学園都市最大のイベント、大覇星祭。
その開催が目前に迫る中、食蜂結絆は、とあるカフェの一室で優雅に紅茶を楽しんでいた。
そんな彼のもとに、突然訪問者がやってくる。
「食蜂結絆さんですね?」
扉をノックして現れたのは、大覇星祭の運営委員会に所属する生徒達だった。
男女合わせて数人のグループで、いかにも代表者という雰囲気の男子生徒が一歩前に出る。
「うん、そうだよお。俺になんの用かなあ?」
結絆が微笑みながら問いかけると、彼は一度深呼吸をしてから切り出した。
「突然のお願いで恐縮ですが......食蜂結絆さんに、今年の大覇星祭の選手宣誓をお願いしたいのです!」
その言葉を聞いた瞬間、結絆は思わず目を丸くする。
「え、俺がかい?」
「はい! 食蜂さんは学園都市の中でも特に知名度が高く、実力も申し分ありません。さらに、普段から治安活動など学生としても活躍されています。まさに適任かと!」
彼の真剣な眼差しに、他の委員達も頷く。
どうやら本気らしい。
結絆は一瞬考え込むが、こんな大舞台で堂々と宣誓をする機会なんて滅多にない。
結絆は、せっかくだから楽しもうじゃないかと考えたのだった。
「ふふっ、それは光栄だねえ。もちろん、喜んで引き受けるよお」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
運営委員達は顔を輝かせて安堵の表情を見せる。
その様子を見て、結絆も自然と微笑む。
「折角だから、めいっぱい盛り上がるようなメッセージを考えないとねえ。皆の期待に応えられるように、俺も頑張るよお」
「よろしくお願いします! それと、もう一つお願いがあるのですが......」
代表の男子生徒が少し言いにくそうに口を開く。
「食蜂さんのようなレベル5の方々にお願いできれば、さらに大覇星祭を盛り上げられるのではないかと考えていまして......。もし、食蜂さんがご存じのレベル5の方がいれば、その方にも選手宣誓をお願いしていただけませんか?」
確かにレベル5の知名度を考えれば、話題性は抜群だろう。
結絆は少し考えた後、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ふふっ、そういうことなら、ちょっと連絡を取ってみるよお。操祈や美琴あたりなら、話を聞いてくれるかもしれないからねえ」
「本当ですか!? それは助かります!」
運営委員達は期待に満ちた表情を浮かべた。
「じゃあ、俺から声をかけてみるよお。結果がわかったらまた連絡するねえ」
「ありがとうございます! では、詳しい日程や原稿については後日改めて──」
こうして、食蜂結絆は今年の大覇星祭の選手宣誓という大役を引き受けることになった。
それだけでなく、学園都市の華であるレベル5の協力も仰ぐことになり、より一層盛り上がるイベントになりそうだった。
学園都市の空が澄み渡る午後、食蜂結絆はとある公園で御坂美琴と待ち合わせをしていた。
運営委員会から頼まれた大覇星祭の選手宣誓の件を伝えるためである。
やがて、美琴が姿を現した。
常盤台の制服を着た彼女は、少し怪訝な表情を浮かべている。
「で、話って何? もしかして、また事件でも起きたの?」
美琴が腕を組みながら尋ねると、結絆は軽く微笑んだ。
「まあまあ、そんなに警戒しないでよお。実はね、大覇星祭の運営委員から頼まれて、今年の選手宣誓をすることになったんだよねえ」
「へぇ、アンタが? まあ、学園都市のトップクラスの実力者だし、妥当な人選かもね」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいねえ。でもねえ、運営委員からもう一つ頼まれたんだよお。『レベル5の知り合いがいたら、その人にもお願いしてほしい』って感じでねえ」
その言葉に、美琴は顔を引きつらせる。
「......つまり?」
「簡単に言うと、美琴も一緒に選手宣誓やらないかい?」
「はぁ!? ちょっと待ってよ!」
美琴は驚いた様子で目を見開いた。
「なんで私がそんなこと......そもそも、そういうのって生徒会とか運営側の仕事じゃないの?」
「まあ、普通はそうかもしれないけどねえ。でも、美琴がやったら大覇星祭も盛り上がるし、皆喜ぶと思うよお?」
結絆は気楽な口調で言うが、美琴は恥ずかしがっていて躊躇している様子だ。
「うーん......私はあんまりそういう目立つ役は......」
結絆は、近くにいる少女達にアイコンタクトをとる。
すると、近くで話を聞いていた白井黒子、初春飾利、佐天涙子が口を挟んだ。
「お姉様!ここは是非引き受けるべきですの!学園都市の象徴として、堂々と宣誓する姿......想像するだけで感動的ですわ!」
「そうですよ御坂さん、学園都市のレベル5が並んで選手宣誓なんて、すごくカッコいいじゃないですか!」
「それに、選手宣誓なんて一生に一度できるかどうかの経験ですよ!せっかくだからやっちゃいましょうよ!」
三人に一斉に説得され、美琴はますます困惑した表情を浮かべた。
「うっ......そんなに言われると......」
「まあまあ、別に強制はしないけどねえ。俺としては、美琴と一緒にやれたら楽しいかなって思っただけだよお」
結絆の言葉に、美琴はしばらく沈黙した後、大きく息を吐いた。
「......わかったわよ。そこまで言うなら、やるわよ。いいでしょ!」
「やったねえ! じゃあ、一緒に盛り上げようじゃないかあ」
「はぁ......まったく、アンタに巻き込まれるとロクなことがないわね」
呆れながらも、美琴の口元にはどこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
こうして、結絆と美琴が大覇星祭の選手宣誓を務めることが決まったのだった。
夕暮れの学園都市。
食蜂操祈は寮の自室でくつろいでいた。
そんな彼女のもとに、兄である結絆からのメッセージが届く。
『ちょっと話したいことがあるんだけど、今時間あるかなあ?』
操祈は微笑みながらすぐに返信を打った。
『いいわよぉ。どこで話すのかしらぁ?』
『今からそっちに行くよお』
数分後、結絆が操祈の部屋を訪れた。
彼はいつもの微笑を浮かべながら、ゆっくりと切り出す。
「実はねえ、大覇星祭の運営委員から頼まれて、今年の選手宣誓をすることになったんだよお」
「あらぁ、素敵じゃない。お兄様ならピッタリねぇ」
「ふふっ、ありがとお。でもねえ、運営委員からもう一つ頼まれてねえ。『レベル5の知り合いがいたら、一緒に宣誓してほしい』ってね」
操祈は興味深そうに首をかしげた。
「それで、誰か誘ったのかしらぁ?」
「美琴にはもう声をかけて、やることになったよお。で、操祈にもお願いしようと思ってねえ」
そう言って結絆が微笑むと、操祈は目を瞬かせた後、嬉しそうに笑った。
「なるほどねぇ。もちろん、私もやるわぁ!」
「おっ、即決だねえ。操祈が一緒なら、心強いよお」
「ふふん、当然でしょぉ? これは学園都市中の注目を集めるわねぇ」
結絆の申し出を快諾した操祈は、すぐにスマートフォンを取り出し、ある番号を押した。
「おや? 誰かに伝えるのかい?」
「当麻に決まってるじゃない。こういうの、すぐに教えてあげたいのよぉ」
電話がつながると、向こうから聞き慣れた声が聞こえた。
『もしもし? どうした、操祈?』
「ねぇねぇ当麻、聞いてよぉ。私ねぇ、お兄様と一緒に大覇星祭の選手宣誓をすることになったのよぉ!」
『えっ、マジで!? すげえじゃねぇか!』
予想以上のリアクションに、操祈の頬がわずかに赤く染まる。
「ふふっ、でしょぉ? 私、頑張っちゃうんだからぁ」
『おう、操祈なら絶対カッコよく決められると思うぞ! 楽しみにしてるからな!』
その言葉に、操祈は思わず照れ笑いを浮かべた。
「......んもぉ、当麻ったらぁ。そんなに期待されると、ちょっと緊張しちゃうじゃないのぉ」
『ははっ、大丈夫だって。お前なら絶対バッチリ決められるさ』
「ふふっ、ありがとぉ。当麻にそう言われると、もっと頑張れそうな気がするわぁ」
結絆は、そんな操祈の様子を微笑ましく見つめながら、そっと紅茶を口に運んだ。
こうして、食蜂操祈もまた、大覇星祭の選手宣誓に参加することが決まったのだった。
学園都市の中央に位置する運営委員会の本部。
大覇星祭の準備が着々と進む中、結絆は運営委員との打ち合わせに向かっていた。
会議室のドアをノックし、中へ入ると、すでに数名の運営委員が待っていた。
彼らは結絆の姿を認めると、期待のこもった視線を向ける。
「食蜂さん、お忙しい中ありがとうございます。それで、例の件はいかがでしたか?」
委員の一人がそう尋ねると、結絆は軽く微笑みながら椅子に腰を下ろした。
「結果から言うとねえ、美琴と操祈も一緒に選手宣誓をしてくれることになったよお」
その言葉に、委員達は一瞬沈黙した後、一斉に歓声を上げた。
「本当ですか!? すごい!!」
「レベル5の三人が並んで選手宣誓をするなんて、前代未聞ですよ!」
「食蜂さん、よく説得してくれましたね! 本当にありがとうございます!」
委員達は次々と感謝の言葉を述べ、結絆の手を握らんばかりの勢いだった。
「まあまあ、そんなに感謝されると照れちゃうねえ。でも、二人とも快く引き受けてくれたし、俺が大したことをしたわけじゃないよお」
美琴に関しては半分ぐらいは無理やりな気もするが......深くはツッコまないでおこう。
「いえ、食蜂さんが声をかけてくれたからこそ、こうして実現できたんです。本当に感謝しています」
委員長らしき人物が深々と頭を下げる。
それに続いて、他の委員達も口々に「ありがとうございます!」とお辞儀をする。
「ふふっ、大げさだねえ。でもまあ、楽しみになってきたよお。せっかくだし、最高の宣誓にしようじゃないかあ」
「ええ! こちらも全力で準備を進めます!」
こうして、食蜂結絆、御坂美琴、食蜂操祈による大覇星祭の選手宣誓が正式に決定し、運営委員会は新たな盛り上がりを見せるのだった。
結絆が帰ろうとすると、運営委員の一人がふと思いついたように口を開く。
「あの......せっかくなので、もう一人くらいレベル5を加えるのはどうでしょうか?」
「んー?」
「例えば、削板軍覇さんとか......」
その名前が出た瞬間、結絆の表情が一瞬止まり、次の瞬間には苦笑に変わった。
「いやあ、あいつはやめといた方がいいと思うよお」
「えっ? 彼は悪い人ではないですよね?」
「勿論、悪い奴じゃないよお。むしろ根はいいやつだし、何度も戦ったこともあるけど、根性は確かにすごいねえ」
「じゃあ、なぜ?」
「......あいつはねえ、根性馬鹿だからねえ」
結絆が肩をすくめると、運営委員たちは戸惑った顔を見せた。
「えっ、根性があるのは良いことでは?」
「それは普通の範囲なら、ねえ? でもあいつの根性は規格外すぎて、選手宣誓なんてまともにできるわけがないよお。下手したら、『この学園都市の祭りは根性で燃え上がるぜえええ!!』みたいな感じになっちゃうんじゃないかなあ」
「......確かに」
運営委員たちは顔を見合わせ、削板軍覇の熱血ぶりを想像して少し青ざめた。
彼の「根性」という言葉はもはや精神論を超えた現象であり、それが選手宣誓の場で炸裂すれば、どんなカオスが生まれるか想像もつかない。
「うん、やっぱりやめておきます......」
「賢明な判断だねえ」
結絆の助言を受け、運営委員たちは削板軍覇を候補から外すことを決定した。
しかし、その場の誰もが改めて思ったことがあった。
「それにしても......」
「食蜂さんは、本当にまともな方ですね......」
「レベル5って、どうしてこう、極端な人が多いんでしょうね......」
「......俺もそう思うよお」
結絆も狂っている方ではあると思うが、自覚はないらしい。
こうして、学園都市の運営委員たちは、レベル5という存在の異質さを改めて実感するのだった。
放課後の教室。
生徒たちが次々と帰路につく中、食蜂結絆は担任の月詠小萌のもとへと向かった。
「小萌先生、ちょっといいかなあ?」
「はいなのですよ~、食蜂ちゃん。どうしたのですか?」
小柄な体をぴょこんと動かしながら、小萌先生は結絆の方を向いた。
その相変わらずの幼げな外見と口調に、結絆は少し微笑んでから本題を切り出す。
「大覇星祭の運営委員から選手宣誓を頼まれたんだよお。それで、美琴と操祈も一緒にやることになったんだあ」
「わわっ! それはすごいのですよ!」
小萌先生は目を輝かせながら、手をぱたぱたと振った。
「レベル5が三人も並んで選手宣誓するなんて、きっとすごくかっこいいのですよ~!食蜂ちゃんが選ばれるなんて、先生、とっても誇らしいのです!」
「そう言われると、とても嬉しいねえ。まあ、三人揃えば見栄えはいいよねえ」
「見栄えどころか、大覇星祭の歴史に残る瞬間になるのですよ!先生も当日、ちゃんと見に行くのです!」
「おお、それはプレッシャーだねえ」
結絆は冗談めかしながら肩をすくめたが、その表情はどこか嬉しそうだった。
「でもまあ、せっかくだし、しっかりやってくるよお」
「うんうん、その意気なのです!食蜂ちゃんの立派な姿を、先生も楽しみにしているのですよ~!」
小萌先生の無邪気な言葉に、結絆は頷いた。
大覇星祭の開幕が、ますます楽しみになってきたのだった。
原作では操祈と削板が選手宣誓をやっていましたが、結絆と操祈と美琴が選手宣誓をするという流れに変えました。
結絆は、普段から学園都市の平和に貢献しているので、周りからの評判はかなりいいです。
次回は、一方通行関連の話に戻ります。