさせている。
「......?シスターか?」
「んー? なんだかちょっと、普通じゃない雰囲気の人よねぇ」
近づくと、シスターは二人の方を向き、穏やかな笑みを浮かべた。
「おや、これはこれは。素敵なご縁というべきでしょうか。お初にお目にかかります、オルソラ=アクィナスと申します」
「オルソラ......さん?」
「ええ、そうですのよ」
優雅に名乗るオルソラだったが、その表情はどこかのんびりとしていて、掴みどころがない雰囲気を醸し出している。
「ところで、お二人はお散歩の途中なのでしょうか?それとも、何か目的があってこの道をお選びになったのでしょうか?私は道に迷ってしまいましてね......」
「え、いや、俺達はただ帰ってるだけなんだけど......行きたいところがあるなら案内するぞ」
「まあ、そうでしたの。それはそれは。道というものは、時に人を導くものですし、歩むことで新たな発見があるものですのねぇ......」
「ええっと......?オルソラさん?あなたはどこへ向かおうとしてるんですか?」
当麻は困惑しながらも相手の言葉を理解しようとするが、話がどんどん予想外の方向へと流れていく。
「近々この辺りに教会ができるのですよ、今はそこへ向かっておりまして......」
「う、うん......?あぁ、そこなら、この電車に乗ったら行けるぞ。でも今日はもう動いてないか......」
学園都市の公共交通機関は、最終便が早いのである。
当麻は頑張って道案内をしようとする。
しかし、当麻達の近くにバスが停車し、オルソラはバスに乗ろうとする。
「丁寧にありがとうございます、では......」
「ちょっとぉ、人の話を聞いてるのぉ?そのバスに乗ったらダメなのよぉ!」
操祈がオルソラを止めようとする。
「あら、そうですか。では、あちらに向かって歩けばいいのですね」
「そうそう、って......そっちじゃねぇ!」
目的地と反対方向に歩いていこうとするオルソラを見て、当麻達は心配になる。
「お二人とも、親切にありがとうございました。」
漸く、オルソラは正しい方向へ進んでいく。
当麻と操祈は、がっくりと肩を落とした。
こうして、金髪のシスターとの不思議な出会いが、彼らの帰り道をちょっとした?騒動へと変えていったのだった。
一方その頃、結絆は、静かな夜の学園都市を歩いていた。
月明かりがビルの間から差し込み、街路樹が風に揺れる。
彼の手元には、一枚の写真があった。
金髪でゆったりとした修道服をまとった女性——オルソラ=アクィナス。
数十分前、ステイル=マグヌスから急な連絡が入った。
『そちらにオルソラというシスターが行っているそうです。学園都市にはあまり関わらせたくないので、保護してもらえると助かります。』
特に詳細な説明はなく、ただ「学園都市にいるべき存在ではない」とだけ告げられた。
(俺に頼むってことは、魔術側の人間が動きづらいってことかねえ......)
結絆は軽くため息をつきながら、オルソラの行方を探して街を歩いていた。
そんな折、結絆の視界に、馴染み深い二人の姿が映った。
「おーい、当麻、操祈」
声をかけると、帰宅途中だった二人が足を止めた。
「あれ? 結絆じゃねえか、こんな時間にどうしたんだ?」
「お兄様ぁ、こんな時間に何をしてるのぉ?」
「ちょっと人探しをしていてねえ。......この金髪のシスターを見なかったかい?」
「......金髪のシスター?」
当麻と操祈が顔を見合わせる。
「もしかして......オルソラって名前の?」
「ほう、心当たりがあるみたいだねえ。」
「ああ、さっき帰る途中で会ったからな。何というか、すっごくのんびりした人でさ。話が回りくどくて、まともに会話するだけで疲れたっていうか......」
「まあでも、悪い人ではなさそうだったわよぉ?」
結絆は写真を取り出し、二人に見せた。
「そいつだね?」
「うん、間違いなくこの人だ」
当麻達は、苦笑いをしながら首を縦に振る。
「それで、そいつは今どこに?」
当麻が頬をかきながら答える。
「うーん、最後は『教会に行く』って言ってたから、向こうにある教会に向かってるんじゃないか?」
「なるほどねえ......」
結絆は考え込む。
オルソラが教会に向かっている可能性が高い。
しかし、のんびりした性格の彼女が、まっすぐ教会に向かっているとは思えなかった。
(ステイルが言うには、学園都市には関わらせるな、か......それだけの理由があるってことは、何かしらの問題があるんだろうねえ)
「よし、ありがとう。当麻、操祈。こっから先は俺が何とかするよお」
「そっか。でも、あんまり乱暴にしないでくれよ。オルソラさん、別に悪いことしてるわけじゃなさそうだったし」
「そうだねえ、まあ、今回は彼女の保護に向かってるから心配しなくて大丈夫だよお」
そう言い残し、結絆は夜の街へと消えていった。
果たして、すぐにオルソラを見つけることはできるのか......
学園都市の夜風が静かに吹き抜ける中、結絆は繁華街の一角にある小さなカフェの前に立っていた。
ステイルに頼まれた「金髪のシスター」を探していたが、ようやくその姿を見つけたのだ。
ガラス張りの店内では、オルソラ=アクィナスがのんびりと紅茶を楽しんでいた。
周囲の客がスマホやノートPCで作業をしているのとは対照的に、彼女はまるで中世の貴族のように優雅にカップを傾けている。
(......教会に向かってたんじゃなかったのかい!?)
結絆は呆れてため息をつきながら、店内へと足を踏み入れた。
「やぁ、オルソラさん?で合ってるよねえ、ちょっと話があるんだけどいいかい?」
「まあまあ、それはまたどうしてでしょう?」
オルソラは相変わらず穏やかな口調で微笑む。
しかし、結絆は彼女の背後にある問題を知っている。
「詳しい話は後にしようか。......君を迎えに来た人達がいるんだよお」
「まあ、それはそれは。丁度、道に迷っていて困っていたのですよ」
オルソラはまるで事態の深刻さを理解していないかのように、のんびりと紅茶を飲み干すと、ようやく立ち上がった。
結絆はオルソラを連れて学園都市の外れまで移動した。
都市の境界線を越えた場所には、ステイルやローマ正教のシスター部隊が待機していた。
「お手数をおかけしました、結絆さん」
ステイルが頭を下げながら、結絆を出迎えた。
結絆は苦笑いしながら軽く肩をすくめる。
「遅れて悪かったねえ、なにぶんのんびりした人だったもんでねえ」
オルソラはそんな二人の会話をよそに、穏やかに微笑んでいた。
「無事に連れてきてもらえて助かりました。ありがとうございます。」
ステイルの隣にいたシスター達も、結絆に向かって深々と頭を下げる。
「オルソラは、教会に向かっていると思ったらカフェで紅茶を飲んでたからねえ。......それで、この人は何か大事な秘密でも抱えてるのかい?」
「それは......」
ステイルが何かを言いかけた、その瞬間——。
「そこまでなのよな!」
突然、周囲の空気が張り詰めた。
結絆が即座に振り向くと、複数の人影が茂みの向こうから飛び出してきた。
服装は一般人の普段着と変わらないが、各々が独特な武器を構えている。
「......おや、これは天草式かねえ」
結絆はすぐに彼らの正体を見抜いた。
天草式十字凄教、かつて弾圧を受けていた組織であり、今は独自に活動する魔術師集団。
その実力は、ただの魔術結社の枠を超えている。
「オルソラをお前達に渡すわけにはいかんのよな、我々と来てもらおうか」
リーダー格の男がそう告げる。
「......どうやら、俺が帰るのはもう少し後になりそうだねえ」
結絆は、ゆっくりと構えを取るのだった。
結絆達が、天草式と遭遇しました。