道を踏み外した警備員達
学園都市のとある場所、郊外にひっそりと佇む無人の倉庫。
表向きは使用されていない廃施設のはずだったが、結絆の持つ情報網によれば、ここで極秘の人体実験が行われているという噂があった。
「......まったく、夜中にこんなとこで調査かい。ホント、俺も暇じゃないんだけどねえ」
夜風に金色の髪をなびかせながら、結絆は小さく呟いた。
しかし、足を止めることはない。
能力を使い暗闇に目を慣らし、影に溶け込むように倉庫へと侵入する。
内部は静まり返っていたが、通路の奥にはかすかに人の気配があった。
「ほお、やっぱり何か隠してるってわけかい」
結絆は微笑むと、迷いなく進んでいく。
ドンッ!!
突然、倉庫内に響く銃声。
弾丸が壁にめり込み、火花が散る。
「――侵入者発見、排除する!!」
冷徹な声とともに、武装した複数の男達が現れた。
彼らの装備には見覚えがある。
学園都市の治安組織である警備員(アンチスキル)内の一部署・DA(ディシプナリー・アクション)。
「おっと、歓迎が手荒いねえ?」
結絆は不敵に微笑みながら、軽く身を引く。
DAは、かつて懲戒処分を受けた後に警備員を見限った者達が集まった組織だ。
彼らは独自の正義を掲げ、己の正義のためなら、どんな非合法な手段も厭わない。
「お前のような奴がここにいるということは、我々の活動が漏れたということだな......だが、それ以上の情報は持ち帰らせん!!」
男達は一斉に武器を構える。
カチャリ――
次の瞬間、全員がトリガーを引いた。
ドドドドドドッ!!
一斉掃射。
だが――
「フン、甘いねえ」
結絆の身体が、一瞬にして消えた。
ヒュンッ!!
結絆は、超人的な速度で間合いを詰め、最前列のDAの隊員の腹部に拳を叩き込む。
ドゴッ!!!
「ごっ......!!」
男が肉塊になり、他の隊員が一瞬怯んだ隙に――
結絆は背後に跳躍し、壁を蹴って天井へ。
「ちょっとは楽しませてくれるかと思ったんだけどねえ......」
そして――
ズバァン!!!
空中で身体を捻りながら、瞬時にDAの隊員達の武器を叩き落とす。
彼らが再び立て直す前に、結絆は超音速の拳を振るった。
ドガァッ!
ゴシャッ!
「がっ......!?」「ぐああっ!!」
数秒後、DAの隊員は全員沈黙した。
「さてと......何を隠してたのか、見せてもらおうかあ?」
結絆は倒れた隊員達を横目に、奥の部屋へと進む。
扉を開くと、そこには複数のガラスケースが並んでいた。
その中には――
「......なっ?」
結絆の表情が一瞬、固まる。
ガラスケースの中には、人間の脳や死体と思しきものがいくつも保存されていた。
ただの人体実験ではない――
これは、何かもっとヤバいものだ。
その時――
突然、結絆の端末が振動した。
表示されたのは、学園都市の統括理事会の名前。
『これ以上本件に踏み込むな』というメッセージが表示される。
「......やっぱり、そういうことかい」
結絆は画面を眺めながら、口元を歪ませる。
学園都市の闇がまた一つ、暴かれようとしていた。
夜の学園都市。
ネオンの灯りが微かに揺れるビルの屋上で、二人の男が対峙していた。
「おい、結絆。一つ、気になる話を聞かせてやる」
一方通行が足を組みながら、目の前にいる結絆に目を向ける。
「ん? 何か面白い話かい?」
結絆は興味深そうに微笑んだ。
「DAの野郎どもがなァ......最近、『能力者の死体を格納した大型の機械』を使ってるって話だ」
「......死体?」
結絆の表情から笑みが消える。
「どういうことかい?」
一方通行は忌々しげに舌打ちしながら続けた。
「詳しい仕組みはわかんねェが......死んだ能力者を再利用して、何かを作ってやがるらしい。たぶん、そのうち、生きた能力者でも使おうって腹なんじゃねェか?」
「......ふざけた話だねえ」
結絆の目が鋭くなる。
学園都市の闇についてはかなり知っているが、ここまで非人道的な実験が行われているとは......。
「おっと、のんびり話してる場合じゃねェなァ」
一方通行がそう言った直後――
ズドォォォン!!!
遠くのビルが爆発した。
直後、巨大な影が現れる。
ビルの上にそびえ立つのは、異形の機械。
その機械は、頭部を巨大化させた不気味な構造をしていた。
機械の大きさは5メートルは超えていて、腕部には鋭利な刃が何本も並んでいる。
機械の中心部から、微かな呻き声が響いた。
「まさか......能力者の意識がまだ残ってるってのかい?」
結絆の眉がピクリと動く。
「チッ......やってくれるぜェ、クソどもがよォ!!」
一方通行が舌打ちしながら能力を発動する。
「お前らのやってることは、オレ達が全部ブッ壊してやるよォ!!」
機械が鋭利な刃を振りかざし、二人へと襲いかかる。
「まずは、あいつを片付けるよお」
結絆は躊躇なく、地面を蹴る。
聖人としての身体能力をフルに活かし、音速を超えた動きで機械の死角へと回り込んだ。
ズバァン!!
金属音とともに、結絆の拳が機械の装甲を抉る。
「......思ったより硬いねえ。でも......」
結絆は拳を握り直し、力を込めた。
「......この程度なら、ぶち破れる!!」
ドゴォォォン!!!
装甲の一部が粉々に砕け散る。
一方通行も負けじと手を翳し、ベクトル操作で重力を操作する。
「よォ、さっさと消し飛びやがれェ!!」
ゴゴゴゴゴ......!!!
空間が歪む。
巨大な機械が、まるで地面に押し潰されるようにギチギチと軋みを上げた。
「ガ......ギ......」
バギャァァァン!!!
機械の胴体が一瞬で潰れ、崩壊する。
残った部位も、結絆の拳が叩き込まれ――
ドガァァン!!!
完全に粉砕された。
粉々になった機械の残骸を見下ろし、結絆は軽く息を吐いた。
「......まったく、ろくでもないモンを作ってくれるねえ」
一方通行も不機嫌そうに唇を歪める。
「これで終わりってわけじゃねェだろうなァ......」
結絆は機械の残骸を蹴飛ばしながら、ある確信を抱く。
これを作らせたのは、間違いなく学園都市の統括理事の誰かである。
「ま、黒幕を探るのは後にして――とりあえず、こいつらのデータを持ち帰るとしようかねえ?」
結絆と一方通行は、機械の残骸を調べながら、新たな戦いの予感を感じていた。
夜のマジックシアター、そこはドリームの拠点であり、昼間はスター達が華麗なショーを披露する舞台である。
だが、今夜は違う意味での劇場となる。
それは“死”の幕開けだった。
スッ......
微かな足音が、闇に紛れて響く。
数名の暗殺者が、静かにマジックシアターの内部へと潜入していた。
装備は最新のサプレッサー付きの銃器と高周波ナイフ。
「......この拠点を潰せば、ドリームの活動は一気に制限される」
「だが、ターゲットは複数。確実に仕留めるぞ」
暗視ゴーグルを装着した暗殺者が低く囁く。
彼らの狙いはドリームの主要メンバーの抹殺。
静かに、確実に、無音で――
それが彼らの信条だった。
だが......
彼らは知らなかった。
この場所には“獅子”が潜んでいることを。
ギィ......
暗殺者の一人が、そっと扉を開ける。
――だが、その時。
「......見つけたぞ」
低く、獰猛な声が響いた。
暗殺者が驚いて顔を上げると――
“それ”は既に目の前にいた。
金色の光を放ちながら暗殺者達に近づく巨大なトラ
レグルス――天衣装着(ランペイジドレス)を使いこなすドリームの守護者である。
「――来たな、屑ども」
レグルスはそう呟きながら、暗殺者達を見下ろす。
「俺の役目は“処理”だ。......クズはまとめて殺す。それが手っ取り早い」
暗殺者達は、一瞬で悟った。
――こいつは危険だ、と。
「撃て!!!」
暗殺者達は即座に銃を構え、一斉に引き金を引く。
パシュッ! パシュッ! パシュッ!
無音の銃撃がレグルスへと向かう――
だが。
ゴォォォォッ!!!
レグルスの身体が光に包まれた。
「――無駄だ」
レグルスが足を踏み出すと同時に、銃弾が弾かれる。
天衣装着――能力を発動させた彼は、まさに“神速の獣”と化していた。
「速ぇっ......!」
暗殺者の一人が驚愕する間もなく、レグルスの拳が振り下ろされる。
ドゴォォォン!!!
暗殺者の一人が壁に叩きつけられ、即死。
「チッ......!」
別の暗殺者がナイフを構え、レグルスの喉元を狙う――
だが、彼の目の前で“爪”が煌めいた。
ズシャッ!!!
そして、腕ごと斬り飛ばされる。
「ぐぁああああっ!!!」
叫び声が響く中、レグルスの眼光は鋭く光る。
「手加減はしない。クズはクズらしく、死んでおけ」
恐ろしい獣の爪が、一閃する。
「逃げろ!! こいつは......!」
最後の暗殺者が背を向けて逃げようとした瞬間――
レグルスが吠える。
空気が震え暗殺者の体が強張る。
そして、動けないところを背後から首を掴まれ、そのまま宙へと持ち上げられる。
「......ぐ......ぅ......」
暗殺者が苦しげに喉を鳴らす。
「つまらんな、貴様ら」
レグルスは無慈悲に、そして冷淡に――
暗殺者の体をかみ砕いた。
グシャッ......!!!
最後の暗殺者が、絶命した。
静まり返るマジックシアター。
血の匂いが、微かに漂う。
レグルスは血まみれの牙を左右に振った後、無造作にその場に座り込んだ。
「......少しは骨のある奴が来るかと思ったが......つまらないな」
そう呟く彼の目には、まだ闘志の灯火が揺れていた。
ドリームを狙う奴らは、全て屠る。
それが、彼の矜持だった。
久々にレグルスが出てきました。
一方通行編とは書いてはいるものの、結絆視点なので、これからは途中にエンデュミオンにつながる話なども挟まります。